第16話 軍都派遣 その三
「事故調査委員会の報告ではそのようになっているようですね。
でも、実際には、ドック後の試運転中に起きた機器の故障による事故です。
回収されたデータ解析ボックスがそれを証明しているはずです。
但し、データ解析ボックスは回収されて一旦は事故調査委員会の手に渡されながら、何故か途中でその所在が不明となっています。
でも、その電磁記録はコードB20512-1100983に封印されて残されています。
当時事故調査委員会のメンバーだったレビス・コラン氏が担当者で、分析のために一時保管したデータです。
事故調査委員会のフォルダーではなく、彼が所属していた宇宙開発省のバックアップフォルダーに残っていました。
事故調査委員会のフォルダーにもコピーが有ったはずですけれど、多分そちらの方は消されているでしょう。
データから見る限り、メルヴィルは動力源の遮断で操船不能に陥っていたことが明らかです。
メルヴィルがドックに入った理由は、一時的な過負荷によって配電盤の焼損が起きたことにより配電盤の一部を新替換装するためだったのですが、メルヴィルの配電盤に使われていた機材は20年前のものであり、ライトニング社は同等製品として自動制御ロック機能が付加された部品DD302497を提供しました。
但し、4つある配電盤の内三つは旧型の部品を使っており、試運転中におそらく他の部品との共振又は干渉が発生したのでしょう。
旧型部品の三つの重要回路が破壊され、同時にDD302497も自動ロックがかかってしまい、動力源は異常がないのに、電力を喪失し、一切の操作が出来なくなってしまったのです。
ブラックボックスは電源喪失後も内臓電池で記録を取っていますから、艦橋の様子も乗員が何をしようとしていたかも明確にわかります。
この事故での生存者は有りませんでした。
データ解析ボックスに真実が秘められていることを知った一部の者が、隠蔽工作を行い、事実を捻じ曲げたようです。
裏でどのような工作が行われたかは知りません。
因みに宇宙開発省出身の調査員レビス・コラン氏は、調査結果が出るかなり前に交通事故で死亡しています。
原因は、彼が運転していたエアカーの自動管制装置の誤作動て引き起されたレーン逸脱によって陸橋支柱脚へ衝突したこととされています。
因みに当該管制装置のメーカーはライトニング社であったようです。」
「少尉、・・・。
一体、何が言いたい?」
「何も、・・・。
ただ、事実を述べているだけです。
ジョーダン中佐でも入手できるデータの有り場所を提供しただけの事です。
ライトニング社のDD302497は、この事故の後、市場から完全に姿を消しました。
元々できたばかりの品であったので販売数も少なく僅かに民間向けに5件だけ、それも半年以内に全て回収されたようです。
その回収理由は公開されていません。
ほかにもそうした例が無いわけではありませんが、いずれにせよ、お手盛り業者の同等品と呼ばれるものが重大事故を招きかねないということだけを申し上げておきます。」
「うむ、メルヴィルの事件は5年前だし、門外漢の我々が口を挟むわけにも行くまい。
いずれにしろ、目下の懸案事項は、ジャマン搭載の新型装置のコピー製造だ。
何せ統合参謀本部幕僚長の意向を受けた艦装本部長直々の指示だ。
それを片づけないことにはどうにもならん。
先ほどの話では、工廠で製造した装置を見れば原因の特定ができるということだな?」
「ええ、その通りです。
僕が指定したナインナインの精度が必要な部材として先ほど言った4社の製品が使用されていれば、間違いなくそれが原因です。
それと、設計図で指定した以外の別の同等製品が使用されていれば、それも原因の一つです。」
「ふむぅ、わかった。
今日中には納品先と同等製品が使われているのかどうかは、納品明細で調べておこう。」
「その方が助かりますね。
お願いします。」
「で、仮に原因がそれとして、新たに部品を入手して手直しするのにどの程度時間がかかるのか見込みだけでも教えてもらえんか?」
「特注品ですので部品の手配だけでも多分明日から最低でも三日ぐらいは見て頂いた方がいいですね。
上手くすれば一日で製造依頼だけはできるかもしれませんが、相手の有ることですし、相手の都合も配慮しなければなりません。
実際に納入となると・・・。
受注を受けてから2日から1週間程度、それも試験的に製造できる程度の量と考えてください。
大量の発注は今の時点では無理だと思います。
部品の手配の際には、できれば調達担当の方を一人付けて頂けますか?
