Ep.5 -魔王と勇者は海へプチ旅行中-

「魔王様、勇者様」

「どうしたのスレーベ?」

「海、行こう」

「またすごく唐突ね…」

「嫌?」

「いえ…そうね、行きましょうか。イスタはどうする?」

「我は留守番を」

「私は一緒に向かわせていただきます」

「じゃあ、移動もお願いできるかしら」

「はい、もちろんです」

 水着に着替えた後、フェルシーに【堕神龍フェイル・ドラゴン】になってもらい、背中に乗って海へと向かう。

 空を飛べないスレーベは、初めての空の景色に目を輝かせていた。




「スレーベ、降りられる?」

 砂浜に着地したフェルシーから降りたエリスが、最後に降りるスレーベにそう声を掛ける。

「うん、大丈夫」

 スレーベがゆっくりと地面に降りた後、海に小走りで向かう。

「私達も入りましょう」

「うん、そうだね」

 私達も海に歩いて向かう。


「っ…まだちょっと冷たい…」

 海につま先を入れたエリスが足を水面上に出してそう言う。

「そう?」

「これくらいが一番気持ちいい」

「まあ、もうちょっと暑くなって入ったら気持ちいいと思うけど…僕は取り敢えず海辺にいるよ」

 そう言って、波打ち際から少し離れたところに座るエリス。



「…勇者様、よろしいのですか?」

 僕が波打ち際から少し離れたところに座っていると、後ろからフェルシーに声を掛けられる。

「うん、ちょっとまだ、僕には冷たすぎたから」

 もうそろそろ春が終わるとはいえ、まだ少し冷たすぎた。

「そうですか…」

「フェルシーは?」

「はい?」

「、入らなくていいの?」

「…失礼ながら泳ぎが苦手でして…」

「あぁ…そうなんだ」

 まあ、空を飛べるなら泳ぐ必要もないよね。

「なんかごめん」

「いえ、お気になさらず」

 …まあでも、ルーシーとスレーベが水を掛け合ったりしてるし楽しそうだから、良いかな。



「…魔王様、どうしたの」

「え?あぁ…何でもないわ」

 …フェルシーはエリスを盗らない、分かっているけれど、あんな風に話しているとこう…少し…なんというか…嫉妬しちゃうわね…。

「エリス、浮気は駄目だからね?」

「うん、分かってるよ。大丈夫」

「…そう?なら、いいけど」

 …言葉だけじゃ決定的な証拠にはならないのだけど…。

 まあでも、エリスなら、大丈夫よね。

「浮気など…あまつさえ勇者様と浮気など…恐れ多くてできません」

 フェルシーも真面目だからその辺りの事はきちんと弁えているとは思うし、大丈夫よね。


「…、ねえ、ルーシー」

「えぇ」

 ―――何か、ここに来る。

「っ!?」

「スレーベ!」

 スレーベが吸盤のついた触手に捕らえられ、そのまま海中に引き込まれていく。

 でも、水中ならスレーベが得意な戦場。案の定、ぶつ切りにされた触手の肉片や血と共にスレーベが浮上してくる。

「スレーベ、岸に上がってて、フェルシー、スレーベをお願い。エリス!」

「あれは…王烏賊クラーケン、気を付けてください」

「えぇ、分かっているわ」

壊魔大剣エビルディスラプション】を取り出して、海面を切り上げる。

 海が二つに割れて、巨大なイカの様な王烏賊クラーケンの胴体が姿を現す。

「おりゃっ!」

「―――えぇ…」

 エリスが剣を逆手に持って魔力を纏わせる。

 狙いを定めて、王烏賊クラーケンへと投擲する。


 投げられた剣は王烏賊クラーケンに当たり、王烏賊クラーケンは暴れることなく静かに水底へと沈んでいく。

「…それ、投げるのね」

「え?うん。駄目だった?」

「いや…駄目じゃないけど…」

「…刺さった剣、取ってくる」

 そう言って、スレーベが海の中に飛び込む。暫くして、スレーベが鉄の剣を片手に携えて戻ってくる。

「ん」

 そう言って、取ってきた剣をエリスに手渡すスレーベ。

「ありがとう、スレーベ」

 そう言ってエリスは剣を受け取って鞘へと戻す。


「どうする?もうちょっと遊ぶ?」

「ううん、もう帰る」

「分かったわ。じゃあフェルシー、お願いできる?」

「はい、分かりました」




「魔王様、勇者様、フェルシーのスレーベ。おかえりなさいませ」

「えぇ、ただいま」

「僕達がいない間に人が来たとかはあった?」

「いえ、誰も来ていません」

「そう、分かった。じゃあ、ご飯作るから待ってて」

「はい」

「かしこまりました」

「あ、エリス、私も手伝うわ」

 エリスと一緒にキッチンに立って、夕食を作り始める。


「できたよ~」

 作った夕食を皿に盛り付けて、テーブルへと運ぶ。

「…その…勇者様」

 一通り運び終わった後にイスタがモジモジしながらエリスに声を掛ける。

「ん?どうしたのイスタ?」

「…最近、本当に我慢できなくなってきて…、…血を、吸わせてくれませんか…?」

 『吸わせてもいい?』と聞くように、エリスが私に視線を合わせる。

 まあ、こればかりは仕方ないわ。このまま放置しておけば街中で見知らぬ人を襲って血を食べてしまいそうだものね。

「…少しだけよ」

「だってさ、イスタ」

「ありがとうございます…。勇者様、魔王様。では、失礼します…」

「………いっ…」

 エリスの首筋に、細く鋭い犬歯を突き刺すイスタ。

 数秒の間、そのままで血を吸った後、ゆっくりと口を離して、噛んだ場所を舌で舐める。

「あっ…ちょっとイスタ…」

 私が舐めようと思ってたのに!…もう、イスタに先越されちゃった。


――――――――

作者's つぶやき:どうやらこの世界の魔族って人族の血に興味を示すみたいですね。

イスタルテ…つまり悪魔族は、人族の血に興味を示すと言うか、人族の血を摂取する事が生理現象として扱われてる感じですかね。

ともかくとして、このあとエリスくんがルーシーに首元辺りをめちゃくちゃ舐められたのは言うまでもありません。

――――――――

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