第44話 打ち明け話と結婚式
化粧を落とし、元の衣装に着替えた後で、マーシャや数人のお弟子さんたちを含めて、団体で最上階のレストランに行き、コレクションの成功を祝して楽しくおしゃべりをしながら美味しい食事を頂いた。
ジュリエットは、憧れのデザイナーに出会えたことと、そのマーシャに初めてのフォーマルウェアを作ってもらえることで、帰りのエアカーではとても興奮し、一人はしゃいでいた。
その余波は家についてからも続き、ジュリエットが家人を前に
セシリアとクレモナは笑顔で聞き、遅くまで付き合っていた。
翌日午後3時までに、ジュリエットの元に二着のフォーマルドレスが届いていた。
一着は夏用であるが、一着はコレクションで着た秋用のフォーマルな装いであった。
午後4時にスティーブがサイモンと言う若い男性を連れて現れ、クレッセンド家の人達にひとしきり挨拶をして、ケィティとジュリエットを連れ出した。
サイモンは、スティーブとは違った雰囲気を持ったハンサムボーイである。
ケィティは一目でいい人だと思ったし、ジュリエットもそう思っているに違いないと感じていた。
ベルグラッシュでの食事はとても美味しく、雰囲気も最高であった。
何しろ弦楽四重奏の生バンドが演奏するのである。
サイモンとジュリエットは、互いに気が合ったようで食事の合間も次々と話題を変えながら話し込んでいた。
家に戻って、ジュリエットにサイモンの印象を訊いてみた。
「うーん、とてもいい人よ。
でもまだよくわからない。
もう少しお付き合いが必要ね。」
「キスしたくなったかしら?」
ジュリエットがポッと頬を赤らめながら言った。
「そんなこと・・・。
まだ先の話よ。」
ジュリエットにとっては、幸先の良いスタートであったことに間違いはなさそうだ。
その後、週末になると
驚いたのはファッション誌にケィティとジュリエットが載せられて、「期待の新人か」とコメントが付いていたことだった。
勿論、スティーブと腕を組んで歩いている写真も載っていた。
実のところ、そのファッション誌の存在をケィティは知らなかったが、友人からのメールで知らされたのである。
ちょっと見にはケィティとわからないほど化粧と奇抜な髪形で容貌が変わっていたので、知人でも簡単には判らない筈であったが、プライムスクールからの友人であるリンダが見破ったのである。
曰く、「いつモデルを始めたの。」であったし、リンダから
その年の年末、両親の勧めで、ケィティとジュリエットはスティーブとサイモンをクレッセンド家に招いた。
若い男性が二人も年末のお祝いでクレッセンド家に招かれたのは初めての事らしい。
ディビッドもセシリアも上機嫌であった。
年が明けて秋口に入った頃、スティーブからケィティに重大な話がもたらされた。
結婚の申し込みであるが、同時にカスケロンに転勤の話があることも伝えられた。
ケィティの気持ちはとうに決まっていた。
ケィティの承諾の言葉を聞いて、スティーブは更に驚くべき話をしてくれた。
スティーブは、この世界で生まれた者ではなかった。
別の世界で生まれ育って、この世界に伴侶を捜しにやって来たそうだ。
元の世界に戻る必要は無いらしい。
スティーブの一族は、別の世界で伴侶を見つけ、そこに留まることを繰り返しているらしい。
その上で、若い男性を紹介された。
エドガルドと言う男性であるが、どうみても20代半ばの男性であるのだが、実はスティーブの曾々々お祖父様に当たるらしい。
少なくとも6世代前の人だから120歳は優に超えているに違いない。
一族の中で若返り法を見つけた人が居て、定期的にその措置を受けているので、見た目は20代半ばなのである。
無論、エドガルドが住んでいた場所に、今でも住んでいるわけではない。
そうして驚いたことにエドガルドは6人の妻がいるらしい。
妾とか側室ではなく全員が妻なのだそうだ。
6人の妻たちはエドガルドを共有しており、その子供も産みの母だけではなくて全員が子供達を共有しているのだという。
妻たちも若くてケィティと同年代に見えるそうだが一番若い人で100歳を超えていると聞いて、開いた口が塞がらなかった。
6人もの妻を持つという考え方には付いて行けないが、一方で、ケィティ自身は、当人同士が納得していればそう言った夫婦の形があってもいいのだろうとは思っている。
そのエドガルドは、ケィティに死ぬかとも思わせるほどの試練を与えて去って行った。
一族の間で執り行われているある種の卒業の試験でもあった。
ケィティに眠っている潜在能力を開花させるものでもあった。
その夜、ケィティの寝室に現れたスティーブと共に無人の惑星に行き、ケィティはその惑星に未曾有の嵐を巻き起こしたようである。
ケィティは寝ていたのでよくわからないが、スティーブが傍に付き添ってケィティの身体を守っていたらしい。
二人がテレポートで着いた時、惑星には緑豊かな大森林があったのだが、ケィティの周囲50ギムヤールほどの範囲が焼けただれた荒れ地に代わっていた。
ケィティが眠っている間に発現した炎と凄まじい落雷が周囲を焼け野原に変えたらしい。
翌朝、夜が明ける前に、ケィティは自分の部屋に戻っていた。
無論、家族はそのことを誰も知らないのである。
2月の半ば、スティーブが両親の元にやってきて、ケィティとの結婚の承諾を願い出た。
ディビッドもセシリアも、喜んで承諾を与えて祝福してくれた。
その上で、4月1日付けの転勤の話を打ち明けて、それまでに結婚式を上げたいと申し出たのである。
両親は驚いたもののすぐに動きだし、3月20日に結婚式を挙げることが決まったのだった。
式場は、ハーベイ・ロイヤル・ホテルに決まった。
ケィティの忙しい毎日が始まった。
自分の荷をまとめ荷造りをしておくのである。
既にスティーブは快速豪華客船ロベナ号のスィートルームを手配している。
内示は2月の半ばに有った。
発令は4月1日付で有り、後任の中尉は、カスケロンとハーベイを定期的に就航している改装輸送艦でその前日に着任することになっている。
本来はその輸送艦で移動してもよかったのだが、その日の内にも輸送艦が出航するので、引き継ぎのために当日はハーベイに残り、翌日快速豪華客船でカスケロンに向かうのである。
このロベナ号は、途中の星系を周遊しながらカスケロンに向かうため、15日間の船旅となっていた。
3月20日、ケィティはマーシャさんがデザインしてくれた花嫁衣装を着て、式に臨んだ。
式場には多くの人が集まってくれた。
異世界からは、スティーブの両親と兄妹も参列してくれたほか、彼の親族が思いのほか多数出席していた。
その数、優に100人を超えていたのである。
クレッセンド一族もハーベイでは旧家であり、その一族だけで出席者も100名を超えた。
ケィティの友人達やディビッドの会社の職員も大勢駆け付け、さらにスティーブの職場の方々やハーベイ滞在中にスティーブが知り合った人も多く、流石のホテルの大広間もこれ以上は入れないぐらい人が埋まり、ホテル側は急きょ庭を開放して宴会場を広げたのである。
ハーベイでは定数を決めた招待制の披露宴ではなく、知り合いに周知して自由な参加をしてもらうのが慣例であるのだ。
場合により、会場の近くに来ていた人が飛び入りで参加する場合もあるぐらいなのである。
そうして子供のいる家庭では、子連れで来る人も非常に多いのが特徴である。
ホテル側も500名を楽に収容できるはずの大広間で収容できなくなる結婚披露宴は初めてのことであった。
披露宴が終わった後、大勢の参加者に見送られ、二人は郊外のベイ・ホテルに行き、そこで初夜を迎えた。
高鳴る期待と不安の中でケィティはスティーブに抱かれた。
ホテルで二日過ごした後で宿舎に戻り、最低限度の荷物だけでそれからの10日を過ごしたのである。
その後も出発までにスティーブがサンパブロで哨戒任務に就く日はあったが、三日間の一行動だけであった
そうして30日の日に宙軍支援団体が経営する輸送業者が荷物をまとめて宿舎から持ち出し、その日から二人は宙軍指定のホテルに泊まった。
1日午前10時、二人は大勢の知人に見送られ、民間シャトルが出入りするハーベイCUTから旅立った。
二つある民間軌道衛星の一つでシャトルを降り、チューブ状のタラップを移動して豪華客船ロベナ号に乗り込んだのである。
携行荷物は、大きなトランクが各2個である。
ホテルのフロントにも似たカウンターで乗船手続きを済ませ、ボーイの案内で二人はスィートルームに入った。
ロベナ号の出港は正午であるが、乗客は午前11時までに乗船が求められていた。
二人の引っ越し荷物は大きなコンテナに納められ、既にロベナ号の船倉に収められているはずである。
エアカーも同じく専用のコンテナに収容されて搭載されていた。
出航前にロベナ号の船長がわざわざ挨拶にやって来たのには驚いた。
スィートルームの客には船長が挨拶するのが慣例ですと船長は笑って言ったものだ。
マーシャは、二人がロベナ号に乗ると知って、15着ものフォーマルドレスを作ってくれたので、船に乗っている間に衣装で困るようなことは無い。
ジュリエットにも貴方が結婚する時には同じように作ってあげますよと予告してくれたので、ジュリエットは思わず頬を染めていた。
サイモンとの仲は進展しているようであり、二人が結ばれるのもそう遠いことではないかも知れないが、ジュリエットが大学を卒業するまでは結婚はしないかも知れない。
15日間の船旅はケィティにとってハネムーンでもあった。
ケィティはハーベイを離れたことが無い。
ハイスクールの修学旅行で星系内の小旅行に出たことが一度あるだけである。
まだ見ぬ異郷の地を夢見、二人の生活をあれこれと想像するのが楽しかった。
旅行中に様々な催しが企画され、お客も参加を促された。
沢山の乗組員がその企画に携わり、お客を退屈させないよう工夫を凝らしていることを始めて知った。
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