第37話 転勤予定

 そんなわけで、スティーブが基地に戻っても、ケィティと会うのは基地の中に限られた。


 それでも、ケィティは毎日のように基地を訪れていたのである。

 その都度、ゲートで待たされ、スティーブが迎えに出て、基地内に入るという面倒な手続きを踏まねばならない。


 基地に帰還して翌日、ケィティは、宿舎でファーストキスをせがみ、ついばむような短いキスで取り敢えず満足したようだ。

 だが二回目以降はだんだん大胆になって、長めのキスになり、七回目以降は人前でも平気でキスをするようになった。


 別の若い二人連れが、ゲート前で別れる際にキスをするのを目撃したからである。

 サンパブロの哨戒任務はその後も続いたが、10月2日に巡洋航宙艦エイモスが帰還すると、毎日が即応待機となった。


 そのために、ケィティの訪問は、ほぼ一日おきとなった。

 ケィティは、ゲート前の守衛ともすっかり顔なじみである。


 9月25日にケィティは優秀な成績でハベロン大学を卒業していた。

 本来であれば、何処かに就職しても良いのであるが、ケィティにその意志はない。


 下手に就職でもしようものならスティーブとのデートが出来なくなるからである。

 10月5日には、輸送艦が動力バッテリー16基、工廠技師12名を搭載してハーベイに現れた。


 ハーベイ工廠支部で本格的な改装が始まった。

 駆逐艦よりもわずかに大きい輸送艦を工廠に入れて、新型動力炉、高次空間センサー、歪曲重層シールド、ジェイド推進機関、改デズマン駆動機関を装備するためである。


 改装は15日で完了、輸送艦TT102は、新型動力炉4基、高次空間通信装置40基を積み込んでカスケードに向かった。

 往路は150光年を2週間(およそ340時間)かけてきたが、帰路は僅かに1時間かからずに到着したのである。


 輸送艦TT102はこの後、ハーベイ、デルモイ及びクラドスレーとカスケードの間を頻繁に行き来する専用輸送艦になった。

 ハーベイからカスケロンに向けて動力炉と高次空間通信装置を輸送し、カスケロンからハーベイには動力バッテリーを搭載し、カスケロンからデルモイ、クラドスレーには各新型装備品の内、デルモイ、クラドスレーでは生産できない部品と動力バッテリー、動力炉及び高次空間通信装置を輸送したのである。


 こうしてサンパブロに施された第二次改装が4か所の工廠で開始された。

 その間にも、カーネル星系で殲滅した超巨大艦の分析が着々と進められていた。


 中心部付近の動力炉はほとんどが灼熱の新型ビーム砲で溶解していたために解明は困難であったが、その他の部分は大規模爆発に巻き込まれたとはいえ、その残骸からおよその推測がつけられた。

 ミサイルの射出ポッドは全部で2000カ所余りと推測され、これが近距離の攻撃兵装になる。


 遠・中距離の攻撃兵装は5000メガラス級のビーム砲であり、まともに食らえば超弩級艦でも危ういとわかった。

 超巨大艦は当該ビーム砲を6カ所に装備していたようである。


 無論、新型装備の歪曲重層シールドとショック・アブソーバーが装備されれば対抗は可能である。

 新型動力炉の出力から言えば10万メガラス以上のビーム砲に耐えられるからである。


 それに、超巨大艦内部には、駆逐艦に近い大きさの艦艇40隻が搭載されていたことも判明した。

 搭載艦にさほどめぼしい装備は見当たらないが、超巨大艦が防衛艦隊を駆逐した後ならば、居住惑星に対する大きな攻撃力になっていただろう。


 それにどうも陸戦隊多数を乗せていたらしく、巨大艦の搭載人員は実に10万近くになるのではないかと考えられている。

 いずれにせよ、帝国軍がこれまでの劣勢を挽回するために出撃させた秘密兵器であったが、左程の戦果を上げずに殲滅されたことは帝国軍にとってかなりの痛手であったようだ。


 この侵攻の後は、境界付近での挑発行為が数カ月も停止しているのである。

 しかしながら帝国軍が何がしかの反撃を考えているのは間違いなく、巨大艦を建造したと思われる帝国軍中枢の秘密工廠で何某なにがしかの動きがあるとの情報を掴んでいた。


 帝国軍版図には総数で千名を超えるスパイが入り込んでいるが、同様に共和連合圏内にも相応のスパイが入り込んでいるものと推測しなければならなかった。

 従って、中央工廠はもとより、改装を開始した三つの支部工廠でも周辺警備が厳重になっていた。


 10月23日になって、サンパブロの基地待機命令は解除された。

 中央工廠で2隻の巡洋航宙艦の第二次改装が竣工したからである。


 その上で共和連合時間10月24日午後4時までにカスケード第4軌道衛星5番格納庫に入港せよとの指令が下った。

 カスケード星系に入ってからの航宙路及び時間が全て指示されていた。


 サンパブロは、それに間に合うようにカスケード星系に移動しなければならなかったが、サンパブロの航宙能力をもってすれば容易いことだった。


◇◇◇◇


 共和連合標準時10月24日午後3時45分、サンパブロはハーベイ基地を出航、同日午後3時52分にはカスケード星系の管制域に入っていた。

 そこで暫し待機の上、指定された時刻に発動、午後3時58分には格納庫前に到着していた。

 

