12. 素材を集めよう!

「ここが【静謐なる水辺】か。人気無いって聞いてたけど、本当に誰も人がいないや」


 初心者ダンジョンの次に簡単と言われているダンジョン、静謐なる水辺。

 初心者ダンジョンに似ている草原の中に小さな湖が存在している見た目なのだが、探索できるのは湖の周辺だけ。出現する魔物も初心者ダンジョンに出現する物と同一で、湖があるからといってソレに関係する魔物が出てくることも無い。しかもボスすら出現しないとあって、訪れる意味が無いダンジョンと思われている。


 そんなダンジョンに何故ダイヤがやってきたかと言うと。


「よ~し、スライムゼリー集めるぞ!」


 廃屋クエストの素材収集のためだった。


「うわぁ。エセスライムが沢山いる! これならすぐに集まりそう!」


 静謐なる水辺では初心者ダンジョンで出現する魔物が複数体同時に出現する。

 弱い魔物を相手に複数体と戦う練習をするためのダンジョンなのだろうが、その練習なら他のダンジョンでも可能であり、やはりここが選ばれることは無いのであった。


 スライムゼリーが大量に欲しいダイヤを除いて。


「おりゃおりゃおりゃおりゃー!」


 数が多く手で潰すのが面倒で、踏みつぶしながらそこら中のエセスライムを蹂躙する。

 すると辺りには大量のスライムゼリーがドロップした。


「よし、ここでも何故かスライムゼリーが三つドロップしたぞ。らっきー」


 ドロップが何故か多いことについてはおばあちゃん先生に報告済み。

 だが今のところは学校側から特にアクションは無かった。


 おばあちゃん先生曰く、学校スタッフが初心者ダンジョンを確認したけれど異常が見られなかったから『精霊使い』かダイヤ特有の現象と判断し、今は新入生の対応で忙しいからダンジョンそのものに問題が無いのならと後回しにされているのだろう、とのことだった。


