第11話 偵察艦ジャマンの改装とその結果

「ふむうう・・・。

 もう一つのビーム砲弾の改良は?」


「ビーム砲弾は、ご承知のようにプラズマ状の素粒子を封じ込めたものであり、信管を作動させることにより、一定方向に高エネルギーの粒子を収束して発射できます。

但し、封じ込めるプラズマ素粒子の量により威力が異なります。

エネルギー量が増えるにしたがってどうしても筐体(きょうたい)が大きくなる代物です。

 単純にエネルギー量を増やすとなればビーム砲の換装が必要となりますので、そうではなくプラズマ粒子の増幅と加速を考えました。

 プラズマ粒子は光の速度の98%で発射されますが、これを光速以上に加速できれば、同じ量でも慣性質量が増してエネルギーが増大することが予想されます。

 弾頭に小さな装置を付加することで、プラズマ粒子を加速することが可能だと考えています。

 単純に申し上げれば発射と同時に、瞬間的に発生する閉塞磁場によるレンズ効果でプラズマ励起を増幅し、同時にトンネル効果でプラズマ粒子の流れを収束して加速するんですが、光速の200%程度に加速することが出来れば、現状のビーム砲弾の威力を8倍程度若しくはそれ以上に高めることが可能だと考えています。

 ビーム砲自体に加速装置を装着できれば一番良いのですが、残念ながらその場合装置が大きくなり過ぎる上に、大規模改造になって工期もかなり長いものになってしまいます。 

 ですから、使い捨ての装置を考案してみました。

 費用も一発あたり50クレジット程度に収まります。」


「つまり、何か?

 ジャマンの50メガラスビーム砲を400メガラス砲の威力に替えられるということか?」


「簡単に言うとそう云うことになります。

 但し、射程距離は逆に短くなることが予想されます。

 プラズマ粒子とは言っても、光とは違います。

 空間での抵抗は速度が大きければ大きいほど増大しますので射程距離はこれまでの5分の1から10分の1程度になるんじゃないかと思って居ます。」


「うーん、何とも途方もないことを考え付く奴だな。

 お前は・・・。

 一体どういう頭の構造をしているんだ。

 まぁ、判った。

 俺が持っていても仕方がないから、とにかく艦装本部に上申してみる。

 星系本部や管区本部を通していたら、時間が掛かりすぎるだろうから、正式ルートとは別に艦装本部の知り合いにコピーを送っておこう。

 上手くすれば手続きが早まるかもしれない。」


 基地長の言葉通り、正規の手続きで有れば少なくとも10日以上かかる筈だったが、非公式に艦装本部から管区本部に逆打診がなされたお蔭で、星系本部も管区本部からせっつかれ、実質三日で艦装本部から正式許可が降りたのである。

 このため4日目からは半舷上陸として作業員を確保する羽目になったのである。


 何しろ、艦装本部から極秘扱いで指示が来ているから当該改装工事には一切の外部業者を入れることができないのである。

 新たなセンサー、感応モニター及び関連する電子計算機の装備は、驚くほど小型であった。


 何しろそのほとんどがスティーブ少尉の部屋にあるクローゼット内のプラムクルの容器数個に収められていたものであるから、さほどに嵩張るかさばる代物で有る筈もなかった。

 それらの小さな装置は、船橋の隘部あいぶでこれまではごみが溜まるだけのスペースに収まってまだ余裕があった。


 また歪曲重層シールドもサブ装置そのものは小指の先ほどの代物であり、取り付け作業自体は左程面倒ではなかったが、船体外板に穴を開けることと、そこからメイン装置まで電路を敷設する工事の方がむしろ手間が掛かったのである。

 50メガラスビーム砲弾の改装は、ドックの技師一人とスティーブが専属で行った。


 基地保管の50メガラスビーム砲弾の四分の一余りに小さな装置を付加するだけのものであったのだが、仮にも砲弾であり、慎重に取り扱われたのだ。

 15日後には、食料備蓄庫と隣接する通路区画及び外板修理も完了し、試運転の運びとなった。


 試運転には艦装本部から企画部補佐官のジョーダン中佐他一名が出向いて立ち会った。

 たまたま、彼らは新造巡洋戦艦の試運転を兼ねた航宙試験に立ち会っていたのであるが、艦装本部からの指示により、急遽予定を変えて、ケレンに立ち寄ったのである。


 ジョーダン少佐は、試運転の5日前からドックに来て、乗員が行っている作業を観察し、あるいは夜遅くまでスティーブ少尉にあれこれと細かい質問をしていたのである。

 その中でどんな話がなされたのかは定かではないが、ドック最終日にはただでさえ狭い機関区域にダレスの身長と胴回りほどの大きさの重量機器が持ち込まれ、配電盤及びデズマン遷移駆動装置と太い電路でつながれた。


