97. 再会と脱出と再会
「倒しましたわ!」
クランの話を終えた直後、芙利瑠がボスを撃破した。ダイヤ達はほとんどダメージを与えていないため、今回は経験値もアイテムも手に入らなかった。
「ふりちゃん、奈子ちゃん、ダイヤ君のクランに入らない?」
「入りますわ!」
「入る」
「待ってまだどんなクランかもはっきりと決めて無いのにそんなに簡単に」
「その話は後にしてさっさとここを出たらどうだ貴石」
「それなし崩し的に決定しちゃう流れでしょ! そりゃあ皆が入ってくれたら嬉しいけど」
クランの方針が彼女達の望むものと違ったらと考えると心配だったが、確かに今はクランの話よりもここを脱出することの方が先決だ。
「はぁ……じゃあこの先どうなってるのか教えてよ。常闇君は逆走して来たんでしょ」
「ああ、この先は小部屋が一つあり、その先が外だ」
「小部屋?」
「何もない部屋だ。ただ、ここに入るのとは別の入り口があったな」
「ふ~ん、気になるけど今は良いか」
今は何よりも脱出が最優先。
ダイヤ達は縛った三人を引き摺りながらボス部屋を出た。
「あ」
「あ」
小部屋に入った瞬間、もう片方の出入り口から出て来た人と目が合った。
「朋!」
「ダイヤ!」
落とし穴に落下した時に別れてしまった朋達とついに合流出来たのだ。
「無事だったんだね!」
「そっちこそ!」
慌てて駆け寄りハイタッチし、お互いの無事を労い合う。
「おお、ダイヤの方にそいつらいたのか」
「そっちはどうだった?」
「なんかつえー魔物が沢山いた。死ぬかと思ったぜ」
「でもこうして無事ってことは倒してきたんだ。すごーい!」
「ダイヤが色々と教えてくれたからだぜ。あれが無かったらビビッて死んでたわ」
朋が言っているのは勇気を出した踏み込みのこと。あの時のレクチャーが朋の命を繋いだのだ。
「そうなのよ。朋くんったら超格好良くて、お姉さん惚れちゃった」
そうしなだれかかって来たのは、朋と一緒に落下した夜職の女性。揶揄うような感じではなく本気で色目を使っているように見え、格好良く戦う朋の姿に惚れてしまったのかもしれない。
「ちょっと離れなさいよ!」
「あらぁ、貴方には関係ないでしょう」
「関係あるわよ!こんなところで抱き着くなんて不潔よ不潔!」
「じゃあこの先、ベッドの上でた~っぷり抱き着くとするわ」
「な……!そんなのダメー!」
「(完堕ちしてるじゃん)」
日常的にケンカする仲だった向日葵が、朋にアプローチする夜職の女性を本気で排除しようとしている。しかもその理由は朋に好意を抱いているからにしか見えない。
「
「してねーし!」
「してるじゃない!最低!」
「なんでそこまで言われなきゃならないんだよ!」
「それが分からないから最低って言ってるのよ!」
「言ってくれなきゃ分からないだろ!」
「(マジか。朋って鈍感系主人公タイプだったんだ。これはおもしろ……夏野さんが苦労しそうだね)」
相変わらずケンカをしているが、それはこれまでと違って朋の超鈍感によるもの。完堕ちしているヒロインとそのことに気付かない主人公、そして主人公を狙うエッチなお姉さん。傍から見ている分にはなんて面白い構図なんだとダイヤや桃花は思わずニマニマしてしまう。
「痴話喧嘩してないで、そろそろ外に出ないか?」
「痴話喧嘩じゃない!」
「痴話喧嘩じゃない!」
「お、おう。そうか……」
あまりの息の合いっぷりに暗黒は思わず後退ってしまった。君は間違ったことを言ってないぞ。空気を読めなかっただけで。
「というか常闇じゃん。お前も来てたんだ。つーかそっち何があったんだ?」
「待って朋、詳しい話は外に出てからにしようよ」
「それもそうだな」
早くここから出たいし、捕まえた三人を引き渡したいし、外で救出部隊が待ってくれているはず。後でも出来る話を今ここでする必要は無い。
「さて」
彼らは並んで外への扉の前に立つ。
罠に嵌まり洗脳させられそうになり、助けが来たと思ったら落下し、落下した先には魔物がうようよいて、謎の遺跡と恋バナで盛り上がり、ボス戦で命の危機を感じられる程に苦戦し、良く分からないイベントオンパレードに困惑し、諸悪の根源である三人と激突する。
洞窟の長さは一般的なダンジョンと比較するとかなり短いけれど、起きたイベントの数や濃度はかなりのものだった。
そしてついに今、彼らは死闘を乗り越え生還する。
「おっとその前に」
ダイヤはスマDを手首から外し、ロックを解除した状態で手に持った。
「何してるの?」
「多分こうしておいた方が良いかなって思ってさ」
