33. 羨ましいでしょ!
「準備はこのくらいかな」
レッサーデーモン狩りに慣れて来た二人は、ひたすら狩り続けてレベル上げやアイテム収集に勤しんだ。
その結果、この先の攻略に向けて必要な装備とスキルレベルは確保したと言えるだろう。
名前:貴石 ダイヤ
職業:精霊使い
レベル:1
スキル:
スラッシュ レベル1
スロー レベル1
スラスト レベル1
トーチ レベル1
製薬 レベル1
格闘 レベル1
不屈 レベル1
装備:
レッサーデーモンの格闘着
レッサーデーモンの手甲
名前:
職業:ヴァルキュリア
レベル:15
スキル:
槍 レベル7
剣 レベル3
鞭 レベル2
薙刀 レベル2
五月雨突き レベル4
パワースラスト レベル3
レーザービーム レベル3
ランスパリィ レベル4
スラッシュ レベル6
スロー レベル4
スラスト レベル7
トーチ レベル3
以下略
装備:
レッサーデーモンランス
レッサーデーモンランス (予備)
レッサーデーモンのマント
レッサーデーモンの胸当て
レッサーデーモンの手袋
レッサーデーモンの肩当て
レッサーデーモンの膝当て
レッサーデーモンの肘当て
「そうね……ってまだレベル一じゃない!どうして上げないのよ!」
「だって別にスキルレベル要らないし……」
「なんでよ!スキルあれば楽に戦えるじゃない!」
「勝手に動くよりも自分で動かした方が楽じゃん」
「そ、そうなの?」
体を動かす補助をしてくれるのは確かに便利だが、スキル無しで戦ってきた経験があるからか、補助が入ると逆に違和感を覚えてしまう。スキルレベル一ですでにそう感じるため、敢えて上げていなかった。職業レベルが上昇したタイミングでスキルレベルも上昇するため、ダイヤの分の経験値を入手せずに全部アイテムに変換してしまえばスキルレベルは一のままだ。
「製薬はそもそもレベル高い薬の素材がこの辺りには生えて無いからレベル上げても作れないし、格闘は今言ったようにスキルがあると慣れるまではかえって邪魔になりそう。せめて技スキルだったら使うんだけどね。最後の不屈スキルも、ダメージ負った時に気合で痛みを軽減させて動けるってスキルだけどスキルレベル上げなくても変わらないしなぁ」
「…………ならいいわ」
スキルは便利なものと思い込んでいる
それに
「そろそろ行く?」
「そうね」
「その前にえっちなことしてく?」
「ふぇ!?ダ、ダイヤがしたいなら……」
「本当に別人みたいだなぁ」
ちょっと揶揄っただけで真っ赤になりもじもじする姿など、少し前までの
「(本気で押し倒したくなっちゃうから、あまり弄らないでおこう)」
好きな女の子にOKだなんて言われたら手を出さない方が失礼だ。
しかし今はそんな状況ではなく、色恋がどうこうはダンジョンをクリアしてからにすべきだろう。
「
「え?あ、う、うん」
街中のレッサーデーモンはレベル上げで沢山狩ったからか、ほとんど見かけなくなった。
最初の頃のように
「普通の学校だね」
「当たり前でしょ。どんなところを想像してたのよ」
「そりゃあ、お嬢様学校とか」
「お、お嬢様に、見える?」
「見える見える。そのお美しいお姿はお嬢様ですぞ」
「も、もう。ダイヤったら!」
「いだいいだい!」
ちょっとしたボケのつもりなのに、遠慮なく肩をバンバン叩かれてダメージを負ってしまうのであった。火傷が残ったままなら大惨事だっただろう。
「何処に行く?」
学校といえばイベントが起きそうな場所がてんこもりだ。
グラウンド、体育館、特別教室、特別教室の準備室、職員室、保健室、校長室、その他諸々。
その中で、ダンジョン進行に関係していそうな場所は何処だろうか。
この世界が
「…………教室かしら」
「教室?」
「ええ、私が日常的にヴァルキュリアとして意識させられたのは、やっぱりそこだから」
一日中絶えずクラスメイトの視線に晒され、ヴァルキュリアとして扱われ続けた場所。
