Ep.7 -魔王と勇者は闘病中の女性と出会う:後編-

「…ロカさん…」

「追いましょう、エリス」

「…いや、ルーシーはこっちに居て、アンナさんが心配だから。追いかけるのは僕が行くよ」

「分かったわ」

「うん、じゃあ行ってくる」

 エリスが玄関から外に出ていくのを見送った後、私もアンナさんの部屋へと向かう。



「…ロカさん」

 平原に生えた木の下に座り込んでいるロカさんに声を掛ける。

「…なんだ…?」

「…回りくどい言い回しはしません、アンナさんの傍に居てください」

「は…?」

「アンナさんは貴方を愛してる。そして、貴方もアンナさんを愛してる。そうでしょう?」

「あ、あぁ…」

「…病める時も愛し合うと誓ったのは、誰と誰ですか」

「…それは…」

「…『愛し合う』のと、『傍に居る』が同じとは言いませんけど…伝えることは、傍に居なければできませんよ」

「…っ!」

 勢いよく立ち上がり、走り出すロカさんの背中をしばらく見て、僕もロカさんの家へと戻る。




 家に帰ると、2階の方から物音が聞こえてきた。

 僕とロカさんは急いで2階に上がる。

「アンナ!」

 ノックせずに部屋に入っていくロカさんの後に続いて、僕も部屋に入る。

 苦しそうに悶えているアンナさんと、アンナさんの手首を抑えて魔力を吸い取っているルーシーが目に入る。

「アンナ!」

「ルーシー…それは…」

吸魔剤ドレインサブスタンスではもう意味がないから…だから、こうするしかないの…」

 強制的に誰かから魔力を吸い取るのは、ルーシーにもアンナさんにも芳しくない。

 ルーシーは少し体調を崩す程度だろうけど…アンナさんは…。

 魔力を吸い取られて、少し体調が安定したアンナさんが、薄く目を開けて、ロカさんの方を見る。

「…ロ、カ…」

 アンナさんの手が、弱々しくロカさんの頬をなぞる。

「アンナ…!…俺は…アンナと結婚出来て、良かった…!」

「っ…!…えぇ…わた、しも…よ…」

 アンナさんがゆっくりと目を閉じる。ルーシーがアンナさんの手首から手を離す。

「…できるだけ、苦しまないようにしたつもりよ」

「…そう…」




「…すまないな…もてなし一つできなくて」

「いえ、別に見返りを求めてしたことではありませんし…何より、アンナさんをロカさんが看取れたんですから、それがお礼で十分ですよ」

「…あんた…お人好しなんだな」

「え?…あー…あはは…そうかもしれませんね」

「…俺があの時、家に戻らなかったら、俺はきっと後悔してた。だから、ありがとう、二人とも。今度は俺が、アンナの死と向き合う番だ」

「…無茶は、しないでくださいね?」

「あぁ、分かってるさ。ありがとうな」



「…では、またいつか」

「あぁ、またな」

 少し晴れた表情のロカさんに手を振られながら、私とエリスを見送る。

「あ、勇者様、魔王様」

 目の前をフェルシーが通りかかり、私達の前に駆け寄ってくる。

「フェルシー」

「朝からいなくなってもう、心配したのですよ?」

「あはは…ごめんごめん」

「まぁ、お二方なら余程の事が無い限り大事は無いとは思いますが…やはり、心配なものは心配になるのですから。勇者様はともかく、魔王様はテレパシーがあるのですから、一声くらいかけてください」

「はい、すみません」

 怒鳴られている気はしないのだけど…静かに説教されるのもそれはそれで結構…堪えるものね…。

「…まあ、ひとまずお二人が無事でよかったです、私は今から買い出しですので。それでは」

「えぇ、またね」



 …全く、もう。

 いくら勇者様と魔王様が強いとはいえ、何も報告なくどこかへ行ってしまったら私だって心配になるのですよ…。


「へい、そこのおねーさん」

 私が買い出しにカリアの村を歩いていると、後ろから声を掛けられる。

 振り返ると、いかにもチャラチャラした男が数人。私の前に立っていた。

「今からお茶しよーよ?時間あるよね?」

「いえ、時間はありません」

「嘘だぁ~、おねーさん絶対に時間あるでしょ~?」

「…あなた方に割く時間が無いと言っているのです」

 そう反論しながらも、私は着々と路地裏へと追い込まれていく。

「―――あら、フェルシー」

 狙いすましたかのようなタイミングで、イスタルテが私の後ろから出てくる。

「偶然ね」

 …【転移テレポート】使ったの分かってるからね。

「ひゅ~、おねーさんも美人だねぇ~」

「あら、そう?褒めてくれるのは嬉しいけれど…ごめんなさいね、私この子といまから用事があるの~」

 …本当、イスタはキャラを変えるのが得意だ。一体どのキャラが本当のイスタなのだか。

「えぇ~?ちょっとも時間ないの?」

「そうねぇ…おねーさんに勝てたらぁ、考えてあげなくもないわ~」

「勝つ?」

「えぇ、そうよ」

⦅イスタ、何するつもり?⦆

⦅大丈夫、殺したり血を吸ったりはしないから⦆

 なら良いのだけど…。

「おねーさんと追いかけっこしましょう?制限時間は日が沈むまで。それじゃあ、スタート~」

 そう言うと同時にイスタが指を鳴らすと、チャラチャラした男数人がその場に倒れ伏す。

「気絶させたのね」

「日暮れまでには起きると思うわ。それじゃあ、帰りましょうか」

「えぇ」


――――――――

作者's つぶやき:後半はあまり関係ないお話になりましたね。

さて、私フェルシーが結構好きなんですよね。なんかこう…上手く言語化はできないんですが。

それと、さらっとナンパされてるフェルシーさん。ちなみに、反撃しようと思えばできたし、なんなら転移しようと思えば転移できたのですが、イスタやスレーベに比べて、あまり魔力量が多くは無いので、転移はできるけどあまりしたくないって感じです。

本人は空飛べますしね。急を要しなければ基本飛びです。

――――――――

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