第17話 軍都派遣 その四
艦装本部の二人が居なくなると、ペテロが独り言のように呟いた。
「さてと、乗員を上陸許可にしてもいいんだが、本艦の予定がわからんな。
どうするかだが・・・・。」
すかさずスティーブが言った。
「僕を除いて、艦長ほか乗組員一同は、予定通り、明日にはサンワーズ基地に出向いて到着の正式挨拶をしておくべきでしょう。
その際に統合司令本部から何か言って来ると思います。
その予定を聞いてから、艦の予定を決めた方が良いのじゃないですか?」
「おいおい、指令ではサンワーズ基地に全員出頭することになっているが、スティーブは行かないつもりか?」
「さっきの話では、最優先事項は新型装備の実現です。
サンワーズ基地に行って戻ったらそれだけで多分午前中の仕事ができません。
ですから、艦長から伝えてください。
僕は、艦装本部からの依頼で、新型装置が機能しない原因を探り、必要な対策をとっていると伝えてください。」
「しかし、挨拶ぐらい・・・。」
「予定では、朝8時にはネリス中尉が迎えに来ます。
ドックに行って実物や図面を見て、確認できたなら、部品の調達に行かねばならないでしょう。
その合間に基地に御挨拶なんてとても余裕はないですよ。
それとも朝の8時までに挨拶を済ませますか?」
「うーん、そいつは到底無理だな。
統合本部オペレーションの当直班長に挨拶をすればいいというものでもないだろう。
幹部連中が揃うのは早くても9時以降だろうな。
朝の幹部会議もあるだろうし、普通は10時以降に挨拶に行くべきだ。」
「でしょう?
挨拶も大事ですが、優先事項が決められている以上はそれに従うしかありません。
ジャマンだって、多分半月も何もしないでいるわけには行かないでしょうから、色々とオーダーが来るはずですよ。
それこそ、ジャック少佐が言っていたジャマンの性能披露と訓練研修の教官役が回ってくるはずです。
性能披露はひょっとすると数回しなければならないかも知れません。
ジャマンは狭いですからね。
一度に沢山は載せられません。
統合参謀本部幕僚長一行が乗って来たときに恥ずかしくないよう精々掃除をしておくべきですね。」
ペテロは慌てた。
「おいおい、幕僚長がこのぼろ船に載って来るって言うのか?
まさか冗談だろう。」
「ぼろ船であれ何であれ、敵機動部隊を丸ごと一つ
本部長が共和連合首長級会議の対策でモーデスに赴いていなければ、本部長も来艦のお考えをお持ちだったかもしれません。
そうして来て観て、驚くのでしょうね。
何で、このぼろ船で機動部隊がやっつけられるのかって。
でも事実だから仕方がない。
プレゼンができるように案を作っておきましたので、艦長が目を通して手直ししておいてください。
ひょっとすると、ここしばらくは艦長の毎日の主な仕事がプレゼンになるかもしれません。」
ペテロは思わず寒気を覚えた。
幹部それもベタ金をつけた将官クラスを相手にプレゼンなどしたくも無い。
だが、スティーブがドックに掛かりきりならば、他のたたき上げの准尉に任せるわけにも行くまい。
ペテロは思わずがっくりとしてしまった。
翌朝、朝食を終えると慌ただしくスティーブは出て行った。
7時半にはネリス中尉が舷側にまで迎えに来ていたからである。
二人は工廠二番ドックに向かい、そこで必要な確認を行うのである。
スティーブのところには、昨夜、大量のデータが送りつけられていた。
その処理に夜遅くまでスティーブは起きていたようだった。
宙軍大を卒業してまだ二か月、本来新任少尉ができることではないのだが、そもそも持っている素地が違うのだから仕方がない。
それだけ幹部からも期待されているということだろうとペテロは無理にでも納得することにした。
◇◇◇◇
ネリス中尉は、自分の後輩でありながら
明らかに自分には無い才能を持った男である。
これほど年下でなければ惚れてしまったかもしれない。
ネリス中尉は、29歳の独身である。
相応に美人であるのだが、今のところ、いい男に巡り会っていない。
それなりに声を掛けられてはいるのだが、自分で納得できる相手でなければ付き合いもしないのである。
スティーブがせめてあと四つほども年上で有ったなら、ネリス中尉からモーションを掛けていたかも知れない。
だが、23歳の男と29歳の女では如何にも釣り合わない。
従って、無理にでもスティーブを自分の気持ちから締めだしていた。
そのスティーブの動きは驚くほど迅速であった。
艦の電子書庫に収められている図面を四つのモニターを駆使しながら確認しているのだが途轍もなくその処理が早かった。
図面一枚について僅かに数秒ほどであり、関連する図面の全てを確認するのに精々1時間ほどもかけたであろうか。
それでもネリスがチェックしたならば概要を見るだけでも間違いなく二日ほどかけなければできないほどの量であった。
次いで新型空間センサーを組み込んだ艦橋通信セクターに赴き、スティーブが図面を見ている間に技師に取り外させておいたカバー越しに内部の配線や基盤をチェックし、最終的にいくつかの基盤を取り外させていた。
同じく艦外舷側板に設置されていたサブシールド発生装置を取り外させておいて、現物を確認していた。
機関室に設置されたメインシールド発生装置を同様に確認し、内部の基盤4つを取り外していた。
同じく機関室に設置されていた新型動力バッテリー装置は、ケース内部を一目見て、装置そのものを取り外すように指示したのである。
確かに、バッテリー内部には多少の電子回路はあっても、主体は電子回路ではなく触媒と蓄電用機材からなっている。
その中に奇妙な形で配線がなされ、そこに通電することで大きな電力を産みだす増幅型動力バッテリーだという理論は以前にもスティーブから聞いていた。
但し、電力自体は左程大きなものではなく、遷移エネルギーとしては僅かに0.1光秒分ほどにしかならない。
但し、連続してそのエネルギーが生じるので、動力エネルギーの合計としては、艦備え付けの発電機に比べて桁違いのエネルギーを供給できることになる。
従来型のバッテリーはとにかく貯めに貯めたエネルギーを一気に放出できるようにしているのだが、その分充電時間を必要とし、しかも寿命が1年から2年ほどである。
度重なる充放電は、バッテリーを消耗させ、遂には充電ができなくなるのである。
そもそも従来型のバッテリーは、通常発電機に遷移装置を直結させると発電機の電圧が一瞬の間に低下して、必要な電流が得られないことになるので、その電圧降下を防ぐためのコンデンサー的役割を担っていた。
だが、新型のバッテリーはむしろ発電機にの仕様に近く、放電の度に新たなエネルギーが蓄えられ、その時間が極めて短時間なのである。
概ね200分の1秒の時間で復帰できるし、バッテリーに特有の充放電によるへたりが無いのが特徴である。
但し、偵察艦と違い、巡洋航宙艦の質量が大きいため、所要の遷移エネルギーを出すために質量比の平方根程度、つまりはジャマンに搭載されている新型バッテリーの20倍程度の大きさになっていた。
その計算方式は、スティーブが設計図に付けておいたものであるから、おそらくはその通り造っているはずなのだが、スティーブは一目見るなり、これは使えないと言って却下したのである。
ネリスには何が悪いのかは全く判別できなかった。
新型砲弾はドックではなく、軌道衛星内の兵器庫に保管されていたが、そこに出向いて、弾頭部に取り付けられた装置を見るや否や、同様にこれは使えないから全て取り外してくれとその場で指示をしたのである。
あちらこちらを急ぎ足で回ったのではあるが、10時過ぎには全ての確認作業が終わっていた。
スティーブは、ネリス中尉に言った。
「空間センサーは取り外した基盤については完全に作り替える必要があります。
重水晶発振器の精度が余りに酷いので、他の回路が影響を受けて既に障害になる可能性があるほど耐久性が低下しています。
できれば残っている他の基盤も新替えしておいた方が無難です。
因みに僕が取り外した基盤については部品の再使用もできません。
重層シールドはサブシールド発生装置の一部の部品に問題が有ります。
全部取り外してください。
但し、この部品の問題部分を除けば再利用できますので、できるだけ壊さないように回収をお願いします。
メインシールド発生装置も取り外した基盤4枚に問題が有ります。
センサーの場合と同様、既に試験通電段階でダメージを受けていますので、新たに作り直す必要があります。
動力炉バッテリーは、廃棄してください。
内部素材の純度が明らかに低すぎます。
純度が高いものはもっと青味を帯びたものになります。
仕入れ先は、納品書で見る限りフェルミ社のようですが、ナインファイブも怪しい出来ですし、表面加工も仕様通りにきちんとできていない。
よくこんなものを持ち込んだものだと呆れます。
これは完全に作り直します。
それから、ビーム砲弾頭に付ける増幅装置ですが、今のままでは何の役にも立ちません。
試作品は全て廃棄してください。
一から作り直した方が間違いありません。
テスト用に500、350、300、250、200、100、50それに20メガラスの各砲弾4基を準備していただけますか、取り敢えず、各砲弾用の増幅装置を作ってみます。
但し、準備ができるのに多分5日はかかると思いますので、それからで結構です。
で、これから部品集めに地上に行かねばなりませんが、調達担当者とは連絡が取れますか?」
ネリスは懸命にメモを取っていたが、顔を上げるとスティーブに言った。
「ええ、まさか午前中に確認が終わるとは思っていなかったけれど、午前中にも声がかかるかもしれないから準備しておいて欲しいとは言ってある。
今からここを出発して、11時過ぎにはサンワーズ基地内の調達部で落ち合えると思うわ。
運転手つきの官用車も準備してある。」
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