50. 皆を見返してやろうよ!(楽しみたいだけ)
「先生、他に何かお話はありますか?」
「いいえ。後は皆さんにお任せするわ」
ということは、ダイヤがリーダーとしてこれからのことを皆と相談するターンが来たということだ。
「じゃあ早速だけど、合宿の目標を決めよう」
オリエンテーション合宿はクラス対抗のイベントだ。
複数ある競技の中でどれに力を入れて、五十近くあるクラスの中でどの程度の順位を狙うのか。
「もちろん全部頑張って優勝するしかないよね!」
学校行事を全力で楽しみたいダイヤは、それ以外の選択肢を考えられない。
だがクラスの誰もがそう感じているとは限らない。
クラスメイトの様子を確認すると、頷いている人もいれば歓迎していない雰囲気の人もいる。
ダイヤの意見に最初に声をあげたのは隣の席の朋と、一人の女子だった。
「やっぱりそうだよな!って言いたいけど、流石に無茶じゃね?」
「そうよ。バトルロイヤルだけ頑張ろうよ」
「(
朋に同意したのは精霊使いクラスの女子の中心人物、
髪も服装もアクセも全て流行りもので固めているがゆえに無個性なギャルになりそうなところ、スタイルの良さでカバーしている女子である。
「だね。バトルロイヤルで勝たなきゃ意味無いし」
「他のなんてどうでも良いっしょ~」
「(彼女のお友達の
咲紗といつも一緒に行動している
「俺達もバトルロイヤルで勝てれば他はどうでも良い」
「ケッ!ガキのお遊びなんかに興味ねーんだよ!」
「…………他の奴らを倒せればそれで良い」
「(男子達も先崎さんと同じ意見か)」
精霊使いクラスにはダイヤ、朋、モブ達グループとは別に、もう一つ男子グループが存在する。
彼らはあまりにも暗く普段からブツブツ言っているので、気持ち悪く思われていてクラスに馴染めていない。
「(合宿を機に仲良くなりたいな)」
人を寄せ付けない壁を作っている彼らはクラスメイトから距離を取られているが、全員で仲良く頑張りたいダイヤとしては彼らにも自分達の輪に入って楽しんで欲しいと考えていた。
「(
話をする時に目を合わせようとしない陰気な男子、
実はそこそこのイケメンなのだが、自分に自信が無く肌の手入れもしていないため宝の持ち腐れとなっている。主人公になれる素質ありと言ったところだろうか。
「(
「(
「(他には反対意見は無いのかな)」
どちらでも良いのか、あるいはダイヤの意見に賛成なのか。
賛成だけれどもカーストトップの女子達や関わりたくない一部の男子達が反対しているから何も言えない人もいそうだった。
「(反対している人って、あくまでも他の人達を見返したいってことだよね。なら説得の余地はあるかも)」
精霊使いがこれまで見下されていたことを考えると、強くなって見返してやりたい、復讐してやりたいと考えるのは自然なことだ。それゆえ他人と直接戦えるバトルロイヤルに注力して少しでも見返してやりたいと考えているのだろう。
それならその気持ちを後押ししてやれば良いだけのこと。
「バトルロイヤルだけに注力しても良いけど、それで良い結果が出てもあまり認めて貰えないと思うよ」
「どうしてだ?」
ダイヤの言葉の意味が理解できなかった朋が確認してくれた。
「だって僕らはまだ新入生なんだよ。職業の違いがあっても、育ってないからまだ全然差が無いんだ。他の全てを捨ててバトルロイヤルに注力したらそれなりの成績が出るだなんて当然だもん」
それで他者を倒して本人達が満足できたとしても、それだけ必死になったらいくら精霊使いとは言ってもそのくらいは出来るでしょ、と大して評価をされないだろうというのがダイヤの考えだった。
「だから全部頑張るんだって。バトルロイヤルだけに注力したからとか、そんなくだらないケチなんかつけさせないくらいに完璧に勝ってやろうよ。負けた相手が何も言い訳出来ずにぐぬぬする姿とか見たくない?最弱と思われていた精霊使いが、今話題になっているこのタイミングで大活躍したら見る目がが一気に変わると思わない?」
大注目されている精霊使いが完膚なきまでに強い職業の生徒達を打ち倒す。
見下していた連中に敗北という屈辱を与え、自分達の方が実力が上だと優越感に浸り、ざまぁを喰らわせる。
その姿を想像したクラスメイト達の目の色が一気に変わった。
ダイヤによって具体的な未来をイメージさせられたことで、自分達が人生の分岐点に立っていることを明確に理解させられた。
だが、クラスメイトの中には桃花のようなエンジョイ勢もいて、彼女達にはこの手の後押しは逆効果になってしまうだろう。相手を見返すだのざまぁさせたいだの、暗い気持ちで必死になりたいとは思っていないのだから。
「それにそもそも皆で全力で何かをするってのは楽しいしね。手を抜くのは勿体ないよ」
ゆえにダイヤはエンジョイ勢をもフォローした。
というよりも、最初の方が方便でありこっちの方が本音であった。
楽しく全力で生きる。
それこそがダイヤの在り方なのだから。
「…………何をすれば良い?」
こうなれば最早ダイヤの意見に反対する者はいなくなる。
例えば暗黒は物凄く力強い目つきでダイヤを見つめ、早く
「じゃあ作戦を伝えるね」
精霊使いクラスがどうすればオリエンテーション合宿で活躍できるのか。
ダイヤはその秘策を彼らに伝えた。
ーーーーーーーー
オリエンテーション合宿は三つの競技で各クラスが競い合う。
初日昼のオリエンテーリング。
初日夕方の合唱。
二日目のバトルロイヤル。
合宿全体を通しての作戦を伝え終えたダイヤは、この中で合唱について朋にあることを確認した。
「そういえば、合唱曲って何に決まったの?」
当日いきなり決まるなんてことは無く、事前にクラスで話し合って決めることになっていたが、ダイヤはしばらく不在だったのでその話し合いに参加していなかったのだ。
「インナーアイズだぜ」
「ああ、良い曲だよね!」
「良かった、知ってたか」
「中学の時に歌ったことがあるよ」
どうやら偶然にもダイヤが知っている曲が選ばれたらしい。
今から覚えなくても良いのはかなりラッキーだ。
「わんわん、貴石くーん」
「にゃあにゃあ、聞いて良い?」
「なぁに?
合唱曲の話をしていたら、後ろに座っている女子達が身を乗り出して話しかけて来た。
一人は人懐っこそうな笑顔が特徴の
もう一人は人前だとすまし顔が多い
この二人がいるといつも犬か猫かで争い始めるのだが、楽しそうにケンカしているので仲は良いのだろう。今回も犬好がわんわんとふざけて話しかけたら、猫好が負けじとそれに乗っかって来た。
「オリエンテーリングとバトルロイヤルの方針は分かったけど、合唱はどうやって勝つワン?」
「私も気になってたニャン」
ダイヤの策には合唱で勝つ方法が含まれていなかったのだ。
「それなんだけどね。合唱は真っ向から挑むしかないかな」
「くぅ~ん、そうなの?」
「にゃ~ん、それで勝てるの?」
流石にダンジョン探索と一番関係なさそうな合唱では打てる手は
「全員が本気で歌うだけで上位には食い込めると思う」
「どうしていっぬ?」
「『合唱』だからだよ」
「どういうことねっこ」
ポイントは、ここがダンジョン・ハイスクールであるという点だ。
ダンジョン探索に最も関係があるバトルロイヤルに注力し、その他を蔑ろにしたいと考える人は精霊使いとか関係なくそれなりに多い。
「やる気のない人が少しでもいると、『合唱』ってのは綺麗に聞こえないんだ」
ゆえに全員が本気でしっかりと歌うだけで『合唱』はかなり
どのクラスにも少なからずやる気が無い人がいると思えば、全員が真面目に取り組めるというのは大きなメリットだ。
「わんわん、アイドルとか歌に関する職業の人がいるクラスには勝てないんじゃない?」
「心配いらないよ。上手すぎる人がいると逆にバランスが取れなくて綺麗に聞こえないから」
それにその人になんとか合わせようと周囲の人が不自然な歌い方になってしまうこともありえる。
『合唱』はあくまでもバランスが大事なのだ。
「だから皆で本気で心を込めて歌えば、上位にいけるのは間違いないと思う。問題はそこからどうやってトップまで狙うかだけど……」
「にゃあにゃあ、何か考えがあるの?」
「例の話を応用させてみようかなって。上手く行くか分からないから今はあまり気にせずに普通に頑張ってみよう」
どうせ素人ばかりなのだ。
下手に作戦を練ってそのことに気を取られるより、心を込めて歌った方が絶対に評価は高くなる。
「それより皆が校歌を覚えているかどうかの方が心配だよ」
「くぅ~ん……」
「にゃ~ん……」
合唱での課題曲は二つ。
一つは校歌でこちらは暗唱しなければならない。
もう一つは自由曲。
こちらは歌詞を見ながらでも構わない。
自信をもって堂々と心をこめて歌うには校歌の歌詞をしっかりと覚えなければならないのだが、ダイヤに乗せられるまで『合唱』は頑張らないと考えていてまともに覚えていない人が多かった。ゆえに今、バスの中で必死に校歌を覚えようと努力しているクラスメイトが多数いる。
話しかけて来た犬好と猫好もまた覚えていない仲間だったようで、慌てて席に座り暗記を始めたのであった。
「(あはは、こういうのもみんなで頑張っている感じがして良いね)」
クラスメイト達が奮闘する様子を見て、ダイヤは一緒に行事を楽しんでいる感じがして心躍るのであった。
「ダイヤぁ……覚えられねぇよぉ……」
「うろ覚えだったら夏野さんのこと協力しないからね」
「酷い!」
果たして彼らは夕方までに校歌をしっかりと覚えることが出来るのだろうか。
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