53. ママー!って言わせてみたい
オリエンテーリングの班は次のように決定した。
一班は咲紗、藍子、四里、巨星、暗黒の五名で、暗い男子を強引に連れまわす組。
二班は犬好、猫好、茂武の三名で、挟まらず見守る組。
三班は向日葵、萌知、易素、朋の四名で、恋の行方がどうなる組。
四班はダイヤ、桃花、蒔奈の三名で、エンジョイ組。
各々の班で細かい方針を立て、開始時間になったので出発した。
「それじゃあ僕達も行こうか」
「うん!」
「あいよ」
元気一杯に返事をしてくれる桃花と、気だるそうな雰囲気を演じながらワクワクを隠せない蒔奈。
リーダー権限で自分の班をハーレム組にしたが、エンジョイ勢として気が合うかもしれない。
「僕達は東の山側ルート。高い崖が続いているからそこに沿って進もうか」
「岩場が多いから問題が沢山隠れてそうだし、良いんじゃないかな」
「私も問題ない」
方針が決まったからには猛ダッシュ、なんてことにはならない。
チェックポイントを通過して早く全員が帰って来たクラスが高得点であることには間違いないのだが、あまりにも早すぎるとマイナスになってしまうからだ。決まった時間は経過しなければならない。ある程度じっくり取り組んで仲を深めなさいという学校側からの暗黙の指示である。
スタート直後のため周囲には他のクラスの新入生達が沢山居て、ワイワイ話しながら進んでいる。
「なんか私達見られてない?」
「そりゃあ今話題の精霊使いだからね」
「ど、どうしよう。髪変じゃないかな?」
「ちゃんと可愛いから安心して」
「やった」
「イチャイチャすんなし」
「取巻さんも可愛いよ」
「う、うっせ。堕とそうとすんなこの変態」
精霊使いだから、しかもイベントダンジョンをクリアしたダイヤがいるということもあり注目度は抜群だ。それなのにおふざけであってもイチャイチャするとどうなるかと言うと。
「ぐっ……あの野郎」
「なんてうらや……けしからん奴だ」
「呪呪呪呪呪呪呪」
女っ毛の無い男子達に妬まれるということである。
そんな彼らの反応に気付いているのかどうかは分からないが、ダイヤ達はあくまでもマイペースで進む。
「ここからしばらく岩場が続くから、足元に気を付けてね」
「ここで足を挫いたりしたら、この後で大変だもんね」
「きゃ!」
「取巻さん!」
言った傍から蒔奈が大きめの石に躓き転びそうになってしまった。
慌ててダイヤが彼女を抱き留め、向日葵程では無いが中々のふくよかな感触を堪能した。
「助けてくれたのは感謝するが、離れろ変態!」
「もうちょっとだけ」
「ふん!」
「ぎゃ!」
横っ腹を思いっきり
「貴石君、今の動き凄いね。私も同時に気付いたのに動けなかったよ」
「どうせ抱きしめるチャンスだとでも思ったんだろ」
「そんなまさか。坂巻さんが心配で思わず体が反応しちゃっただけだよ」
「どうだか」
桃花達との触れ合いは留まることなく続き、どんどんとヘイトを稼いでしまう。
その結果、これ以上見たくないと言わんばかりに距離を取る班が増えてきた。
「良い感じに孤立出来たかな?」
「もしかしてそれを狙ってイチャイチャするフリをしてたの?」
「二割くらいはそう思ってたかな」
残りの八割はもちろん楽しいからだ。
「僕達の手札はなるべく隠したいからね。と言っても、多くの人がいるから隠し切れないとは思うけど」
「まだ見ている人もいるし、他の班も見られてるだろうしね」
「うん。だから見られるのは仕方ないとして、個々の得意分野までは特定されなければラッキーくらいの気持ちだよ」
「個々の得意分野って、バスの中で話したアレのこと?」
「そうそう。そろそろ試しに……って思ったら問題がある場所についちゃったか」
見上げる程に大きく歪な巨岩の所に生徒達が集まっていた。
そこに問題が貼られているのだろう。
「アレは保留にしてまずは問題を見に行こうか」
人ごみの中に突入し、巨岩に貼られた問題を確認する。
『この岩の体積を求めよ』
球体にも直方体にも近くないギザギザしている巨岩の体積など、簡単に求められるものではない。
「貴石君どうしよう」
「物差し使うのか?」
オリエンテーリングで使用可能なものは限られていて、スマDも一時的に回収されている。