「でも多くドロップするのってスライムゼリーだけなんだよね。どうしてなんだろう」


 初心者ダンジョンで他の魔物を倒したときのドロップアイテムは増加しなかったのだ。

 つまりダイヤが『ドロップ率向上』のようなスキルを実は持っていた、なんてことはあり得ない。

 あるとしたら『スライムゼリードロップ率向上』などというピンポイントなスキルだが、そんな正真正銘のゴミスキルなど持っていても嬉しくない。


「やっぱり原因は僕なのかな」


 ダイヤには一つだけ、スキル以外に思い当たることがあった。

 それを確認するためには、別のダンジョンに赴かなければならない。


「さっさと終わらせなくっちゃ。おりゃおりゃおりゃおりゃー!」


 ぐちゃぐちゃと靴を粘液塗れにしながら、ダイヤはエセスライムをひたすら踏み潰すのであった。


 ちなみに一万個もの大量のスライムゼリーをどうやってダイヤが持ち運ぼうとしているのか。

 それは学校から借りたダンジョン用テントが入っていた小箱。

 テントは誰も来ない廃屋に置いたままなので紛失することは無いだろうと出しっぱなしにして、暇をしているその小箱を活用させて貰っているのだった。


ーーーーーーーー


「よし、最後はクチワの木材だ!」


 『静謐なる水辺』での素材集めを終えたダイヤは、別のダンジョンへと足を運んだ。


「『一つ目魔樹が住まう林』の『ウッドアイ』っていう魔物を倒すとドロップする素材だね。頑張って切り倒す・・・・ぞ!」


 そう林の中で意気込むダイヤの手には片刃の斧が握られていた。

 武器的なものでは無く、普通に木を伐採する時に使う物である。


「ふん! ふん!」


 それを水平に素振りして練習する様子はまぁまぁ様になっている。

 このダンジョンに入る前にネットを見て斧の振り方を練習してきたのだ。


「さて、肝心の魔物はどこかな~」


 ウォーミングアップを終えて目的の魔物を探しに林の奥へと進む。

 普段自分が住んでいる森と違って木々の間隔が広く、足元がかなりしっかりして道らしくなっているためとても動きやすい。


「いた!」


 幹に横一文字の太い線が刻まれている木を発見した。

 それこそが『ウッドアイ』の特徴であると、当然ダイヤは調べてある。


「行くぞ!」


 そしていつもと同じように全く躊躇なく突撃すると、ウッドアイの横一文字の線が上下に開き、眼が出現する。


「へいへいへーい!」


 もちろん調査済みのダイヤはその程度で驚くことは無く、ウッドアイの真横で止まると妙な掛け声と共にその目に向かって斧を水平に薙いだ。


「良い手ごたえ!」


 激突の瞬間、眼は再び閉じられてしまったが、斧は幹に深く刺さった。

 ダイヤはその斧を引き抜くと、一目散にその場を離れた。


「うわわわわわ!」


 頭上から細くて長い小枝が、鞭のようにしなって襲い掛かってくる。

 だがその攻撃がダイヤに届くころには既に攻撃範囲外に逃げており、激しい音を立てて地面を打ち付けるだけだった。


「流石に迫力があるね。でもやっぱりここまでは届かないんだ」


 ウッドアイは近づく者に攻撃を仕掛けてくるが、その範囲は限られている。

 また、攻撃の開始までにかなりの間がある。


 接近して攻撃し、攻撃される前に退避するヒットアンドアウェイ。

 あるいは遠距離からの攻撃のどちらかが推奨されていた。


 とはいえ、相手は『木』だ。

 生半可な攻撃ではダメージを与えられない。


「斧を持ってきて本当に良かった。殴ったら僕の手が壊れちゃうもんね」


 ダイヤお得意の打撃の効果は薄く、かといって剣を持っていたとしても簡単には斬れない。

 初心者が倒すなら炎の魔法を使える人が必要だ。


 というのはまやかしで、初心者ではあまり選ばれない斧が弱点だったりする。

 それに魔法を使わずに火を起こして攻撃するといった方法も考えられる。


 実は相手の特性に応じて適切な攻撃手段を選ぶ練習用のダンジョンの一つとされている。


「よし、もう一発やるぞ!」


 すばやく近づき、冷静に体勢を整え、構え、横に薙ぐ。

 慌てて斧を振っても刺さる角度がずれて威力が弱くなり、刺さったまま抜けなくなるなんてことにもなりかねない。

 焦らなくても時間は十分にある。それが分かっていても恐れてミスをしてしまうのが人であるが、ダイヤはそんなことは無かった。


「へいへいへーい!」


 四度目の攻撃で、ウッドアイは音を立てて倒れ、消滅したのだった。

 そして後に残されたのは一メートル程度の角材、クチワの木材と呼ばれるアイテムだった。

 ウッドアイはクチワと呼ばれる木に寄生する魔物であるため、このアイテムがドロップするのだろう。


「わ、二本もドロップした!」


 本来、ウッドアイがドロップするアイテムはクチワの木材が一本だけ。

 こちらも何故か数が増えている。


「やっぱりそうか。僕が欲しいと思っているとドロップアイテムが増えるんだ」


 スライムゼリーも、クチワの木材も廃屋クエストのために必要なアイテムで沢山欲しいと思っていた。その願いの通りにドロップ数が増えたことを考えると、ダイヤの願いが反映されたと考えてもおかしくはない。


「もしかしたら経験値と引き換えになってるのかも。レベルが全然あがらないし」


 初心者ダンジョンのボス撃破報酬は幼女精霊になってしまったから別として、先ほどエセスライムを大量に撃破し、ここでもウッドアイを撃破した。とっくにレベル2に上昇してもおかしくない程の戦闘経験を積んでいるのだが、まだダイヤのレベルは1のままだ。それは経験値に相当する何かがアイテムとして出現したからだろうというのがダイヤの推測だった。


