第28話 砲撃試験

「では艦長間もなく時間になりますので、指定宙域に連続遷移で向かいます。

 多分二、三回で済むと思いますが・・・。」


「あぁ、今日は、最後まで航海長に任せるよ。」


「了解しました。」


 スティーブは向き直り、指示を与えた。


「二等航海士、指定宙域のど真ん中を目標に遷移コースと遷移回数を割り出せ。

 通信長、警戒艦艇としてTR14391439とTR1532が宙域に到達しているはずだ。

 本艦の動静がわかり次第通報してやってくれ。

 以後本艦の位置が変わるたび、及び、砲撃目標が設定されるたびに通報してやって欲しい。

 何しろ両艦では本艦の位置が全く掴めないはずだ。

 緊密な連携を頼む。

 通信長が必要と認める場合には、適宜の判断で情報を流して差し支えない。

 但し、本艦の詳細な性能等に関する機密漏洩には注意してくれ。」


 再度振り返って指示を続行する。


「一等砲術士は50メガラス主砲配置につけ。

 砲員長は一等砲術士の補佐配置。

 二等砲術士は20メガラス副砲配置につけ。

 ヴェルダ一等兵曹、二等砲術士の補佐配置。

 各員、実弾発射だ。

 緊張感を保て。

 一つ一つ着実に実行せよ。

 訓練想定は、先に通知した通り、遷移直後に周辺状況の確認を実施。

 次いで、第一目標のビーコン目がけて第一50メガラス砲で斉射、発射と同時に第二50メガラス砲で第二目標のビーコンに斉射、目標を間違えるな。

 通信員は両方のセンサーを駆使して予測針路を着実に割り出せ。

 第二50メガラス砲発射直後に変針、第三目標直近に遷移する。

 遷移終了と同時に第三目標を捕え、第五砲塔で一撃、更に遷移して第四目標を第六砲塔で一撃する。

 遷移コースの選定、針路変更、目標の捕捉、発射のタイミングの全てがそれぞれの役割を果たさねば貫徹できない。

 単なる試験だけなら動かない標的を射撃して終了だが、本艦は共和連合宙軍に一隻しかない特殊艦艇である。

 いつでも臨戦できるよう準備を怠ってはならない。

 従って、艦長にお願いしてこのような実戦形式の訓練試験を実施することとした。

各砲塔が一度だけの射撃としたのはそれを逃せば、敵を葬れないことも有り得るからだ。

 敵を逃せば、諸君の家族の命が奪われると思え。

 敵は新型艦の投入でおそらくは焦っているはずだ。

 いずれは、なりふり構わず、居住惑星への攻撃も辞さないだろう。

 その時には本艦が楯にならなければならない。

 本番だと思え。

 訓練を開始する。」

 

