32. 欲しい人手を挙げてー!
「できたー!」
「嘘ぉ。本当にポーション作っちゃった……」
河川敷に戻ってきたダイヤの手には透明なコップが握られていて、中には薄緑色の液体が入っている。
たった今、製薬スキルを使って製薬した下級ポーションだ。
「ツッコミたいところがありすぎて何から聞けば良いか分からないわ」
「じゃあ代わりに僕が突っ込んであげる!」
「ふぇ!?そ、そんな、皆が見てるのに……」
「キャラ変わりすぎじゃない?」
ちょろいんだったかーと思いながらダイヤは手にした下級ポーションをぐいっと飲み干した。
「うん、マズイ!」
味の調整などしていないのだから当然だ。
かなり渋いはずだが平然としている。
「おお、少し火傷が良くなった!」
下級だから効果は小さいが、治りかけの火傷を更に治す程度の効果はあるらしい。
このまま何本か飲めば完治しそうだ。
「やっくそ~う、やっくそ~う。採取っしよ~」
下級ポーションを探すため、素材となる薬草を探し始める。
河川敷に戻ってきたのは、先ほど来た時に薬草が生えていると気付いたことをダイヤが思い出したからだ。
「それよそれ。どうして薬草を普通に採取出来るの?採取スキルは無いのよね?」
「だって僕、ダンジョンで取れる全部の薬草の見た目と正しい採取方法を覚えてるもん」
「えぇ……」
本来、薬草を採取するのは採取スキルを持つ人がやるべきだ。
薬草の場所が見つけやすくなり、正しい採取方法が自然と思い浮かぶからだ。
しかし努力すれば自力で薬草を見つけ、正しく採取することも出来る。
とは言えダンジョンで採取出来る薬草にはかなりの種類があり、それらを全て覚えるだなんてことは普通はやらない。それを加工するためのスキルや技術が無ければ使い道がなく、売ろうにも二束三文の物が多いからだ。覚えるならせめて高価な薬草くらいだろうが、そういう素材に限って採取方法が難しく、採取スキル無しだと台無しにしてしまう可能性が高く、結局は採取スキル無しの人は薬草採取をしないのが一般的となっていた。
「どうして覚えたの?何かメリットでもあるの?」
では何故ダイヤが全ての薬草を覚えているのか。
「だって食料になるかもしれないから!」
「えぇ……」
薬草ということは口に出来る物に違いない。
それならお腹が減った時にダンジョンに入って採取して食糧として使えるかもしれない。
「そんなにお金が……」
「うん、貧乏だよ!昔は野草とか良く探してたなぁ」
「そ、そう」
今度たくさんご飯を奢ってあげようと心に誓う
「よし、こんなもんかな」
河川敷で薬草を採取したダイヤは、その場に座ってすり鉢とすりこぎを取り出した。
どちらも近所の家からパク……借りて来たものだ。
「それに、それもおかしいわよ。薬草を正しく加工するには専用の器具が必要でしょ?」
「正しくやれば器具は関係ないんだよ。下級ポーション用の薬草くらいならこれで十分だよ」
「そ、そうなの……」
薬草を食べるために、薬草の加工方法までしっかりと覚えていたのだ。
「よし、出来た。製薬開始!」
素材採取と素材加工は自力で可能であるが、ポーション化させるには製薬スキルが必須だ。
魔法のようなもので、スキルが無ければ絶対に実現することが出来ない。
すり潰した薬草を水に入れ、製薬スキルを発動すると、それらが淡く光る。
下級ポーションの場合は光が収まって全体が均等に緑色になると成功だ。
「ごくごく、まずい!」
完成するとすぐにそれを飲み、体の火傷がまた少し回復する。
「後三本くらい飲めば治るかな」
河川敷に生えている薬草の残りの量からすると、下級ポーションを六本くらいは作れそうだ。
今後のことも考えて全部採取してポーション化しておくことにした。
「手伝えることが無いと暇ね」
「もう少し待っててねー」
「話しかけても大丈夫?」
「うん。むしろウエルカーム」
