115. 皆で何かを計画して頑張るのって楽しいよね
「何々?何のイベント?」
昼休み。
ダイヤはハーレムメンバーに連れられて食堂に連行された。
「はい、この中から選んで」
「え?」
「ぼ、僕は塩おにぎりで十分……」
「なわけないでしょ!」
「わぁお」
思いっきり怒られてしまい目を丸くしてしまう。慌てて助けを求めて周囲を見渡しても、彼女達は揃って怖い笑顔を浮かべていて助けてくれそうにない。
「いつまでそんな食事をしてるのよ。まともなご飯を食べなさい」
「そうだよダイヤ君。衣食住は大事だよ」
「ご飯に拘りがあるわけでは無いのですよね?」
「私達じゃなくて……普通にご飯を……食べなさい……」
どうやら彼女達はダイヤが毎日塩おにぎりと怪しい自家製ドリンクしか飲食していないのがお気に召さない様子だ。
「栄養ならちゃんと取って……」
「食べなさい」
「あ、はい」
弁明を聞いてくれる気配すらない。食堂のお高いランチを選ぶ以外に彼女達が納得する選択肢は無さそうだ。だがそれには問題がある。
ダイヤは食費以外にお金を注ぎ込んでしまっているため、高いランチなどそもそも買えないのだ。
しかし彼女達はそうなることを分かっていて対策を取っていた。
「お金なら私達が出すよ」
「そんなのダメだよ!」
お弁当を分けてもらう程度ならまだしも、高いランチを奢ってもらうなどあまりにも情けないでは無いか。男としてなんて時代錯誤な男女差別をするつもりはないが、そもそも彼女達を養うつもりなのにこれでは養われることになりハーレムなんて許可されなくなってしまう。
「いいえ、これは絶対よ。私達の
「わぁお」
ハーレムを毛嫌う
「それともダイヤ君は、好きな人が質素な食事をしているのを横目に普通の食事を私達が楽しめると思う?」
「…………」
皆と一緒に楽しく、というのがダイヤの信条だ。一人だけ意味も無くその輪から外れたらスッキリしない気持ちは良く分かる。
これが食生活もストイックでこだわりがあるという話ならまだしも、ダイヤは本当に単にお金が無いだけなのだ。それを怪しい液体で何とかやりくりしているだけのこと。普通に食事が出来る分にはそっちの方が良い。
ゆえに彼女達の指摘は何もかも胸に突き刺さりまくりで心が痛すぎるのであった。
「おーっほっほ!ダイヤさんもわたくし達と共に豪遊生活を始めましょう!」
「その笑い声久しぶりに聞いた気がする。というか芙利瑠さん制服姿似合ってるね。可愛いよ」
「ふぇ!? い、今そういう話をするのは卑怯ですわ!」
つい弄ってしまうダイヤだが、
「と、とにかく早く選びなさい!」
「私達もこの中から選ぶからさ」
「わたくしがこんな豪勢な食事が出来るだなんて……」
「ひーも……ひーも……」
「ヒモは嫌だ!」
「「「「だったら食費用意しなさい」」」」
「はい」
褒められて真っ赤になった彼女達に責められ、ついにダイヤは陥落した。この先、毎日のようにご飯を奢られてしまえば間違いなくヒモ男だ。そうならないために食費を確保することになるだろう。
「明日までにお金は用意するから、今回はもっと安いランチにしようよ。高いのは悪いよ」
「それはダメよ。ここで安いのを選んだら、食費も最低限しか用意しないでしょう」
「そして結局段々と元の質素な食生活に戻っちゃうのが目に見えてるもん」
高いランチを食べることに慣れさせて、食費にしっかりとお金をかける感性を養うのも彼女達の目的であった。
「でも皆だってお金をそんなに持ってないでしょ?ね、芙利瑠さん」
貧乏仲間の芙利瑠に振れば間違いなく同意してくれるだろう、という狙いは外れてしまった。
「おーっほっほ!わたくしはもう諦めましたわ!」
「え?」
「わたくし達は『共有資産』を用意すると決めましたの。今日のランチはその中から捻出されますわ!」
「どういうこと?」
「桃花さんがスキルポーションを売却して、そのお金を『共有資産』として扱いたいと申し出て下さったのですわ!」
「なんだって!?」
ダイヤは具体的には把握していないが、現時点ではまだスキルポーションは破格の値段のはずだ。数千万は確実で、億を超えている可能性だってある。それだけのお金をハーレム共有資産として提供したとなれば、食堂のランチなど全種類頼んだところで資産が減った感覚すらしないだろう。
