83. 木夜羽さんも早く堕……楽しく会話出来るようになると良いな

「少し時間をください」


 ということでハーレムの話は置いておくことにした。ダイヤもハーレム受け入れの準備が整っていないため丁度良かった。


「そういえば芙利瑠・・・さん。さっきの話を聞いて二つ気になることがあるんだ。一つはお父さんに関することなんだけど聞いて良い?」

「もちろんですわ」


 いつものですわ調に戻っているので、芙利瑠の中で気持ちが切り替わったのだろう。


「芙利瑠さんの職業が大富豪なら資産運用っていう初期スキルを持ってるよね。それがあるならレベル一でもそうは赤字にならないと思うんだけど」

「父は壊滅的に資産運用が下手だったのですわ」

「わぁお」


 そこまではっきりと断言するということは余程酷かったのか。子供でも分かるくらいに酷いというのは絶望的である。芙利瑠母は良くそんな相手と結婚したな。


「例えばわたくしが選んだ株が高騰した時もあったのですが、父はもっと高くなるに違いないと思い売り時を逃すことが良くありましたわ」


 そこで売ってしまえば良かったのに価格が下落を始め、また上がるに違いないと思い込み、最終的に購入時よりも安くなってしまう。株あるあるだ。


「僕も気を付けないと」

「そうだね。食事を疎かにするようなダイヤ君は、お金の使い方をちゃんと勉強しないと」

「わぁお。桃花さんがお怒りだ」

「生活より趣味を優先するだなんてお母さん許しませんからね!」

「ごめんなさいママ!」


 なんてふざけあっているが、桃花としては購入許可制にしないと本当にヤバイのではと思ってたりする。ハーレムメンバーを困らせるようなことは絶対にしないだろうが、その裏で自分はオニギリだけで済ませているなんてことを平気でやりかねないのだ。


「それでダイヤ君が気になってるもう一つの事って何?」

「そっちは今日の食堂での話。芙利瑠さん、近くで話をしていた三人の女子ってどんな人だったか覚えてる?」

「え? そう言われましてもジロジロ見るのは失礼かと思いなるべく見ないようにしていたので分かりませんわ」

「う~ん、残念。その人達が犯人の仲間かなって思ったんだけど」


 あるいはローブの女がその中にいる可能性もある。


「ふりちゃんにわざと聞かせるつもりだったってこと?」

「うん。芙利瑠さんはお金に困っている様子だったから、そうやっておびき出そうとしたんじゃないかなって」

「それちょっと違うよ」

「桃花さん何か知ってるの?」


 桃花はローブの女とやりあっていたので、その中で情報を引き出していたのかもしれない。


「ローブの人が言ってたんだけど、狙いは私だったみたい。私が罠にかからなさそうだったから、友達のふりちゃんを狙って誘き寄せようとしたらしいよ。だからごめんねふりちゃん、巻き込んじゃったのは私の方だよ」

「謝らないでください!それでも悪いのは騙されたわたくしなのですから!」

「でも私が狙われるようなことをしなければふりちゃんが騙されることが無かったわけだし、やっぱり悪いのは私だよ」

「いいえ、理由が何であれ騙されてしまったわたくしが悪いのは絶対ですわ!」

「(いいぞもっとやれ。お互いが自分のせいだって言い合うの尊いよね)」


 隙あらば目と心の保養をしようとするダイヤであった。そして満足すると自分も参加したくなった。


「二人の事情に気付けなかった僕のせいだよ」

「ダイヤ君酷い!」

「どうして気付いてくれなかったのですか!」

「チクショー!」


 どこかで見たことあるようなコントである。二人は本気で言い合っていた訳では無かったのだ。


「あははは!」

「あははは!」

「くすくす」


 笑い合う三人の様子からはわだかまりのようなものを全く感じられなかった。


 そしてその輪に入れていないもう一人の人物はと言うと。


「お楽しみのところ……悪いけど……大事な話がある……」

「今度は木夜羽さんの独白タイムかな?」

「違う……私は……金に目が眩んだ……馬鹿だっただけだから……」

「(そうは思えないんだけどな)」


 彼女にも何か事情があるのだろうと、短い触れ合いの中でダイヤは察していた。少なくともスキルポーションを喜んで受け取らなかった時点で、お金に目が眩むタイプでは無いと確信していたのだ。


 だが別の大事なことを伝えたいのならば、今その話をして困らせる訳には行かない。言いたいことをぐっと堪えて彼女の話を聞くことにした。


「さっきの……食堂の話……私も……同じだった……」


 それは三人組の女性の話。


「図書館で……本を読んでたら……三人組の女が近くに座って……私に聞こえるくらいの声で……同じ話をしてた……」

「どんな人達だったか覚えてる?」

「私も……ちゃんと……見て無い……」


 話が気にはなるが、チラチラ見て目でもあってしまったら何を言われるか分からない。人付き合いが苦手な奈子としては下手に観察することが出来なかったのだ。芙利瑠がジロジロ見るのは失礼だと思い三人を確認しなかったことと併せて考えると、そういうタイプの女性を狙っていたのかもしれない。


 だが奈子は完全に無関心を装ったわけでは無く、少しだけ彼女達の様子を観察していた。


「でも……三人とも……三年生だった……ことは分かった…」


 スマDの色を確認していたのだ。


「それと……三人とも……チョーカーを……してた…」

「チョーカー?」

「うん……同じものか……までは……分からなかったけど……」


 顔は見ていないけれど、非常に大事な部分を奈子は観察して覚えていたのだ。


 三年女子の三人組で、三人ともチョーカーをつけている。


 それだけで候補はかなり絞られそうだ。


「木夜羽さんのおかげで犯人の正体が分かるかも!」

「でも……ここから出ないと……」

「そうだね。絶対に全員で無事に帰ろうね!」


 Dランクの魔物が出現するという恐ろしいことがあったが、新スキルを覚えたこともあり今のところは順調に進められている。ゆえにダイヤ達は希望を捨ててはいなかった。


「外に出たらダイヤ君が犯人をボッコボコにしちゃえ、なんてね」

「あはは、それは無理だよ。だって犯人かなり強いから」


 丁度良かったと、ダイヤは彼女達に注意喚起することにした。


「結界スキルや洗脳スキルを使って来たってことは、少なくともDランク。もしかしたらCランクの人もいるかもしれない。僕達が戦っても敵いっこないから、遭遇したら絶対に逃げるんだよ」

「捕まらなかったら……私達……危なくない?」

「うん。だから信頼できる人達に守ってもらおうと思ってる」


 いくら相手がCランクであろうとも、Bランクが何人も所属するトップクランに本気で守ってもらえれば手出しは出来ないだろう。その見返りとして沢山仕事をさせられるだろうが、命には代えられない。