 すぐに格納庫に入り、艦の固定完了が午後4時であった。

 翌日カスケロン時間で午前10時から、本部大会議室で表彰式典が開催された。

 

 きらびやかな肩章を付けた将官が居並ぶ中でサンパブロ艦長以下乗組員の総員が勲章を授与された。

 勲章は銀鵄惑星賞であり、6か月以内の一階級昇進が約束されたのである。


 このため、艦長、航海長、機関長、通信長、一等航海士、一等砲術士の6人は異動がほぼ決まったようなものであった。

 サンパブロでは、彼らの居場所が無いからである。


 艦長は少佐になり、航海長は大尉になる。

 他の4人の士官も中尉に昇進するのだから、サンパブロの航海長に就任にするので無い限り、別の艦に異動するしかないのである。


 但し、異動は意外と安易な形で終わっていた。

 艦長は、同じハーベイ基地の駆逐艦艦長として異動、機関長以下4名の元少尉も駆逐艦若しくは巡洋航宙艦の中尉で移動になっただけであった。


 特に艦長の場合、前任者の方が、ハーベイ勤務が長いため、そちらの転勤を伴う異動が優先されたことによる。

 そうして機関長以下4人の中尉は、駆逐艦や巡洋航宙艦の場合、同じ職であっても階級幅が広いため、異動先の少尉がサンパブロに乗艦、その後釜で4人が中尉で配属されたのである。


 スティーブだけは、翌年4月1日付で、艦隊装備技術本部研究所勤務を命じられることになっている。

 但し、職名は「研究所長付」という名称で何の職務か判然としないものであった。


 研究所は、所長の下に、船体部、機関部、兵装部、材料艤装部、兵站開発部の5部がある。

 研究所長は准将クラス、各部長は大佐クラス、その下の各課長が中佐または少佐クラスであるから、スティーブの昇任階級である大尉から言えば精々課長補佐程度になる筈であった。


 中央人事は、駆逐艦艦長であったベイリー少佐の異動と、エアハルト艦長の後任人事、それにスティーブ航海長の後任人事だけを考慮すればよかった。

 無論、昇任したサンパブロの各乗員も若干の異動が有ったものの、ハーベイ基地内の交換人事で済んだのである。

 

 ジョーダン大佐の情報では、スティーブの異動が、決定的となったのは11月10日の時点で有った。

 艦隊装備技術本部長であるダグラス・マーシーが、統合参謀本部参謀長に直接談判し、スティーブの身柄を少なくとも半年間は預からせてほしいと願い出て、それが了承されたことを内密に知らせてくれたのだ。

 

 従って、サンパブロ乗員のいずれの内示も未だ無いのだが、スティーブのカスケロン転勤は確定していた。

 スティーブは、ケィティとの交際をどうするかについて真剣に考えなければならなかった。


 そうして、わずかの間に決定を下していた。

 11月12日、いつものように午前9時にはゲート前にケィティが来ていた。


 スティーブが迎えに行き、ゲート手続きを済ませて、宿舎に入ると、いつものようにケィティがキスを迫った。

 いつものキスをして、ケィティを居間のソファに座らせると、スティーブが話をし始めた。


「ケィティ、異星人にはテレパスという能力があるのを知っているよね?」


「ええ、確か、カブス人とメルデル人は弱いテレパス能力を持っていて、比較的近い距離ならばお互いに簡単な意思の疎通ができると聞いたことがあるわ。」


「うん、そのとおりだ。

 で、その能力が君にも有ると言ったら、どう思う?」


「まさか、私にはそんな能力は無いわよ。

 あれば、母や妹と意思疎通ができるだろうし・・・。」


「そうだね、でもお母様とは無理かな。

 一番可能性の有るのはジュリエットかな。

 お父様やお婆様の可能性も確率は低いけれどゼロではない。」


「え、・・・。

 どうして?」


「お婆様とお父様の能力の一部を君が受け継いでいるからなんだけれど、ジュリエットもその能力を受け継いだ。

 で、能力の大きさから言うと、君が一番、ジュリエットが二番、かなり差はあるけれどお婆様が三番、お父様は更に低くて四番目だ。」


「でも、なんでそんなことがわかるの?

 テレパスの能力なんて定量的に測れるものじゃないと物の本で読んだことがあるけれど。」


「うん、カブス人やメルデル人の場合はそれが当てはまる。

 彼らの能力にほとんど優劣は無いからね。

 定量的には測れないということだ。

 もともと機械で測れるようなものじゃないから。

 但し、種族による差や個人差はあるんだよ。」


「じゃぁ、どうして私にそんな能力があるってわかるのかしら?」


「うん、ケィティ、今から話すことは絶対の秘密。

 君の家族であっても知らせてはいけない。

 いいかな?」


「軍の機密事項?」


「軍の機密事項ではないけれど、それ以上に秘密にしなければならないことだと思って欲しい。」


 ケィティは、じっとスティーブの目を見つめた。

 普段よりも真剣な表情のスティーブがそこにいた。


「わかった。

 誰にも話さないと約束する。」


 スティーブは頷いた。


「僕は、特殊な能力を持っているから君がそうした能力を持っているとわかる。」


「え、スティーブもテレパスということ?」


「弱いカブス人やメルデル人のテレパス能力と違って、桁違いに強いと思っていいよ。」


「例えば?」


「この地上に居る人ならば惑星の反対側に居る人でもその考えがわかる。」


「まさか、そんなこと・・・。

 本当にできるの?」


 スティーブは頷いた。


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