第38話 打ち明け話 その一

「じゃぁ、私の考えもわかるの?」


「いや、君の家に住んでいる人たちで考えがわかるのはお母様のセシリアとメイドのデリラさんだけ。

 お婆様、お父様、それに君とジュリエットの考えは読めない。

 四人は生まれつきシールドを持っているからね。

 人に考えを読ませたりしない。

 僕の能力も、そうした能力を持つ可能性のある人たちの考えは読めないんだ。」


「だって、そんなことを言われたって、何を根拠に信じればいいの?」


「そうだね、目に見える形で無いと信じられないかな。

 じゃぁ、君の持っているハンドバックの中身を当ててみようか。」


「えぇっ?

 何となくマジックみたいね。

 何か種とか仕掛けとかあったりして・・・。」


「いや、マジシャンの口上じゃないけれど、種も仕掛けも無いよ。

 ハンドバックに入れて有る物は、先日貰ったばかりのIDカード、花柄模様のハンカチ2枚、一枚は青色系統、もう一枚は黄色系統だね。

 セルフォンが一つ、コブラン社のルージュが一本、クレジットカードが2枚、一枚はセロニア銀行、もう一枚はギャバン銀行。

 白紙メモ帳が一つ、携帯ペンが一本、コンパクトが一つ、20クレジット紙幣が3枚、0.5クレジットと0.1クレジットのコインが各一枚。

 女性用の生理用品が一つと小型警報機が一つだね。」

 

 驚きの表情をみせてケィティが言う・


「どうして、わかったの?」


「君のハンドバックの中身を透視した。

 だからわかる。」


 焦ったケィティが尋ねる


「透視って、・・・。

 じゃぁ、私の裸も観れちゃうの?」


「まぁ、見ようと思えばできるけれど、そんな失礼なことはしないよ。」


 ケィティは一応安堵したが、やはり何か仕掛けがあるような疑いは拭いきれない。

 ケィティはその思いを素直に言った。


「じゃぁ、次だね。

 コンパクトがハンドバックに入っているよね。

 中にあることだけ確認してくれる。

 その後、閉めていいから。」


 ケィティは、ハンドバックにコンパクトが有るのを確認し、その口を閉じた。


「間違いなくあります。」


「じゃぁ、これは君のコンパクトかな?」


 スティーブが掌に載せていたのは、今確認したばかりのコンパクトである。

 慌ててケィティはハンドバックの中身を確認した。


 コンパクトだけが無くなっていた。


「そのままハンドバックの口を開いていてくれる?」


 スティーブがそう言ったので、ケィティは口が開いたままにした。

 スティーブの掌の上に有ったコンパクトが不意に宙に浮いた。


 そうしてゆっくりと動いて、ハンドバックの中に納まり、その口が何もしないのにパチッと閉じたのである。


「嘘っ。」


 ケィティは、無意識のうちに口走っていた。


「今、君が目撃したのは夢でも幻でもない。

 ハンドバックからコンパクトを取り出したのはテレポート、掌からコンパクトを浮かせてハンドバックに返し、口を閉じたのはテレキネシスだよ。

 少なくともその二つの能力を、君は見たことになる。

 さて、自分の目が信じられるかい?」


「確かに見たのだろうけれど、・・・。」


「まだ、確信できないかい?

 じゃぁ、僕を見ていて。」


 ケィティの見ている前で、すっとスティーブの姿が消えた。

 ケィティは青くなった。


「僕は後ろだよ。」


 後ろを振り向いて、スティーブの姿を見て安心した。

 その途端、スティーブが消えた。


「スティーブ?