それと官用者を一台。
カスケロン市の郊外を少なくとも4か所は回らなければなりませんから。」
「わかった。
運転手つきで手配する。
それと調達担当者に加えて、ネリス中尉にも同行してもらうが構わないか?」
「僕の方は構いませんが、中尉の御都合は大丈夫ですか?」
「さっきも言ったが、これは艦装本部の最優先事項だ。
他のどんな仕事を差し置いても、達成しなければならんのだ。」
「わかりました。
ところで、装備を取り付ける実験艦はどの船になっているのですか?」
「20日ほど前に竣工したばかりの巡洋航宙艦CT1092だ。
今、この軌道衛星のドックに入っている。
本来ならば、既にドックを離れていなければならないんだが、新型装置のために試験航宙を停めている。」
「なるほど、巡洋航宙艦ですか。
ビーム砲は200メガラス?
それとも250メガラスですか?」
「主砲は250メガラス、副砲で100メガラスと20メガラスが装備されている。」
「200メガラスまでの設計図はお渡ししていたけれど、更に口径の大きなものも準備しなければなりませんね。
それと、重層シールドの端末装置は施工計画に従って25平方ヤールごとに1個の割合で装備されていますか?」
「ああ、そちらは間違いがない。
だが、そのまま使えるのか?」
「多分、メインの発生器の一部手直しが必要ですし、分散して設置してあるサブシールド発生端末装置は一旦全部取り外していただかねばなりませんね。」
「全部、取り外すのか?
500個近くも有るんだぞ。」
「役に立たないものを付けておいても仕方がないでしょう。
それと当該艦のデズマン駆動機関の出力及び動力機関の出力を教えてもらえますか?
できれば余剰電力と最大負荷試験の成績結果がわかっていればそれもお願いします。」
「うーん、それも今手元には無い。
ドックに行けばあるはずだ。」
「ではそれも後で教えてください。
出来れば今夜中に再計算をしてみますので。」
ジョーダン中佐は呆れた顔をしていたが、なおもスティーブが追い打ちをかけた。
「高次空間センサーの方は、現在実験艦に取り付けられている通常型センサーと同期しなければ意味がありません。
センサーの図面と詳細仕様及び施工図をできればお願いします。
こちらの方は明日でも構いません。」
「少尉、ちょっと待ってくれ。
既存のセンサーは、どんなものでも構わないのじゃないのか?」
「ええ、まぁ、新型センサーは、一応既存のセンサーとは別物です。
でも実際に使う側にとってみれば、一緒に扱える方がいいと思いますよ。
艦のセンサー担当要員はビアク人かメルデル人でしょう?
彼らなら在来型センサーと同期して一つの画面表示ができます。
でも機種によっては、彼らも扱いにくい物が有るんです。」
「確かに、ビアク人とメルデル人が両方乗っている。
まさか人種によっても違うと言うのじゃあるまいな。」
「厳密に言えばそうです。
メルデル人は空間認識に長けていますが、ビアク人の方はそうでもない。
一方でビアク人の方が反応は早いのですが、メルデル人の方はさほど機敏ではない。」
「まさか、・・・。
ビアク人よりもメルデル人の方が余程機敏に活動しているぞ。」
「ジョーダン中佐の言っているのは普段の身体の動きを指して言っておられるのでしょうが、僕の言っているのはいずれも精神面なんです。
だから、二種族を同時に使うのが最も賢いやり方です。
彼らは必要に応じてテレパスで協力動作が出来ますからね。
尤も、ビアク人とメルデル人は互いに忌み嫌っているから、仲良くさせるのが大変かもしれません。」
「うーん・・・。
で、
「工廠技師の働き具合にもよりますが、先ずは工事を開始してから最低でも10日前後はかかるというところでしょうか。」
「三交代で24時間稼働した場合は?」
「作業工程はさほど変わらないのですが、まぁ、二日ほど短縮できるだけでしょうね。」
「では、早くて8日と言うところだな。」
「ええ、ですが、肝心の部品が入手できなければ工事は始められません。
それに交代制の場合、引き継ぎが上手くできないと
むしろ専従制で過労にならないよう着実に施工した方が間違いないと思います。
今度失敗しましたら、お二人とも今後の昇進が遅れることになりますよ。
まぁ、明日現物を確認したら、ドックですぐにやれることは不要物の取り外しだけでしょうね。
あ、それとサブセンサーはできるだけ壊さないように取り外してください。
500個も新たに造るとなると大変ですから、使えるならそのまま一部の部品を流用します。」
「うーん、できるだけ早めることはできんのか。
何せ、既に1か月以上も出遅れているんだ。」
「無理ですよ。
下手に急がせたらそれこそ事故の元になります。
偵察艦と違って規模が大きいですからね。
部品調達から完工まで、トータルで最低でも15日ぐらい見ておいた方が宜しいののではないでしょうか。」
余程期待していたらしくがっくりと首をうなだれたジョーダン中佐であった。
「止むを得ん。
それで期待通りの物ができるならそうしよう。
早速に本部に戻って君の言うデータを集めて送ることにしよう。」
翌日のスケジュールを打ち合わせた後、ジョーダン中佐とネリス中尉は慌ただしく船を去って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます