Ep.8 -魔王と勇者は勇者の過去を振り返り中-
―――瓦礫に埋まった僕の家族。
瓦礫の隙間から僕の家族の体のどこかが覗いている。
辺りはもう炎に包まれて、熱気がすぐそこまで迫ってきている。
非力な僕が、瓦礫を退けることなんてできるはずもないのに、必死で瓦礫を退けようとして、破片が足や掌に突き刺さっていく。
やっぱり僕は非力だ。何一つだって守れやしない。僕の家族も、仲の良かった友達も、みんなみんな、瓦礫に押しつぶされて、炎に焼かれて、死んだ。
生き残ったのは僕だけだった。
どうして。
なんで。
僕だけ、
生き残ったの。
どうして、なんで。
ねえ、
だれか。
おしえて。
だレか、
こたえて。
「…みんな…」
あれ、僕ってなんで、生きてるんだっけ。
そんなあわれむ目でみないで、
突き放してよ、ぼくを。
…ぼくを…、
ぼくって…なんだっけ…?
■
「あはっ…あはははは、ははは…」
おかしいな。なにがオモシロいのか分からないのに、なんでだろ。
かってにわらっちゃうな。
■
憎しみだけで動いてちゃ駄目なんだ…。例え、魔族でも…殺しちゃだめなんだ…。
でも…!
だけど…っ!
「…噂には聞いていたが、なかなかやるな。勇者」
溢れ出る殺意を心の中に押し込む。
僕の目の前にいるのは、僕の故郷を襲った魔族を指揮した、悪魔族のイスタルテ。
…僕の家族を、友達を、故郷を、思い出を奪った、魔族だ。
当たらない攻撃にだけ、明確に魔族への殺意を込めて攻撃する。攻撃を当てても殺さないようにするんだ。
「…では、勇者。お手並み拝見といきましょうか」
イスタルテの姿が消える。僕の後ろを一瞬で取ったイスタルテが僕に斬撃を仕掛ける。
それを屈んで躱し、回転斬りで反撃をする。当然、当たる筈もない。だから、明確な殺意を込める。
そうじゃないと、僕の心が壊れてしまうから。
剣が風を切る音、刀身同士がぶつかり合う金属音。降り出した雨が地面を湿らせて、水溜まりの中に足を踏み入れる音や、泥を蹴る音もそこに加わる。
「…なぜ、攻撃を当てない?」
「…だってそうしたら…また戦争が起きるでしょ…?誰かが大切なものを失うのは…もう嫌なんだ」
本当は、今すぐにでも殺したい。
でも、憎しみの連鎖は、何も生まないと知ったから。誰かが断ち切らなきゃ。
それが…僕だっただけ。心が壊れたっていい。苦しんで死んだって構わない。
それで、魔族と人間の争いが収まるのなら。
■
「…まぁ…こんな感じだよ、ルーシー。でも急に聞きたいって言ってきて…どうしたの?」
「…いえ…エリスの事を、知りたかったから…」
「そうなんだ…でも、知らないほうが幸せなことだってあるよ?」
「…えぇ…そうね…」
過ぎてしまった事。過去はどうしようもない事実だ。変えようのない事だ。
でも、その事実がどうしようもなく辛かった。
「…エリスは…私たちの事…嫌いになったりしないの…?」
「…今は…もう…大切な人たちだから…さ」
…本当に、聞くんじゃなった。こんな事。エリスが吐き出して楽になれると決まったわけじゃないのに。
「…過去は変えられないのは…分かってるけどさ。でも…もし、エルノアの皆を、守れていたらって…もっとたくさん、話したかった。もっとたくさん、遊びたかった。もっとみんなと、色んな場所に行ってみたかった。だけど、その行きたかった場所に行けたのは、僕一人だけだったんだ」
「………」
「僕がこんなに引き摺っててさ…よくロカさんにあんなことが言えたよね。…あはは…。…結局、僕は弱いままだから」
…もし、今。エリスやイスタ、フェルシーやスレーベが死んだら?
…私はもう、生きていけるような気がしない。だって、皆ともっと一緒に色んな事を体験したいから。
いつも皆がいて、楽しい日常が続いている。
それが、唐突に崩壊したら。
私が過去にしたことは、きっとそう言う事だ。大罪なんかでは済まされない。
大切な何かを唐突に失うことになるのだから。
引き摺って当然だ。エリスは弱くなんかない。ロカさんもアンナさんも、死期が何となくわかっていたから、覚悟のような事ができていたのだろう。
「………エリス」
「何?―――わっ…」
彼に抱き着く。
この温もりを感じられることが、特別なんだ。
日常が続く非日常。それは奇蹟の連続で、いつ途切れるか分からないもの。
日常がいかに幸せで、戦争という非日常が、いかに残酷なものか。
積み上げたものが壊されるのは一瞬。たった一瞬、戦争になれば、後に残るのは壊された傷跡だけ。
「…エリス…」
「ん?どうしたのルーシー?」
「生きててくれて、ありがとうね」
「あはは…なんか壮大だなぁ。…でも、こちらこそ。生きててありがとう、ルーシー」
「私は貴方に殺されなきゃ死なないわよ?」
「あれ、そうだっけ?」
こんな日常が続けばいい。ううん、続かせなくてはいけない。エリスと私の使命は、きっと、平和を守り続ける事だから。
エリスにこれ以上苦しい思いをさせないためにもね。
――――――――
作者's つぶやき:なんて言うか…また?って感じですね。戦争って結構、本当に何も生まなかったりそうじゃなかったり…。
まあ、それはそうとしてエリスくんはあれからよく持ち直せましたよね、本当に。
エリスくんって結構メンタルの修復力が高いんですかね。
あと、日常という非日常っていう、矛盾してる発言もまあ、実は結構気に入ってたりそうじゃなかったりします。
…ラブコメとスローライフってなんだっけ()
――――――――
よろしければ、応援のハートマークと応援コメントをポチッと、よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます