56. 流された時の音の反応を想像すると敢えて流されてみたい気もする(鬼畜)
「むむむー精霊さんおねがーい!」
両手を前に突き出して薄桃色の丸い精霊にお願いをすると、精霊は空気に溶けるように消えて辺りに仄かに甘い香りが漂い出す。
「やった!」
「おおー、こんな精霊さんもいるんだ」
林の中、
「はぁ……良い香り」
「桃花さんの香りだね」
「言い方」
桃の香りだからという意味なのだろうが、言い方を少し変えるだけで意味深な感じがするのだから不思議なものだ。
「でもまさか精霊さんがこんなこと出来るだなんて。単に移動できるだけなのかと思ってたよ」
「僕も最近これに気付いてびっくりしたよ」
動いてもらうことしか出来ず、力も無く、触ろうとするとすぐに消えてしまう儚い存在。
それが精霊だとずっと言われ続けていた。
しかし精霊にはちょっとした能力があることにダイヤは気が付いた。
そのきっかけとなったのは二つの出来事だった。
一つは廃屋クエスト。
「(廃屋に棲みついている精霊さんは、素材を持って行くと家を修復してくれる。でもそれ以外は良く言われている精霊さんの特徴と何も変わらなかった。だから逆に考えて、普通の精霊さんも廃屋の精霊さんと同じように何かしらの力があるんじゃないかって思ったんだ)」
そしてもう一つがスピの存在だ。
精霊であるスピは人型に実体化し、とてつもない怪力の持ち主だった。
これまた一般的な精霊の常識とはかけ離れている。
廃屋の精霊とスピ。
それらが特殊なだけなのかもしれないし、そうでは無いのかもしれない。
疑問に思ったのなら試してみれば良いだけだ。
ダイヤは生活する中で目に入った精霊にお願いをして特別な何かを引き起こせないのかを試してみた。すると精霊の中には廃屋の精霊と同じく特殊な能力を持つ存在がいたのである。
いずれも些細な能力だったけれど、使いようによっては便利なものもいくつかあった。
「(でもこのくらいのことはとっくに試されてそうなのに、どうして今まで見つかってなかったのかな)」
これまでに多くの人が精霊使いに価値を見出そうと研究し、失敗して来た。
その中には『精霊に何かをお願いする』ということは当然やってきたはずだ。それなのに成果が見られなかったのは何故なのだろうか。
「(桃花さんも成功したし、僕だけが特別ってわけじゃなさそうだし。変なの)」
不思議ではあるが、今はその理由を考えるよりも、誰がどの程度のお願いが出来て、それをどうやって活用するかを考えるべきだ。
「お、おお、おおお!きた、きたきたきたきた!」
考え事をしていたら、蒔奈が突然叫び出した。
桃花と一緒に精霊にお願いをする練習をして、ついに応えてくれる精霊が見つかった。
「どれどれ、どんな精霊?」
「アレだ」
「アレって……どれ?」
「だからコレだよ」
蒔奈は数歩進んでしゃがむと、手で軽く握れるくらいの大きさの石を拾った。
「精霊がこれに変化したんだ」
「へぇ、石になる精霊なんだ。面白い」
「お前の言う通り、大した効果はねーけどな」
普通の精霊が応えてくれることは些細なことばかりだ。
仄かな香りを放ってくれたり、ただの石に変化するなど、その程度。
「でも取巻さんはこういうの好きでしょ」
「ああ。めっちゃ面白そうだぜ」
その目は悪戯っ子のものになっており、これだけの効果にも関わらず既に様々な利用用途を思いついているようだ。
「あ~あ、私ももっと役に立つ精霊さんと仲良くならないと」
花の香りを振りまくだけでは、多少のリラックス効果くらいしか得られないだろう。
それはそれで微妙に役に立つものだが、明日のバトルロイヤルには使えないだろう。
「桃花さんのその香りも、使おうと思えば使えるんじゃないかな」
「え?」
「僕が説明したアレを試してみようよ」
「アレって……なるほど!それなら確かに効果あるかも!」
ダイヤがクラスメイトに指示した練習内容は、精霊を視れるようになること、精霊にお願いを聞いてもらえるようになること、動く以外の特殊なお願いを聞いてもらえるようになること、それに加えてもう一つある。その最後の指示を組み合わせることで、桃花の香りも戦力になるそうだ。
だがその練習を始める前に、ダイヤが何かに気が付いた。
「あれは……二人とも練習は一旦止めて」
良い感じで練習出来ていたのだが、遠くに人影が見えたので仕方なく中止の指示を出した。精霊を使って何が出来るのかは極力他のクラスにバレないように隠しておきたかったからだ。
その人影はダイヤ達の存在に気が付くと、猛スピードで走ってやってきた。
「きーせーきーくぅーん!」
「いたぁい」
弾丸のようにダイヤの腰元に向かって飛び込んできたその人物を、ダイヤは倒れることなく受け止め切った。
「このまま押し倒すつもりだったのにまさか受け止めちゃうだなんて素敵!」
「え?え?」
まさか押し倒されようとしてただなんてと困惑するダイヤは、腰にしがみつきながら見上げてくるその人物を確認する。
「ええと、どちら様でしょうか?」
まるで知り合いかのような雰囲気で突撃してきたが、全く見覚えが無い女子だった。
全身が隠れるほどの大きなマントで身を包んでいて体格などは全く分からないが、顔は小顔で睫毛が長く、高校生にしては多少化粧が厚い気もするが割と好みな顔立ちだった。
「あたし、
「ええええええええ!?」
「ええええええええ!?」
「はあああああああ!?」
突然のハーレム入り宣言にダイヤ達は驚きを隠せない。
自分からハーレムに入りたいだなんて言い出す物好きは……未来がいたか。
