魔王と勇者は今日も仲良く平和ボケ中
ますぱにーず/ユース
Ep.1 -魔王と勇者は同棲生活を満喫中-
「…ん…ん~…」
朝、大体いつも通りの時間帯に目覚める。
本来、魔物であり、その魔物を統べる魔王である私が朝に起きるのは、人間…もとい人族の言う昼夜逆転の様なものなのだけれど、私の旦那であり、勇者であるエリスの所為で、そうなってしまった。
正確に言えば、私が望んで昼夜逆転をしたのだけれど。最初は眠くて眠くて、本当にやってられなかったし、エリスにも『無茶しなくていい』と言われて止められたけど、まあでも、昼夜逆転したおかげでエリスと一緒に居られる時間が増えて、結果オーライと言うものだ。
「…今日も可愛い寝顔ね、ふふっ…」
私の隣に眠る
もし、彼が私と引き分けにならなかったら、こんなに可愛い寝顔を拝めることもなかったと思うと、過去の私とエリスに感謝しかない。
―――当時、私は人族が嫌いだった。お父様の言うように、人族は皆、私達魔族を虐げて奴隷のように扱うようなものたちだと思っていた。そう信じていた。
だけど、彼は違った。私の待つ大きな部屋に彼が入ってくる。
だけれど、彼は私に剣を抜くことは無かった。
呆気にとられていると、彼は―――。
「こんな事をしても誰も得をしない、僕は誰一人だって殺したくない」
そう言ってきた。
何の冗談だ、と思った。
「幹部の
でも、彼は私の幹部を殺していなかった。暫く彼を睨みつけていると、開いたままの扉からフェルシー達三人が入ってきて、私の前に跪いて必死に訴える。
『こんな無益な争いはもうおやめください!』と。彼は彼女たちを殺したのではなく、ただ無力化しただけだったのだ。
彼女らが、貴方たち人族にとって、私を除いて最も有害な存在のはずなのに、彼は殺さなかった。
「聖なる力が、魔王を殺すための力なら、僕はそんな力を望まない。僕は、少なくとも知性のある者たちを殺したくはない」
「っ…」
「…僕は、ここに来るまで、魔族を一人たりとも殺していない。それは、フェルシー達が証明してくれるはずだ」
彼から視線を外し、フェルシーへと目を合わせる。何も言わず、ただ静かにうなずいただけだった。脅されている素振りは、感じない。
フェルシー達にあるのは、安心感のようだった。
そして、フェルシーがテレパシーで私にさらに訴えかける。
⦅魔王様、彼の言っていることは本当です。私は彼に脅されているわけではありません、ただ、真実を魔王様に伝えたまででございます。…今一度、人族との在り方を考えてみては…⦆
…フェルシー…。
⦅魔王様!人族も我らと同じ、十人十色なのです!彼が教えてくれました!悪い噂を聞く人族は、人族の内のほんの一握りだと!⦆
イスタルテ…。
⦅人族、悪い奴らだけじゃない。エリスは、私たちの事を護ってくれる。魔族にとっても、人族にとっても、勇者になる存在⦆
スレーベまで…。
「…勇者…エリス、だったわね」
…私は、彼の事が…。
「…私も、少し頭に血が上り過ぎていたようね。だけど…魔族と人族、お互いに犯した罪は消えないわ」
「…じゃあ、二人で一緒に背負っていこう。…人間…人族と、魔族を代表するものとして」
「…えぇ」
私は、彼の手を取った。…人族が感じるという『スキ』と言う感情が、少しだけ理解できたような気がした。
■
「…あの時とは、本当に違うわね…」
彼は、エリスは、今まで幾多もの張り詰めた空気の戦場を、
だから、平和になったこの世界で、彼はゆっくり過ごしても良いと思う。
エリスの寝顔を見ながら、私はそんな事を思う。
「…る…しー?」
「あ、起こしちゃった?」
「ん…ん~ん…おはよ…ルーシー」
「えぇ、おはようエリス」
まだ寝惚けてポヤポヤしているエリスを見つめながら、過去の私にまたしても感謝を送る。
過去の私、エリスと結婚してくれてありがとう…!
「…朝ご飯作らなきゃ…ん~…」
そう言ってエリスは大きく伸びをする。
「おはよう、ルーシー」
「えぇ、おはようエリス」
改めて、目が覚めた彼に挨拶を返して、私たちは寝室から出てキッチンに向かう。
「魔王様、おはようございます」
「おはようフェルシー…二人は?」
「まだ眠っております。…起こしてまいりましょうか?」
「別に良いわ。もう平和なのだから、少しくらい自堕落になっても」
「…しかし」
そう彼女は言い淀む。
今まで、私も、三人も、張り詰めた緊張感の中で頑張ってきたのだし、その反動が来てもおかしくは無いはず。
「…まあ、言いたいことは分かるけど…、少なくとも、眠れるうちに好きなだけ眠っておいたほうが良いよ…うん。フェルシーさん達から町を守るために僕は3日間眠りもせずに戦闘してたんだしさ」
「…それは…申し訳ございません…」
「いや、別に良いけど。…もう今となってはいい思い出だし、結果的に僕の左手が切り落とされただけでどっちにも死者は出なかったんだし」
「…フェルシー?」
私は思わずフェルシーを睨みつけてしまう。
…切り落とされた箇所はすぐに治療したようで、特に問題は無いようだし、その時はフェルシーだって私だって、彼と和解していたわけではないから仕方ないと言えばそうなのだけれど…。
「…まぁ、とにかく。朝食作るから、座って待ってて。フェルシー、ルーシー」
「はい」
「は~い」
…まあ、今幸せなのだから、いいかな。
――――――――
作者's つぶやき:はい、主な視点が女性キャラの小説はこれが初ですね。
エリスくんはもちろん彼方くんです。異世界系ではきっとケイよりもエリスと言う名前の方が多く出てきます。
――――――――
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