13. 精霊科の仲間達
「なぁ貴石、ちょっと良いか?」
「え? 僕?」
ある日の朝のホームルーム。
ダイヤが教室で今日の予定について考えていたら、クラスメイトから話しかけられた。
入学してから一週間。
クラスメイトと話をするのはこれが初めてだったりする。
「ええと、確か君は
「おうよ。
「よろしくね」
これまでダイヤはずっと怖がられて距離を置かれていたが、今の朋からはそんな雰囲気が感じられず、少しワンパクそうな笑顔を浮かべてフレンドリーに話しかけてきた。
「貴石って今日は何する予定なんだ?」
「数学と国語の授業受けようかなって」
「ゲ、マジかよ。勉強すんのかー」
「だってせっかくの高校なんだから、少しは勉強したいじゃん」
「その気持ちは分からん」
「あはは、勉強が嫌いなんだね」
「おう!」
ダンジョン・ハイスクールでは、自発的に学習するのが基本だ。
必要であれば教師に教えを請い、不要であれば自力で学習する。
そしてその『学習』の中にはダンジョン関係だけでは無く、一般的な高校で学ぶ『数学』『英語』『国語』などの科目も含まれている。後者については『高校生らしさ』を体験するために用意されているだけで受講するかどうかは任意なのだが、割と多くの生徒が受講しているらしい。
ダイヤもまた、勉強は青春の一ページだと思っているため、貴重な時間を割いてでもなるべく受講することにしていた。
「そんじゃ今日はダンジョンに行かねーのか?」
「ううん、午後から入る予定だよ」
素材を集めて廃屋を直さなければならないのだ。
ガンガン素材を集めてどんどん直し、その過程でダンジョンに慣れようという方針であった。
「じゃあさ、俺達と一緒に行かねーか?」
「え?」
俺『達』ということは複数人。
ダイヤが朋の肩越しに後ろを見ると、二人の男子が目線で合図してくれた。
「(確か
どちらも印象が薄く記憶に残らない顔立ちだったが、どうにか名前だけ思い出せた。
「(でもどうしていきなり僕を誘ってくれたのかな。ちょっと前まであんなに怖がってたのに)」
教師を容赦なくボコボコにする怖い人、という評価は今でも変わっていないはずだ。
「俺達も強くなったから足手まといにはならないぜ」
「(なるほど、レベルが上がって強くなったから自信を持てたんだ)」
そして魔物を倒せるという実感を得られ、少しはダイヤに強さが追いついたと思えたのだろう。
「嬉しいけど、どうして誘ってくれるの?」
だが、自信がついたからといって、それが誘う理由にはならない。
不思議に思ったダイヤは素直にその理由を聞いてみることにした。
「え? そ、それはだな、貴石も同じクラスの仲間なんだから誘うのは当然だろ!」
「(ははーん。そういうことね)」
ハブられているかのような状況のダイヤに手を差し伸べたい。
暗に朋はそう言っているのだろう。
だが本心が全く異なることにダイヤは気付いていた。
何故ならダイヤの質問の直後、朋がチラっとある女子に目をやったからだ。
「(あの子が気になるんだね)」
ダイヤに手を差し伸べる俺って優しい奴だろアピールをしたいのだろう。
「ありがとう! それじゃあよろしくね!」
「お、おう!」
朋の真意に気付いても、ダイヤは知らないフリをして満面の笑みで喜んであげたのだった。
クラスメイトの恋路を応援するなど、実に青春らしいでは無いか。
「(でも大丈夫かな。あの子、凄い嫌そうな顔してるけど)」
朋の良い人アピールがバレバレで不愉快だったのか、そもそも朋のことが最初からあまり好きではなかったのか。
「(これまでは普通……だったよね)」
頭をフル回転させて教室内の様子を思い返してみると、あの女子と朋はこれまで普通に話をしていたはず。あのような嫌悪感に満ちた表情をしていることは無かったので、最初から好きでなかった線は薄いだろう。
「(そういえばあの顔、僕に対するいつもの表情と同じじゃん)」
それが何を意味するのか。
優しいダイヤはその悲しい事実を、後で朋に教えてあげなければと思ったのであった。
ーーーーーーーー
「俺がハーレム目指してるって思われて嫌われてるうううう!?!?」
四人でダンジョンに向かう途中、朋が悲痛な叫び声をあげてしまい、周囲から注目を浴びていた。
「僕のことを汚らわしい目で見るのと同じような感じで
「なん……だと……」
漫画のように綺麗に項垂れ、orz を作る朋の様子を思わず写真に残したくてウズウズするダイヤであった。
「と、というか別に俺はあいつのことなんか全然」
「ええ、この流れで誤魔化そうとするの?」
