第51話 FEX開発室 その四
「あの、主砲の250メガラス砲は、200メガラスにダウングレードするわけには行かないのでしょうね。」
「250メガラス砲?
ああ、別に無くても困らない代物だけど、一応巡洋航宙艦としての飾りでつけている。
200メガラスでも100メガラスでもダウングレードして構わないよ。
主砲は単装の新型砲の方だから。」
「あの、・・・。
小さい砲6基が主砲なんですか?」
「うん、そうだよ。
200メガラス砲は、新型砲弾を使えば3000メガラス程度には威力が増すけれど、新型砲の方は、なりは小さいけれど少なくとも2万メガラス以上の威力がある。
だから主砲は小さい新型砲の方だ。」
「単装20メガラス砲よりも小さいですけれど、・・・。
主砲の配置を変えた方がいいのでしょうか。
今は250メガラス砲が艦の上面に配置され、50メガラス砲が側面配置となっています。
主砲が上面配置の方が使いやすければそうしますが・・・。」
「いや、宇宙空間では上下の感覚は無いからね。
どちらについていようと構わない。
但し、砲塔が自分の艦体を撃ったりしないように安全装置を設けることと、できるだけ死角となる範囲を最小にすることが必要になる。」
「その意味では艦底部分には兵装が無いようですが、・・・。」
「そうだね。
艦底部分は死角になりやすいから、通常は側面の砲でカバーをしているわけだ。」
「あの、もし差し支えなければ、砲塔そのものを艦体外殻から出し入れすることで艦底部分もカバーできると思います。
特にこの新型砲はブロック自体が小さいのでそうした機構は簡単にできるのじゃないかと思います。
20メガラス砲はブロックが大きいので避けた方が良いと思います。」
「なるほど基地に帰投した場合は、艦底内部に収納すればいいか。
では、その方向で設計を考えてみてくれ。
艦底部分に2基あれば十分だ。」
それから10日後ジュリーの設計もほぼ完成し、スティーブにホログラムを見せて大筋で了解を貰い、幾分の手直しを求められただけであった。
その三日後には、ジュリーが新型巡洋航宙艦の設計を完成させていた。
ジュリーが丸ごと一隻の設計を全部行ったなど信じられなかったが、実際に目の前にそのホログラムがあった。
それを見てジュリーは熱いものが込み上げてきた。
そうした感慨も束の間、スティーブから、駆逐艦、巡洋戦艦についても同様の手順で設計を行って欲しいと指示がなされたのである。
基本的なスタンスは巡洋航宙艦と変える必要は無く、兵装は必要に応じて旧型砲はダウングレードしても構わないというお墨付きをもらった。
ジュリーにはこれまで積み上げてきた下地があったので、駆逐艦については1週間、戦艦については2週間で仕上げていた。
何れも従来定員の半分程度の定員とし、予備室を4割程度確保することで設計を行った。
それから予期していた小型砲艦についても設計指示がなされたが、偵察艦、弩級艦、超弩級艦については、指示が無かったのである。
「偵察艦、弩級艦それに超弩級艦は必要が無いのですか?」
「今のところはいいでしょう。
小型砲艦を設計するとわかると思うけれど多分、偵察艦も余り大きさは変わらなくなってしまう。
弩級艦と超弩級艦は必要が無い筈だけれど、将来、宙軍本部から打診があれば設計してあげるといい。
只大きいだけの戦闘艦は不要だと思うけれどね。
それよりも、航宙空母と搭載攻撃機の設計は必要かもしれないね。
搭載攻撃機の大きさが問題になるけれど、動力炉、新型推進装置、高次空間センサーそれに動力バッテリー、高次空間シールドだけなら左程大きなものにはならないだろう。
動力炉は搭載機専用の小型のものを僕の方で設計してみよう。
兵装は新型砲1機とミサイル4基のみ。
空母の搭載機数は、概ね現行の搭載機の大きさで60基前後とし、空母の10メガラス単装砲の8基は新型砲に変えることぐらいかな。
他に特別な艦艇として設計する必要があるのは、強襲艦だけれど、こちらは僕の方で設計しよう。」
「あの、因みに強襲艦というのはどんな艦なんですか?」
「宙兵隊は独自には艦を持っていない。
だから戦艦以上の戦闘艦に乗船して、搭載してある揚陸艦で出撃し、地上に降下して制圧する任務を持っている。
それから破損した敵艦に乗り込んで内部を制圧する任務もある。
だが、揚陸艦というのは名ばかりでね。
殆ど鉄の箱だ。
だから惑星からの地上砲火に
これでは可愛そうだからね。
揚陸艦にも新型シールドで防御装備を備え、必要に応じて艦からの攻撃も可能なように新型砲2基程度は装備させた方が成功率は高くなる。
それに揚陸艦を運ぶ輸送艦も必要だろう。
強襲母艦と言う名がつけられるだろうけれど、少なくとも4基から6基の揚陸艦を搭載し、目的地上空まで運ぶのが任務となる。
左程長い期間とは思えないけれど、宙兵隊が待機し休養できるスペースと医療施設を併せ持った艦になるだろうね。」
8月に入って、FEX開発室で残った課題は、新型駆動装置の管制装置とAI機能の付加であった。
ジュリーが毎日悪戦苦闘しているが、中々進展していないようだ。
他の三人の室員にも連帯意識が生まれてはいるのだが、かなり専門分野なので手も足も出ない状態だ。
そんな時、スティーブがヘッドセットをジュリーと他の三人にも渡した。
