Ep.4 -魔王と勇者はクエストを攻略中-

「また来るわね」

「はい、お気を付けて。魔王様」

「では、お父様、また」

「あぁ、魔王様に迷惑をかけるなよ。…それと勇者様、誠に申し訳ございませんでした」

「もう気にしてないのでいいですよ。それでは、また」

「はい」

 フェルシーの背中に乗って、ファーマメントを後にする。

「…そういばさ」

「ん?どうしたのエリス?」

「僕は空飛べないから分からなかったけど、フェルシーやルーシーが見てる景色ってこんな感じなんだね」

 私の後ろから、エリスの楽しげな声が聞こえてくる。

「…勇者様、あの時空を飛んでいませんでしたか?」

「あの時?」

「私と勇者様が一対一で戦った時の事です」

「へぇ、そうなのね。…それで、どうなのエリス?」

「いや、あれは飛行じゃなくて跳躍だから」

 跳躍で空を飛んでいると勘違いするほどって…一体どれだけ高く跳んだのかしら。少し気になるわ。

「空を飛んでいるのって、そんなに楽しい事なの?」

「そりゃ、僕達人族は普段見ない景色だからさ」

「はしゃいで落ちないようにね」

「それは分かってるから大丈夫」

 空を飛べない。力も体も弱い。寿命も短い。それが人族。私達魔族よりも遥かに弱い存在。

 人族は、魔法を扱えない者が大半を占めている。エリスだって、魔法の全てを扱えるわけではない。

 …それなのに、なぜかしら。

 エリスは強い、そう思えるのは。




「よ…っと、ありがとうフェルシー」

「いえ、魔王様、勇者様」

「魔王様、勇者様。おかえりなさいませ」

「あら、イスタ」

 私の部下、幹部の一員、イスタルテ。私や他の幹部、エリスからはイスタと呼ばれている。

「朝ごはん、作っておいたけど、食べてくれた?」

「はい、本日も美味な朝食でした。…本来であれば好物は血液なのですが…」

 悪魔族の好物は血液。

 他の食べ物も食べて栄養を摂ることもできるけれど、血液が最も効率が良いらしい。

 特に、"勇者"の血は悪魔族にとってそれ以上ない御馳走、とのこと。

 ……………。

「あはは…指でも切っておけばよかったかな?」

「…いえ…つい本音が…申し訳ございません」

 エリスがそう返すと、イスタは少しハッとした表情でそう言う。

 …本当、エリスならイスタの為にやりかねないから恐ろしいわ。

「そういえばイスタ、スレーベはどうしたのかしら」

「スレーベなら、先ほど海に」

「そう、分かったわ」

「じゃあ、スレーベが帰ってきたらお昼にしようか」

「はい、かしこまりました。勇者様」




 昼食を済ませた後、私達はギルドに来ていた。

 ここでは、クエストを受ける他にも、ギルドにいる人たちと自由に交流する事もできたり、訓練場で自分の動きや技を磨くこともできる。

「…また結構、魔獣討伐の依頼が増えてる…」

 クエストの依頼が貼られたボードを眺めながらエリスがそう呟く。

 龍種ドラゴン亜龍種ワイバーン食血種ブラッディイーター小鬼種ゴブリン大鬼種オーガ…。

「…亜龍種ワイバーンの討伐にしようか」

「えぇ、そうね」




 クエストを受注して、カリアの村の外れの森を進んで行く。

「そう言えばエリス」

「ん?どうしたの?」

「聖剣はどうしたの?」

「聖剣なんてないよ」

「え?でも…じゃああの時持ってた剣は?」

「あれはただの鉄の剣だよ。女神様から貰ったのは聖なる力だけだから」

 …ってことは…ただの鉄の剣一本でイスタやフェルシーやスレーベとり合っていたの…?

「聖なる力も多分ほとんど使ってないかな。大体は僕自身の身体能力で切り抜けてたし。第一、聖なる力を使ったら魔族は死んじゃうから」

「そうなのね…」

 エリスとそんな会話をしながら森を進んでいると、それまで欝蒼と生えていた木が無くなり、少し大きな崖に着く。

「…ここね」

「うん…そうみたい」

 その時、私たちの前を黒い影が通り過ぎる。その風圧に、私とエリスは少し後退りをする。


「来たわね…亜龍種ワイバーン…!」

 魔力を纏う大きな角が2対生えた顔に、前腕から生えた大きな皮膜。鱗に覆われた体はツヤツヤと光っている。

「…ルーシー、行くよ」

「えぇ、分かったわ」

 エリスが鞘から剣を抜く。

 私も、【次元収納ディメンショナル・ストレージ】から【壊魔大剣エビルディスラプション】を取り出す。

 2人で息を合わせて、走り出す。

「【跳躍強化リープ・エンハンス】」

 崖の際で大きく踏み込んで、地面を蹴る。刀身に魔力を纏わせて―――。

「【火炎剣フレイム・ブレード】!」

「【壊崩剣ブレイカー・ブレード】!」

 ―――私とエリスの斬撃が亜龍種ワイバーンに当たる。

 通常の剣では傷一つ付かない堅牢な鱗が、まるで水に浸した紙の様に容易く切断される。

「グァォォァァァァ!」

 そんな断末魔を上げ、地面に落ちないように空中で必死に翼を動かせる。

「「―――【次元破突ディメンション・ラプティア】!」」

 私とエリスの同時攻撃が亜龍種ワイバーンの鱗を貫通して、亜龍種ワイバーンの肉体の中に深く食い込む。

「【火炎剣フレイム・ブレード】!」

「【壊崩剣ブレイカー・ブレード】!」

 刺した場所から、炎と魔力が噴出する。

 エリスが斬り上げて、私が斬り下げる。

 亜龍種ワイバーンは胴体で真っ二つとなり、地面に落ちる。

 

 重力に従って自由落下するエリスの手を掴んで引き寄せる。

「【重力低減グラビティ・リダクション】」

 一瞬、私のすぐ下に魔法陣が展開された後、私達の落下する速度は段々と遅くなっていく。

「…よ…っと、ありがとうルーシー」

「うん。怪我はない?」

「大丈夫。ルーシーは?」

「私も大丈夫よ、ほら」

 私はエリスの前でクルンと一回転してみせる。

「…うん、大丈夫そうだね。それじゃあ、帰ろっか」

「えぇ」


――――――――

作者's つぶやき:…やっぱりあれですね。魔王と勇者だから、戦闘能力は高めですね。でもエリスくんはナイフを使ってくれたりはしないみたいです。

――――――――

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