彼女の評価が激減したと聞かされて超絶凹んでいる様子を見せてしまったのだから、朋が彼女のことを気にしていることなどバレバレだろう。
「見江張君って分かりやすいね」
「ぐっ……」
無口なモブ、ではなく茂武達もうんうんと頷いている。
どうやら彼らも朋の気持ちに気付いていたらしい。
朋は少しの間考え、これ以上誤魔化すのは無理だと判断したようだ。
そして照れて顔を真っ赤にしながら訪ねたのである。
「どうすれば良いと思う?」
嫌われる原因となってしまった相手に聞くのはどうかと思うが、まだ入学して一週間で知り合いが少なく、他に聞く相手が居なかったのかもしれない。
「チャンスだと思おうよ!」
「え?」
ダイヤはこれまた満面の笑みでそう答えたのだった。
相手をこれ以上凹ませずに、希望を持たせるために。
下手したら気落ちしている相手を馬鹿にしているかのように受け取られる可能性があるけれど、ダイヤの笑みはそういう嫌らしさを全く感じない清々しいもので、誤解を招くことは無かった。
「今ってあの子にとっての見江春君の印象は最悪だと思うんだ」
「う゛」
「だからこそチャンスなんだよ。ここで見江春君が実は一途で頼りがいのある男だってアピール出来たら、そのギャップで絶対好きになってくれるって!」
「!!」
ギャップ最強理論である。
ただし、ハーレムハーレム言っているダイヤは恋愛経験が無いので、机上の空論の可能性がある。
それでも朋にとっては納得が出来たようで、見る見るうちに顔に精気が宿って行く。
「貴石! いや、師匠!俺は何をやるべきでしょうか!」
「ちょっ、見江春君、師匠は恥ずかしいから止めてよ」
「いえ、貴方は俺の恋愛師匠です!是非恋のイロハをご指導ください!それに俺のことは朋って呼び捨てにしてください」
「だから止めてって。なら僕のこともダイヤって呼んでよ」
「しかし……」
「僕からも相談させてもらうからさ。男同士で恋愛相談するだなんて、師匠と弟子じゃなくて親友でしょ?」
「!!」
ダイヤは朋の少し抜けた感じと大げさな感じが嫌いでは無かった。
それに友達としてお馬鹿なことを話しながら心を許して気楽に接することが出来そうな相手にも感じられたのだ。
「親友。そうだな、ダイヤ。俺達は今から親友だ!」
「よろしくね。朋」
「おうよ!」
コツンと握り拳をあてる二人の姿を、茂武達が羨ましそうに見ていたのだった。
「いやいや、茂武君と易素君も友達だからね」
「そうだぞ、お前ら。俺達は固い絆で結ばれたフレンズだ!」
「!!」
「!!」
茂武達の方は『親友』では無く『友達』なのだが、そのことを気にする人は居なかった。
「んでさ。さっきの話に戻るけど、俺どうしたら良いんだろ」
「あの子、ええと
「
「え、気持ち悪い」
「何でだよ!」
「この短期間で聞き出したってことでしょ。下心丸出しじゃん」
「ちげーよ! 女子同士で会話しているのを聞いてただけだよ!」
「それはそれでどうかと思うよ」
「まぁでも朋が気に入るのは分かるよ。可愛いもんね」
「おうよ!」
「それに胸が大きい」
「…………」
「とても大きい」
「…………」
「おっぱい星人だったかー」
「ち、ちげーし! 俺が好きなのは笑顔だし!」
もしも朋がチラチラと
「つーか、ダイヤまさか星野さんをハーレムに入れようとか思ってねーだろうな!」
「無いよ」
「ホントか!?」
「うん。確かに可愛いけど、守備範囲外かな」
「あのレベルでダメとか、どんだけ高望みしてんだよ。ヤバすぎんだろ……」
「(そういう訳じゃないんだけどね)」
ダイヤにとって
ダイヤにとっては見た目よりも相性の方が大事なのだった。
もちろん見た目もかなり大事なのだが。
「それで朋が星野さんの胸をゲットする方法だけど」
「その言い方は止めて!?」
「間違ってないでしょ」
「それ本人の耳に入ったらアウトだろ!」
「良く分かったね」
「俺のことバカだと思ってるだろ!」
「ソンナコトナイヨー」
「このやろ!」
「うわ、頬っぺた
「(なんかモチモチしてて触りたくなるんだよな……)」
性別が違えばイチャついているとも思える光景だが、男同士だとふざけ合っているようにしか見えなかった。極一部、腐臭漂う方々を除いて。
「なんてバカなことやってたらダンジョンに着いちまいそうじゃねーか。んで、結局ダイヤは何を言おうとしてたんだ?」
ダンジョン探索の時間が近づいてきたからか、朋は気持ちを切り替えつつある。
どうやら浮わついた気持ちのままダンジョンに挑むほど愚かでは無いようだ。
「単純なことだよ。強くなるしかない」
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