ヘルメットとバイザーでできている代物であり、空軍のヘルメットに似て非なる物であった。
ラックに組み立てられた演算処理装置には、100枚の集積回路基板が差し込まれ、既に記憶素子100個が取り付けられた基板500枚以上から構築されているデータバンクとも光ファイバーでつながっている。
その演算処理装置の入出力用の端末に4つのヘッドセットをつないでスティーブが指示したのである。
「4人で、ルイザと話し合ってご覧。
こいつは音声でも出力可能だが、同時に君たちの脳波も拾って、ルイザに渡してくれる。
或いは、ルイザに何らかの変化が出るかもしれない。」
ルイザというのは、ジュリーが名付けた受動AIのことである。
それからの日課は四人で一緒にルイザとの問答を繰り返すことであった。
10日目、テレサはいつものように皆と一緒にヘッドセットを付けて、問答に参加していた。
ルイザの返答は相も変わらず、既存のデータからの引用ばかりで何かを推測するということが出来なかった。
データバンクにはそれこそあらゆる文献が収まっているが、全体の記憶容量の1万分の一にも達していない。
ルイザは、所謂外部のネットからは完全に切り離されている。
仮に、ネットの中で暴走しても困るから今のところは完全なスタンドアローンの演算装置なのである。
そうした中でテレサは一瞬めまいを感じていた。
何かはわからないが、真っ暗な中に白く光る小さな泡のようなものを見たような気がしたのである。
すぐにふっと消えてしまったので何かは判らない。
その日も無駄に終わっていた。
だが翌日、同じように再開した途端、またもテレサはめまいを感じ、白い小さな泡が見えた。
そうしてそれは消えなかった。
テレサが視覚で捉えているのではない。
明らかに違うものだが、テレサはその存在を感じていた。
もどかしいほどの努力でテレサは徐々にその泡に近づいて行った。
距離は判らない。
だが着実に近づいているようだ。
そうして間近に迫った時、その泡が変形し触手のようなものがテレサに伸びてきた。
慌てて退こうとしたが、その時には触手がテレサに触れていた。
不意にテレサはその泡に取り込まれたのを感じていた。
空虚な感じはするのだが、幾分暖かい雰囲気である。
そんな中にふっと人影が出現した。
輪郭が定かではなく、単にヒト型をしているだけである。
それが何かを
テレサには理解できない呟きである。
再度呟いた。
何か声の様な気もするが判らない。
幾度それが繰り返されたかわからないが、遂にものすごい速さで話しかけているのだと気付いた。
「ねぇ、速すぎて判らないわ。
もっとゆっくり話して。」
またも呟きが繰り返されたが、徐々に遅くなってきていた。
そうしてかなり速いのだが意味のある言葉になった。
「貴方誰ですか?」
と言っているようだ。
「私はテレサ、貴方の話が速すぎる。
もっとゆっくり話して。」
速度が眼に見えて遅くなった。
「話す、速い、もっと遅くする、か?」
まだ通常の2倍ぐらいの速さである。
「ええ、もっと遅く、今の半分に。」
「私話す、もっと遅く、これ、どうか?」
「もう少し、遅い方がいいけれど、何とかわかるわ。」
「あなた、テレサ、私、何?」
「うーん、多分、ルイザ、私たちが作ったAI。」
「あなた、私、作った。
何故、わからないか?」
「ええっ、そんなこと言われても、貴方がAIなのかどうかわからないもの。
別の存在かもしれない。」
「どうすればわかる?」
「貴方がAIなら、データバンクに入っているデータを読み上げることができるはず。
レンネの詩が有る筈、調べて?」
「レンネの詩?
アドレスコードは?」
「アドレスコード?
貴方が管理しているもの、アドレスコードは判らないわ。
音声で聞いた時は貴方がちゃんと探し出した。」
「音声で?
ああ、外部入力、・・・。
音声で言って?」
「え?
今、音声じゃないの?
じゃあ、思念かしら。
ちょっと待ってくれる。
これどうやって元に戻ればいいのかしら。」
「貴方、戻る、私、わからない。」
テレサは焦った、このままここに取り残されてはたまらない。
テレサは一生懸命努力してその場を離れる方向に動いた。
遅々として進まないが、それでも遠ざかり、不意に泡から出たのがわかった。
それでもその場に留まって居るから、更に泡から遠ざかるように力を込めた。
長い時間がかかったように思うが、不意に現実に立ち戻った。
周りでスティーブを始め三人が心配そうな顔つきで見ている。
「あ、戻れた。」
慌ててヘッドセットを外した。
スティーブが言った。
「どうした?
一時、意識が途切れたようだったが。
何かをぶつぶつと言っていた。」
「正直な所わかりません。
でも、ルイザかも知れない存在に接触したみたいなんです。
話しが少しできました。
でもルイザかどうかは判らないんです。
で、レンネの詩がわかるかと言ったら、アドレスコードを聞かれました。
それは私も知りませんから、音声でレンネの詩を指示したらルイザはそれを見つけて口承したと言うと、ルイザが、では音声を出してと注文を付けました。
で、音声で話しているわけではないことに気づいて、ちょっと待ってと言って一生懸命に戻って来たんです。
これって何なんでしょう?」
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