 どこ?」


「元に戻ったよ。」


 振り向くとスティーブがソファに座っていた。


「今のが、テレポーテション。

 瞬間的に位置を変えてしまうからね。

 パッと消えたように見えるかもしれない。」


「驚かせないで・・・。

 スティーブが消えてしまったと思っちゃったもの。」


「御免なさい。

 でも、人を驚かせる能力だし、人に疑いをかけられる能力でもあるから人前では見せない。

 仮にどこかへ泥棒が入った時に一番疑われてしまう能力だからね。

 人知れず、鍵の掛かっている部屋の中に入り込んで、何でも好きなものを取って来られるからね。」


「まさか、スティーブはそんなことしないわよね。」


「したことはないし、これからもしないつもりだよ。

 でも人助けでどうしても必要ならばするかもしれない。」


「私はスティーブを信じて来たし、これからも信じていたい。

 だから、スティーブの言うことも信じる。」


「そう、ありがとう。

 じゃぁ、君にテレパスの能力があるということも信じてくれる?」


「うーん、そこは自信が無いけれど、スティーブの言うことは信じるわ。」


「それが第一歩だ。

 じゃぁ、そのままで目をつむって。」


 ケィティは言われるがままに目を瞑った。


「僕の意識が何処かにあるから探してご覧。

 でも、目や耳や鼻で感じては駄目、人の五感じゃないところにテレパスがある。

 それがわかれば僕が探せるはずだよ。」


「でも、前に座っているんでしょう?」


「さて、何処かへテレポートしているかも知れない。

 もう僕は話しかけないよ。」


 ケィティは何かわからずに途方に暮れていたものの、スティーブを捜した。

 これが出来なければスティーブに嫌われるかもしれないという強迫観念さえ少し有ったのだ。


 随分と時間が経ったようにも思えるがそれすらわからず、ひたすら探した。

 左程暑くも無い筈なのに額に汗が出て来ていた。


 ケィティは少し焦っていた。

 その時スティーブの優しげな声がした。


「焦らずに、そんなに力まなくてもいい。

 もっと力を抜いたほうがいい。」


 ふっと力みを止めた途端何かがふっと捕えられた。

 淡い陽炎のような雰囲気であるがもっと暖かい雰囲気である。


 ケィティはその暖かい雰囲気に誘われるように吸い付いた。


『ケィティ、できたね。

 僕と意識がつながった。』


『スティーブ、貴方なのね。

 口に出さないで話ができるなんて・・・。』


『そう、これがテレパスの世界だ。

 ようこそ、ケィティ。

 でも、このままつながりっぱなしじゃまずいからね。

 セルフォンの掛け方を知ったなら、切り方も覚えて欲しい。

 今度は、僕の意識から離れてご覧?」


『離れるって、一体どうやって?』


『さぁ、それは人によって違うからね。

 つなげるときはどうしたの?』


『何か陽炎のように掴みどころのない物を感じて、それがとても暖かい雰囲気だったからそれに近寄って、ある意味抱きしめたというか吸い付いたというか・・・。』


『うーん、曖昧だけれど、その逆をしてご覧。

 抱きしめているものを離す、あるいは君が吸い付いているものから離れるんだ。』


 ケィティは、何とか離そうと努力したが、とても居心地がよすぎて離れたくない自分が居るのを感じていた。

 だが、このままでは動きが取れない。


 だから意識の中で無理やりそれから引きはがしたのである。

 引きはがした瞬間、べったりとくっついた絆創膏を剥がすような痛みさえ感じて、べそをかいた。


「いいよ。

 出だし好調だ。

 今日はこれまでだ。

 家まで送って行こう。」


「え、何で?

 来たばかりなのに。」


「うん、そうなんだけれどね。

 この手の仕事を始めて行った時は、精神的に物凄く疲れるんだ。

 で、ケィティの知らない間に疲労が溜まっている。

 そうだなぁ、後2時間もしないうちに猛烈な眠気が襲ってきてバタンキューと倒れちゃうだろうね。

 そうすると困ることになるから、今のうちに君の御家おうちに返しておかなければならないんだ。

 多分、明日以降に同じことをしても左程は疲れないはずだけれど、今日は駄目。

 だから、送って行く。」


「折角、来たのに・・・。」


 ケィティがうらめしそうな顔で言う。


「その代わり明日の朝になったら僕の意識を捜して呼びかけてご覧。

 少々離れていても、僕とはつながるはずだから。」


「へぇ、頭の中にセルフォンが有るみたいに?」


「そういうことだ。

 番号もいらないよ。

 で、ちょっと、立って戸口まで行ってからこちらを見てご覧。

 或いは綺麗なものが見えるかもしれない。」

 

 首を傾げながらもスティーブの言葉に従い、戸口まで行って振り返ると光の万華鏡があった。


「なによ、これ、・・・。

 スティーブの身体が光っている。

 物凄く大きくて綺麗な色だわ。」


「君が見ているものがオーラだよ。

 君にも有るし、ジュリエットにもある。

 お父さんやお婆様のオーラも見えるかもしれないけれど、多分お母様やデリラの分は見えないだろうね。

 でもそのうち見えるようになる。」


「オーラって、何なの?」


「生きとし生けるもの全てが持っている命の光のようなものだ。

 能力の有無でその大きさや綺麗さが違う。

 だからジュリエットも綺麗に見えるはずだけれど、お婆様やお父さんのオーラは少しくすんでいるか色あせて見えるかもしれない。

 大きさと輝きは力の大きさを示しているし、色合いは能力の種類を示している。

 そうして一定の大きさと輝きを持っていないオーラの持ち主は、その潜在能力を発揮できない可能性が高いんだ。

 君とジュリエットは、放置していても自分でその能力を解放できるかもしれないが、その過程で色々と周囲に影響を及ぼすことがある。

 だから、できれば周囲に影響を及ぼさない範囲で訓練をしておいた方がいい。」


「じゃぁ、ジュリエットにも訓練をした方が良いの?」


「うん、その方がいいと思うけれど、今じゃなくてもいい。

 その内、僕の友達をジュリエットに紹介しようと思っているけれど構わないかな?」


「ジュリエットに?

 でも、ジュリエットの眼鏡にかなう男性は中々いないわよ。

 面食いだし、相手の能力にもうるさいの。

 だから、並みの男の人じゃ鼻もひっかけない。

 あ、そう言えば、初対面で気に入った人はスティーブが初めてだったみたいよ。」


「それは大変光栄ですね。

 僕の友人もそうであればいいけれど。」


「ひょっとして、スティーブと同じ能力を持っているの?」


「さぁて、それは見てからのお楽しみと言うところかな。

 多分一月ぐらいしたら会えると思うよ。

 さて、家まで送ろう。」


「酷いわねぇ。

 折角来たのにお昼も食べさせずに追い返すなんて。」


「うーん、君が身寄りのない娘で、食べるものもお金も無い状態なら食べさせてあげるけれど、ケィティはお金持ちの娘さんだし、お昼にはまだ少し早い。

 今はとにかく家に帰ってベッドに潜りこむことだね。

 もう少しすると多分昼食をるような気分になれないと思うよ。」


「うーん、仕方がないわ。

 おおせに従います。」

 

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