ダイヤにとっては簡単な作業ばかりなので、無言で作業するよりも話しかけてくれた方がありがたかった。
「じゃあ聞くけど、さっきのアイテムは結局何だったの?」
それはダイヤがスキルを覚えるきっかけになったアイテムのこと。
製薬スキルを覚えたと判明した直後、ポーション作りに夢中になってしまったから詳しい話を聞けていなかったのだ。
「う~ん、スキルを覚えられるアイテムが欲しいって願ったんだよね。だから名付けるならスキルポーション、とかなのかなぁ」
「スキルポーション……そんなものが存在するだなんて」
今頃この配信を見ている人は大騒ぎだろうなと
「それがあればスキルを覚え放題なのかしら。じゃあもしかして私が魔法を覚えられる可能性も……」
「魔法を覚えたいの?」
「覚えられるに越したことは無いでしょ」
あらゆる武器を使いこなせるというだけで十分に強いのだが、魔法まで使えるようになればより強い職業になるだろう。
「でも無理だと思うなー」
だがダイヤはそれは無理ではないかと言う。
「どうして?」
「だってもしスキルを好き放題覚えられるなら、職業とか意味なくなっちゃうじゃん」
大量のスキルポーションを飲めば、全ての人が全てのスキルを使えるようになる。
そうなってしまえば職業による差など無くなり、職業の存在理由も無くなってしまう。
既存のシステムをぶち壊すようなアイテムが存在するとは思えなかったのだ。
「だから多分何かしらの制限があると思うんだ」
「制限?」
「うん、それが何かは分からないけど……これが終わったら調べてみよっか」
もしかしたらデメリット的なものがあるかもしれないが、今は少しでも戦うための手段が欲しい。
ポーションを作り終え、火傷を完全に回復させたダイヤは、レッサーデーモン狩りに戻りスキルポーションのドロップを狙った。
その結果。
「三つが限度かー」
製薬スキル。
格闘スキル。
不屈スキル。
ダイヤが覚えたのは以上の三つのスキルのみで、スキルポーション(仮)を四本以上飲んでもそれ以上スキルを覚えられなかった。
「でも一人につき三つまで覚えられるって訳でもないのよね」
「
「僕の場合、欲しいなって思ったスキルの中から僕が得意そうなスキルを覚えられたんだよね。製薬スキルは以前から野草とかを採取して怪我した時に簡単な傷薬を作ったことがあるからだし、格闘スキルは素手で戦うことが多いからだろうし、不屈スキルは自分で言うのも恥ずかしいけれど諦めが悪いからね。だとすると
「ということは、適性が無いスキルは覚えられないということなのかしら」
「多分だけどね。ただ『五月雨突き』みたいな技スキルは今後覚えるはずだし、それを飲んで覚えられなかったってことはこのポーションと技スキルは別枠なのかな」
「あくまでも武器スキルや魔法スキルのみを覚えられるってことね」
「全部想像だけどねー」
真実を知るには鑑定スキルでスキルポーション(仮)を確認するしかない。
今重要なのは、二人がこれ以上スキルを覚えられないということ。
この先の戦いに備えた手札は、もうスキルポーション(仮)では増やせない。
とはいえ、だからといってスキルポーション(仮)がこれ以上不要というわけでもない。
「想像通りなら、やっぱり破格の効果ね。高く売れるわよ。どうするの?」
「どうしよっかなぁ」
「貧乏とはおさらばじゃない」
これを持ち帰れば、多くの人がとてつもない値段で買おうとしてくれるだろう。
数百万か、数千万か。
少なくとも最初の一つは莫大な金額でやりとりされるに違いない。
「なんだけどさー」
「乗り気じゃないの?」
貧乏生活から抜け出せると分かっても、ダイヤは目の色が金にならなかった。
「お金は欲しいけど、ドロップアイテムでお金は稼げるしね」
「確かにそうだけど、いくらあっても困る物じゃないじゃない」
「困るよ。お金目当ての人が寄って来ちゃいそうだし。僕はまだ弱いもん」
