84. 早く自重を止めて全力出したいな(ハーレム的な意味です)
「それじゃあ寝よっか」
厳正なるじゃんけんの結果、最初に寝るのはダイヤと桃花に決まった。後になった芙利瑠奈子ペアは全ての出入り口を見渡せる壁画の下あたりに座っている。
「その前に」
「え!?」
横になる前に、なんとダイヤが上着を脱ぎ始めた。今から寝るのに脱ぎ始めるとか、どうしてもアレを意識せざるを得ない。
「ダ、ダイヤ君。本気?」
「もちろん」
「で、でもふりちゃんたちに見られちゃうし……」
「たっぷり見てもらおうよ」
「最初からそういうのは難易度高すぎるよ!」
これが芙利瑠だったら本気にしていたかもしれないが、桃花なので違うと分かっていてふざけているだけである。だがそれなら何故脱ぎだしたのか。その理由までは分かっていなかった。
「はい、どうぞ」
「え?」
ダイヤは脱いだ上着を地面に置き、桃花にそこに寝るようにと手で示したのだ。
「そんな悪いよ!」
「気にしないで、僕は換えの上着持ってるから」
「そういう問題じゃないの!」
「僕がもっと服を持ってれば沢山敷けたんだけどね。上着一着だけでごめんね。やっぱり衣食住も大事にしなきゃダメか~」
「それは正しいけど正しくないの!」
ぷりぷり怒る桃花だが、ダイヤは抗議を受け付けるつもりは無かった。女性を土の上でそのまま寝かせるだなどダイヤ的にはありえない。
「ダイヤ君の上着が汚れちゃうよ」
「桃花さんの可愛い服が汚れる方が嫌だもん」
「な!」
「ずっと言いたかったんだけどタイミングが中々無かったんだよね。桃花さんの私服超可愛い」
薄いピンクのボウタイブラウスに、折り目が多いミニスカート。可愛らしさに重点を置いたコーデは確かにとても似合っていた。桃花は街に遊びに行っている時に芙利瑠から電話がかかってきたため、機能性よりもファッション性重視の服装だった。
「このタイミングでそういうのはズルいよ……」
流石の桃花もダイヤの紳士的な態度とストレートな誉め言葉の合わせ技に本気で照れてしまっている。
「それじゃあおやすみなさーい」
「あ、もう!」
桃花がもじもじしている間に予備の上着を着たダイヤはゴロンと地面に横になってしまった。
そして抗議は受け付けませんと言わんばかりに、彼女に背を向けて寝ようとした。
「…………よし」
桃花は少しの間考えると、床に敷かれたダイヤの上着を手に取った。そしてダイヤの正面へと回り、目の前にその上着を敷いた。
「桃花さん?」
遠慮して上着を返すつもりなのかなとダイヤは思ったが、それなら改めて床に敷く必要は無い。ゆえに桃花の行動の意味が分からなかった。
「おじゃましまーす」
「桃花さん!?」
なんと桃花はダイヤの目の前に敷いた上着の上で横になったでは無いか。しかもダイヤの方を向いているため、至近距離で向かい合う形になる。
「ダイヤ君、上着ありがとう」
「う、うん」
まさかの彼女の行動に流石のダイヤも動揺している。手は出さないと心に誓ってはいるが、可愛い女の子が目の前で寝ている状況で冷静になどなれるわけがない。
「その、桃花さん、近くない?」
「嫌?」
「嫌じゃないです」
「あはは、即答だ。ダイヤ君らしい」
気恥ずかしくはあっても、この状況を嫌だと思う男などまず居ないだろう。
「すぐに寝るのは勿体ないよ。少しお話ししよう」
「うん」
ダイヤとしても夜のおしゃべりは青春感があってウェルカムだ。近すぎることだけが気にはなるが。
「じゃあどんな話しよっか」
話をしたいと切り出してきたのは桃花なので、言いたいことがあるのかもと思いダイヤは先手を譲った。
「う~ん、そうだなぁ」
悩んでいる姿がどうにもわざとらしいなとダイヤは内心で苦笑した。
「やっぱりこれかな」
一体何の話をするのだろうか。桃花とならどんな話でも楽しいに違いない。むしろ楽しすぎて寝れなくなることの方が心配だ。
ダイヤはそんなことをうっすらと考え
いくら楽しいことが大好きな桃花とはいえ、何の意味もなく超至近距離で寝るだなんてことをするわけがない。
「助けに来てくれてありがとう」
「え……う、うんむっ!?」
まさかいきなり真面目な感謝を口にするとはと動揺している隙に、ダイヤは唇を奪われてしまった。
触れるだけの優しいキス。
それは数秒程度続き、桃花は最後に少しだけ強めに唇を押し付けてから体を離した。
「好き」
「僕も好きだよ」
完全に不意をついたにも関わらず、即答出来てしまうところがダイヤらしい。こと恋愛に関しては悩まず一直線なのである。
「ちぇっ、これでも動揺しないんだね」
「してるしてる。超してる。心臓バックバクだもん」
「ほんとぉ?」
「ホントホント。何なら触ってみる?」
「う~ん、止めとく。我慢できなくなりそうだから」
「それ男側が言うセリフだよね!?」
「女の子だって同じ気持ちになるんだよ」
ダイヤの上半身が美しく鍛えられていることはこの前の配信で知られていた。桃花にとって程よく逞しい男性の胸板に触れるということは、男性が己のふくよかな胸を触るのと同じくらい破壊力がある行為だと思っていた。
「でもちょっと驚いたかな。桃花さんはもっとロマンのあるシチュでの告白がお望みかと思ってたから」
ゆえにダイヤは桃花の気持ちに気付いていながら攻めなかった。攻めてなし崩し的に恋人になるよりは、彼女が一番望む形で想い出を作ってあげたかったから。
「そうなんだけど、ふりちゃんに先を越されると思うと焦っちゃって」
「…………僕ハーレム目指してるけど大丈夫?」
桃花のその気持ちは嫉妬に近いものだ。ハーレムメンバーとダイヤがイチャイチャすることにもやもやを抱くのであれば、それは不幸な未来に繋がってしまう。
「少し前は嫌だったけど、今は大丈夫だよ。だってダイヤ君がなんとかしてくれるでしょ」
「え?」
「ふりちゃんって寂しがり屋だから、ダイヤ君が他の人とイチャイチャしていると悲しく思っちゃうタイプだよね。それなのにダイヤ君がハーレムに入れたがってるってことは、解決案があるんだろうなって思ってさ」
「わぁお。良く分かったね」
「そりゃあ好きな人のことだもん」
「攻めるなぁ」
普段はダイヤがやるような攻めを桃花が見せてくる。気が合うからこそ、似たようなことをやってくるのだろうか。
「解決案はあるにはあるけど、準備出来るか分からないんだよね」
「準備?」
「うん、あるスキルが必要なんだ」
「教えて教えて」
「いいよ」
ダイヤはそのスキルについて桃花に伝えた。
「なにそれえろい」
「でしょー」
「でもそれなら他の人のことを考えている余裕なんて無いかも」
その時のことを想像しているのか、桃花の顔は真っ赤だ。
「ダイヤ君はいつから私のことを狙ってたの?」
「合宿の時かな。でも具体的なタイミングは無いんだよね。一緒にいると楽しそうだなって思って、そのうち自然にって感じ」
「そういうのなんか良いね」
オリエンテーリングで一緒の班にしたのは狙ってはいたが、あの時点ではまだ可能性を感じていたにすぎず、楽しそうだからという側面の方が強かった。その後にはっきりとしたきっかけがあったわけでもなく、一緒に行動しているうちに自然と気持ちが醸成されていっただけのこと。
「桃花さんはいつから僕のことを?やっぱり合宿の時?」
「気持ちが固まったのは合宿の時だけど、気になったのはダイヤ君が見江春君と友達になった時かな」
「え!?そんな前から!?」
まだ桃花と接点が全く無く、しかも例の配信よりも前のことだ。クラスメイトからネガティブな扱いしかされていなかった頃に気になっていたという話はかなり驚きだった。
「でもその頃って僕のこと怖がってなかった?」
「先生に決闘を挑んだ時は怖かったよ。いくら相手が酷い先生だからって、容赦なく腹パンだもん」
少しでも機嫌を損ねたら自分も同じような目に遭うのではと考えて恐怖してしまった。
「しかもハーレム狙いなんて言われたら、女子は皆、襲われるんじゃないかって不安だったと思うよ」
ダイヤの記憶では、確かに桃花もダイヤに怯えている様子だった。ただずっと観察していたわけでは無いので、それが続いていたかどうかまでは分からない。
「でもあの巫女さんが来た時、ちょっと面白いなって思っちゃったの」
「え?」
「だって本気でハーレム狙ってて、しかも変わった女の子にアプローチされてるんだよ。絶対楽しいラブコメじゃん」
桃花はここに学生生活を楽しみに来たのだ。そしていきなりどでかい面白そうなことを目撃してしまった。それはダイヤの印象を改めるには十分な出来事だった。
「それからダイヤ君を面白い人かもって思って、目で追うようになって、見江春君と仲良くしている姿を見ていたら、なんだ普通に楽しい良い人じゃんって思えて、仲良くなれたら良いなって思ったの」