紙の地図を使い移動し、限られた持ち物を使って問題を解かなければならない。
体積を求めるのに使えそうなものは一メートルの物差しくらいであり、新入生達は巨岩に物差しを当てながら四苦八苦している。
「この問題だとアレも使えないし、大まかに調べてスルーしよう」
この問題は時間をかけて考えたところで正確なところは分からないと判断し、先に進むことを優先した。
「縦と横の一番長いところだけ計ろう」
「りょうかーい」
「分かった」
桃花と蒔奈がテキパキと行動し、大まかなサイズが分かったので先に進みながら相談して適当に計算した。
「こんなもんで良いかな」
「だね」
「これまでも何度か思ったが、お前判断が早いよな」
それこそがダイヤの特技の一つであり、その恩恵を受けて改めて驚く蒔奈であった。切り上げて先に進んだ方が早いと分かっていても、もしかしたら良い方法を思いつくかもと考えてしまいふんぎりがつかないものだ。
「普通にリーダー向いてるんじゃねーか?」
「そうかな?」
「私もそう思う!」
決断力がある。
それはリーダーとして大事な資質だろう。
桃花も蒔奈も、イベントダンジョンクリアという大きなことを為した人だから、という曖昧な理由ではなく、本当の意味でリーダーとしてダイヤのことを受け入れ始めた。
「それじゃあリーダーとして命じます。例のアレ、試してみよっか」
「はーい!」
「うし。やってみるか」
最初の問題で足止めを喰らった人が多く、周囲には人がほとんどいない。
バスの中でクラスメイトに指示したあることを試す絶好のチャンスだ。
「あの辺り、灰色と緑色の小さな藻みたいなのが固まって浮いているよ」
ダイヤが指さしたのは何の変哲もない小さな岩の足元。
日陰になっているそこは、一見して何かがあるようには見えない。
「灰色と緑色、灰色と緑色、灰色と緑色、灰色と緑色」
「…………」
小さくブツブツ呟きながらその場所を可愛く睨む桃花と、無言でキツク睨みつける蒔奈。
そのまま二十秒ほど経過すると、二人の視界に徐々に変化が訪れる。
「あっ……何か見えて来た……」
「…………!」
何も無いはずのその場所にぼんやりと色が浮かび上がって来た。
その色がより鮮明になるようにと、二人ともさらに集中して追加で二十秒ほど睨み続ける。
「見えた!」
「私も」
二人の目には、ダイヤが言っていたような『灰色と緑色の小さな藻』がはっきりと映っていた。
「それが『精霊』だよ。その感覚を忘れないで。まずはすぐに見えるようになる練習をしよう」
ダイヤがクラスメイトに指示したことの一つ。
それはこの島の至る所に存在する『精霊』を目視出来るようになること。
この島は何故か多くの『精霊』がいるのだが、ダイヤと同じ『精霊使い』のクラスメイトはそのほとんどを視れていなかったのだ。何かいるような気がする、と感じた生徒が少しいるくらいだった。
精霊使いがどうやって活躍するか。
それはもちろん『精霊』の力を借りることだ。
それなのに『精霊』を見ることすら覚束ないなど問題外で、まずはオリエンテーリングの間に視えるようになることが必要だった。
「次はあそこ」
「見えた。赤いのだね」
「あっちは?」
「青いやつだな」
「あの木の上」
「保護色になってて分かりにくいけど、緑のがいるよ」
「そこの地面」
「おっと危ない。踏みそうだった。茶色いのだな」
「二人ともセンスあるね。もうそんなに視えるようになったんだ」
すぐにコツを掴んだのか、二人は精霊を簡単に視ることが出来るようになった。
「慣れたら割と簡単だったよ」
「むしろどうして今まで出来なかったんだって感じだな」
「やっぱりそうだよね」
数回視てしまえば『精霊使い』にとって『精霊』を視ることなど簡単なことなのかもしれない。
「この調子だと、他の人も大丈夫かな」
「きっとそうだよ!」
「これだけ簡単なら平気だろ。バスの中でも練習したしな」
バスの中にも精霊が紛れ込んでいて、ダイヤ指導の元それを視る練習をしたのだ。
すぐに身に着いたのもその経験があったからだ。
「それじゃあ次は……おっといつの間にか次の問題の場所まで着いちゃった」
岩場から少し外れた所に目立つ一本の高い杉の木。
