44. キツネ耳そんなにアカンやろか……
乱雑に床に置かれた書物や書類が高く積み上がり足場が殆ど無いその部屋は、不思議と机の上だけ何も置かれていない。人が寝られる程のサイズがあるその机に向かって、持ち主が何かをせっせと書いていた。
その書き物が一段落ついたタイミングで、コンコンと部屋の扉がノックされた。
「ええで、入って来ーや」
「失礼します」
扉を開けて中に入って来たのは、眼鏡をかけた真面目そうな女生徒。
スマDの色から部屋の主と同じ四年生だと分かる。
「団長、まだソレつけているのですか?」
「なんか気に入ってもうてな。彼はま~ったく反応してくれへんやったけど」
「緊張と疲れでそれどころでは無かったのでは?」
「そんなタイプじゃあらへん。どんな時でも気に入った女を目の前にしたら粉かけるタイプや。全く、女として自信なくすわ」
がっかりした感じが全くなく苦笑するその人物は、キツネ耳を装着した女生徒、クラン『明石っくレールガン』団長の
「そう思うなら普段から身だしなみを整えてください。ほら、また制服皴だらけにしてる」
「見た目なんて気ーつけても得られる物なんかあらへんあらへん。お色気は副団長の仕事やで」
「セクハラは止めて下さい」
「ええやん。立派なものをお持ちなんやから使わな損々」
確かに副団長の胸は制服越しでも分かるくらいにはち切れんばかりに膨らんでいる。
街を歩いていたら男共の視線を釘付けだろう。
「はぁ……こんなんで釣られる男なんて大した情報持ってない人ばかりですよ」
「せやな、だからウチは自然体で十分なんや」
「素材は良いんだからちゃんとすれば彼を射止められたかもしれませんよ?」
「だからあらへんって。ウチみたいな打算まみれの女なんて好みやないやろ。あくまでも彼は家族みたいな温かいハーレムを目指してるっちゅう話やしな」
「そんなのあり得るのですかね」
「世の中には上手く行っとるハーレムも案外あるらしいで。知らんけど」
俯角にとって元からハーレムになど興味は無いためあくまでも噂話を聞いたことがある程度だ。
単に会話の掴みとして話をしているだけにすぎず、彼女が本気で興味を抱くのは一つだけ。
ダンジョン。
「ハーレムはさておき、彼を当クランに勧誘しなくて良かったのでしょうか」
「なんや、副団長は彼がお気にか?」
「違います。どんな手を使ってでも情報を搾り取るのが我々のやり方じゃないですか。あまりにも穏便に対応していたから不思議に思っていたのです」
考察系クラン『明石っくレールガン』は考察系でありながら武闘派として知られている。
それは考察するには高難易度ダンジョンに挑まざるを得ないから必然的に強くなった、のではなく、情報を入手するためには黒いことも平気でやるという意味だ。
外部のクランに依頼してダイヤを拉致監禁し、徹底的に情報を搾り取るくらいのことはやってもおかしくない、というのが他のクランからの認識だった。もちろん『明石っくレールガン』自体は学校内でその強引さを上手く隠しているから処罰解体されていない。
「ウチも最初はそうする気やったんやけどな。配信見てたら、彼は自由にさせた方が新情報をポロポロ見つけるタイプな気がしたんや」
「縛りつけて協力させても何も見つけられないと?」
「せや。やから今回は仲良くさせてもろて、その情報を一早く入手しようって狙いや」
そもそも『精霊使い』をベースに『ダンジョン』を考察するのであれば、ダイヤ以外でも構わないのだ。ダイヤには自由に動いて新発見をしてもらい、他の『精霊使い』を
「ですが他のクランが黙っていないのでは?」
『明石っくレールガン』が仲良くする方針であっても、他クランがそうとは限らない。
強引にダイヤにアプローチするクランが出て来ても何らおかしくはないのだ。
「せやな。やからウチらが仲良くしてるでーってアピールしとるわけや」
ダイヤや
「それでもやるやつはおるやろうが、そこまでは面倒みきれへん。彼自身に頑張ってもらわな」
「大丈夫でしょうか?いくら特殊な性格とはいえまだ新人ですよ?」
「平気やろ。のほほんとした見た目しといて、案外頭が切れる抜け目ない性格のようやし」
そう言いながら、俯角はポケットから小さなレコーダーを取り出し再生する。
『テステス、ただいまマイクのテスト中。なんちゃって。やっほー、聞こえてますか?貴石ダイヤでーす。これ、プライベートな話とえっちな時以外はそのままにしとくんで、たっぷり聞いて楽しんでくださいね。それともえっちな話をどうしても聞きたいですか?いやぁそれは流石に彼女達に』
そこまで再生して強制的にぶつ切りした。
ここから先はエロトークしか無いから聞かせる意味が無いからだ。
「これは?」
「例のブツにつけてた盗聴器から聞こえて来たもんや」
スキルポーションと交換した超高性能のポーチには小型の盗聴器がつけられていた。
「……気付いていたのですね」
「しかも怒ることなく聞き放題でおっけーやと。どや、面白いやっちゃろ」
「協力するから余計なことをするなって言っているのでしょうか」
「単に楽しんでいるだけかもしれへん。あるいはそう思わせたいのか。案外、この後の大量のエロトークにヒントが隠されているかもしれんけど、聞く?」
「遠慮しておきます」
ダイヤの真意が重要な訳では無い。
何でも教えてくれるならばそれだけで十分なのだ。
リアルタイムで彼の動向を確認出来るのは、それだけで大きすぎるメリットなのだから。
「てなわけで、ウチらとしては彼と仲良くする方針なんで、そこんとこメンバーに周知よろしく」
「承知致しました。外に対してはどうしますか?」
「ウチが上手いこと誤魔化しとく」
先ほどまで書いていた紙を手にひらひらと靡かせる。
外に向けた手紙か何かなのだろう。
敢えてアナログな手段を使っているところ、情報漏洩にかなり気を使っている。
「まぁ連中はそれどころじゃ無いっぽいから気にせんでよさげやけどな」
「そうなのですか?」
「精霊使いがどうとか、スキルがどうとか、
彼女達の真の狙いはあくまでも『ダンジョンとは何か』について考察すること。
『精霊使い』や『スキルポーション』単体についてはどうでも良く、その先に『ダンジョンとは何か』に繋がる情報があるかどうかがポイントなのだ。
スキルポーションを大金を叩いて購入したのも、外部のクランから依頼されたのとダイヤと友好関係を結ぶためであり、それそのものが大事という訳では無かった。
「お疲れ様です」
「疲れてなんかないで。むしろワクワクさんが一杯でどうにかなっちゃいそうや」
「我々の世代で悲願を達成出来るかもしれないからですか?」
「せや。ウチの勘が言っとる。間違いなく彼はとんでもない情報を
だから外部のクランとの面倒なやりとりなど苦にすらならない。
長年の謎が解けるかもしれないと思えば、その他のことなど些事でしかない。
『明石っくレールガン』
考察系武闘派クランである彼女達と友誼を結べたことは、ダイヤにとっても彼女達にとっても大きな利益となるのであった。
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