離れていて聞こえないだろうと思ってヒソヒソと噂していた彼女に対する悪口も、自分の話に敏感になっていた彼女には伝わっていた。
良い話も悪い話も何度も聞かされたが、特にそれは進路を強く意識する三年生の時に多かった。
ゆえに二人は三年生の教室に向かおうとする。
その途中、昇降口から入った直後のこと。
「土足で校舎の中に入るだなんて、悪いことしてる気分になるよね」
「ふふ、そうね。今なら校長室に入って校長先生の椅子に座ることも出来るわよ」
「わぁお、極悪ー」
「でしょー」
なんて緊張感を紛らわせるために周囲を警戒しながら雑談をしていたのだが、階段の上から一人の女学生が降りて来たことで話を終わらせた。
「あなたは……」
その人物の名を
だが見たことはあるし、強く印象に残っている。
「チッ」
醜く顔を歪ませて舌打ちしたその少女は、学校で何度も
「男を侍らせて良いご身分なこと。他人が惚れた男を次々寝取る気分はどうなの?」
その少女は好きな男子がいた。
しかしその男子はヴァルキュリアである
それゆえ陰で徹底的に
その姿を
露骨なまでの口撃は
だが。
「最高よ。羨ましいでしょう。でも寝取るだなんて人聞きが悪いこと言わないで頂戴。私はこの人に夢中なの。他の有象無象になど興味はないわ」
今の
それどころか、男に興味があることを認め、それを誇らしく見せつけた。
その上で、お前が好きな相手になど興味が無いとバッサリと切り捨てた。
「はん!正体を現したな!やっぱりてめぇは男好きの低俗なヴァルキュリアだ!」
「失礼ね。私が好きなのは男じゃなくてダイヤよ。低俗なのは男だ男だなんてことしか考えられない貴方の方よ」
これまで最も言われたくなかった言葉を投げかけられても、しっかりと跳ね返すことが出来る。
それは高潔だとか低俗だとかヴァルキュリアだからとか、そんな
「それに私はヴァルキュリアなんて名前じゃないわ。
低俗になったわけでも、低俗になろうとしているわけでもない。
そのことを誇る気持ちはあっても蔑む必要など全く無い。
「…………チッ」
ここまではっきりと否定されてしまうと、名もなき少女は何も言えなくなってしまったようだ。
だからだろうか、今までの魔物とは違い、無言のまま姿形を変えようとしている。
「あれは!?」
「レッサーデーモンじゃない!?」
これまで街の住人は確実にレッサーデーモンに変化して襲って来た。
しかし今回は見た目がレッサーデーモンに近いものの、長い爪が無く頭上に羊のような二本の角が生え、何より全身が血のような赤黒い色をしている。
「ダイヤ。あれは何?」
「知らない。新種だと思う」
「新種?」
「うん、Dランク以下のダンジョンに出現する悪魔族の魔物はレッサーデーモンだけ。それは間違いないんだ。だから見るからに悪魔っぽいアレは新種だと思う」
このダンジョンに何故レッサーデーモンしか出現しないのかについて、レベル上げの最中に相談したことがある。
『多分、私がみんなのことを心のどこかで恐れていて悪魔のように感じていたからじゃないかな』
『だからその記憶を読み取って悪魔族の魔物が出現したってことか。確かDランク以下の悪魔族の魔物ってレッサーデーモンしかいないから、他の魔物の対処は考えなくて良さそうだね』
ここがDランク、正確にはD+ランクのダンジョンであることはスマDが教えてくれている。
魔物の情報をほぼ全て覚えているダイヤの知識には、Dランクの悪魔族の魔物はレッサーデーモンしか存在しなかった。
しかしここに来て、レッサーデーモン以外の未知の悪魔族っぽい魔物が出現したでは無いか。
「あるいはイベントダンジョン特有の魔物なのかも」
イベントダンジョンにしか出現しない特別な魔物。
そういう存在もいるとは聞いていたが、目の前の相手がそうだとすると既存の魔物に関する知識は役に立たない。
「来るよ!」