 艦橋内が一斉に動き出した。

 二等航海士が割り出したデータをコンソールに素早く入力し、航海長がそれを確認して変針し、遷移行動に移る。


 そのデータの一部を通信長がバースト通信に変えて警戒艦に送信する。

 遷移直後、センサー担当通信員が周辺状況を探査して必要な情報をスクリーンに表示する。


 その情報を一等砲術士と二等砲術士がデータとしてマークした。

 航海長は、目標物であるビーコンを各砲塔の射程に収めるよう針路を向けさせ、短距離遷移を実行させる。


 遷移完了と同時に第一砲塔が斉射した。

 その直後に大きく変針しつつ短距離遷移を繰り返し、第二目標のビーコンに接近するや第二砲塔が斉射した。


 同様に第四ビーコンの破壊まで、幾多の変針と遷移を繰り返し、2基の副砲の発射試験を完了した。

 センサー要員が、何れもビーコンの取り付けられた岩塊が破壊されたことを知らせた。


「皆、良くやった。

 日頃のシミュレーション訓練の賜物たまものだな。

 全弾的中の成績だ。

 あともう一つ第三砲塔と第四砲塔の試験が残っているんだが、こいつは少々危険だから、・・・。

 通信長、警戒艦艇は二隻とも訓練宙域から出るように指示してくれ。

 本艦は二隻が指定宙域外にでるまでこのまま待機する。

 但し、5分間の減速を実施する。

 毎秒20ギムヤールまで減速したなら慣性航宙に移れ。

 操舵員、前方右手やや下方1.8光時にある大きな小惑星が見えるか?」


「はい、マーカーを点けましょうか。」


「頼む。

 あいつが今度の標的だ。

 針路をまっすぐあいつに向けてくれ。」


 その間にも、警戒を行っていた偵察艦が宙域から外に向かっていた。

 もともと試験宙域の外れ近くで待機していた偵察艦である。


 間もなく二隻が宙域外に退避したとの連絡が入った。

 念のため位置を確認すると何れもサンパブロの進行方向とは反対側の半球内に居るから、安全であることが確認された。


「第三砲塔及び第四砲塔は、サレム二等軍曹君が射手だ。

 ヤーレン砲員長、君が指揮を執れ。

 各砲員、先達の手順をよくみておけ。

 砲員長、距離5光秒で発射せよ。

 操舵員、針路はマーカーから0.3度左方にむけよ。

 センサー要員、加速度でマーカーを見失うな。

 射手に正確な予測位置を提示しろ。

 これより加速する。

 前進全速。」


 巨大なエネルギーを与えられてサンパブロが突進を始めた。

 マーカーとの距離が徐々に狭まり、時間の経過と共にますますそれが早く近づいてきた。


 サレム二等軍曹が怒鳴った。


「目標補足、いつでも発射できます。」


「了解、砲員長、発射のタイミングは任せる。」


「アイアイサー。」


 砲員長の目がいつになく血走っていた。

 砲員長が手元のスクリーンを見ながらタイミングを見ている。


「用意、・・・・テーッ。」


 サレムがその号令と同時に発射ボタンを押した。

 ダッカム人ならではの素早い反射神経である。


 第三砲塔と第四砲塔に4つの動力バッテリーから凄まじいエネルギーが注ぎ込まれ、特殊変換機を通じて極めて細く凄まじい光輝を放つビームが放たれた。

 目標到達までおよそ5秒。


 センサー要員にはそのエネルギーの奔流が感じとられていた。

 5光秒の距離は遠く、ビームは徐々に太いエネルギーの奔流に変わりつつあった。


 周囲に僅かしかない原子や電子を巻き込んで放電を放ちながら突き進み、ついに小惑星の表面に達した時には、直系が1万ヤールを超えるエネルギー奔流になっていた。

 標的とした小惑星は長径42万ヤール、短径22万5せんヤールほどの大きさであったが、巨大なエネルギーの衝突に遭ってその原子構造そのものが破壊され、大規模な爆発を引き起こした。


 一瞬の後に小惑星は粉砕され、跡形も無く吹き飛んでいた。

 センサー要員が目標消滅と報告すると艦橋内にどっと歓声が沸き上がった。


 これほど威力のあるビーム砲は、かつて存在しなかったからだ。

 だが、その歓声にも拘わらずスティーブが再度指示をなした。


「破壊された小惑星から無数のデブリが発生しているはずだ。

 本艦最後の試験だ。

 歪曲重層シールドの効果を確認するため、敢えて、本艦はデブリの雨の中に突っ込む。

 各員、緊急時に備えよ。

 全遮蔽扉閉鎖。

 可能であれば宇宙服を着用せよ。」


 センサー要員がその後を追いかけるように言った。


「デブリ群襲来まであと5秒です。」

 

 そうしてその瞬間がやって来た。

 巨大な質量をもつデブリもあり、艦体は揺さぶられたが、予め装備されたショック・アブソーバーが重力の自動制御を行い、必要なエネルギーを新型動力炉が補っているので、乗員は何の衝撃も感じなかった。


 但し、センサー要員は船体の動きをしっかりと捉えていた。

 何しろ、本来の位置から500ヤールも瞬間的に押しのけられてしまうほどの衝撃を受けているのだから、只でさえ空間把握に敏感なセンサー要員は嫌でも気づいてしまうものだ。


 そのデブリの嵐も唐突に終焉しゅうえんを迎えた。

 サンパブロが嵐を無事に乗り切って、周囲に拡散するデブリを上回る速度で離れ始めたからである。


「デブリ群を脱しました。」


 センサー要員がスティーブに報告した。


「了解、全テスト終了。

 遮蔽扉解放、緊急対応警報停止。

 加速停止。

 操舵員、針路を徐々にハベロンに向けてくれ。

 二等航海士、帰りの航宙路を選定してくれ。

 ハーベイの3光秒手前までなら連続遷移でも構わん。

 但し、余所よその船に注意しろ。

 当直は、三等航海士だな。

 後は頼む。」


 工廠支部長は、上機嫌で艦長と共に席を立ったが、技師たちは観測ドローンの測定報告を分析するために艦橋内に残った。

 ハーベイまではおそらく二時間前後で到達するものと思われた。


 そうしてサンパブロは出港してから半日たずに無事に基地に帰りついていた。

 大破した宙軍艦艇が試験航海に出て行って、半日で戻って来たケースはいくらでもある。


 そのほとんどが、試験中に不具合が発見されて戻らざるを得なかった場合であるのだが、サンパブロもその口かと思われていたのが、全ての試験を完了して戻って来たと知ると誰もが唖然あぜんとした。

 少なくともこの管区においては、これまでそのような事例は、無かったからである。


 そもそも、試験航海と言うものは種々の試験を行うのでどうしても遅くなる。

 普通であれば3日、遅ければ7日間ほどかかるケースもある。


 まして試験宙域は遠い。

 快速偵察艦ですら半日かかる場所に試験宙域がある。


 だが、サンパブロはその距離を半日でこなして戻って来たということである。

 基地の職員は誰しもがサンパブロの成果について情報を集め始めたが、一向に情報は集められなかった。


 サンパブロの乗員どころか同乗した工廠技師たちも一様に口をつぐんで一言も話そうとはしなかったからである。

 三日後、ハーベイ基地の旗艦とも言うべき、巡洋航宙艦CT203エイモスが艦体装備技術本部工廠で改装を受けるためにハーベイ基地を出港した。


 その際、艦長であるボラード中佐は、ハーベイ工廠技師長から艦隊装備技術本部当てにやや重量があり、嵩張るかさばる託送品を預かった。

少なくとも書類の類ではないことは明らかだったが、支部長は中身については一切語らなった。


 また、それより少し前にエイモスの三等航海士であるギムリア准尉は、サンパブロの航海長から小さなメモリーを渡され、私的な品だがと断った上で艦体装備技術本部企画部のネリス中尉に必ず渡して欲しいとの依頼を受けていた。

 こうしてハーベイ基地からの託送品二つを積み込んで、エイモスはハーベイ基地を出港して行った。


 エイモスが150光年離れたカスケードに到着するのは、どんなに早くとも10日後になる予定である。

 カスケードでの改装が15日余り、帰りは新型装備になっているので早ければ5日ほどで帰還するだろう。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る