第36話 超々弩級艦の殲滅

 統合参謀本部では、全ての改装艦に非常呼集をかけてカーネル星系に向かわせているが、間に合いそうな艦は3隻だけであるという。

 艦長は直ちに総員体制を令した。


 スティーブは、その間に素早く航宙路を選択し、直ちに全速を命じた。

 ハーベイ星系とカーネル星系は249.4光年離れているが、連続遷移で航宙すれば10分とかからない。


 遷移中にも第3砲塔及び第4砲塔の発射準備を令し、一等砲術士、二等砲術士、ヤーレン砲員長及びサレム二等軍曹を配置、センサー要員に敵艦を発見次第、砲塔管制スクリーンに情報を表示する様に指示をなした。


 2万Gに及ぶ加速は、遷移中もサンパブロを加速し、現場宙域に到着までに毎秒1万ギムヤールを超える速度さえも与えることになる。

 毎秒1万ギムヤールの速度に達した時点で加速を止め、サンパブロは慣性航宙に入っていた。


 既に標的とすべき敵艦4隻はおよそ48光年先の宙域にあることが高次空間センサーで確認されていた。

 敵艦4隻は互いに距離1000ギムヤール程度の距離を保ちつつ、カーネル星系に侵攻しており、この大きさの巨大艦ならば密集体系とでも言うべき十字型隊形をとっていた。


 その周辺に少なくとも30隻以上の大小友軍艦艇がひしめいているが、たまに応射されるミサイルや巨大なビーム砲に翻弄ほんろうされているのがわかる。

 艦長が言った。


「航海長、操船指揮を執れ。

 砲撃を許可する。」


 スティーブが即座に反応する。


「了解、これより敵針路前方0.2光秒に遷移する。

 第3砲塔、遷移直後に先頭の巨大艦を撃て。

 敵は、概ね右舷方向5度、下方4度に居るはずだ。

 可能で有れば、もう一隻をすれ違いざまに撃て。

 本艦は一旦通り過ぎて、後方から再度敵艦を左舷に見る方向で通過する。

 第4砲塔が、後方から航過時に残り二隻を狙え。

 通信長、バースト通信、友軍艦に付近宙域から避難を勧告。

 照準内に味方艦が有っても発砲する。

 少なくとも敵艦から5光時は離せと伝えろ。

 遷移は15秒後とする。」


 砲員長と通信長が同時に「了解」と叫んだ。

 数秒後、高次空間センサーの中から徐々に友軍が退避しているのがわかる。


 彼らの殆どはサンパブロが接近していることすらも認識していない。

 だが、少なくとも30光年離れた場所からわずかに数秒で迫りくるサンパブロを認識できる改装艦もいる。


 それらの艦からなにがしかの情報が伝わったのであろう。

 15秒後、サンパブロは毎秒1万ヤールの速度を保ちながら、敵前に遷移した。


 途端に船首右舷砲塔の新型砲を発砲した。

 その直後に巨大艦の中心部にビームが突き刺さり、白熱を発して爆発した。


 バリヤーが一瞬で崩壊し、艦中央部に有った動力炉が一瞬にして破壊されたのである。

 僅か数秒の時間をおいて、その隣の巨大艦も同様に爆発した。


 サンパブロの第3砲塔が再度撃ったのである。

 サンパブロは、4秒で敵を航過し、加速を掛けながら急角度で右へ変針する。


 大きな旋回圏を描きながら、サンパブロは1分後に再度残った2隻に襲い掛かった。

 2隻は恐怖心からか全てのビーム砲とミサイル群を乱射していた。


 無敵と思われた僚艦がすぐ目の前で一瞬のうちに消滅したのである。

 エネルギー砲の膨大な熱量は探知できたが、まるで虚空から発射されたように見え、彼らは敵を認知できなかった。


 止むを得ず、自衛のためにやみくもに弾幕を張ったのである。

 その弾幕の中をサンパブロが高速で突き進む。


 ミサイルが2発、巨大なビーム砲が1発命中したが、サンパブロに一切の被害は生じなかった。

 歪曲重層シールドがその全てを防ぎ、ショック・アブソーバーがその力を中和した。


 サンパブロの第4砲塔が、すれ違い様に至近距離から二度の砲撃を実施すると、残った二隻も僚艦と同様に凄まじい爆発を起こして爆散した。

スティーブは言った。


「第3砲塔及び第4砲塔、見事な砲撃だった。

 良くやった。

 通信長、友軍にバースト通信。

 敵巨大艦4隻は爆発消滅した。

 付近宙域にデブリ多数が分散拡大中。各艦注意あれ。

 LC342艦長、エアハルト・ブラウン大尉。

 以上だ。」


 それから、通信コンソールに着いている一等通信士に向き直って言った。


「ワーレン准尉、艦橋のスクリーンと宙軍本部オペレーションをつないでくれるか。

 艦長から現状の説明をしていただく。」


 艦長がそれを遮った。


「待て、現状説明なら、航海長がしろ。

 俺はそう言う派手な演出は嫌いでな。

 そう言うのは有能な航海長に任せるよ。」


「しかし、・・・。」


「航海長、これは艦長命令だ。」


 エアハルトはにやりと笑った。


「わかりました。

 ワーレン准尉、つないでくれ。」


 スクリーンに宙軍本部オペレーションがつながった。


「砲艦サンパブロ航海長スティーブ中尉です。

 エアハルト艦長の命により、戦況を報告します。

 宙軍本部よりの指示により、本艦は、共和連合標準時間9月23日午前4時3分発動、カーネル星系に向け出撃。

 共和連合標準時間9月23日午前4時12分、現場着と同時に敵艦2隻を撃破、同13分に残り敵艦2隻を撃破し、任務を終了しました。

 本艦に被害はありません。

 戦況推移については、後ほど艦橋モニター及び各種センサーのデータを光通信で送ります。

 差し支えなければ、哨戒任務に復帰したいと考えておりますが、宜しいでしょうか。」


 少佐の肩章をつけた当直将校らしき男に明らかに戸惑いが見られた。

 

