第23話 サンパブロの改装
「新たな装備は、カスケロンでしか改装できないと噂で聞いているんだが、ここでも可能なのか?
それと、今回の改造の主要なものはそれだけか?
機関区域の延伸については、新型機関の搭載でその理由がわかるが、中央付近の改造は何のためだ?」
「新型駆動機関と同時に推進装置も従来のコムロ推進装置とは異なるものを装備します。
現存するコムロ推進装置も念のため修理して予備機関として残しますが、メインは新型推進装置になります。
理由は省電力と効率性の問題です。
計算上は。従来の30%程度の動力で光速の40%にまで2時間少々で加速できます。
その推進装置の主構造がメタセンター中央付近に置かれます。
それと当該管制装置等を付加するために艦橋自体を従来よりも広げる必要がありました。
更には、現在装備されている亜空間通信装置は、バースト通信ならば何とか対応できますが、音声や動画を伝送するには不向きです。
そこで高次空間通信装置を新たに搭載し、基地との連携を強化することにしました。
これも新開発の機器ですが、うまく行けば艦隊規模での通信が可能になります。
他には機関部に動力炉を新たに追加します。
さほど大きいものではありませんが、出力は超弩級艦の動力機関の100台分を上回ると思います。」
エアハルトは目を剥いた。
学生時代に超弩級艦の動力機関を見学に行ったことが有るのだが、小型砲艦の機関区画を二倍ほど上回る大きさの筈であった。
その100基分などエアハルトの想像外の話である。
よほど小型で高出力なのだろうが、どうすればそんなものができるのか皆目見当がつかないでいる。
「燃料は?」
「核廃棄物を予定しています。」
「核廃棄物ーっ?
そんなもので大丈夫なのか?
それに核融合炉の方が余程大出力じゃないのか?」
「核融合炉は、実際のところ反応炉の大きさの割に遮蔽物が大き過ぎるんです。
例えば超弩級艦の核融合炉は、直系40ヤールにも達しますが、それで発生できるエネルギーは200メガラス程度です。
まぁ、200メガラスの出力は、大都市二つか三つ分に供給できるエネルギー量ですから大きいのは大きいのですが、でも新型動力炉は、核廃棄物の有効利用で3立方ヤール程度の大きさで2万メガラスの出力を出せます。
元々基準値以下の核廃棄物を使用しますし、放射線シールドも備えていますので設計上は十分に安全です。
それともう一つ目玉があります。
20メガラスの副砲を2基取り外して、新型砲を2基換装します。」
「新型砲って、例の新型砲弾を使う奴ではないのか?」
「いいえ、動力バッテリー4基を使って発射するビーム砲です。
砲弾を使いませんので原理的には動力炉が使える状態ならば無制限に使えます。」
「威力は?」
「飽くまで推測の段階ですが、1万メガラス以上のビーム砲となるんじゃないかと思っています。
凡そ10光秒の距離までは収束ビームとして使え、12光秒以上ならば拡散ビーム砲として使えるでしょう。
最大射程は、実際に使って見ないとわかりません。
問題は、動力バッテリーがこの星系では作れません。
既に15日ほど前にバースト通信で艦装本部宛に発注はしていますが、早くても入手は1か月後でしょうか。
カスケロンの製造企業でも大量発注を受けているはずですので、こちらのお願いにどれだけ精力を傾けてくれるかに掛かっています。
本艦の改造完工に間に合うかどうかというところです。」
「ふむ、話半分としてもとんでもない砲艦に生まれ変わるようだが・・・。
新たなシミュレーションはあるのか?」
「今のところはまだ作っていません。
余裕が出来たなら作ってみます。
既存のシミュレーションは艦長のところにも出回っていましたか?」
「おお、転勤の支度で慌ただしいところだったが、第二種軍機で前任地にも届いていたし、実際に試してみたよ。
で、新型装備についてはあの通りの動きができるのか?」
「仕様は現実のものと同じですから、実際に使う際にも違和感はないと思いますよ。
但し、シミュレーションは、あくまで仮想で有って現実ではありません。
相手が有ることですから、相手の出方によってはこちらも対応を変えなければなりません。」
「確かにそうだな。
ステージ1の3番目ぐらいまではさほど難しくも無いが、それ以降はいろいろと難しい想定が含まれているようだな。
因みに、ラストステージになるとどんなふうになるんだ?」
「敵もほぼ同程度の能力を有する艦を投入してきます。
ですから如何にうまく艦を、或いは艦隊を、動かすかが勝負の分かれ目になりますね。」
「ほう、では中尉はいずれ敵も同様の装備を持つと考えているのか?」
「ええ、時間の差こそあれ、いずれ帝国側も新規開発の装備艦を繰り出してくるでしょうね。
こちらでは考えてもいない兵器も開発中かも知れません。」
「想定されるのはどんなものがある?」
「そうですねぇ・・・・。
例えば、軌道衛星に搭載している要塞砲を超大型にした物とか・・・。
動力は、至近の恒星エネルギーを使うものや、ソーラーエネルギーそのものを兵器に利用する手もありそうですね。
どちらもあまり動かしたりできるものではないので、主として防衛兵器になるでしょうけれど。
「ソーラーエネルギー?
一体どうやって?」
「単純に反射鏡を多数並べて収束させれば強烈なエネルギー光子になります。
左程大きくも無い反射炉でさえ1万度の高熱にも達しますからね。
砲として見た場合には数百万メガラス相当の出力は簡単に得られます。
実現するには照準と収束が難しい筈ですけれど、現存する技術力でできないわけではないと思いますよ。
ただ、費用対効果を考えると余り効率的とは言えないでしょうね。
場所を特定されて遠距離から多数の隕石群でもぶつけられれば敢え無く崩壊する可能性が高いですから。」
「うーむ、いずれにしろ、改造の件は中尉に任せる。
俺が口を挟んだところで上手い手が生まれるとは思えない。
まぁ、艦隊装備技術本部も了承していることだし、もし失敗したら俺が責任は取ってやるよ。
そうすると、改造の完工予定日は来月初旬か?」
「はい、その頃になる予定です。
先ほど言った動力バッテリー以外は、部品調達も目途が立っていますので。
工事に余程の問題が生じない限り、完工日は9月初旬になります。」
新任航海長は、若いながらも新たに配属になった乗員への受けも良く、艦長が着任した時には既に全員を掌握していた。
8月17日の時点でサンパブロに発令された者で未着の人員は機関長のみであった。
9月4日、快速輸送艦がハーベン基地を訪れ、4基の動力バッテリーを置いて行った。
動力バッテリー4基は慎重に搬入され、所定の位置に設置され、サンパブロの改造は若干の手直しを残してほぼ完了していた。
9月10日には、工廠支部長を乗艦させて、試験航宙に出ることになっている。
8日、9日はスティーブも初めて上陸休暇を貰って、私的にハベロンに降り立ったのだった。
一つには、宿舎の確認もあった。
妻帯しているわけではないので必ずしも宿舎はいらなかったのだが、艦長から苦言を呈されたのである。
航海長は、乗員全ての行動を律する立場にある。
その航海長が船内居住では、他の乗員の気の休まる時が無いだろうと言われたのである。
そのためにスティーブも宿舎を借りることにしたのである。
士官用宿舎は、ハベロン基地の中でも比較的広いスペースを与えられている。
寝室4つに居間と食堂それに付帯設備である。
エアカーの駐機場も整備されており、少なくとも1台は自家用車が保有できそうである。
ハベロン基地は、中規模辺境星系の基地であるが100番台でもあり中規模辺境星系の中では平均的な規模である。
これが二桁番台の基地であると今少し大きな基地になる。
従って、ペテロ艦長の前任地であり、再任地でもある第87管区サーカス星系の基地はハベロンよりも一回り大きな基地になるだろう。
それでも、ハベロンはケレンディスよりもかなり長い歴史が有り、大きな都市ではあるのだ。
スティーブは、宿舎の間取りを確認した後、ハベロンの繁華街にある老舗のデパートに行き、家具、調度品、食器、什器、調理道具などをまとめて購入した。
総額で10万クレジットを超える購入は、流石に近年にない上客になることもあって、デパート側は、翌日午前中には宿舎への搬入、設置を請け負ってくれた。
昼食は、デパートの近くにあるハーベイ・ロイヤル・ホテルの最上階で
久しぶりの本物の料理は中々に美味しいものであった。
料理が気に入ったことも有って、スティーブはその日このホテルに宿泊することを決めたのである。
昼食後、ホテルを出て、セントラルパークに脚を運んだ。
ここはハベロン創設当時から計画的に設置された500万平方ヤールもある広大な緑地帯であり、公園や運動競技場、遊園地などが種々配置され、市民の憩いの場にもなっている。
小さな丘や林、池などが優雅に配置され、初春の緑がとても綺麗である。
もう一月もすればアイミスという樹木が濃い桃色の花を咲かせるはずである。
ケレンでは秋口であったのだが、ハーベイでは暦が違うためこれから春を迎える。
共和連合標準時では午前3時を少し回った時間であるが、ハベロンでは太陽がまだ高い位置にある。
ハーベイに月はないが、その代わりに氷の円環を持った惑星である。
赤道のはるか上空を17重の氷のリングが取り巻いているのである。
この円環が定期的に気候変動をもたらす。
春分点及び秋分点では円環平面はハーベイの太陽dM32に対して一直線になり、モーデスに比べるとやや青味を帯びた太陽光はそのまま地表に降り注ぐ。
しかしながら、春分点を過ぎると円環が反射鏡の役目を果たし北半球に過剰な熱量を加え、その逆に南半球の一部はリングの陰になって熱量を奪われる地域が出てくる。
秋分点を過ぎると南北半球はその逆の気候になる。
つまりは、夏は暑く、冬は寒い気候なのである。
一方で円環の反射光は夏の夜の暗闇を薄暮に変えてしまう。
冬場は乱反射した円環の光が暗く淡い虹色に輝き、ここでしか見られない幻想的な景観を出現させる。
現在は春分点に近いため、円環は日中の光の中で隠れて見えないが、初夏に入る頃には輝きを増して日中でも虚空に浮かぶ白い円弧を地上で見られることになる。
道行く家族連れやアベックの姿も久しぶりに眺めると実に微笑ましい光景である。
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