そして合宿の時にその機会が訪れ、配信で格好良い姿を見せつけられていたことも重なって、共に居たいと思えるようになった。
「そもそもだよ。うちのクラス暗い人が多すぎでつまらなかったんだもん。面白そうなダイヤ君が気になるのも当然だよ!」
「あはは、確かに合宿前までは空気が重かったね」
「それもダイヤ君が変えてくれた。今は毎日が楽しくって仕方ないよ!」
その笑顔を与えてくれたことこそが、桃花がダイヤに惚れた本当の理由なのかもしれない。
「だからダイヤ君好き~」
「んんっ!?」
桃花は再びダイヤに近づき唇を奪った。
だがダイヤ的には二度もやられっぱなしという訳にはいかない。
「んっ……ちゅっ……っ!?」
ダイヤの方からも唇を押し付け攻め返す。
たまらず桃花は顔を離そうとするが、ダイヤは手を彼女の後頭部へと回し逃がさない。
「ん~~~~~~~~~!」
一転して攻勢に回ったダイヤは徹底的に桃花の唇を攻め、彼女はされるがままになっている。舌を入れてすらいないのに、彼女はとろんとした雌顔に堕ちきってしまった。
やがてダイヤが彼女を開放すると、真っ赤になった彼女は夢見心地な感覚を味わいながら呟いた。
「しゅごい……」
二人の間には甘い空気が流れている。今なら一気に本番までこなしてもおかしくない。
しかしダイヤは鋼の精神で自重する。
ハーレムを目指す以上、安易な性行為はご法度なのだ。
時間をおいて少し冷静になった桃花はそのことに気が付いた。
「ダイヤ君は本気でハーレムを作るつもりなんだね」
「もちろんだよ」
「私も本気でハーレムに入るなら、子供のこと考えなきゃね」
ハーレムを作るならば、避妊をせずに子供を作らなければならない。
それがこの国の法律で定められているルールだ。
ダイヤが収入などのハーレムを作る準備を終え、桃花がそのハーレムに入る決断をしたとなると、彼女は子作りをしなければならない。
「桃花さんは子供好き?」
「大好きだよ!好きな人と結ばれたら高校生の間に子供が出来たら良いなって思ってたくらいには大好きだよ!」
「そういう人、最近多いよね」
「そりゃあ子供作れ作れってこれだけ言われたら、思春期の私達は猿になっちゃうよ」
「昔は今の十倍以上の人口だったんでしょ。信じられないや」
何故、ハーレムを国が認めているのか。
何故、子作りを推進しているのか。
それはとある理由により、世界の人口が激減したからである。
社会基盤が大きく崩れ、インフラの維持も困難になり、人々はこれまでの文化水準を保てなくなってしまった。ゆえに子供を作り人口を増やさなければと各国は考え、超手厚い子育て支援を行い出した。
日本では基本的な子育て支援の他に、結婚可能年齢を引き下げ、高校生から結婚及び妊娠が可能となった。ベビールームが存在する高校も多く、ベビーシッターも常駐している。少しでも妊娠可能期間を長くすることで、二子、三子と複数人産んでもらうためだ。
ハーレムの許可も人口を増やすためであるが、単に許可するだけだと爛れた集団が出来上がるだけであり生まれた子供が不幸になってしまうため多くの縛りが設けられている。
「元に戻すには十人は産まなきゃ」
「桃花さん頑張るなぁ」
「頑張るのはダイヤ君だよ。十人かけるハーレム人数だからね」
「ハーレムモノの小説ですらそこまでのは無いよ!?」
「現実は小説よりエロなり」
「じゃあ超ハードなエロ小説と比較しよう」
「いやん、私どんな目に遭っちゃうの?」
「ぐへへへ」
この二人、ピロートークでもこんな雰囲気で話しそうな気がする。
「真面目な話、子供が出来る前にダイヤ君とイチャイチャする時間が欲しいし、子供が出来るとダンジョンに入る時間が減っちゃうことも考えなきゃダメだし、もちろん子供は滅茶苦茶愛してあげたいし、考えることが沢山あって難しいね」
「まだ時間はあるし、一緒に考えていこうよ」
「うん」
そしてそれは二人だけではなく、ハーレムメンバー全員で考えるべきことだろう。
「ねぇダイヤ君」
「なぁに?」
「たっぷり愛してね」
「もちろんだよ」
そうして二人は幾度となく唇を合わせ、お互いの体温を感じる程の距離で眠りに落ちたのであった。
「わたくしもいずれは……」
「変態……孕まされる……」
なお、離れた所でその様子を見ていた二人は悶々としてしまうのであった。
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