「ちょっ!何やってるのさ!」
「やぁん。気持ち良くさせてあげようと思ったのに」
「何考えてるの!?」
いくらえっちぃことが大好きなダイヤとはいえ、屋外の林の中で、しかも桃花達に見られている中でそんなアプローチをされても『はい喜んで!』とは言えなかった。
「何考えてるのかって?もちろんこういうことを考えてるんだよ!」
「わぁお」
「うわぁ!」
「変態かよ」
その下に何が隠されていたのか。
一言で説明すると肌色パラダイスだ。
上半身は超極小のビキニをつけていて、そこそこ大きい膨らみの大半が見えてしまっている。
下半身はこれまた超極短なショートパンツを履いていて、下着らしきものが見えてしまっている。
それ以外は足元以外に何も着用しておらず、林の中ではふさわしくない格好どころか、ここが海だとしても卑猥と言わざるを得ない色気がムンムンと漂っている。
「そんな格好してると虫に刺されて危ないよ?」
「こんなエロい格好してるのに指摘するとこそこなの!?」
鼻息荒く体をガン見されるのだろうと
「はっ!しまった。私は突っ込まれる方なのに突っ込んじゃった!」
「こいつマジで頭ヤバいだろ」
下ネタ全開のボケをかましてくる
一方で桃花はまだ呆然としている。
「一体何が起こってるの?」
その疑問に答えるのはとても簡単だ。
「貴石クン!あたしとたっくさん気持ち良くなろう!」
ダイヤが林の中で同級生に性的にアプローチされている、ということだ。
その事実を桃花はしっかりと認識できている。
出来ているのだが、林の中での突然の奇行を脳が理解させてくれないのだ。
そして理解出来ないのはダイヤも同じだった。
勢いに流されることなく、状況把握に努めようとする。
「どうして僕なの?」
「だって貴石クンと一緒なら楽しいえっちが出来そうだから!」
「確かに僕は楽しくないえっちなんてするつもりは無いけど……」
それゆえイベントダンジョンの中で
「僕は」
「こ~ら~」
「抜け駆け禁止よ」
ダイヤが何かを言おうとしたら、
「うげ、頭悪いの追加かよ」
彼女達もまた体全体を隠すマントを羽織っており、その中がどうなっているのかはお察しだ。
「まさか君達のクラスって!」
三人揃ったことで、ダイヤは
「パコパコクラスだよ!」
「夜職クラスでしょうが!」
とんでもない俗称を言い放つ
「え~、だってその言い方エロくないし」
「夜職クラスの人ってみんなこうなの……?」
「そんなこと無いよ~」
「うふふふ」
「もしかして
イベントダンジョンにも出現した魔物のサキュバスは、職業にも存在する。
男性から精を受けてパワーアップしたり雄の魔物を魅了したりと、中々に歪んだスキルを使えるレア職業の一つだ。
サキュバスとして生まれることは無く、転職でしか就けないとは言われているが、今の
「ううん。まだ『ビッチ』だよ」
「わたしは『性〇隷』だよ~」
「うふふ、『裸族』よ」
「絶対嘘だよね!?」
職業についても詳しいダイヤが聞いたことのない職業だらけだ。
もちろん知らないだけという可能性もあるが、そんな職業に就いて生まれるだなんて酷いことがあってたまるかと嘘だと断言した。
夜職ならば『サキュバス』に加え『ホスト』や『娼婦』などが有名なのだが、いずれも転職でなければ就くことが出来ず、最初は『イレギュラー』や『クリエイター』などの夜職とは分からず他の職業にも転職可能なものに就いているはずなのだ。
その中で入学時に夜職への転職を希望する人だけが集められたのが夜職クラスなのだが、下調べが万全なダイヤでも、まさかここまでアレな人材が集まっているとは思ってもみなかった。
「はぁ……なんか疲れた。
「じゃあ代わりにわたしとえっちして~」
「うふふふ。私の方が先。いいえ、みんなでやりましょう」
「はぃ!?」
なんと残りの二人もダイヤに熱視線を浴びせ、羽織っていたマントを一気に脱ぎ去ったでは無いか。
その下は
「貴石君!行くよ!」
桃花が突然ダイヤの手を取り走り出した。
「桃花さん!?」
その後ろを蒔奈が背後を警戒しながらついてゆく。
「あいつらはついてこないみたいだ」
流石にマント無しで林の中を走るのは嫌なのか、走るダイヤ達を諦めて見送っていた。
「また今度やろうね~!」
「おい、もう見えなくなったから止まって良いぞ」
「だってさ、桃花さん」
「…………」
蒔奈の言葉に反応し、桃花は走るのを止めてダイヤの腕をそっと離した。
そして何故かダイヤから顔を背けてしまう。
「桃花さん?」
「…………」
「もしかして怒ってる?」
「…………べ、別にそんなことないもん」
蚊が無くかのような小さな小さな声でそう答える桃花の耳は、後ろから見ても分かるくらいに真っ赤になっていた。
「(どうしてこんなことしちゃったんだろう)」
ダイヤが性的にアプローチされていようが自分には関係無いはずだ。
むしろダイヤのハーレム話は、傍から見ている分には楽しい話題だったはず。
それなのに何故かダイヤが彼女達と話をしているのが嫌だった。
ダイヤが他の女性と話をしているのは気にならなかったのに、彼女達はダメだった。
そしてこれまた何故か、ダイヤと楽しくオリエンテーリングを進めて笑いあった幸せな場面を思い出してしまう。
「(本当に私、どうしちゃったの!?)」
困惑する桃花を見ながら、蒔奈はボソりと呟いた。
「マジかよ……」
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