その幹に問題の紙が貼られているようで、他クラスの班が一組だけそこに居た。
彼らはダイヤ達に気付くと、堂々と声をかけて来た。
「おや、君たちは『精霊使い』クラスじゃないか」
「何その髪型!?」
「ちょっ、貴石君反応したらダメだよ」
思わず反応してしまったのも仕方ない。
その人物の前髪が正面に長く突き出ており、その先端が三つに分かれてギザギザしているのだから。
「でもアレってどう見てもスネ」
「だからダメって言ってるでしょ!」
色々な意味でこれ以上は触れないで欲しい。
「僕ちゃんの髪型がどうしたって?」
「ぶほっ、ぼ、僕ちゃんだって」
「ぷ……ぷぷ……笑っちゃダメだよ」
「なんだこいつ頭イカれてんのか?」
全く容赦ないダイヤ達の反応にも、その人物は全く堪える様子が無い。
それどころか自信満々と言った様子で胸を張っているでは無いか。
「凡人にはこのすんばらしい髪形が理解できないようだね。それとも落ちこぼれだからかな?」
落ちこぼれ。
それは『精霊使い』の蔑称の一つ。
本来であればこの時点で笑いは止まり険悪な雰囲気になってしまうのだが、ツボに入りまくっているダイヤ達は全く気にする様子が無く、むしろ笑いを堪えるのに必死だった。
「どうやら最近は君達のことが話題になっているようだが、調子に乗らないでくれたまえ。今年度のエースは我々エリートクラスなのだから」
「その見た目でくれたまえって……もうダメ……ふー、ふー、え、エリートクラスなんてあったっけ?」
どうにか落ち着こうと、無理やり思考を別の方向に向けることにした。
「ぷ……わ、私は知らないよ?」
「私も知らないな」
顔を真っ赤にして我慢する桃花も、冷静さを装いながらも実は笑いたくて仕方ない蒔奈も、エリートクラスと呼ばれるクラスのことを知らないらしい。
「なんと無知な愚か者だろうか。良いだろう。では大サービスで教えて授けよう」
するとその人物の両隣に班のメンバーが斜め四十五度の角度で立ち、ポーズを決めたではないか。
そしてまず、向かって右側の分厚い本を持った優男が本から目を逸らさずに告げる。
「世界の真理を追究する者、
次に、向かって左側の、今どき何処で入手したのか分からないビン底眼鏡をかけた女生徒が眼鏡くいっをしながら告げる。
「数多の理を解明せし者、
最後に真ん中に立つ男が右手で髪を仰々しく払って告げる。
「全ての愚者を導く者、
忠独はそのまま良く分からない自己紹介の締めを行った。
「知性こそが我々人類に備わる至高のギフト。それすなわち、我ら三英傑が率いる知的クラスこそがエリートクラスなのだ!」
照れる様子など全く無く、心からそう思っているのだと誰もが理解してしまう程に堂々と言い切った三馬鹿トリオに対するダイヤ達の反応はいかに。
「わ~ぱちぱち」
「なんか恥ずかしくなってきちゃった」
「クソだせぇ」
エンジョイ勢の桃花ですら共感性羞恥を発症しているのに、平然と楽しそうに拍手するダイヤのメンタルはやはり鋼だ。
「
「ふっ……ようやく理解したか」
「でもさ、いくら凄い人でもルール違反は良くないと思うよ」
「何だと?」
ダイヤは本を持っている満賀に視線を向けた。
「それって持ち込み禁止だよね」
オリエンテーリングでは持ち込める物が決まっていて、仮にこっそりと持ち込みそれを使おうものならペナルティが発生する。教師達のスキルによって新入生の行動は事細かに確認されていて、誤魔化すことは出来ない。
満賀が持っている本は、持ち込み可のリストの中に無かったものだ。
ゆえにダイヤはそれをルール違反だと言った。
「なんと愚かな……」
だが指摘された満賀は全く動揺することなく、小さく首を振るだけだ。
「どういうこと?」
「どうして私が説明しなければならな……あ、こら、取るな!」
話すと面倒で時間がかかりそうだったので、ダイヤは強引に奪い取ってしまった。
「何が書いてあるのかな……あれ、白紙だ」
「私にも見せて。ホントだ。全部白紙だ」
桃花と二人で確認するが、六法全書かと思えるくらいの分厚い本には何も書かれていなかった。
白紙の本。
それが何を意味するのか、蒔奈がピンと来たようだ。
「それ、メモ帳じゃねーのか?」
「そっか!」