「別にレベルはしばらく要らないし、問題ないか」


 精霊使いから転職する予定が無く、精霊使いが使える共通基本スキルにも特に興味が無いダイヤとしては、レベルを上げるよりもアイテムが増えることの方が嬉しいのであった。


「もう少しで一つ目のクエストが終わるぞ!」


 必要なクチワの木材は10本。

 後四体のウッドアイを倒せば目標完成だ。


ーーーーーーーー


「くっえすっとくっえすっとたっのしっいなっ!」


 ワクワクが抑えきれないと言った表情で廃屋に戻りトイレに向かうダイヤ。

 その手にはスライムゼリーとクチワの木材が入った小箱がある。


 水 (バケツ):100杯

 スライムゼリー:10000個

 クチワの木材:10本

 陶器 (なんでも):1キログラム


 トイレクエストの中で水 (バケツ)は早々に完了し、陶器 (なんでも)は不燃物回収場でゲット済。

 後は手元の素材を納品すればクエストが完成だ。


「よし、このワクワクドキドキを君とも共有しよう」


 トイレに辿り着き、納品する直前に、ダイヤは精霊幼女を具現化させた。

 相変わらず全裸で出現するのでさっと上着を着せてやり、強くお願いする。


「えっちなことは無し! 服も脱いじゃダメだよ!」


 廃屋に戻り、精霊幼女について調べようと具現化すると、精霊幼女は自分の身体をダイヤに触れさせようとしたり、ダイヤの局部に触れようとしたりしてくるのだ。しかも服を着せてもすぐに脱いでしまう。

 人気ひとけのない廃屋で全裸の精霊幼女から性的なプレイを要望されるというインモラルすぎる状況は、いくらハーレム志望のダイヤとはいえ倫理的に問題があると感じているようだ。どうやら本当にペドではないらしい。

 ということで普段は具現化させず、したとしてもえっちなこと禁止と強くお願いをしていた。


 お願いによって精霊幼女が大人しくしているのを見たダイヤは、小箱から素材を取り出してトイレ内の精霊に手渡した。そしてそれらすべてがトイレに吸収されると、トイレ全体が強烈に光り出した。


「お願いします! 直ってください!」


 精霊クエストを達成すると家が直るというのはあくまでもダイヤの想像であり、実際に何が起きるかはまだ分かっていない。単なる無駄足だったという可能性も無くは無い。


 不安と期待でワクワクドキドキしながら、ダイヤは胸の前で両手を組み、眼をつぶりながら祈った。

 するとその強い想いに反応したのか、隣の精霊幼女も全く同じことをした。

 ダイヤの真似をする幼女という可愛らしい光景なのだが、残念ながら目を閉じているダイヤは気付けなかった。


 そうして少しだけ待ち、恐る恐る瞼を開けると、眩い光は消えて。


「やったー!!!!」


 トイレは完全に修復されたのだった。


「って和式なの!? で、でも良いや、やったー!」


 元々が汲み取り式のトイレだったことを考えると、ちゃんと便器があるだけでもありがたい。

 両手を万歳して喜ぶと、幼女もそれを真似して手を挙げる。

 和式便器をグルグル回るようにダイヤが小躍りすると、幼女もそれに続いて躍り出す。


 平和な光景がそこにはあった。

 いや、便器の周囲を踊り回るなど、奇妙な光景か。


「あれ、精霊がまだ居る」


 トイレ復旧という役目を終えた精霊達が、まだトイレの中にたむろっていた。

 しかもまだクエスト看板が設置されているでは無いか。


「こ、これは!」




 川清水 (バケツ):100杯

 良質スライムゼリー:10000個

 レックスベールの木材:20本

 佳軽石:10キログラム

 茶封粘土:10キログラム

 小魔石 (万能):10個

 サンドロールペーパー:100メートル

  



 そこには新しいクエストが書かれていたのだ。


「もしかしてトイレが改良されるの!? 洋式になってくれるの!?」


 廃屋クエストは直したらそれで終わりというわけではなかった。

 更にその先があるのだとしたら、クエストをクリアしていけばこの廃屋はとてつもなく快適な家になるのではないだろうか。


 それこそハーレムの女性達が満足し、安心して子育てが出来るほどに。


「よおおおし、頑張るぞー!」


 精霊幼女と一緒に拳を突き上げ、やる気に満ち溢れたダイヤは、改めて新たなクエストの内容を確認する。


「今回は全部がダンジョン産アイテムなのかな。流石に収集の難易度が上がってるっぽい。川清水は近くの渓流の水でOKにしてくれないなぁ。今回は陶器じゃなくて、土や石から必要なんだね。それに増えてるのもある。小魔石が必要なんだ。それに……え?」


 ダイヤはとても重大なことに今更ながら気付いてしまった。

 トイレが直ったことに浮かれていて、肝心なことを見落としていたことに。




「紙が無ああああああああい!」




 修復されたトイレには紙が無く、それだけは自分で補充しなければならないのであった。


 気付く前に試しに使わなくて良かったね!

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