57. オリエンテーリングのけっかはっぴょー!
「ただいまわーん!」
「ただいまにゃん」
「おつかれー」
アレな人達に絡まれた後、ダイヤ達は新たな新入生と遭遇することなくゴールした。
クラスの中で最初だったらしく、待っていたら次に帰って来たのは百……犬猫組。
「こっちはバッチリだったよ。桃花のとこはどうだった?」
挨拶の後、犬猫は桃花と話し始めた。
桃花はすでに元の雰囲気に戻っていて、自然体で対応している。
チラっと茂武を見ると良い笑顔でサムズアップしていた。
綺麗な花を堪能出来たのだろう。
「おい、ちょっとこっち来い」
「え?」
桃花が犬猫と話し始めたタイミングで、蒔奈がダイヤを桃花から離れた所に強引に連れて来た。
桃花に聞かれたくない話をしたかったのだが、これまで三人一緒だったからそのタイミングが中々無かったのだ。
「まさかお前知ってたのか?」
「何のこと?」
「とぼけるな。あいつがお前に気があることだよ!」
「え~そうだったの?」
「そういうのいらねぇから」
わざとらしく知らないフリをするボケは今はお呼びでは無いそうだ。
そうすれば答えてくれないとでも思って見逃してくれるかなという気持ちもあったのだが、蒔奈は逃がしてはくれなかった。
「気付いてたと言うか、一緒に楽しんでいたらそうなるかもとは思ってたよ。だってあんなに楽しそうにしてるんだもん」
心から共に楽しめる異性。
その楽しさが別の気持ちに変化するのは不思議なことではない。
「まさかこんなに早くこうなるとは思わなかったけどね」
桃花とまともに話すようになったのは今日が初めてなのだ。
これまでつまらなかったところから一気に楽しくなったというギャップがあったとはいえ、心の変化が早すぎる。
「(もしかしたら桃花さんは惚れやすいタイプなのかも)」
物事を楽しめるということは、感受性が豊かであるのかもしれない。
それゆえ気持ちの変化も早かったのではないか。
「チッ、結局お前の狙い通りかよ」
「いやいや、だから偶然だって」
「何が偶然だ。あいつも喰っちまうつもりで同じ組にしたんだろ」
「
同じ組にしたのは桃花の人となりを確認するためであったが、食べられるという確信があったわけではない。
「あいつを泣かせたらマジで許さねぇからな」
「困ったなぁ。気持ち良すぎて泣かせちゃうかもしれないのに」
「お前、あの夜職の連中に染まってないか?」
「ごめんなさい」
確かに今のは少し酷かったと素直に反省するダイヤであった。
「でも本当に悲しませることはしないから。無理やり誘うこともしないし」
「信じられねぇな」
「本当本当。僕はそんなに節操無しじゃないし」
「そういや、あの変態達のアプローチに食いついてなかったか。よく分からん奴だなお前」
桃花に連れられて逃げる前に、夜職の女性達のアプローチを受け入れることも出来たはずだが、ダイヤはあくまでも冷静に興奮せず対応していた。女性であれば誰彼構わず粉をかけるのだと蒔奈は思っていたため、桃花を積極的に攻めないことも含めて違和感を覚えたようだ。
「少なくとも合宿の間は何もしないから安心して。お、次の班が帰って来たみたいだよ」
「おい、まだ話は終わって……」
これ以上は何も話すつもりは無いと言わんばかりに、ダイヤは話を強制終了させて逃げてしまった。
ダイヤが誰のことをどう想い、どう狙おうとしているのかは秘密とするつもりなのだ。
次にゴールしたのは暗い男子を強引に連れまわす組だ。
班の中心人物となっているであろう咲紗に結果を確認してみる。
「おかえり、どうだった?」
「かんぺき」
「おおー」
堂々としたVサインは、広大な林の中を探索し尽くしたという意味なのだろう。
それを成し遂げられたということは、班員を上手く使いこなせたということで、男子達と上手くやれたに違いない。
「一見、地図」
「はい!お持ちしました!」
「スター、問題の状況は?」
「全部解きましたぜ姉御!」
「下僕になってるじゃん」
女性どころか他人とコミュニケーションを取るのすら難しそうだった四里と巨星が、喜んで咲紗にアゴで使われている。
「(妙な性癖を目覚めさせてしまったかもしれないけど……まぁいっか)」
ある意味新たな取り巻きが生まれてしまったようなものなのだが、彼らが楽しそうだから考えないことにした。
「はは……ま、まぁアレはアレで助かったよ」
「…………ふん、軟弱な」
「(剣さんと常闇君は変わってないんだね)」
咲紗が二人を調教、ではなく仲良くなる様子を離れた所で見守る藍子と暗黒、という班員の関係性が簡単に想像できてしまったダイヤであった。
