第一章 『ちょろいわー(仮題)』

6. 初のハーレム入り!?

「以上がダンジョン関連の注意事項よ」


 『決闘』の結果、精霊科の新しい担任となったのは、とても親しみやすい雰囲気のおばあちゃん先生だった。引退した教師を無理やり引っ張り出してきた感じではあるが、どうやら精霊科に対する単なる嫌がらせでは無く、単純に教員不足らしい。


 おばあちゃん先生だとそれはそれで不都合があるが、先のやる気皆無のダメ教師とは違い、丁寧に仕事をこなしてくれるからダイヤとしては十分であった。


「あら、どうやら届いたようね」


 オリエンテーションの最中、教室に事務員らしき大人の男性がやってきて、段ボールを運び入れた。

 その中には、無機質な赤くて細いリストバンドが生徒の人数分入っており、おばあちゃん先生がそれを全員に優しく手渡して配った。


「(これがあのスマDなんだ)」


 スマート・ブレスレット・フォー・ダンジョン。

 略してスマD。


 ダンジョンに関する様々な情報を閲覧できる個人用の端末で、学年ごとに色が異なる。

 二年生の躑躅つつじは緑、一年生のダイヤは赤色だ。


「(試しに起動してみよう)」


 脳内でスマDの起動をイメージするだけで、スマDの上部に小さな空中ディスプレイが浮かび上がった。


「(僕のステータスを見てみよう)」


 そう考えると、ディスプレイにダイヤの情報が表示された。


 名前:貴石 ダイヤ

 職業:精霊使い

 レベル:1

 スキル:

  スラッシュ レベル1

  スロー   レベル1

  スラスト  レベル1

  応急処置ファーストエイド  レベル1

  トーチ   レベル1


 どうやらステータスと言っても、力とか速さのような項目は無いらしい。


「その腕輪型端末は、自由に改造して構いませんからね」

「改造ですか?」

「ええ。と言っても改造を依頼するとかなりのお金がかかるし、自分でやるにしてもクラフト系スキルや素材が必要だからすぐには無理ですけどね。でもダンジョン探索がとても便利になるから、どのような改造が可能なのかを調べていずれはやりましょうね」

「(オートマッピングや帰還ワープの機能が欲しいな。かなり高そうだけどね)」


 ダンジョン・ハイスクール・アイランドについて事前に多くの情報を調べてあったダイヤは、スマDについても調査済みだ。そしてその中でいくつか欲しい改造機能について目星をつけていたが、そのいずれもが貴重な機能であり、一朝一夕では手に入らないだろう。


「(これの改造もまた目標の一つかな)」


 ダイヤには躑躅つつじに認めてもらうための大きな目標があるが、ゴールだけを見据えるのではなく、そのゴールに至るための小さな目標を立てて少しずつ前に進もうと考えている。尤も、いつも想定外のことが起こってしまい、予定が狂ってしまうことが多いのだが、果たして今回はどうなるのだろうか。


「私からはこれでおしまい。明日は早速ダンジョン実習になるから、心の準備をしておいてね」


 オリエンテーションを終えたおばあちゃん先生は、ゆっくりとした足取りで教室から出て行った。


「(『決闘』をしておいて本当に良かった。あの人のままだったら、いつダンジョンに入れるか分からなかったもんね)」


 強くなるため、そして廃屋クエストのアイテムを収集するためにも、一刻も早くダンジョンに入りたかった。しかしここには、指導員の元で説明を受けながらダンジョン攻略をする、という最初の手順を踏まなければダンジョンに入れてもらえないというルールがあった。逆に言うと、その最初のステップさえクリアしてしまえば、自由にダンジョンに挑戦して良いことになっている。


「(さて、明日のダンジョン指導どうしようかな。やっぱりパーティーを組むべきなのかな)」


 最も簡単なダンジョンを指導ありで攻略するとはいえ、攻略は攻略だ。

 基本的には自分の力で攻略を進めることになるだろう。

 ダンジョン攻略初心者はパーティーで行動することを推奨されているが、ソロでも構わないとは言われている。


 ダイヤとしてはソロでも実力的に構わないと考えているが、同じ『精霊使い』の友人を作るためにパーティーを組むのもアリだと思っていた。


 しかし……


「(わぁお。露骨に目を逸らされちゃった)」


 他の生徒に目線をやると、恐怖に怯えて逃げるように顔を背けられてしまう。

 『決闘』を終えて教室に戻って来てから、ずっとこんな感じだった。


「(ちょっとばかりやりすぎちゃったかな)」


 楽伍教師を殴り殺す勢いで滅多打ちにした様子が、彼らにとってあまりにも狂気的であったのだろう。自分達と同じ最弱の『精霊使い』が、ランクが上の、しかも大人の教師を圧倒した。しかも虫も殺せなさそうな見た目とのギャップが、怖さを際立たせていた。


「(仕方ない、今のところはまだ刺激しないでおくか)」


 怖がられても無理やり関わって自分を知ってもらう、という方法も考えたのだが、ひとまずは彼らが冷静になるのを待つことにし、今日は一人で帰宅しようと教室を出ようとした。


 すると、扉の近くまで移動したタイミングで外から一人の生徒が入って来た。




「主様」

「え?」




 なんとも奇妙な女生徒だった。

 ダイヤのことを熱烈な視線で見つめながら『主様』といきなり言い放ったこともそうなのだが、何よりも見た目がおかしい。学校の制服ではなく巫女服を着ているのだ。しかも半袖にふともも丈と、両手両足が露出しているパチモンタイプ。この学校では制服着用の義務は無いが、学生生活を謳歌したいという生徒が多いため、着用率は非常に高い。そんな中で色モノ巫女服を着ていれば目立つことこの上ない。


 しかもダイヤの目を惹いたのはそれだけではなかった。


「(うわ、えっろ)」


 顔や両手両足など、露出している肌色の部分の肉感がムチムチっとしていて色気たっぷりだったのだ。女性の観点では太っていると思うかもしれないが、男性の視点では程よい肉つきでそそられる・・・・・感じである。巫女服の上からでもはっきりと主張している胸部もまた、男性の心を鷲掴みだった。

 その官能的な雰囲気に、ダイヤを含めた男性陣がごくりと生唾を飲み込み、女性陣はそんな男性陣を見て苛立っていた。精霊科、男女間の戦争勃発の危機である。


 その謎の巫女服女性は精霊科の様子など全く目に入らない様子で、ダイヤにしか興味が無いようだ。そしてダイヤが自分の体に興味を抱いたことを察知すると、とんでもないことを言い出した。


「召し上がれ」

「何言ってるの!?」


 いくらハーレムを目指しているダイヤとはいえ、ここまで露骨なアプローチに対しては突っ込むしかなかったようだ。


「そもそも君は一体誰なの? それにどうして僕のことを『主様』だなんて呼ぶの?」

「うふふふ、それはこの見た目で分からないかしら」

「見た目……それってつまり」

「そう、私の職業は漁師」

「全く関係ないじゃないか!」


 突然のボケに全力で突っ込んでしまった。


「冗談よ。本当は夜の……」


 何故かここで溜めるから色々と性的な夜の想像をしてしまう。


「え、そっち系なの? 夜の女帝とかだったりしないよね?」

「お菓子」

「う〇ぎパイじゃん!」

「うふふふ、パイなんて恥ずかしいセリフを堂々と叫ぶだなんて」

「全国のパイ職人に謝れ!」


 彼女のペースに乗せられていると分かっていて楽しんで突っ込んでいるダイヤであった。


「はぁ、はぁ、それで本当に君は何なのさ。巫女さんってことは分かるけどさ」

「私は視絵留みえる 未来みらいよ。お察しの通り職業は巫女」


 どうやらようやく真面目に話をしてくれそうだ。


「私は幼い頃に『未来予知』のスキルが自動発動するようになったのよ」

「未来予知?」

「ええ。レベルが低いからか『予知』の内容は曖昧なものばかりだったけれど、そのいずれもが同じものだった」

「まさか、その『予知』が僕に関係するものなの?」


 未来はダイヤの質問に直接は答えず、これまでの妖艶な雰囲気とは打って変わって、穏やかで優しい笑みを浮かべた。そして、その『予知』の内容を告げる。




「貴方は歴史を変える偉大な人物になる」




 あまりにも曖昧で漠然とした予知の内容。

 しかし未来の口調は確信に満ちたものであり、何故か否定や疑問を挟んではならないと強く思ってしまい、ダイヤは何も言えなかった。


「私は貴方の隣で同じ景色を見てみたい」


 それこそが未来の望みであった。

 予知で見えた人物に憧れ・・、出会い、力になり、共に歩きたいと願うようになった。

 会ったこともない、それでも何度も見せられたその人物に懸想した。


「私を様のハーレムに入れてください」


 予知には映っていた。

 偉大なる人物の横には多くの女性がおり、彼に寄り添っている姿を。

 それでも尚、彼女は懸想し続けた。


 彼女達が幸せそうに見えていたからなのか。

 ライバルがいてもそれでも憧れの気持ちが強かったからなのか。


 その理由はダイヤにはまだ分からないけれど、未来が本気でダイヤを想いここに居ることだけは、彼女の雰囲気から察することが出来ていた。


 ダイヤの目標の一つは、ハーレムを作ること。


 美人で、楽しく掛け合いができそうで、心から慕ってくれる女性。

 文句無しの相手から、逆アプローチをされた。


 ダイヤの答えは。




「ごめんなさい。今は・・無理です」




 まさかのお断りだった。


 だがそれは彼女がダイヤのお眼鏡に適わなかったという訳ではない。


「今は、ということはいずれは入れてくれるということかしら」

「もちろんだよ!」

「うふふ、理由を聞いてもよろしいかしら」

「まだ皆を養う準備が出来てないから作れないんだ。甲斐性が無くてごめんね。でもなるべく早く稼げるようになるし、豪華な愛の巣も用意するから!」

「それは法律のことかしら」

「うん。ハーレムを作るなら避妊禁止で、子供も含めた家族全員を養えなければダメってやつ」


 なんとこの国では、とある理由から法律でハーレムが認められていた。

 しかしハーレムを作るためには子作り必須で、大量の家族を必ず養えなければならないと言う頭の悪い条件が設定されていた。


「僕は皆と沢山えっちなことしたいけど、まだ誰も養えないからハーレムを作れないんだ。絶対に皆を幸せにしたいから、その準備が出来るまで少しだけ待ってもらいたいんだ」

「うふふふ、面白い主様ね」


 おそらくは、予知が出来る未来でさえも、ダイヤのこの理由は知らなかったのだろう。

 ハーレムを目指しながらも、本能に忠実に異性を求めるタイプでは無かったことに驚いていた。


「せっかく主様好みの女になるように磨いてまいりましたのに」

「うっ……正直今すぐにでもベッドに押し倒したいところだけど、我慢するよ」

「うふふふ、なら確約も頂けたことですし、今しばらくは私も我慢すると致しましょう」

「ごめんね」

「よろしいのですよ。私の心も体もすでに主様の物。どうかご自由になさってください」

「うわぁ、重いなぁ」


 などと楽しそうに会話を続ける二人なのだが、全く気付いていないことがあった。


 ダイヤの背後の教室内はドン引きだぞ。

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