「…………そうね」
レッサーデーモンを単独で撃破した姿を見ている
強いスキルの持ち主に襲われでもしたら、あるいは直接的ではないにしろお金を狙って脅してくる人が出てくるかもしれない。
自衛の力が乏しいのに大金を持っているだなんて、襲ってくれと言っているようなものだ。
しかもこれを持ち帰ることは配信により学校中に知られてしまい、その結果ダイヤが大金を持つことも知られてしまう。
その危険性を考えると、今は分不相応な大金を手にしたくはなかった。
「今は生活費があればそれで良いんだよね」
「じゃあ超格安で提供するの?」
「それはそれで勿体ないし、正しい価値で提供しない前例を作るのも問題な気がするし……」
今回ダイヤがタダ同然で譲ってしまったら、今度新発見があった時に、どうしてダイヤのように格安で譲ってくれないかと言われてしまうかもしれない。だからダイヤ自身が大金を不要だと思っていても、その物に相応しい見返りは貰うべきだろう。
「じゃあ持ち帰らないとか」
「それもダメじゃない?他で手に入らないかもしれないし、これを研究することで似たようなアイテムが見つかるようになって、救われる人が出てくるかもしれないんだしさ」
スキルが欲しくて欲しくてたまらない人が、もしかしたらこのアイテムで覚えられるかもしれない。
あるいは『精霊使い』が転職無しで強くなる唯一の方法の可能性だってある。
そういった未来を考えると、持ち帰らないという選択肢も取り辛い。
「じゃあいっそのこと高価な物を貰ったら?」
「それだって奪われそうで危なそうじゃん」
「そこはほら、持ち主登録をするのよ」
「それだ!」
高価な装備やアイテムは、その人物しか使えないように魔法で縛ることが良くある。
スキルポーション(仮)に相応しい価格の物品を、持ち主登録込みで貰えば、ダイヤの資産が狙われることは無いだろう。
「さっすが
「そ、そっかな。えへへ」
これでスキルポーション(仮)の扱いがようやく決まり、心残りなく探索することが出来るだろう。
「それじゃあ宣言しよう」
ダイヤは左右をキョロキョロと見渡し、少し考えてからやや上を向いて顔を止めた。
配信カメラを探しているのだが、どこから撮られているか分からないので適当にそれっぽい方向を向いたのだ。
「僕らはこれを五本持ち帰ります。そしてその五本セットを大容量のアイテムボックスと交換します。交換後は五本を分けるもよし、独占するもよし、そこは任せます。アイテムボックスの具体的な容量とデザインも任せます。持ち運びやすくて僕に似合うのをよろしくね。後はその場で持ち主登録もしたいので準備もしてもらえると助かります。誰が交換するかは僕らが戻るまでの間にそちらで決めてください。このくらいかな?」
「アイテムボックスの容量を具体的に決めなくて良いの?小さいのを渡されちゃうかもよ?」
「それならそれで良いよ。それに多分そうはならないかな。そんなことしたら信頼ダダ下がりだろうし世界中から非難されちゃいそうだもん」
「それもそうね」
世界初の超貴重なアイテムを、裏工作して安く入手しようとしたなどと知られたら、世界中から大ブーイングだろう。その人達は信頼を失くし、協力してくれる人を失い、これからの活動がままならなくなるに違いない。
そう考えると、ここは素直に貴重なアイテムを用意して交換すべきだろう。
「ということで僕からの報告は以上です。この先も頑張るから見ててね!」
「今頃外は凄いことになってそうね……」
「その凄い騒ぎに応えるためにも、ちゃんと生きて帰ろうね」
「ええ!」
いつまでも準備だけをしているわけにはいかないのだ。
ダンジョンの奥へと進む時が、すぐそこまで迫っていた。
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