「なるほど~」
メモ帳は持ち込みOKなので、問題なかった。
「ごめんね、僕が間違ってたよ。まさかメモ帳だったなんて」
「…………くっ」
返そうとしたら奪い返すくらいの勢いで取り、後ろを向いてしまった。
「どうしたんだろう」
「分厚い本を持って賢く見せてたのが伊達だってバレたから恥ずかしいんじゃねーか。ほら、耳が赤いし」
「取巻さんやめてあげなって」
このままでは羞恥で満賀がどうにかなってしまいそうだ。
そんな満賀をフォローするつもりか、忠独が前に出て牽制をしてきた。
「これだから野蛮な一般人は困る。我々の邪魔だけはしないでくれたまえ」
「は~い。それじゃあ邪魔にならないようにあっち行って問題を解こう」
「え?」
素直に言うことを聞いたのに何故か疑問の声をあげる忠独。
そんな彼の気持ちを
「そこは怒って宣戦布告する場面では無いの?」
野蛮だの邪魔するなだのと上から目線であしらおうとしたことに怒り、不満をぶつけてくるというのが彼らの思い描いていた流れだったのだ。
「そんなことしないよ。邪魔したら悪いし、もう僕達は問題を見に行くから」
「逃げる気なの!?」
「うん。僕達は落ちこぼれの『精霊使い』だからエリートクラス相手に無茶な戦いはしないんだ」
「うっ……そ、それはそうだけど。それでも、その、少しくらいは頑張ってみても良いんじゃないかな。ワンチャン何か起きるかもしれないし……」
邪魔をして欲しくないにも関わらず、何故か引き留めて邪魔をして欲しそうなことを言ってくる。
「もしかして構って欲しいの?」
「はぁ!?そんなわけないじゃない!」
「だよね。じゃあ行くね」
「え?」
特に理由が無いのなら、これ以上はお互いに関わらない方がWinWinのはずだ。
ダイヤ達は面倒そうな相手から距離を取れて、彼らも邪魔されずに進められるのだから。
しかし何故か彼らは目に見えて焦っていた。
慌てて忠独がダイヤ達を引き留めた。
「ま、待ちたまえ」
「まだ何かあるの?もしかして時間稼ぎしてる?」
話をすることでオリエンテーリングのゴールを遅らせる作戦ではないかとダイヤは訝しんだ。
「ち、違う!そんなことしたら我々も遅くなってしまうだろうが!」
「でも捨て駒っぽいし、命じられてるのかなって」
「断じて捨て駒などではない!我々がリーダーだ!」
「その反応は図星……じゃなくて、そうだったね。ごめんごめん」
命じられているかどうかは分からないが、彼らがリーダーではなくクラスで下に見られていることだけは何となく察してしまっていたダイヤであった。このような奇妙な人達がリーダーだなど最初から信じていなかったのだ。
「ぐっ……ま、まぁ良い。それよりもお前達はどうして我々を無視できるのだ!」
「どういうこと?」
「将来を期待されているエリートクラスが話しかけて来ているのだぞ。知己を得ようと考えるのが普通だろう!」
それはもちろんエリートクラスだなんて妄言をダイヤが信じていないからだ。
しかしそれをビシっと指摘するような可哀想なことはしない。
「いやぁ、僕達には分不相応だよ」
相手がダイヤ達のことを格下だと言ってしまっている以上、分不相応と認められたら何も言い返すことは出来ない。
だがどうしてか彼らはダイヤ達との交流を諦められないらしく、どうにかして話を繋ごうと必死だった。
「そこで諦めるなよ!どうにかして我々と友誼を結べば、様々な知識を得られるのだぞ!学者、教授、研究者、探偵。知恵や知識が豊富な人員が集まっているクラスなのだ。情報を制する者こそがダンジョンを制すると言っても過言では無いという常識を知らないのか!?」
「知ってる知ってる。僕もそう思うよ」
ゆえにダイヤは事前にダンジョンについてかなり勉強をしてきたのだ。
だから本当であればエリートクラス改め、知識系クラスの生徒と仲良くなるのは意味があることだった。入学したころは、それも一つの目標に掲げていた。
だが今はもうその目標は終わっている。
「だから『明石っくレールガン』の団長さんと知り合いになれて助かったよ」
ダンジョン・ハイスクールで最もダンジョンに詳しい考察クランの団長と仲良くなったのだ。スキルポーションの交換以降、良好な協力関係を築けているため、知識系クラスの友人を作る必要は全く無い。