「任せて!」
『ぐるぅうぅう!』
レッサーデーモン(赤黒)は階段を力強く蹴り、こちらに向かって突撃してきた。
大きな拳を強く握り、殴りつけようとしてくる。
その前に立ったのは
「(練習通りにやる!)」
大きなランスを使う
ゆえに通常のレッサーデーモンの中でも接近戦を仕掛けてくる相手が
「ランスパリィ!」
レッサーデーモンのパンチをランスの先端の腹の部分で逸らして躱す。
相手は態勢を崩しながらも後ろ回し蹴りを放ってくるが、それを今度はランスの柄の部分で受け止め、回し蹴りがやや下方向から上に伸びてくるタイプのものだったので、上方向へとパリィした。
「喰らえ!」
完全に体勢が崩れて倒れてしまったレッサーデーモン(赤黒) の頭部に向けて、ダイヤが全力で飛び乗った。それにやや遅れて
『ぐるぅうぅう!』
頭をかなり痛がってはいるが致命傷を与えるには至らず、起き上がったレッサーデーモン(赤黒)は怒り狂って襲い掛かってくる。
「ランスパリィ!」
どうやらレッサーデーモン(赤黒)は格闘がメインの魔物らしく、物凄いスピードでパンチとキックのコンビネーションを仕掛けてくる。その全てを
だが逆に言えば、練習をしたからこそ耐えられていると言っても良い。
そして耐えていると言うことは、ダイヤに行動の隙を与えてしまうということ。
「喰らえ!」
ダイヤがレッサーデーモン(赤黒)の背後から何かを投げ、レッサーデーモン(赤黒)はそれを避けようと横に大きく回避する。
その瞬間、
「五月雨突き!」
慌てたレッサーデーモン(赤黒)は避けようとするが間に合わず、何発かを胴体に喰らってしまう。
流石にダメージが大きかったのか、大きくバックステップして階段の上の方まで逃げてしまった。
「やるぅ」
「ダイヤこそ、ナイス機転よ!」
ダイヤが投げたのは茶封粘土。
もしもナイフのような鋭い武器を投げてしまったら、レッサーデーモン(赤黒)が避けた流れで
レッサーデーモン(赤黒)はその嘘に騙されて避け、致命的な隙を作ってしまった。
『ぐるぅうぅうおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
体に無数の突き傷を負ったレッサーデーモン(赤黒)だが、まだ倒れてはくれない。
階段の上から複数のダークフレイムを生み出し、二人に飛ばしてくる。
「うわわっ!」
「なんて数なの!?」
十個くらいのバレーボールが絶えず飛んできて、一つでも当たったらアウトと思えば攻撃の凶悪性が分かるだろうか。
通常のレッサーデーモンは一度に一発しかダークフレイムを打ってこないのに、一気に増えすぎだ。しかしそれぞれの魔法の動きはそれほど早くは無いため、良く見れば避けられる。
とはいえずっとこの状況が続けば、いつかは疲れて当たってしまう。
「
「うん!気を付けて!」
ダイヤはレッサーデーモン(赤黒)の方へ向かい、今からそちらに向かうぞというフリをした。
すると多くのダークフレイムがダイヤの方へ集中する。
「うわ、うわわっ!あぶっ!あぶっ!」
レッサーデーモン(赤黒)と距離が近くなったことで避けにくくなった上で、魔法が集中する。
かなり危険な状況ではあるが、時間を僅かに稼げればそれで良かった。
「レーザービーム!」
ランスの投擲技、レーザービーム。
渾身の一擲が文字通りレーザーのようにレッサーデーモン(赤黒)に突き刺さった。
『ぐるぅうぅうおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
体に大穴を開けたレッサーデーモン(赤黒)は断末魔の叫びと共に消滅する。
「いえーい!」
「やったー!」
初見の魔物相手に、二人は見事に勝利を飾り、ハイタッチで祝福したのであった。
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