「あー、・・・。

 サンパブロ、間違いなく、殲滅したのだな。

 このまま暫く待て、幹部に報告してくる。」


「わかりました。

 では通信回線を開いたまま待機します。」

 

 スティーブは、振り返って、指示をなした。


「コールマン一等航海士、艦長が総員配置を令されたところから、4隻目が撃破されたところまでの艦橋モニター映像、航海計器モニターデータ、各センサーデータ及び砲撃管制データを中央本部オペレーションに送ってくれ。」


「艦橋モニターは全部で12本ありますが、全部ですか?」


「無論、全部だ。」


「了解しました。」


 コールマン少尉はたたき上げであり、准尉から少尉になった男である。

 従って、仕事も早いし、要領もいい。


 数秒でデータをまとめて中央本部宛に送信した。

 暫く待たされたが、やがて画面が勝手に切り替わった。


 将官がずらりと並んでいる会議室の様である。

 正面には、宙軍本部長マイケル・グラント中将の姿が見える。


 艦長席に座っていたエアハルトが機敏に立ち上がって、スティーブ中尉と共に敬礼をなした。


「宙軍本部長のマイケル・グラントである。

 当直から報告を受けた。

 貴艦のデータ送信も受領し、またカーネル星系艦隊指揮のクワイデル准将からのバースト通信も受信して、敵巨大艦の殲滅を確認した。

 事前に艦隊装備技術本部から大まかな情報を得てはいたが、本当に240光年を僅かに9分足らずで移動し、超弩級艦ですら手も足も出なかった敵巨大艦を貴艦一隻で殲滅したようだな。

 しかも、味方艦の大半が未だに貴艦の位置は掴めていないらしい。

 新型センサーを装備した艦だけは貴艦の位置を把握できているようだが、・・・。

いずれにしろ良くやった。

 放置すれば、カーネル星系住民120億の生命財産が危機にひんするところだった。

 貴艦の功績、誠に大と認める。

 ハーベイ星系で哨戒任務中だったようだが、固有任務に復帰して宜しい。

 追って、正式な連絡をするが、状況によりまた呼び出すかもしれない。

 特に貴艦については、当面1か月の間は、いつでも1時間以内に出撃できる体制をとっていて欲しい。

 以上だ。」

 

 艦長と航海長が敬礼すると、唐突にスクリーンが消えた。

 エアハルト艦長がため息をつきながら艦長席にどさっと腰を降ろした。


「やれやれ、雲の上の人が本艦に直接物申してくるとは思わなかった。」


 スティーブが苦笑いしながら言った。


「ですから、艦長に報告をと、お願いしましたのに・・・。」


「まぁ、終わりよければすべてよしだ。

 総員配置解除。

 当直士官、ハーベイ星系の哨戒任務に戻る。

 航宙路の選定は任せる。

 連続遷移で構わない。

 通信長、友軍艦に通報、サンパブロは宙軍本部の指示により只今をもって現宙域を離れ、固有任務に復帰する。」

 

 30隻余りの宙軍艦艇は、サンパブロからのバースト通信を受信した。

 大半の艦は、最初から最後までサンパブロの位置を全く把握できずに終わったが、新型装備の艦艇は、サンパブロが一秒ごとの遷移で0.5光年を進み、1分足らずでセンサーの索敵範囲から消えたのを確認していた。


 いずれの艦長もとんでもない艦が現れたと感じていた。

 早速にサンパブロの名簿を調べ、航海長がスティーブであることを確認し、なるほどと納得したのである。


 サンパブロは、再度哨戒宙域に戻り、哨戒任務を無事終えたのはその三日後の事であった。

 その間に多数の者から映像通話がサンパブロに集中した。

 

 統合参謀本部、宙軍本部、艦隊装備技術本部、管区本部及び星系本部である。

 いずれも高次空間通信が可能な場所に限られていた。


 便利な物がある以上、バースト通信を使う者などいる筈もない。

 そのために、航海長と艦長はほとんど寝る間もないほど忙しかった。


 特にほとんどの者が航海長を名指しで指定してくるのであるが、航海長が通信中は艦長にお鉢が回って来ていたのである。

 かけて来る彼らの勤務時間帯は、星系によって異なるから夜昼を分かたない通信は流石にきつかった。


 しかも例外なく、少佐以上の者からの通信であるため無碍むげに断るわけにも行かないのである。

 三日後、ハーベイ基地に到着したサンパブロは、艦長命で直ちに上陸許可を令した。


 但し、基地から外出してはならないという付帯命令が付いていた。

 流石に、基地に到着してからは、他星系などからの通信も途絶えた。


 尤も、停泊当直の三人は、上陸許可の後暫くの間は、航海長も艦長も上陸して不在でありますとオウムのように繰り返していたらしい。

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