 同装置は、ドック長に了解を得て、ドック内に有った機材とスティーブの保管機材を組み合わせて造られたものである。

 スティーブがドック期間中の後半はほとんどこの作業に掛かりきりであったのを乗員は知っている。


 同時に、操舵コンソールの偵察モードボタンの隣に新たなボタンが取り付けられたのである。

 ジャマンの試運転には、最新鋭の巡洋戦艦が立ち会うことになっている。

 

 先月初旬に竣工したばかりの艦で、350メガラスの二連装砲塔3基を有し、乗員は1500人と宙軍でも代表的な大型艦である。

 巡洋戦艦一隻の値段で100隻ほどの偵察艦ができるはずである。


 ケレン基地停泊中の戦艦の乗組員に特段の仕事があるわけでもなく、5日間の停泊期間中、シャトルは満員で24時間稼働して地上と基地の間を往復した。

 艦長が、艦の乗員四分の一を残して上陸許可を出したためである。


 このため毎日1000人以上の乗員が地上に降り立つことになったため、ケレンディス中心街にある繁華街は時ならぬ大勢の軍人さんで溢れたものである。

 毎夜、飲み屋街で数件のトラブルがあったようにも聞いている。


 その多くは、ケレンディス在駐の陸軍部隊や海兵隊との悶着もんちゃくであったようだ。


 ◇◇◇◇


 航宙試験当日、ジャマンとともにその巡洋戦艦コルベスも基地近傍の停泊場所から出港した。

 ジョーダン少佐は巡洋戦艦コルベスに乗艦、随行してきたネリス中尉がジャマンに乗艦した。

 

 ネリス中尉は因みにペテロ艦長より一期先輩の女性軍人である。

 試験そのものは、予想をはるかに上回る好結果で終了したが、関係者には厳重な箝口令かんこうれいが敷かれて、その内容が漏れることは無かった。


 何しろコルベス艦長のヘリック大佐と艦装本部ジョーダン中佐が二人共に口を揃えて言ったのだ。

 今回の試験結果の一部なりとも外部に漏れた場合は、漏らした者を即刻銃殺刑に処すと断言し、コルベス艦内で乗組員同士が噂をすることすらも禁止されたのである。


 このため関係者は、この件を話題にすることは一切なかった。

 基地長であるジャック少佐にだけはネリス中尉から簡単な報告がなされ、同様に箝口令が敷かれたのである。


 同様にジャマン乗員も艦長の許可が無い限り、船内での話さえも禁止された。


◇◇◇◇


 ジャマンの一部改装から約1カ月、スティーブ少尉が着任してから間もなく2カ月が過ぎようとしている頃、いつものようにジャマンは管内の巡視哨戒に出動した。

 今回は僚艦のTR2012が定期検査のドック修理に入って、運用計画に穴が生じたことから5日間という久方ぶりの長期行動になった。


 因みに、TR2012が復帰するまで全部で3回の5日行動が組まれている。

 ケレン星系基地は、比較的規模の小さな基地であるが、それでも哨戒星域は半径4光年ほどもあり、その星域を48の星区に分けてパトロールを行っている。


 その広い宙域を小型砲艦1隻、偵察艦5隻の陣容で、常時2隻が巡視哨戒に当たっているのである。

 しかしながら、ジャマン乗員には随分と精神的ゆとりが生じていた。


 改装の結果、ジャマンは全く新たな性能を有する軍艦になったからである。

 新たな装備はほんの一部であり、艦齢30年になるその他の装備は、以前として巡視哨戒ごとに故障が発生する厄介物ではあるが、どんな故障が発生してもスティーブ少尉が即座に適切な措置を施してくれる。


 乗員もそのお蔭で随分と勉強になっているのは確かである。

 ジャマンが出港すると必ず実施するのが管内全域の探査である。


 ジャマンが実際に管内全域を通常の手段で巡回しようとすると半月かかっても回りきれないが、新たなセンサーは居ながらにして直径30光年ほどの範囲の遷移を正確に探知できるのである。

 従来型のセンサーでは1光分以上も離れると正確さを欠き、3光分以上では余程大きな船体でなければほとんど感知できなかったのに比べると雲泥の差である。


 そのためにモニタースクリーンの一つが使用されて、常時その範囲を映し出して遷移が把握できるようになっていた。

 遷移の動きはデータとして蓄積され、必要に応じて個別遷移ごとに動きを再現できるようになっている。

 


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