「残るは最後の班だけど……遅いなぁ」
まだタイム的には大幅な遅れとまではいかないが、メンバーがメンバーなので不安になってしまう。
そしてその不安は悲しいことに的中してしまったのである。
「来た!」
慌てて走って戻って来た三人組。
彼らの様子は普通では無かった。
「あんたのせいで遅れたのよ!」
「お前がいちいちつっかかるからだろ!」
「誰かさんが人の胸ばかり見て来るからでしょ!」
「露骨にアピールするような服を着てるのが悪いだろうが!」
「うわ、きも。女子のオシャレをそういう目で見て来るとかサイテー」
「はん。そういう目も何もチラっと少し見ただけだろうが。自意識過剰なんだよ」
「へぇ、自意識過剰ね。あんだけ露骨に人の胸を揉んでおいて……おまわりさーん!」
「アレは事故だっただろ!何度も謝ってるだろうが!」
「喜んでるだけで全然謝ってなんかないじゃない!」
「これ以上どうすれば良いんだよ!」
「そんなの自分で考えなさいよ!」
「どうせ何したって許すつもりない癖に!」
「あんたが反省してないからじゃない!」
「お前の性格が悪いだけだろうが!」
「なんですって!」
「事実だろ!」
「性格が悪いのはあんたじゃない!変態!」
「いいや、悪いのはお前だ!自意識過剰女!」
「違うっていってるでしょ!性犯罪者!」
「それこそ違うわ!ひねくれ女!」
「ストーカー!」
「自分勝手!」
「エロ魔人!」
「理不尽の権化!」
「「むうううう……ふん!」」
向日葵と朋の二人ともが激怒し、顔を突き合わせて激しい言い合いをしてしまっているのだ。
「めっちゃこじれちゃってるじゃん」
仲良くなり、あわよくば関係が進展するようにと組み合わせたはずなのに、全くの逆効果になってしまっていた。
「…………」
「あ、易素君」
頭を抱えてしまいたくなるダイヤの元に、向日葵達のもう一人の班員、易素がやってきて、何が起きたのかを説明してくれた。
「…………」
「ふむふむ」
「…………」
「ほうほう」
「…………」
「なるなる」
「…………」
「そういうことだったんだね」
易素から説明された内容をダイヤは頭の中で反芻し、状況理解に努めた。
「(朋が夏野さんと仲良くなろうとアプローチするも、夏野さんの態度が全然良くならない。しかも事故で朋が夏野さんの胸を揉んじゃって、朋が何度も謝ったのに夏野さんが許してくれず、朋の方が逆ギレして怒り始めちゃったってことか)」
自分では真摯に接しているつもりにも関わらず、性的な目でしか見ていないと思われ続けることに我慢の限界に達してしまったのだろう。
「(易素君と草履さんはフォローしようとしたけど、火が付いた二人は止められなかった。そのうちに、草履さんがもうこのままで良いんじゃないかって言い出して、今に至ると)」
萌知は蒔奈と咲紗と合流し、和気藹々と話し始めてしまっている。
今から詳しい状況を萌知にも聞くべきだろうか。
「(聞いたところで話の内容は変わらないか。それより朋のことをどうするべきかだけど……)」
二人はあまりにも険悪な雰囲気で、誰も近づこうとしない。
悪い意味で二人の世界を作ってしまっている。
「(いや、待てよ? これはこれでアリなんじゃないか?)」
二人の世界に入っているということは、お互いしか見えていないということ。
そしてそれはお互いを意識し合っているとも言える。
「(これまでは夏野さんが一方的に朋を嫌って壁を作ってたけど、激しくケンカすることである意味距離が近づいてる。距離を取るタイプのケンカなら不味かったけど、言い合うタイプなら上手くいけばお互いの本当の姿を理解し合う流れにもなり得るんじゃないかな)」
相手を攻撃するために観察していたら良いところが見えてしまったなんてことがあり得そうだ。
しかも相手を嫌っているからこそ、そのギャップはかなり効果的だ。
「(よし、『ケンカップル』化を目指してみよう)」
失敗すると取り返しがつかない結果になるが、そもそもすでに大喧嘩していて取り返しがつきそうにないのだからダメ元で構わないだろう。
「(ひとまず今は放って置こう)」
他人があれこれ言ったとしても二人は何も聞きはしないだろう。
熱が冷めるまで放置し、今はオリエンテーリングの方に集中することにした。
なお、湖畔ルートは萌知と易素が頑張って問題を集めてくれたので、壊滅状態とはならなかった。
「集合!」
バラバラに集まっていたクラスメイトをダイヤは一か所に集めた。
「皆、例のアレは大丈夫そう?」
例のアレとは精霊に関する練習のこと。
クラスメイトを見渡し一人一人の顔を見ると、全員が満足気に頷いていた。
喧嘩していた向日葵と朋も、大喧嘩になる前に練習を済ませていて大丈夫だったようだ。
「じゃあオリエンテーリングの方はどうかな?」
こちらは湖畔ルートだけは申し訳なさそうな顔になっていたが、それ以外は自信がありそうだ。
「この様子なら上位は間違いなさそうだね。それじゃあ終わった直後で悪いけど、合唱の準備をしようか」
精霊使いクラスの目標はあくまでも優勝だ。
オリエンテーリングが終わったところで、まだまだ全く油断は出来ない。
クラスメイト達の表情も、また良い感じに引き締まっていてバスの中で生み出したやる気は失われていないようだ。
「それじゃあ練習場に行こう」
早く揃ったクラスは白樺館に戻り合唱の直前練習の時間を多くとれる。
それゆえダイヤ達は急ぎ移動して練習しようとしたのだが、その背に声がかけられた。
「皆さん。少し待ってください」
「先生?」
声の主は担任のおばあちゃん先生だった。
「おおよその順位が判明しているから伝えておくわ」
「もう分かってるんですか!」
「ええ。皆さんの行動は細かくチェックしているから、どの問題を選んでどの程度正答したのかがゴール前に判明しているのよ。ゴールまでにかかる時間も予測しているから、大半がゴールした今ならある程度正確な順位が分かるのよ」
班の数はかなり多く、ゴールしてから手作業で結果をチェックしていたら時間がかかりすぎる。
ゆえに様々な技術を使い、リアルタイムの状況を収集して最終得点を算出する仕組みが用意されていたのであった。
特に今年は去年までよりも精度が高いシステムが導入されているため、ゴールしていない班が少しあったとしても、かなり正確な順位が導き出され、合唱の練習に向かう前に結果を伝えることが可能となっていた。
「皆さんの順位は……」
敢えてそこで言葉を区切り間を置くところ、おばあちゃん先生は分かっている。
クラスの全員がドキドキしながら続きを待つ。
「二位よ」
順位が高いことを喜ぶ気持ちと、一位で無かったことが残念な気持ちが混ざり合い、クラスメイト達は複雑な表情になってしまった。
だがこういう時は、しっかりと喜んだ方が気持ち良く次の競技に移れるものだ。
「みんなやったね!この調子で次も頑張ろうよ!」
自分達は間違いなく成果を出したのだ。
ダイヤは力強い口調で、そう断言した。
心からそう思っているのだと伝わると、クラスメイト達もまたそうだと思えてくる。
自分達はやってのけたのだと、成果に自信が持てるようになってくる。
次の合唱も上位を狙ってやるぞ、むしろ今度こそ一位を取ってやろうという気持ちが湧いてくる。
「(この様子なら大丈夫かな)」
気持ちが切れることもなく、スムーズに合唱に移れそうだ。
この雰囲気ならオリエンテーリングについてもう少し触れても平気だろう。
「先生、一位は何処なの?」
「十九組よ」
「十九組って言うと……秀才クラスか。じゃあ単純に問題の正答率で負けちゃったんだね」
秀才クラスは、頭脳明晰な生徒が集まるクラスだ。
単に知識があるだけではなくクイズが得意な人も多く、オリエンテーリングは得意中の得意だろう。
そこに負けないようにと作戦を練っていたのだが、それでも負けてしまったことを咲紗が残念に思っていた。
「貴石の狙い通り全部の問題を集めたけど、それじゃあ足りなかったってことなのね」
全部の問題を集める。
それは上手く分担しても中々に難しいことだった。
分かりにくいところに隠してある問題があったり、そもそも探索範囲が広かったりと理由はいくつかある。
だがそれでもダイヤ達はある方法を使って全て集め、解く問題の数を最大にすることで正答率が高い秀才クラスに立ち向かおうとしたのだ。
「でも頑張ったおかげで、精霊さんにお願いする良い練習になったでしょ」
ダイヤのフォローに、全員が力強く頷いた。
「精霊に問題を探してもらうだなんてマジで可能だったんだな」
向日葵から距離を取り、通常通りの雰囲気の戻った朋の言葉の通り、ダイヤ達は探索をしながら精霊に問題を探すようにお願いしていたのだ。小さくてかなりの数が存在する精霊にお願いすればオリエンテーリングのルートを満遍なく調べられ、問題を漏れなく発見することが可能となったのだ。
だが問題が見つかったところで正解が分からなければ点数は伸びない。
そこは運でもあったので仕方ないと割り切るしかない。
「オリエンテーリングでの目標は全部達成できた。この調子で優勝狙うよ!」
『おー!』
精霊クラスの快進撃は、まだまだ始まったばかりである。
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