「まさかスキルポーションをいきなり売っただなんて……でも共有資産の考え方は有りかも」
ダイヤが彼女達を養うにしても、パーティーメンバーとして装備を整えてもらうにしても、ダイヤが毎回彼女達にお金を渡すよりも『共有資産』として一か所にまとめて置いた方が使いやすくて便利だろう。たとえば桃花が街で高額な装備を見つけて欲しくなった時、ダンジョンの奥にいるダイヤにお金を求める必要なく『共有資産』からお金を引き出して直ぐに購入できる、というメリットがあるだろう。
それにダイヤから一方的に養われるのではなく、今回のように彼女達からも共有資産に資産を提供することでハーレムメンバーが協力して生活しているという感覚にも繋がるだろう。金銭はドロップ操作が使えるダイヤと桃花が提供することになるだろうが、他のメンバーも街や探索で見つけたアイテムや装備などを共有資産として提供するなどの協力方法がある。時間停止機能があるアイテム袋を入手した場合には、温かい手料理だってダンジョン内で食べられる価値のある立派な資産になる。
「(芙利瑠さんが『諦めた』って言ったのは桃花さん達にかなり説得されたってことかな)」
芙利瑠は洞窟内でスキルポーションの受け取りを拒否したように、貧乏であっても過度な施しを拒否するタイプだ。そんな彼女がお金使い放題だからたっぷり使ってね、などと言われても首を横に振るだろう。恐らくは他のことで役に立てば良いなどと
「ということでダイヤ。そろそろ選びなさい」
「わぁお。結局そうなっちゃうんだね」
こうなったらもう拒否など出来ない。この後、共有資産とやらに大量にぶっこんでやろうと心に誓いながら、ダイヤは最高級のランチを選んだのであった。
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「ほうほう、らいやふん」
「桃花、食べながら話さないの」
「んぐんぐ、はーい」
「(
口周りの汚れをナプキンで拭いてあげる姿など、最早姉妹のようだ。
桃花が食べ終わり、こくこくと可愛らしく水を飲み干した姿を見てダイヤは先を促した。
「それで桃花さんは何を聞こうとしたの?」
「ハーレムハウスについて。あそこって元々寮なんだよね。だとすると私達以外の人が引っ越して来る可能性は無いの?」
「大丈夫だよ。ボロ屋の間に僕を管理人兼寮長にしてもらったから、管理人権限で関係ない人の引っ越しは断るよ」
「そ、それは横暴だと怒られるのではなくて……?」
「そんなこと言われても、あそこを直したのは僕なんだよ。元から誰も住むはずのない場所だったんだから、このくらい好き勝手させて貰っても良いでしょ」
それでも強引に何かをされそうになったなら、精霊さんにお願いして元の姿に戻して貰おうとも思っていた。ダイヤの中ではあそこはハーレムハウスであり、部外者は絶対に入れないというのが絶対条件。そのために、入学以来テントを持ち込んでまでしてあそこに拘ったのだ。文句など言わせるつもりは毛頭なかった。
「なら気にせず引っ越し出来そうだね」
「皆は次の週末に越して来る予定なんだよね」
「そうね。でもクエストはその前に手を付けたいわ」
素材を集めるだけならいつでも可能だ。しかもダンジョン探索の練習にもなるのだからやらない手はない。
「皆は何処を改築したい? やっぱり自室?」
「トイレ!」
「お風呂!」
「庭!」
「離れ!」
「わぁお」
共有部を改築したいとの要望にダイヤは驚いた。和室ばかりなので洋間にしたいだとか、壁をもっと強固にしたいとか、ドアを電子キーにするなどセキュリティを向上させるとか、てっきり自室をより快適にしたいのかと思っていたからだ。
「トイレはどこまで改築したいの?」
「ウォシュレットは必須よ」
「
「ええ」
ダイヤが時々こっそり借りている安い寮のトイレにはついていない。普通の寮にはついていてウォシュレットに慣れている
「お風呂はどんな感じに改築したいの?」
「そりゃあもちろん足をのばせるくらいに大きくしたい!」
現状は小さなアパートにあるようなこじんまりしたお風呂でかなり狭い。改築すれば湯船も洗い場もどんどん広くなりそうだ。桃花的には大きなお風呂に拘りがあるのだろう。
「そしてゆくゆくは大浴場!
「良いね!」
広いお風呂という面に同意しているのか、『みんな』という部分に同意しているのか。きっと両方だろう。基本的にダイヤは皆とえっちぃことをしたいという気持ちを隠さないのだから。
不思議なのは残りの二つだ。
「芙利瑠さんは庭を修繕したいの?」
草木が伸び放題の庭。今のところ放置しても住むには困らないので後回しでも良いかと思っていたのだが、何故か芙利瑠がそこを直したいと言う。
「草花を育てたり鍛錬する場所にしたいですわ」
などと芙利瑠は言うが、その瞳はダイヤがイメージしているのとは別の妄想を描いているように見えた。
「もしかして、庭師がいる広い庭に憧れてるとか?」
「おーっほっほ!絢爛豪華と侘び寂びを兼ね備えた最強の庭こそがわたくしに相応しいものですわ!」
「(芙利瑠さんのお金持ちのイメージがなんとなく分かった気がする)」
あまり煌びやかすぎるのはダイヤの好みでは無いが、芙利瑠の望みを出来る限りは叶えてあげたいところだ。今後はこのような好みの調整もハーレムに必要になってくるだろう。
「じゃあ最後に、奈子さんの離れってのは何?」
「遠くに……離れっぽいの……あった」
「え?本当に?」
先に住んでいたのにダイヤは全く気付いていなかった。それもそのはず。
「朽ちて崩れてた……しかも……草の中に埋もれてた……」
「あ~あっち側か。あの中ってそうなってたんだね。良く入る気になったなぁ」
ダイヤの背丈ほどもある丈の長い植物が密集している地帯があり、そこには近寄らないようにしていたのだ。どうやらその中には奈子的には離れと思われる朽ち果てた建物があるらしい。
「あそこの草はいずれどうにかしたいと思ってたけど、離れを直す必要ある? そもそも離れってお客さんに泊まってもらうところじゃなかったっけ。僕はここに関係ない人を泊まらせるつもりは無いよ」
和風のお屋敷に離れとは定番だけれど、実用面を考えると優先度は低い。奈子はなんとなくワクワクするから選んだのではないかとダイヤは思ったのだが、全く違う理由だった。
「使用目的……座敷牢とか……?」
「何言ってるの!?」
「地下に……折檻部屋とか……?」
「だから何言ってるの!?」
一体誰を閉じ込めるというのか。それに誰かを折檻することなどあり得ない。
「(ま、まさか僕が折檻されちゃうの!?)」
可愛い女の子に声をかけただけで、その晩は折檻部屋で一晩あんなことやこんなことをされてしまう。そんな恐ろしい未来を想像してしまったが、そもそもそういうタイプの女の子はハーレムに入れるつもりは無かったことを思い出す。
「ねぇ、皆も言ってよ。怪しい地下なんて必要……な……な……なんで赤くなってるの!?」
地下、折檻、つまり彼女達は。
「(まさかそういうプレイを想像しちゃってるの!?)」
ダイヤよりも先にアブノーマルな妄想に滾ってしまう点、案外彼女達の方がダイヤよりもそういうことに積極的なのかもしれない。そうでもなければハーレムになど入らないか。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
薄暗い地下室、壁に繋がれた手錠、地面に散らばる大量の
騒がしい昼食時の食堂。その中でその一角だけが場違いなことを想像してしまい奇妙な空気に包まれてしまう。
そんな空気はすぐに打ち破られることになってしまうのだが。
「見つけた!」
その女子の声は食堂の入り口から聞こえて来た。なんだなんだと生徒達が彼女の方を見ると、彼女はずんずんと物凄い勢いでダイヤの方へとやってくる。
そして指をビシっと力強く突きつけて宣言した。
「貴石ダイヤ!あなたに『決闘』を申し込む!」
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