96. 決戦:悪には相応の報いを、そして僕らには未来を

「どうして常闇君が……」

「悪いな貴石」


 ダイヤの煌めく瞳と、暗黒の漆黒の瞳が交差する。


「放して……常闇君……」

李茂すもももも悪いな。俺の目的の為に犠牲になってくれ」

「っ!」


 桃花がこの後どうなるのか分かっていて彼女にナイフを突きつけているということが、暗黒が敵である証だった。


「常闇君は僕達のことが嫌いだったの?」

「いや、そんなことはない。お前達に恨みは無いが、俺の目的のためにはこうするしかなかったんだ」

「目的?」


 その目的のためならばクラスメイトがどうなろうとも構わない。そう考えてしまう程の目的とは一体。


「貴石は以前、クランを選ぶなら何処に入ったら楽しいかで選ぶべきだと言ったな」

「うん。合宿の夜の事だよね」


 クラスメイトがダイヤにどのクランに入るべきかを相談した時、確かにダイヤは彼らにそう告げた。


「だが俺はどのクランに入ろうが、学生生活を楽しめる気が全くしなかった。俺の頭には俺をいじめた奴らへの復讐しかない。力を得て、奴らを皆殺しにする。そのために俺はこの島に来たんだ!」


 だが暗黒と同じく闇を抱えていたはずのクラスメイト達はいつの間にかダイヤを中心とした青春謳歌モードへと変わってしまっていた。人や環境に恨みを持っていたはずの仲間達も、切磋琢磨して強くなりたいと願うようになってしまった。


 復讐という闇に呑まれ続けているのは暗黒だけ。そんな暗黒が光の元を歩き続けるダイヤ達と共に並べられる訳が無い。


「このクランなら人殺しの術を学べる」

「まさか常闇君、もうやったの?」

「いや、俺はまだ早いと何もやらせて貰えてない。だが、いつの日か必ず殺しの術を習得し、奴らに復讐する。闇に紛れる精霊の力があれば出来る筈だ。そのためにはお前達を犠牲にすることだって厭わない!」

「精霊さんを復讐の道具に使うんだ……」

「ふん。使えるものは使う。それだけのことだ」


 合宿でクラスメイト全員と絆が出来たと感じたのは勘違いだったのだろうか。少なくとも今の暗黒は復讐に心が捕らわれてしまいダイヤ達を蔑ろにしている。


「あ~っはっは!仲間と思っていた人に裏切られる気分はどうかしら?ねぇ今どんな気持ち?」


 先ほどダイヤに煽られた仕返しと言わんばかりにDOGGOの女が煽り返してくる。だが今のダイヤは何かを言い返すことなど出来やしない。ただ悔しそうに両手をきつく握りしめるだけ。


「さ・て・と。常闇はそのままそのメスを封じてなさい。私はこいつを嬲り殺してやる」


 桃花の命がかかっている以上、ダイヤは抵抗が出来ない。このままでは本当に嬲り殺しにされてしまうだろう。


「待て」


 しかし何故かダイヤ達の敵であるはずの暗黒がそれを止めたでは無いか。


「何よ。まさか裏切るって言うんじゃないわよね」

「そうではない。だがまだ俺はお前達の仲間になると決まったわけでは無い」

「はぁ?」


 どうやら暗黒は完全に敵になったわけではなさそうだ。どうなるかはこれからの彼の言葉と、女の答え次第と言ったところだろうか。


「お前達の飼い主を言え。もちろんクラン名と『あのお方』の名前だ」

「ちっ、そういえばそんなことを気にしてたわね」

「当然だ。自分が何に仕えることになるのか分からず仲間になどなれるものか。そいつが犯罪者で捕まってしまった場合、芋づる式に俺まで捕まってしまい復讐を遂げられなくなるからな」


 暗黒は殺しの練習が可能なDOGGOのメンバーになりたいが、DOGGOの実態を知らされておらず関わって良いべきかどうかを悩んでいた。少なくとも上層部が誰なのかを知らなければ安心して仲間にはなれないと考えるのも変な話ではない。


「まぁ良いわ。そこの使えない奴らと違ってあんたは役に立ちそうだから教えてあげる」


 それはダイヤも知りたかったDOGGOの追加情報。外部との通信が遮断されているのと、ここで暗黒の機嫌を損ねたら桃花を解放されて自分がピンチに陥ってしまうことから女は答える気になったようだ。


「DOGGOは『悪鬼夜行』の下請けクランよ。飼い主はクランリーダーの悪楽様」

「ほう最上位クランじゃないか。ということは李茂すもももをその神楽様とやらに捧げるのか」

「そうなるわね。悪楽様が気に入ったらしいから捧げるのが私達の役目よ」


 五大トップクランの一つ。悪鬼夜行。

 黒い噂が絶えないクランではあるが、これまで何度調査しても結果は白。だがついにその悪事の一つが明らかになった。


「どうかしら。まだ知りたいことがある?」

「いや十分だ。それだけ大きなクランに庇護されているということはむしろ安心できる。これからは誠心誠意お前達に、いや、先輩方に尽くします」

「そういう素直な子、好きよ。それじゃあ今度こそ、覚悟は良いかしら」


 暗黒が完全に敵に回ってしまい、桃花は解放されないだろう。それはつまり、ダイヤが為すすべなく倒されてしまうと言うこと。


「ほーらおいで」

「ぐげ!」


 女性は手にした長い鞭をダイヤの首に巻きつけ、自分の方へ引き寄せた。


「ぐ……があっ……」


 あまりの締め付けに手で鞭を外そうとするがびくともしない。このままでは窒息するか、あるいはその前に首が折れるかしてしまいそうだ。


 もちろんサディスティックなこの女性がそんな簡単にダイヤを殺す訳が無い。


「さぁ~て、どうしてくれようかしら。ナイフで一本ずつ指を斬り落としてあげましょうか。それとも鞭で全身を激しく打ち付けてやりましょうか。本当はそこのメス共を目の前で犯してやりたいところだけど、竿役がのびちゃってるから出来ないのよねぇ」

「ぐうっ……がっ……」


 彼女に背を向けながらダイヤはずるずると少しずつ引っ張られ、やがて背中に女の柔らかな温もりを感じると、彼女は後ろからダイヤの耳元へと顔を寄せる。


「そうだ。良いこと思いついた。あなた解毒ポーションを持ってるでしょう。まずはあなたがあのボロボロドレスの女と制服の女を脱がしなさい。その後、倒れている男達をポーションで回復させて、土下座しながらあの二人を犯してくださいってお願いするの。ふふ、信頼する仲間を自分から汚すようにお願いするとか最高のシチュエーションでしょ」


 激しく首を絞められていることで脳に血液がまともに供給されずフラフラしてくる。今ならば精神的な抵抗が難しく洗脳スキルの効果があるかもしれないが、ダイヤを今すぐ苦しめることしか頭にない女はそのことに気付かない。


「ぐぐ……ぐ……ふ……ふふふ……」

「あら、何がおかしいのかしら。あまりの痛みで気が狂ってしまったの?」


 痛みに耐え、絶望的な行為を強制されそうになりながらも、ダイヤは笑いが止まらなかった。女性はそれを恐怖や痛みで狂いかけているのだと判断したようだがそうではない。


「(こんなに上手く行くだなんてね!)」

「!?」


 突然、女性の右脇腹に猛烈な痛みが発生し、鞭を握る力が弱まってしまう。


 ダイヤが後ろ手で爪を突き刺したのだ。


 首に巻きついた鞭が緩んだ瞬間、ダイヤは思いっきり体を回転させ、女性の頬をぶん殴った。


「かはっ!」


 ダイヤは女性であろうとも悪人相手であれば普通に殴れる男女平等パンチの習得者だったのだ。

 物凄い勢いで地面に叩きつけられた女性は、唐突の展開と激しい痛みに大混乱しているが、すぐに自分がダイヤに攻撃されたことを理解した。


「常闇!その女を殺せ!」


 そしてすぐに報復として桃花を殺せと暗黒に命じた。悪楽に捧げる人物が死んでしまうが、それよりもダイヤへの復讐心の方が上回った。


「…………」

「常闇!何してる!早くしなさい!」


 だが常闇は彼女の命令を聞こうとしない。それどころかナイフを降ろして桃花を開放してしまったでは無いか。


「何をやってるううううううううう!」


 床に這いつくばったまま激怒する女だが、暗黒は彼女の方を見ようともしていなかった。


李茂すももも、怖がらせて悪かった」

「ううん、常闇君は味方だって分かってたから平気だったよ」

「え?」

「ダイヤ君が言ってたの。常闇君がいて味方になってくれるかもしれないって」

「…………そうか」


 その言葉を聞いた暗黒は、少しだけ不思議そうな表情になったものの、すぐに何かを納得して女性陣と共にダイヤの元へと向かった。


「ダイヤ君大丈夫!?」

「けほっ、けほっ、助かったよ常闇君」

「このタイミングで良かったか?」

「最高!」


 何故暗黒はダイヤが鞭で苦しむ前に仲間だと言わなかったのか。それはダイヤが女に近づき攻撃するチャンスを作るため。女と普通に戦ったら鞭スキルによりダイヤ達は苦戦し、酷い怪我を負ってしまうかもしれない。そこで敢えてダイヤを無抵抗にさせることで女に近づきやすくしたのだ。

 女はそうとも知らずまんまとダイヤを近くに引き寄せ攻撃されてしまった。


「んっ、んっ、ぷはー!すっきりしたー」


 鞭のせいで喉が激しく痛んだダイヤだったが、中級ポーションを飲むことで回復した。


「すっきりしたのは思いっきりぶん殴れたからってのもあるけどね」

「こいつ相当なクズだしな」

「常闇いいいい!あんた最初から!」

「そうだ。俺はお前達の悪事を調べるためにDOGGOに入ったんだ」


 つまり最初から常闇はダイヤ達の味方だったのだ。


「やっぱりそうだったんだね」

「貴石はいつ俺がいるって気付いたんだ?」

「最初に突入した時、いくら洞窟の奥だからって暗すぎた気がしたんだ。それにあの時、精霊さんにお願いしてはっきりと足元を確認したのに何かに躓いちゃった。ということは精霊さんを誤魔化せる人があの場に居たってこと。精霊使いは今は僕達一年生しかいないから、クラスメイトの誰かがいるのかもしれない。そう考えたら常闇君が隠れてるんだって分かったんだ」

「なるほど。流石の洞察力だな。あの時は済まない。こいつらの味方をしていると思わせるためには邪魔するしかなかったんだ」

「もちろん分かってるから気にしないで!」


 その時点では確証は無かったが、ダイヤは常闇がクラスメイトを裏切るような真似はしないと信じていた。その信頼が確信に変わったのは、この場所で常闇と視線を交わした時。あの一瞬で二人は通じ合い、敵と味方に分かれて演技をすると決めたのだ。


「ただ一つ分からないことがあるんだけど、どうして桃花さんを人質にとるような真似をしたの? あの時点で僕達の方が優勢だったから何もしなくても良かったと思うんだけど」


 闇に紛れて女を背後から攻撃すればそれで終わっていたに違いない。


「それはこいつらの背後関係を明らかにするためだ。あの状況なら『あのお方』について言わざるを得ないだろうと思ってな」

「なるほど確かに!やるぅ!」

「だがそのせいで怖がらせてしまい本当に済まない」

「だから気にしてないよ常闇君。私もふりちゃんも奈子ちゃんも分かってたから」

「…………そうか」


 そして暗黒のこの演技こそが、DOGGOと悪鬼夜行にとてつもない大ダメージを与えることになる。


「ということで、こっそり逃げ出そうとしているそこのあなた。もう詰んでるから諦めてね」

「ぐっ……くう……」


 ダイヤ達が話をしている間、女は傷ついた腹を抑えながら匍匐前進して距離を取ろうとしていた。逃げようと考えているということは、まだ希望を捨てていないということ。ダイヤはひとまずその希望を完膚なきまでに砕くことにした。


「貴方達の正体、もうすでに全部外に伝わってるから」

「…………は?」


 その言葉に彼女は逃亡を止め、腹が激しく痛むことも忘れて間抜けな顔を晒してしまう。


「貴方達のせいで外部との通信が遮断されているからスマDは使えないんだけど、実は別の通信装置を持ってるんだ」


 そう言ってダイヤは腰元のポーチを指さした。


「これに盗聴器がつけられていて、つけた人が言うにはダンジョン産の特殊な素材を使っているから、ダンジョンの内外だろうが地底深くだろうが普通なら電波が届かないところだろうが絶対につながるんだって。通信妨害も多分効果ないから、今頃は僕達の会話の内容を聞いた外が大騒ぎになってると思うよ」

「う……そ……」

「嘘じゃないんだな、これが」


 つまり先に脱出して手を打つということが出来なくなった。たとえ彼女が怪我をしておらず万全の態勢だったとしても捕まることは決定事項。


「ねぇ今どんな気持ち?弱者だと思ってた相手にやり込められて人生が終了するってどんな気持ち?勝ったと思ったのに最初から負けてたと知ってどんな気持ち?Cランクまであがったのに幸せな人生を送れないことになってどんな気持ち?多くの人の人生を狂わせたんだ、存分にその気持ちを味わうんだよ」

「ああ……ああああ……」

「ダンジョン刑務所、頑張ってね」

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 現代では未成年だからといって甘い処罰はなされない。特にスキルを悪用して凶悪犯罪を起こした場合、死より辛いとすら言われている強制労役が待っている。彼女がやらかしたことを考えると、刑の内容はほぼ確定だ。


 痛みと絶望のあまり、彼女は失神してしまった。このまま失血死しないようにと下級ポーションで怪我を少しだけ治したダイヤ達は、彼女と麻痺毒で苦しむ男共を彼らが持っていたロープで縛り上げた。


「これで後はボスを倒して帰るだけだね」

「といってもアレはもう死にかけてるがな」

「芙利瑠さんの銭投げで一撃だね!」

「わ、わたくしですか!?」

「がんばれー」

「ふぁいとーふりちゃーん!」

「あわわわ、がんばりましゅ!」


 結界に捕らわれたケイブコンドルを倒すべくノーコン芙利瑠が緊張しながら銭投げをする姿を見ながら、暗黒はダイヤにだけこっそりと告げた。


「実は本気でDOGGOに入ろうか迷ってたんだ」

「それは復讐のため?」

「ああ。俺はやっぱりあいつらに復讐したい。人を殺す経験を積めるというのは大きいからな」

「でも止めたんだ」

「さっきも言ったが、クランを選ぶなら何処に入ったら楽しいかで選ぶべきだと貴石が言っただろ。どうしてもその言葉が頭から離れなくてな」


 あるいはその言葉が無ければ、暗黒は本当にダイヤ達の敵として立ち塞がったのかもしれない。


「俺があいつらに復讐した時のことを想像してみた。だが復讐したらスカっとするかと思いきや、心の中のもやもやが消えてくれねぇんだ。憎しみが消えてくれねぇんだ。全然楽しくならねぇんだ。そう思ったら、苦労して復讐しても意味ねぇじゃんって思ってさ……」

「それでDOGGOとは決別したんだね」


 だがその決断は同時に、暗黒を苦しめることになってしまう。


「なぁ貴石。俺は一生この憎しみを抱えて生きてかなきゃならねぇのかな。どうして殺しても満足出来ねぇのかな。どうすれば良いのかもう分からねぇよ……」


 それはずっと暗黒が抱えていた本当の心の闇だった。


「常闇君も他の皆も勘違いしているかもしれないけれど、僕は復讐容認派だよ」


 『復讐なんて良くないよ~』なんてのんびりとした口調で言いそうな見た目をしているが、不条理な行いを受けて何も仕返さないというのはダイヤにとってあり得ない。仕返してきた人生を送って来たからこそ今のダイヤがあり、復讐はダイヤにとって決してネガティブなことではない。


「知ってる。だから敢えて俺達に復讐するなとは言わなかったんだろ。そんな貴石だから相談してるんだ」


 ダイヤはあくまでも『楽しいことをやった方が良い』というスタンスだ。復讐することで心が晴れやかになるのであればやるべきであり、ゆえに復讐を止める為のありきたりの教科書的なことなど言わなかった。


 深い憎しみを抱いた相手の心をおもんばかり寄り添える人物だからこそ暗黒は心の内を曝け出せたのだ。


「僕から言えることは二つ。一つはどの程度であれ復讐はしておいた方が良いよ。何もしないと憎しみが無限に膨れ上がるだけだから」


 憎しみの度合いにもよるが、それが深ければ深い程、時間を置くと取り返しがつかない程に煮詰まってしまうことがある。殺せと言うつもりは無いが、憎しみの増加をストップさせる程度には何かざまぁをしておいた方が良いというのがダイヤの一つ目のアドバイス。


「もう一つのアドバイスなんだけど、残念だけど一生抱えて生きていくしかないって僕は思うよ」

「そうか……」


 それが心から辛いことであるならば、心の傷は一生消えることは無い。人は多かれ少なかれ過去の傷と戦いながら生きていかなければならないのだ。まだダイヤは高校生であるため、この自分の考えが本当に正しいかどうか確信を持てていないが、自分の経験上・・・・・・正しいのではと感じていた。


「ただ、これもありきたりなんだけど、楽しいことで誤魔化すのが良いんじゃないかな」


 傷は消えずとも、軽くすることが出来る。あるいは意識を反らすことも出来るのだ。


 足に傷を負い痛むとしても、ゲームに夢中になっている時はその痛みを忘れることがあるだろう。もちろん、途中で思い出してゲームを全力で楽しめないなんてこともあるが、だとしても単に痛みに苦しみ続けるより遥かにマシだ。


「常闇君は合宿どうだった?」


 クラスで一致団結して協力したあの合宿は、暗黒にとって周囲を見返した喜びしか無かっただろうか。己に力があることが分かって復讐の意欲を向上させただけだろうか。


 純粋に楽しくは無かっただろうか。


「ああ、そうだな。やっぱり騙し騙しやるしかないか」

「うん。人間って面倒だよね。さっぱりと割り切れたら良いのに」

「だな」


 果たして暗黒はダイヤのアドバイスを聞いて何を思ったのだろうか。ありきたりの言葉しか無くてがっかりしただろうか。復讐を遂げる意思を強めたのだろうか。己の心が真に救われないと断言されて絶望したのだろうか。


「なんであんなに大きいのに当たらないのですわー!」


 巨大な敵を相手にしても銭投げを外す超ノーコン芙利瑠を眺めている暗黒の口元は、どこか緩んでいるようにも見えた。


「なぁ貴石」

「なぁに?」

「お前、クラン作るんだろ。俺も入って良いか?」

「え?」


 復讐話からの突然の話題転換。しかも誰にも何も言ってないのに突然クランを作るだろと言われたら驚くのも当然だ。


「はいはいはーい!私も入りたい!」

「桃花さんまで!?」


 空気を読んで二人っきりにしてくれていた桃花が、この話題ならばと勢い良く会話に参加して来た。


「二人ともどうして僕がクラン作るつもりだって知ってるの!? 誰にも言ってないよ!?」


 ダイヤが新たにクランを作る。

 それは本当にやろうとしていたことだった。だが秘密にしていたにも関わらずバレていた意味が全く分からない。しかも最近話をするようになった桃花にポロっと漏らしたならまだしも、あまり話をしない暗黒が知っているのだ。心が読まれているのではと思えて怖かった。


「だってダイヤ君。クラン一覧に『作成予定』って名前のクラン書いたでしょ」

「クラン方針は『楽しいことややりたいことを全力でやる』だろ。ならお前のクランに入れば楽しくて気が晴れると思ったんだよ」

「あ!」


 そうなのだ。なんとダイヤはクラスメイトに渡したクランリストに自分が作る予定のクランをこっそり混ぜていたのだ。しかもクラン方針がダイヤの考えと一致しているとなれば、ダイヤがクランを作ろうとしているなど一目瞭然だ。


「そっかぁ。書いてたの完全に忘れてたよ。もしかして桃花さんがあの時に入りたいクランが決まってるって言ったのは……」

「ダイヤ君のクランだよ!」

「もしかして皆気付いてる?」

「あのリストを見た奴らは全員知ってると思うぞ」

「あちゃー」


 クランについてはまったり考えようかと思っていたのだが、バレていた上に期待されているとなれば本腰を入れざるを得ない。


「じゃあ帰ったら作ろうかな」

「やった!入る入る!」

「俺もだ。まさか貴石のハーレムメンバーしか入れないとか言うなよな」

「あはは、そんなことは無いよ」


 ダイヤが作るこのクランが後にトップクランになることを知る人はまだいない。


 だがダイヤ以外はそうなる可能性を仄かに感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る