「なんかダイヤ君って人脈チートになりつつあるね」

「大げさだよ。もっとたくさんの偉い人や強い人と仲良くならなきゃチートとまでは言えないかな」

「簡単に仲良くなりそうだもん」

「あはは、そうなったら楽しそうだね」


 そして同時に面倒なことにもなりそうな気がしているので、ダイヤは必要以上に力ある人達との交流を増やす予定は今のところは無かった。


「それで木夜羽さんの独白タイムまだぁ?」

「っ!」


 しつこいと思われるかもしれないが、雰囲気に流されてでも言ってしまった方が精神的に楽だろうと思い、ダイヤは言い出しやすい雰囲気を作ろうとしている。


「だから……私は……ただの馬鹿だって……言ってるでしょ……裏とか……何も無いから……」

「あらら、拗ねちゃった」

「拗ねてない……」


 奈子の背を押そうとしたが失敗だった。彼女は意地を張ってしまい、むしろより言い出せない流れになってしまった。


「眠い……寝る……」


 奈子は三人に背を向けてゴロンと横になり寝ようとしてしまった。これ以上話をするつもりは無さそうだ。


「じゃあ僕が隣で寝るね」

「いやああああ……孕まされるうううう!」


 意地を張っていてもこの反応は変わらないらしい。むしろふざけることで誤魔化そうとしているのか。


「…………」

「芙利瑠さん寂しい?」

「ぴゃ!?」


 ダイヤが奈子に構おうとしていたら、芙利瑠が切なそうな目でその様子を見つめていた。そのことに気付いたダイヤはターゲットを芙利瑠へと変更する。


「じゃあ一緒に寝よう。寝られるか分からないけど、ぐへへ」

「ぴゃあああああああああ!」

「告白した相手と一緒に寝て何も起きない訳が無いよね」

「わ、わわ、わたくしは、あの、その、ええと」


 反応が楽しいのでどうしても弄ってしまうダイヤであった。もちろんこんな場所どころか、ハーレムの準備が整うまではする・・つもりは全く無いのだが。


「じゃあ桃花さんと寝ようっと」

「消去法なのが全くもって納得いかないんですけど!」

「桃花さん可愛い!素敵!寝たい!」

「雑ぅ!」


 そして桃花相手だとどうしても甘い空気にするよりもふざけあって楽しんでしまう。会話の相性が良すぎるのである。


「冗談はともかく、二人ずつに分かれて交互に寝よう」

「どうして?」

「無いとは思うけど、あのローブの人達が襲ってこないとも限らないから」

「え!?」


 その言葉に女性陣が一気に警戒を強めてしまった。


「(言わない方が良かったかもしれないけど、安全には変えられないからなぁ)」


 今の楽しい雰囲気を壊したくは無いが、それで万が一が起きてしまったら最悪だ。最強チート主人公であればこっそり彼女達を守るなんて芸当も可能だろうが、残念ながらダイヤは強いわけでは無いのだ。


「スマDの通信機能がまだ回復して無いんだよ。だからあの人達が別の入り口から入って来て妨害してるのかなって思ってさ」

「それじゃあ寝ている場合じゃないよ!」


 セーフティーゾーンはあくまでも魔物が襲ってこないだけだ。敵が人であれば全くセーフティーでない。寝てしまっては攫われたり殺される可能性がある。


「大丈夫だと思うよ。もし本当に近くにいるなら、とっくに僕達襲われてるもん。Dランクの魔物なんてあの人達はどうってことないだろうしね」


 ダイヤ達は時間をかけてゆっくりと洞窟を進んでいた。この洞窟がどれだけの広さかは分からないが、敵が逃亡ではなくダイヤ達の処理へと方針転換したのであれば、どれだけ広かろうが急いで探索してダイヤ達を見つけているに違いないとダイヤは考えた。


 だが現状ダイヤ達は襲われていない。


 通信が遮断され続けている以上、彼らがそう遠くない場所にいることは確実だが、それでも襲われていない理由は何か。


「多分途中で開かない扉とかがあって僕達のところに辿り着けないんだよ。例えばあそことか」


 ダイヤが指さしたのは、大広間からの出入り口の一つ。

 それは一番巨大な扉であり、試しに開けようとしてみたところびくともしなかったのだ。


「だから大丈夫だとは思う。でも万が一の可能性があるから交代で周囲を監視しながら寝ようってこと。少しでも寝ないと明日に影響しちゃうからね」


 それにこの経験はダンジョンの探索練習にもなる。

 ランクが高くて深いダンジョンの場合、セーフティーゾーンが見つからずに夜になってしまうことが良くある。その時に魔物の出現が少ない場所で交代で監視しながら野営をするのが一般的である。


「ということで僕と桃花さん。木夜羽さんと芙利瑠さんのペアで交代で寝よう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る