Ep.8 -魔王と勇者は勇者の過去を振り返り中-

 ―――瓦礫に埋まった僕の家族。

 瓦礫の隙間から僕の家族の体のどこかが覗いている。


 辺りはもう炎に包まれて、熱気がすぐそこまで迫ってきている。

 非力な僕が、瓦礫を退けることなんてできるはずもないのに、必死で瓦礫を退けようとして、破片が足や掌に突き刺さっていく。




 やっぱり僕は非力だ。何一つだって守れやしない。僕の家族も、仲の良かった友達も、みんなみんな、瓦礫に押しつぶされて、炎に焼かれて、死んだ。


 生き残ったのは僕だけだった。


 どうして。


 なんで。


 僕だけ、


 生き残ったの。


 どうして、なんで。


 ねえ、


 だれか。


 おしえて。


 だレか、


 こたえて。


「…みんな…」




 あれ、僕ってなんで、生きてるんだっけ。


 そんなあわれむ目でみないで、


 突き放してよ、ぼくを。


 …ぼくを…、


 ぼくって…なんだっけ…?



「あはっ…あはははは、ははは…」


 おかしいな。なにがオモシロいのか分からないのに、なんでだろ。


 かってにわらっちゃうな。



 憎しみだけで動いてちゃ駄目なんだ…。例え、魔族でも…殺しちゃだめなんだ…。


 でも…!

 だけど…っ!

「…噂には聞いていたが、なかなかやるな。勇者」


 溢れ出る殺意を心の中に押し込む。


 僕の目の前にいるのは、僕の故郷を襲った魔族を指揮した、悪魔族のイスタルテ。


 …僕の家族を、友達を、故郷を、思い出を奪った、魔族だ。


 当たらない攻撃にだけ、明確に魔族への殺意を込めて攻撃する。攻撃を当てても殺さないようにするんだ。


「…では、勇者。お手並み拝見といきましょうか」


 イスタルテの姿が消える。僕の後ろを一瞬で取ったイスタルテが僕に斬撃を仕掛ける。

 それを屈んで躱し、回転斬りで反撃をする。当然、当たる筈もない。だから、明確な殺意を込める。

 そうじゃないと、僕の心が壊れてしまうから。




 剣が風を切る音、刀身同士がぶつかり合う金属音。降り出した雨が地面を湿らせて、水溜まりの中に足を踏み入れる音や、泥を蹴る音もそこに加わる。


「…なぜ、攻撃を当てない?」

「…だってそうしたら…また戦争が起きるでしょ…?誰かが大切なものを失うのは…もう嫌なんだ」


 本当は、今すぐにでも殺したい。


 でも、憎しみの連鎖は、何も生まないと知ったから。誰かが断ち切らなきゃ。

 それが…僕だっただけ。心が壊れたっていい。苦しんで死んだって構わない。

 それで、魔族と人間の争いが収まるのなら。



「…まぁ…こんな感じだよ、ルーシー。でも急に聞きたいって言ってきて…どうしたの?」

「…いえ…エリスの事を、知りたかったから…」

「そうなんだ…でも、知らないほうが幸せなことだってあるよ?」

「…えぇ…そうね…」


 過ぎてしまった事。過去はどうしようもない事実だ。変えようのない事だ。


 でも、その事実がどうしようもなく辛かった。


「…エリスは…私たちの事…嫌いになったりしないの…?」

「…今は…もう…大切な人たちだから…さ」

 …本当に、聞くんじゃなった。こんな事。エリスが吐き出して楽になれると決まったわけじゃないのに。


「…過去は変えられないのは…分かってるけどさ。でも…もし、エルノアの皆を、守れていたらって…もっとたくさん、話したかった。もっとたくさん、遊びたかった。もっとみんなと、色んな場所に行ってみたかった。だけど、その行きたかった場所に行けたのは、僕一人だけだったんだ」

「………」

「僕がこんなに引き摺っててさ…よくロカさんにあんなことが言えたよね。…あはは…。…結局、僕は弱いままだから」

 …もし、今。エリスやイスタ、フェルシーやスレーベが死んだら?

 …私はもう、生きていけるような気がしない。だって、皆ともっと一緒に色んな事を体験したいから。

 いつも皆がいて、楽しい日常が続いている。

 それが、唐突に崩壊したら。


 私が過去にしたことは、きっとそう言う事だ。大罪なんかでは済まされない。


 大切な何かを唐突に失うことになるのだから。

 引き摺って当然だ。エリスは弱くなんかない。ロカさんもアンナさんも、死期が何となくわかっていたから、覚悟のような事ができていたのだろう。


「………エリス」

「何?―――わっ…」

 彼に抱き着く。

 この温もりを感じられることが、特別なんだ。


 日常が続く非日常。それは奇蹟の連続で、いつ途切れるか分からないもの。


 日常がいかに幸せで、戦争という非日常が、いかに残酷なものか。


 積み上げたものが壊されるのは一瞬。たった一瞬、戦争になれば、後に残るのは壊された傷跡だけ。


「…エリス…」

「ん?どうしたのルーシー?」

「生きててくれて、ありがとうね」

「あはは…なんか壮大だなぁ。…でも、こちらこそ。生きててありがとう、ルーシー」

「私は貴方に殺されなきゃ死なないわよ?」

「あれ、そうだっけ?」

 こんな日常が続けばいい。ううん、続かせなくてはいけない。エリスと私の使命は、きっと、平和を守り続ける事だから。


 エリスにこれ以上苦しい思いをさせないためにもね。


――――――――

作者's つぶやき:なんて言うか…また?って感じですね。戦争って結構、本当に何も生まなかったりそうじゃなかったり…。

まあ、それはそうとしてエリスくんはあれからよく持ち直せましたよね、本当に。

エリスくんって結構メンタルの修復力が高いんですかね。

あと、日常という非日常っていう、矛盾してる発言もまあ、実は結構気に入ってたりそうじゃなかったりします。

…ラブコメとスローライフってなんだっけ()

――――――――

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