「う、うむ。そうか。我々もこの合宿が終わり次第、
「ふ~ん、そうなんだ」
ここに来て、忠独の雰囲気がガラっと変わった。
焦る様子から、慎重に言葉を選んで話を進めようとしている様子へと。
「(これが本題だったのかな)」
忠独以外の二人も妙にそわそわしている。
彼らの様子が変わったのは『明石っくレールガン』の名前が出た時から。
「(なるほど。そういうことか。僕に紹介してもらいたいんだろうな)」
知識系クラスの新入生であれば、そのトップと言っても過言ではない『明石っくレールガン』への加入は大きな目標だろう。ダイヤが団長と親しいことを彼らは知っており、クランに入れて貰えるように紹介して欲しいというのが彼らの目的だったのだ。
「それじゃあまた後でお話しできるから今は良いよね。バイバイ」
「ま、待て待て待て待て。ここは同じクランの関係者として語り合う場面だろう!」
「何言ってるのさ。今はオリエンテーリングの最中だよ。そんな時間無いよ」
「うっ……な、なら後で共に団長に挨拶に行かないか?」
「うん良いよ」
これで会うことすら困難なトップクランの団長に会いに行くことが出来る。
ダイヤの答えに三人の表情がぱっと明るくなった。
しかしダイヤがこんな奇妙な人間を紹介することなどあるわけがない。
「じゃあアポイントを取っておいてね」
「え?」
その依頼に三人の笑顔がピシリと固まった。
「そ、それはお前の方が簡単に出来るだろ!?」
「無理だよ。だって僕は団長さんの連絡先知らないし」
「そんな馬鹿な!?」
「もしかして僕なんかとあの人が対等とか、ましてや友達だって思ってる?そんなわけないでしょ。団長さんが連絡してきたときに、聞きたいことがあれば情報と引き換えにお願いするのが関の山だよ」
完全に嘘である。
お互いに連絡先を知っていて、ダイヤからもガンガン連絡しまくっていた。
「その点、君たちならアポイントを取るの余裕でしょ。なんたって、クラン勧誘期間より前に声をかけて貰ってスカウトされるって決まってるんだから。それだけ期待されてるなら団長さんと会うことも簡単だよね」
「あ……う……そ、それは……」
予想外のカウンターに何も言い返せない三馬鹿に、ダイヤはきっちりとトドメを刺した。
「いやぁそれにしてもびっくりだよ。まさかあの『明石っくレールガン』にそんなに期待されている人に会えるだなんて。でも大丈夫?勧誘期間前に声をかけたなんてことがバレたら『明石っくレールガン』が学校から怒られそうだから言わない方が良かったんじゃないかな。それこそ団長さんは怒って君達をやっぱり加入しないなんて言い出しちゃうかもよ」
「!?」
「!?」
「!?」
その言葉に三人の表情がさっと青褪めた。
もしも団長が怒ったとしたら、加入させない程度で済むはずが無いからだ。
武闘派考察系クランを怒らせた新入生がタダで済むとは思えない。
たとえ声をかけられたという事実が嘘だったとしても、この話が学校に伝わってしまえば『明石っくレールガン』への聞き取りからの団長激怒への流れになってしまうだろう。
「さ、ささ、さっきまでの話は忘れてくれたまえ!」
「そ、そそ、そうそう、今はオリエンテーリングを頑張らなきゃ!」
「し、しし、失礼する!」
慌てて三馬鹿はダイヤ達の元から逃げるように去って行った。
「貴石君、あそこまでする必要あったのかな?すごい顔してたよ?」
「えぐい真似するな」
「色々とあってね。この程度なら大丈夫だと思うけど、もっと酷いやらかしをしそうだったから」
「?」
「?」
ダイヤの真意が分からない桃花と蒔奈だが、特に説明するつもりが無いダイヤはポーチをチラっと見てから問題の貼られている場所へと歩き出した。
「(あの程度なら俯角さんは気にもしないだろうけど、調子に乗ってもっと酷いことを言い出したら彼らの身が危ないもんね)」
ポーチにつけられている盗聴器でこの会話は全て俯角に聞かれている。
そのため彼らの自爆で俯角を本気で怒らせることが無いようにと、きつめのクギを刺したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます