第29話 中央の情報とデート

 エイモスは、1か月ほどの不在になるはずだが、その間の他の基地からの応援はない。

 このところ中央工廠での改装が急ピッチで進められており、5日に一隻の割合で改装を終えて工廠を出港し、最前線に送られているのだ。


 既にスティーブたちがカスケードを去ってから2か月近くなり、7、8隻の艦艇が改装を受けた筈である。

 中でも動力バッテリーの補給は最重要課題として、宙軍でのテコ入れも始まり、ハミルトン商会を介して設備投資と人材の確保が図られているために、近々、生産量が倍増するようだ。


 これは調達部のエドモンド大尉からのバースト通信で分かったことである。

 これを送るには予め決めていた暗号により文章を変えてから送らねばならず、結構手間がかかるものなのだが、エドモンド大尉はしっかりと情報を送ってくれていた。


 現在までのところ三つの管区本部で帝国軍の散発的な侵攻による紛争が起きたがいずれも新型装備を搭載している艦により撃退されている。

 スティーブたちがカスケードを離れた後で、少なくとも15隻の帝国艦艇が失われているはずだが、表向き公表はされていない。


 共和連合議会の秘密会議では公表されているのだが、新型艦の配備が不十分であるために敢えて一般には公表していないのである。

 いずれにせよ、エイモスの出港で穴が開いた分を復帰したサンパブロが補うように配備されたことから、結構、サンパブロは多忙な日々を送っていた。


 ◇◇◇◇


 そんな中でも休暇はある。

 試験航海から1週間後、二日連続の休養日が出来たので、その日の早朝、スティーブは、ハベロンに降りて、ケィティにメールを送った。


 いずれ高次空間通信の普及で変わるとは思われるけれど、今のところセルフォンは地上でしか使えない。

 朝の8時だと言うのに、ケィティからはすぐに電話が掛かってきた。


「今何処どこ

 会いたいな?」


「今は宿舎だよ。

 暫く、空けていたから、掃除をしてからなら出かけられる。」


「うーん、じゃぁ、この間使ったハーベイ・ロイヤル・ホテルのロビーで待ち合わせはどう?

 あそこなら変な人は来ないだろうから。」


「え?

 また何かあったの?」


「何もないけれど、用心して人気のないところは避けているの。」


「うん、それは賢明だね。

 ケィティの場合、とっても目立つから、余程用心しないと狙われるよ。」


「あら、何で目立つの?

 そんなに派手な服装はしていないつもりだけれど・・・。」


「美人でスタイルが良ければ目立つものだよ。」


「わぉ、スティーブって本気でそう思ってるの?

 だったら嬉しいな。

 でも、正直な所、私ってそんなに美人じゃないと思ってるんだけれど・・・」


「いいや、掛け値なしの美人だよ。

 コンテストに出場したら、間違いなく上位には入る。

 但し、審査員によって好みが有るようだから、優勝できると断言はできないけれどね。」


「へぇ、男の人からそんなこと言われたのは初めてよ。

 で、スティーブ、いつ出られるの?」


「うーん、そうだなぁ・・・。

 一時間あれば出られると思う。」


「わかったわ。

 じゃぁ、1時間半後にホテルのロビーで待ってる。」


「いいよ、じゃぁ後で。」


 スティーブは、簡単に掃除を済ませ、私服に着替えた。

 1時間20分後には、ホテルのロビーに軽装姿のスティーブの姿があった。


 明るい紺色のパンツに、灰緑色レミアンのシャツ、それに最新流行のフレーミャ皮製ジャケットに、ジャンク鹿バックスキンの編み上げ靴であり、かなり明るい配色は若者らしさを表現している。

 薄手の白色インナースーツをその下に着用しているので、寒くは無い。


 初夏になると汗を吸着してくれるインナースーツに替えるのが流行である。

 わざわざ高価なインナースーツを見せる装いも若者に流行しているが、スティーブはオーソドックスな見えない装いである。


 春も真っ盛りで、近くのセントラルパークには、アイミスが桃色の花をつけ始めていた。

 三分咲きというところだろうか。


 スティーブがホテルに着いて左程時間を置かずしてケィティがロビーに現れた。

 薄手のインナースーツは白地に銀の格子模様で、薄い黒地に花柄刺繍の浮き出たキュロットスカートを穿き、胸元を大きく抉ったピンクのフリルブラウスにおしゃれなチェック柄のモーランド風ジャケットを羽織っている。


「あら、時間を間違えた?

 スティーブよりも早く着くつもりだったのに・・・。」


「いや、僕も今着いたばかりだよ。

 で、どこへ行く?」


「うーん、ちょっと話と言うかお願いがあるから、ここのラウンジへ行きましょう。

 あそこなら落ち着いて話ができるから。」


「いいよ。」


 そう言ってスティーブは腕をくの字に曲げ、ケィティは笑顔でその腕に手を掛けた。

 ラウンジでジャミンとショートケーキを頼み、二人で窓際に向き合って座った。


「ところで話って?」


「うーん、実はね、母とお婆様が貴方を家にご招待しなさいって言うの。

 私は父の事があるからあまり賛成はしていないんだけれど、二人は父にも会わせなさいと言うの。

 スティーブはどう思う?」


「なるほど、軍人嫌いのお父様だったね。

 でも、お婆様とお母様の二人がそう仰るなら、いいんじゃないの?