「?」
桃花の問いにはっきりと答えず、ダイヤは一歩前に出た。
「開けるよ」
そして扉を押すとそれは自動的にゴゴゴと音を立てて開き……
「ダイヤ!」
「わっぷ!」
一番に飛び込んできた何者かに、ダイヤは物凄い力で抱き締められた。
「無事で……良かった……!」
「ただいま、
それはダイヤに最初に堕とされた女、
「貴石くぅ~ん!」
「はいコレ!」
「さっすがやね!分かっとるやん!」
抱き締められて身動きが出来ないダイヤに向かって聞き覚えのある声が近づいてきた。ダイヤはその声がする方向に向けてスマDを持った手を差し出した。洞窟内を調査したくて堪らないであろう『明石っくレールガン』の団長に、撮影した内部の映像を提供するためだ。
ダイヤは
「いいなぁ私も抱き締めたい」
「わたくしはドレスを着替えてからが良いですわ」
「同意……この格好じゃ……汚い……」
ダイヤを抱き締める
「うわーん!間に合わなかったー!」
「ぐげ!」
一際強い力でダイヤを抱き締め、あまりの苦しさにカエルが潰れたような声が出てしまう。カエルが潰れたような声って生きている間に聴く機会無さそうのに何故それで通じるのだろうか。
「こうならないために一緒に行きたかったのにー!」
「皆可愛くて
「もう!もう!もう!もう!」
「ぐげ!」
ダイヤのハーレムを形成させず自分だけを見てもらいたかったのに、自分と同じように試練を共に乗り越える経験なんてされてしまっては絆が深まりすぎて突き放すことなど心優しい
こうなってしまってはハーレムを認めざるを得ず、悲しみのあまりダイヤを更にきつく抱き締めた。
「うわあああん!ダイヤの馬鹿ああああ!」
「ぐ……ぐるじい……がく」
ここまでの探索の疲れもあってか、ダイヤはそのまますやすやと寝入ってしまうのであった。
その微笑ましい空気とは対照的に、洞窟出口付近は大量の人が出入りしており騒然としている。
明石っくレールガンを始めとした遺跡の調査を望む者達。
DOGGOの連中を捕縛する者達。
ヘロヘロな脱出組の救助隊。
教師も生徒も入り乱れ狭い部屋と通路が人で一杯だ。やがてダイヤ達は救助隊に連れられて外に出るのだが、それでも洞窟内の人が減る気配がない。
「なんで開かないねーん!」
それは扉が逆から開かないようになっていたからだ。入り口は土で埋まり、出口の扉も開かない。その中には貴重な遺跡があるというのに中に入れず、考察クランの連中が必死になって入る手段を考えている。
「ダンジョン刑務所は嫌ああああ!悪楽様助けて!なんでもしますからああああ!」
一方ですぐにこの場から離れる人々もいる。
DOGGOの捕縛のためにやって来た警察の特殊部隊だ。ダンジョン・ハイスクール・アイランドはある程度の自治が認められているため、ちょっとした事件であれば自前の警備組織が対応するのだが、DOGGOがやらかしたことはあまりにも重大な犯罪であるため、外部の警察を招き入れたのだ。
なお、外部の警察と島内の警備組織との間に軋轢など無く、仲良くやれているのでそこでトラブルが起きることは期待しないで貰いたい。
そして最後に桃花達がどうなっているかと言うと。
「すやすや」
「すやすや」
「すーや……すーや……」
あまりの疲れでダイヤと共に寝ている者。
「はい。それで俺が内情を探るためにDOGGOに潜入しました」
「ダイヤは中の様子を撮ってたのか。俺は撮ってなかったです。中の様子?そうですね、遺跡と言われれば確かにそんな感じだったかも……」
そして殺到するインタビューや事情聴取に答える者に分かれていた。
いずれにせよ、彼らは危険な洞窟を脱出し、安全な世界に戻って来れたことを実感しているに違いない。
この日、ダンジョン・ハイスクール・アイランドに激震が走った。
平和で安全だと思われていた島内で女性を狙ったおぞましい犯罪行為が行われていたのだ。しかもその犯人は同じ学生であり、ダンジョン内での殺傷行為までも行っていた。危険行為や犯罪行為は厳しく取り締まられているはずだったのに、その監視の目を掻い潜って凶悪犯罪が起きてしまった。そのことがこの島の生徒達を恐怖に陥れ、しばらくは混乱が続くことが予想される。
また、事件のことを詳しく知ると、渦中に例の新入生が絡んでいることを誰もが知ることになる。そして彼こそがダンジョン・ハイスクールのこの先のキーマンになるのではと漠然とだが感じるのであった。
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