Ep.2 -魔王と勇者は天龍族を視察中:前編-

 私達が今住んでいるカリアの村と言う場所から、北の方にずっと進んだ場所にある、天龍族の村、ファーマメント。

 今日はそこの視察が、一応のスケジュール。

 とは言え、村長…フェルシーの父と少し話をして帰るだけだけれどね。


 【身体変化スマートフォーム・チェンジ】で【堕神龍フェイル・ドラゴン】へと変身したフェルシーの背中に乗って、ファーマメントへと向かう。

「…ねえエリス。防寒着なんて要るの?」

「まあ…そうだね。魔族なら耐えられるのかも知れないけど、少なくとも人族には厳しい環境だから」

 …北極圏って、そんなに厳しい環境なのかしら?魔物や魔獣も普通に住んでいるし、動物だって見かけるのに。

「無理して付いてこなくても良かったのよ?」

「世界を救うだけ救って、後処理とそれの継続を誰かに丸投げするなんて、僕にはできないよ。少なくとも僕が生きている内はね」

「…後100年程度…ね」

「…短いでしょ?」

「えぇ、私にとっては…。とても」

 余りにも、短すぎる。100年と言う時間は、魔族の平均寿命の5分の1以下だ。

 魔族の中で比較的寿命の短い天龍族でさえ、平均7000年程度生きるというのに。


「魔王様、勇者様、もう間もなく到着致します」

 少し遠くに5、6体ほど羽ばたいている天龍を見つける。

 久しぶりにここに来たけれど…村長や他の皆は元気かしら。


 段々と天龍達の姿は大きくなっていき、フェルシーは天龍たちが羽ばたいている少し手前に着陸する。

「ありがとうフェルシー」

「いえ、魔王様」

「ごめんね、僕が飛行魔法を使えないばっかりに…」

「…いえ、お気になさらず。誰しもに得手不得手はある物ですから」

「…うん、ごめんね。ありがとう、フェルシー」


「―――やや、これは魔王様、それにフェルシー」

「お父様、お久しぶりでございます」

「お久ぶり、村長様。村の皆は息災にしていた?」

「えぇ。皆、魔王様の到着を今か今かと待ちびていました」

「そう、それなら良かったわ」

「…ただ…」

 そう言い淀む村長。

「…どうかしたのかしら?私たちに出来る事ならなんでも言って頂戴?」

 私がそう言うと、村長は私に耳打ちをし始める。

「実は…、最近若者の一部が人族を毛嫌いしておりまして…いくら勇者様とはいえ…村の中にお入れするのは危険かと…」

「…ここで待たせる、という事?」

「えぇ…その方が安全かと…」

「お父様、それは…危険です…いくら勇者様だとしても…この気温では凍え死んでしまう可能性が…」

「では―――」

 私のその言葉を遮るように、エリスが言葉を発する。

「…いや、いいよ。行っておいで。僕はここで待ってるから」

「…でも」

「寒いのはどうにかするよ…炎魔法もあるわけだしさ」

「…いいの?」

「うん。だって、来たのは僕の方なんだから。僕の事情で予定を変えるわけにもいかないでしょ?僕の事は僕でどうにかするからさ、安心して」

「…分かったわ、じゃあ、行きましょうかフェルシー」

「はい、魔王様」



「…うぅ…寒っ…」

 そりゃそうだよな…。だって一面雪景色だし。

「…火力を強めすぎなかったら、大丈夫だよね。…【火炎フレイム】」

 僕の目の前に展開された魔法陣の周囲の雪が少しずつ溶け始めて、魔法陣の上に焚火くらいの大きさの火が出現する。

「…はぁ…」

 ルーシーが戻ってくるまでは、これでどうにか寒さは凌げるかな。


「…あれぇ?なんで人族がこんなところに居るんだよぉ?」

 天龍族の若者…かな?に声を掛けられる。

「…あぁ、どうもこんにちは…気にしないでいいですよ」

「いやいや、あんた人族だろ?俺たち天龍族の鱗やら角やら密漁するためにここに来たんだろ?」

「いや…違いますけど…」

 密漁…。

 確かに、天龍族の角や鱗は高額で取引されていたりするけど…。

 そうか…毛嫌いしてる理由って密漁しに来る人間がいるからか…。

「はっ。そういう奴に限って善人ぶるから嫌いなんだよっ!」

「―――がっ…!」

 天龍族の若者の一人に脇腹を大きく蹴られる。

 ギリギリで【物理障壁マテリアルバリア】を展開して威力は弱められたけど…。

「はっはっは!やっぱ人族って弱ええな!そんなに弱いのによく密漁なんかしようと思ったもんだ!…どれ、仲間が受けた苦しみ…分からせてやるよ!」

 そう言って、僕の腹に拳をり込ませるような勢いで殴ってくる。

「ごはっ…!」



「お気を付けてくださ―――」

 村長がそう言いかけた途端に、動きを止める。

 私とフェルシーも、目の前で起こっていることに絶句する。


 一方的になぶられているエリスと、エリスをなぶっている天龍族の若者3人。

「…ふざける…なっ!!!!」

 気が付けば、その天龍族の若者の一人に蹴りを食らわせていた。

「…あ…ルー、シー…」

「フェルシー、回復魔法を」

「分かっています」

「ま、魔王様!?なんでそんな奴庇うんだよ!?」

 …そんな奴…?

「…ふざけるんじゃないわよ」

「…ま、魔王様、魔力を抑えてください…、回復魔法が阻害されてしまいます…」

「…えぇ、分かっているわ…すぐに終わらせるから…待ってて頂戴」

「まって…ルーシー…何、する、つ、もり…」

「エリスを嬲った罪を償わせるのよ」

「…だめ…だよ…」

 そう言って私を制止させようとするエリス。

「どうして?」

「…その人たちは…仲間想いの…いい人たち…だから…っ…!」

「―――えっ?」


――――――――

作者's つぶやき:…エリスくんって優しいんですかね?…優しいの基準が曖昧なのであんまり良く分からないですけど…。

――――――――

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