第14話 軍都派遣 その一
翌日、1030までに乗組員は、全員艦に戻っていた。
使用した新型砲弾8発については、昨日入港した際に補給を終えている。
核融合燃料も3割程度の消耗で、少なくとも無補給で1年は稼働できるはずだ。
但し、食料の方はそうは行かない。
そちらもスティーブとダレスが手分けして確保していた。
生鮮食料品はスティーブが10回の夕食分を、保存食料はダレスが出入りの船食代理店を通じて今回
ジャマンは予定通り1130に基地を出港した。
スティーブが選んだ予定航宙路は商船航路を徹底的に避けていた。
その上で、毎秒100回の遷移を繰り返す航法を採用したのである。
但し、2光年以内に艦船が存在する場合は、
出港と同時に毎秒48ギムヤールの速度まで加速を続け、その速度を2時間弱維持して遷移に入るのである。
コムロ推進機関では7Gまでの加速度が精いっぱいであるが、通常通り4Gの加速度で出港から30分弱でその速度に達することになる。
更に2時間を要するのだから、基地出港から遷移までには2時間半を要することになるのだ。
少なくとも1光秒、2億2000万ヤールほど居住惑星から離れなければ遷移の影響が惑星に及ぶとされているので、宙軍はその5割増しの運用を図っているからである。
但し、緊急の場合はそれよりも近い距離での遷移も行うことが許されている。
0.5光秒以下の距離で遷移を強行した場合、遷移質量にもよるが居住惑星の交通・通信網に大きな被害を与える場合があるとされているのである。
民間船の場合は、安全装置が働き、居住惑星から3光秒以内の範囲には遷移できないようになっている。
宙軍の場合にも居住惑星の1.5光秒以内からの遷移若しくは以内への遷移は自動装置が働くが、艦長の判断により制限解除が可能なのである。
いずれにせよ、ジャマンは2時間半後長距離の連続遷移に入った。
ジャマンは毎秒100回の0.1光時の遷移を繰り返し、1時間で約4光年を踏破するため、1日で100光年近くを移動できるのである。
但し、自動とは言え、30光年以内の範囲で周囲の監視を怠ることはできない。
民間船を含めて極近傍に遷移した時に大きな弊害をもたらす可能性があるからである。
重力圏のある惑星近傍は空間構造震の影響は減衰されて、さほど大きくは無く、無重量空間の30分の1ほどになる。
だが、無重力空間では遷移出現点の5光秒以内、遷移出発点の2光秒以内では空間のねじれ等を体現することになる。
従って、通常の遷移では出現点付近の様子を確認して遷移を行うことになっているのである。
通常航法では1時間の余裕があるが、ジャマンは次の遷移まで僅かに100分の1秒である。
仮にセンサーが機能していたにしても、カブス人の感応能力をもってしてもその短い間にセンサーから周囲の状況を全て読み取ることは不可能である。
従って30光年の新型センサーをフル稼働させて周囲を確認すると同時に、万が一の場合に備えてスティーブが自動プログラムで遷移を中断させるようにしたのである。
意外と自動中断は頻繁に発生した。
1日目は5回、2日目は3回、3日目には16回を数えた。
そのたびに、予定航宙路を変更し、遷移を続行するのだが変更作業だけで概ね30分程を要し、1日目で86光年、2日目で92光年、3日目で65光年を稼いだが、残り30光年ばかりになって、連続遷移は非常に難しくなった。
共和連合中心部は流石に交通量が多いのである。
航路をどのように変えようが連続での遷移は難しいと判断されたのである。
それにカスケード星から20光年の宙域に入れば管制を受けることが必要になる。
そのため可能な限り連続遷移を行ってカスケードから24光年まで接近、そこからは通常航法に切り替えた。
ケレン基地を出港して4日目、船内時間で午前4時少し前、ジャマンはカスケード星から19.8光年の距離に至って、カスケード星系の管制と連絡をとった。
管制圏内は、ほぼ2光年に一つの航路管制サテライトがあり、バースト通信による管制が実施されている。
管制官から「暫く待て」という通信を受け取ってから2時間30分後、ジャマンに最優先での航宙を認めることになったとして、39か所の遷移点と時間を指定してきた。
遷移時間は秒単位まで指定され、有余は±3秒しか与えられていない。
管制官からは、時間を厳守で遷移を行なうようにと指示してきたのである。
むろん、最後の2光秒ほどは遷移なしの通常航法で機動衛星に到達しなければならない。
その際の速度針路も細かく指定された。
たかが偵察艦のために管制がこれほどの便宜を図らうとはとても思えない。
この裏に、宙軍本部若しくは統合参謀本部の思惑があると見て間違いないだろう。
とにもかくにも、管制に従えば、余すところ残り50時間足らずで、ジャマンは6日目の夜までには軌道衛星に辿り着けそうである。
地上に有るサンワーズ基地には軌道衛星から半時間もあれば着けるだろう。
何とか指定された期限までに目的地に無事に辿りつけそうなので、ペテロはほっとしていた。
ペテロは出発前の慌ただしい中でのスティーブとの会話を思い出していた。
「艦長、その情報は正式に伝えられた情報ですか?」
「いや、多分正式ではない。
基地長がここだけの話と念を押していたからな。」
「そうですか・・・。
では、多分、基地長と同期生のカンダル少佐からの非公式情報でしょうね。
そうであれば、こちらから連絡を取るわけにも行かないですよねぇ。
艦装本部が内々で事を進めているのであれば、それを正式に聞くまではこちらからは何もできない。
わざわざカスケードまで出向く必要もないことなのだけれど・・・。」
「というと、工廠で新型装備が開発できない理由に何か思い当たる節があるのか?」
スティーブはやや
「ええ、まぁ、直接話を聞かなければ断定はできませんけれど、多分、こちらで指定した材料が入手できないんでしょう。
出入り業者に不良製品を
多分そんなところでしょうね。
大きくなり過ぎた組織の
艦装本部も官僚主義に
これまで
もし、指定通りに作って機能しないということなら、工廠御用達の業者かまたは工廠技師が余程の能無しだからです。
本来であれば、工廠が自分で作ればいいのに、何でもかんでも御用達業者に任せっぱなしにするから、出来上がったものがいい加減なものになる。
僕が指定した仕様書では、純度がナインナインの材料がいくつかあるんですが、それをクリアしていない材料を多分納入しているんだと思います。
工廠のお抱え業者的存在は、ライトニング社、ベリーズ社、ゲイン社それにフェルミ社の4大財閥系列ですが、それらの会社では僕の指定するナインナインの製品は納入できない筈です。
大体がナインシックスの測定がようやくできるぐらいの能力しか持っていないのに、ナインナインの製品ができるわけがないんです。
外注してみるとかの柔軟な対応がとれる会社ならまだしも、中途半端に自負心を持っているから始末に負えない。
先日のジャマンの配電盤の不具合だって彼らが元凶です。
本来の要求通りの製品を作っていれば何も問題はないはずなのに、様子の分からない艦装技術者を説き伏せて汎用品を買わせている。
艦装本部でも高い品を購入するよりも安く済めばいいと安易に考えている。
現場の乗組員がそれで苦労しているとは誰も考えていないはずです。
ネリス中尉にはナインナインじゃないと正常に機能しませんよと念をしたんですけれどね。
彼女は調達担当じゃないし、納品検査の担当でもない。
艦装本部も測定ぐらい自分でできればいいのだけれど、それもできないのでしょう。
業者がそうだと言えば信じるしかないんでしょうね。」
「しかし、名の知れた財閥系の会社が造れないものを一体誰が造れるんだ?」
「名が知られていなくても、優秀な技術者を抱えている会社はいくつでもありますよ。
現実に、僕が造った装備の主要な構成材料は、全部カスケードで入手した物です。
だから艦装本部の人達もその気になれば見つけられるはずなんですが・・・。」
「ふむ、では、その件は納品材料を確かめてから業者を紹介すれば事足りるかな?」
「ええ、まぁ、製造は可能なんですが、すぐに大量生産と言うわけには行かないかも知れませんね。
何しろ大規模な製造所とはとても言えないですから。」
「宙軍艦艇全部を集めても精々3千隻ほど、大量生産するほどの事も無いだろう。」
「ええ、まぁ、センサーは各艦1台で済むでしょうね。
でもシールド発生装置のサブセンサーは、ジャマンに取り付けただけでも100個近くになります。
超弩級艦や航宙空母などは少なくとも数千個から数万個が必要になりますから、多分トータルで言えば100万個近い部品が必要です。
それに改装弾頭は備蓄分を含めるとかなりの数になるんじゃないですか?」
「おう、そう言えば、うちの基地だけでも300個近く在庫があったな。
その内の100個ばかりを改装しただけだったが・・・。
確かに巡洋航宙艦の搭載主砲弾だけでも備蓄を含めると一艦当たり千発を超えているはずだ。」
「実際に一発必中であればそれほど多数の主砲弾を持つ必要は無いのですけれどね。
宙軍は過剰なほど武器や弾を持たせる傾向にありますから。
まぁ、1隻について在庫を含めて当面50発の割り当てとしても15万発分の装備が必要な訳です。
やはり大量生産をする必要はあるでしょうね。」
「ふーん、まぁ、そっちの話は取り敢えず艦装本部の調達で数を決めるだろう。
もう一つのシミュレーションの話はどうだ?」
「シミュレーション・プログラムは可能ですよ。
既存の『コンバットΩ』を少し改訂するだけで、色々な場面での運用をシミュレートできると思います。」
「改訂に要する時間は?」
「まぁ、半日もあればかなりの改訂ができるでしょう。」
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