第39話 打ち明け話 その二

 スティーブとケィティはゲートまで基地内の浮上車で移動し、基地の境界付近に有る駐機場でエアカーに乗り込み、市内の幹線に乗った。

 エアカーに乗って5分も経たないうちに何故かケィティはうとうととし始めていた。


 クレッセンド邸の前にエアカーが乗り付け、エアカーから降りた時も夢うつつの状態である。

 何とかスティーブに支えられながら、玄関を入り、二階の自分の部屋に入ってベッドにあおむけに倒れ込んで、そのまま寝入ってしまった。


 目が覚めた時は夕刻であった。

 外出した時の姿のままでベッドに寝ていた。


 薄いケットが掛けられていた。

 丁度その時、母のセシリアがドアをノックして入って来た。


「ケィティ、貴女大丈夫なの。

 家に戻って来るなり、眠いと言ってベッドに寝転がっちゃって。

 昼食時に呼びかけても返事もせずにいびきをかいて寝ていたわよ。

 出かけてから2時間もしないうちに戻って来るなんて何か変よ。

 スティーブと何かあったのかい。」


「いいえ、何もない。

 ただひたすら眠かったからスティーブに頼んで送ってもらったの。

 昨夜は何か随分と寝付けなかったから、その所為せいかも。」

 

 ケィティは、母セシリアに初めて嘘をついた。


「そう?

 別に身体に異常がなければいいけれど・・・。

 まぁ、大丈夫ならいいわ。

 お夕食よ。

 着替えて下にいらっしゃい。」


 ケィティは、幾分ふらつくような身体を起こして、着替えて食堂に降りた。

 父ディビッドも帰宅していた。


 新工場も順調に生産を開始しており、予定より早く年末には製品を出荷できるまでになっているそうだ。

 その父の姿に淡い光が見えた。


 お婆様にもみえ、そうしてジュリエットが光り輝いて見えた。

 一瞬、気を取られているとジュリエットが変な顔をして言った。


「何よ、お姉さま。

 私の顔に何かついている?」


「ううん、ちょっとね。

 ジュリエットって我が妹ながら美人だなって、そう思ったから。」


「何よ、それ。

 お姉さま何か変じゃない?

 熱でもあるの?」

 

 スティーブの言ったことは本当だった。

 ジュリエットのオーラは大きくて綺麗だった。

 

 無論、スティーブのそれには適わない。

 食事をしながら隣のジュリエットに言った。


「あぁ、そう言えば、スティーブがジュリエットに友人を紹介したいと言っていたわ。」


「私に?

 何で?」


「さぁ、良くは知らない。

 一カ月ぐらいしたら会えるかも。」


「スティーブさんがそう言っていたの?」


「ええ、そうよ。

 何か変かしら。」


「いいえ、別に、変じゃないけど・・・。

 私って選り好みが激しいのよ。」


「知ってる。

 スティーブにもそう言ってあるわよ。」


 傍から父が口を出した。


「ほう、スティーブ君が、ジュリエットにねぇ。

 そりゃ楽しみだ。」


「何よ、お父さんまで。

 彼氏ぐらい、自分で見つけるわよ。」


「ふーん、大学に一人ぐらい素敵な男子学生は居らんのかね。」


「全然、ハベロン大学に結構学生は多いけれど、箸にも棒にも引っかからないのが多いわね。

 やっぱ、別の大学で探した方がいいのかしら。」


「なんだ、もう見切りをつけたのか。

 じゃぁ、スティーブ君が紹介してくれる友人というのを楽しみにしておいた方が良いかもな。

 但し、軍人かも知れんが。」


「そうよねぇ、スティーブさんは軍人だもの、やっぱり友人も軍人かしらね。」


 ケィティがそれを打ち消すように言った。


「そうでもないわよ。

 スティーブの友達って結構幅が広いの。

 二人でデートしているときに、ハベロン市内で、出会う人たちに結構挨拶されるんだけど、いろんな人が居るわよ。

 若い人はハイスクール生徒からお年寄りはお婆様の年代まで、性別も年齢もほとんど限定なし。

 一緒にいる私の方が驚いてしまう。

 中には、はっきりジャムじゃないかとわかるような人物まで居るけれど、みんな親しく声を掛けて来るのよね。

 どうもスティーブに世話になった人たちという感じがするんだけれど、スティーブは特に説明はしないの。

 でも、誰であれ、しっかりと名前を憶えていることが凄いわね。」


「なるほど、我が社の工場もスティーブ君に随分と世話になったしな。

 彼が居なければ、工場は失敗していたかも知れないところだったから。

 工場に勤務しておるものはそれを十分承知しているよ。

 彼らが仮に街中で彼に有ったらきっと礼を言うに違いない。」


「そうかもね、お父様の会社だけじゃなくって、機会があれば色々な人を助けたりしているのかもしれない。

 私もそんな彼が好きなんだけど・・・。」


「へぇ、家に来たときはまだキスもしていなかったみたいだけど。

 もうキスぐらいする仲になった?」


「何言うのよ。

 ジュリエット。

 そんなこと人に言うものじゃないわ。」


「あ、お姉さまったら真っ赤になって、・・・。

 うーん、これは少なくともキスの段階は終わってるわね。

 冷やかしはこのぐらいにしとこ。

 お姉さま怒ったら後が怖いから。」

 

 ジュリエットとケィティ以外の顔は皆綻んでいた。


 ◇◇◇◇


 その夜、昼間あれほど寝たのだから眠くないかと思っていたら、思いのほか簡単に寝てしまった。

 翌朝日の出とともに爽快な目覚めで目を覚ましたケィティは、伸びをして起き上がり、ふと、スティーブの話を思い出した。

 

 朝になったら呼びかけてご覧と言っていたのだ。

 ケィティは目をつむり、両手を合わせてお願いをするように祈りながら、スティーブに呼びかけた。


 するとすぐそばにいるかのように、スティーブから返事が来た。


『おはよう。

 早起きだね。』


『おはよう。

 スティーブ。

 半信半疑だったけれど、やっぱり、どこでもスティーブと話ができるのね。』


『そう、いつでもできるけれど、お互いに時と場所を考えて連絡するのが礼儀だよ。

相手の都合の悪い時もあるからね。』


『ええ、わかったわ。

 無暗むやみには連絡しません。』


『そうしてください。

 今日はちょっと仕事が入りそうだ。

 だから、稽古は明日だね。』


『ええ、わかったわ。

 明日は、また、連絡してから9時頃にはゲート前には行くわ。

 いいでしょう?』


『いいよ。

 じゃぁね。』

 

 その日、ケィティはスティーブと少し話をしただけなのに、とてもいい気分だった。



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