 別に悪いことをした覚えはないから、必要なら誰とでも会いますよ。

 その結果交際を止められたらそれまでの話。

 それからどうするかはまた二人で相談してもいい。

 会わなくてもメールや電話でも話はできるでしょ。」


「あらまぁ、随分とあっけらかんの返事ね。

 何だか心配して損しちゃった。」


「何が心配なの?」


「だって、お父様の軍人嫌いの所為せいでスティーブに嫌われたくないもの。」


「お父さんはお父さん、君は君だろう。

 そんなことで好きになったり嫌いになったりはしないよ。」


「じゃぁ、私のこと好き?」


「うん、目下検討中だけれど、好きなのは好きだよ。

 でなければデートには誘わない。」

 

 ケィティの顔がほころんだ。


「そうよねぇ。

 でも、今すぐバージンを奪っちゃいたいぐらい好きかどうか知りたいの。」


「随分と過激な発言だけど・・・。

 ははぁ、誰ぞ、君に入れ知恵したのが居そうだな。

 この間のキャスリンとリンダぐらいじゃないの?」


「ええ、まぁ、そうなんだけど・・・。

 男の人ってそう言うもんだって彼女たちが言うから・・・。」


「そうだね。

 まぁ、雄の性分としては、素敵なメスを見つけたら所構わず自分のものにする。

 それが自然界の掟かも知れない。

 でも、一方でヒトはそうした自然の掟から解き放された存在でしょう?

 長い年月をかけて試行錯誤しながら今の社会制度を産みだした。

 ヒトは一人では生きて行けない。

 社会的動物と言われる由縁ゆえんだけれど、その最小単位の社会組織が家族だ。

 その家族を支える制度として、昔は側女、妾あるいはハーレムなど色々な制度があった。

 女系王政では複数の夫を持つ社会もあったようだ。

 でもそのほとんどがすたれ、今の一夫一婦制度が残った。

 男女一組が結ばれて、それを周囲の者達が認め合うのが結婚の始まりだ。

 男と女が結ばれる究極の形は、結婚だと思う。

 最近は、同棲の年数を限定する変則的な契約結婚というのも有るようだし、結婚に至るまでセックスを楽しんでもいいじゃないと言う人たちもいるみたいだね。

 でも、僕はそうは思わない。

 セックスをすれば妊娠と言う危険性が付きまとう。

 今はそうでもないけれど、かつては子供を産むということは女性にとっては生死に関わる一大仕事だった。

 そうした結果を予見しながら、自分の我がままと単なる肉欲だけで男性が女性を抱いたなら、双方が困ることになる。

 男は女性を守れるだけの生活力と知恵が無ければ、女性を抱くのはやめた方がいい。

 女は子供を産んで育てるだけの覚悟と知恵が無ければ、男性に抱かれない方がいい。

 二人の男女が気ままにセックスをして、子供が出来たら結婚するというのもおかしな話だよ。

 少なくともそうなる前に二人が末永く連れ添うことを約束してから、お互いに抱き、抱かれればいいはずと思うのだけれど・・・。

 それが本来の結婚の形だと思うよ。

 少なくともケィティのお父さんとお母さんはそうやってむつみあって、君が生まれることになった。

 で、今でも互いに信頼し合って一緒に生きているんだろう?

 ケィティが目指すべきは両親と同じ幸せを求めることじゃないかな。

 無論、生涯独身を貫くというのも一つの人生ではあるけれど味気ないだろうね。

 僕は、ケィティを一人前の女性として見ているし、二人の間に何か信頼できるものが生まれれば君と結婚してもいいと思う。

 だから、そうしたものを見出すために君とデートしている。

 もしかすると将来、君のバージンを奪うことになるかもしれないけれど、その場合はお互いに愛情を確認し合ってからのことにしたいと思っている。

 君を抱くとしたならば、必ずしも籍を入れた後ということにはこだわらないけれど、できれば互いの両親の了承だけは得てからにしたいな。

 だから、まだ相手が良く見えていない今の段階では、少なくとも衝動に駆られて君を抱きたくはないよ。」


「うん、私もそう思う。

 でも、スティーブが私を抱きたいと思う存在なのかどうかを知りたいわ。」


「さっきも電話で言ったけれど、君はとっても素敵な美人だよ。

 自信を持ってもいい。

 ここで君が私を抱きたい人集まれって叫べば、百人の男の内98人は君に飛びつくよ。」


「あら、後の二人は?」


「統計的にゲイが百人に二人ほどは含まれているんだそうだ。

 だから君がいくら魅力的でも彼らは見向きもしない。

 で、僕はゲイじゃない。」


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