第162話鈴の処分

なんか、かなり嫌な目に合わされた割にはポジティブな意見で、ウィリィンは少しついていけていない。


「えーと、凄い怖かったし、もう嫌だなっていう感じなんだけど?

というか、今もう一回やられたら立ち直れないかも」


取り敢えずフェアに心の内を伝えてみる。


「そうだよねー。

でもこれって、深層心理的に自身が最も嫌がるシチュエーションを再現しているとも捉えられるよね?

ということは自身の弱点が分かるということにも繋がるのではと」


「本音は?」


「これで悪戯したらとても面白そう」


「友達いなくなるよ?」


こんなの悪戯の域を超えてるだろう。

トラウマ一歩手前レベルの悪夢である。

これを音色を聞いただけで誘発させることができるのはよろしくない。

というか、我々は悪夢の理由が判明しているのでまだましであるが、知らない人が何度もこれを理由も分からずに受けることになるのはかわいそうすぎる。


「そこはしっかり加減するから、大丈夫。

それなら私の方で預かるから」


絶対他人に使うつもり満々の人に渡して良いものだろうか?

フェアに自分には使うなと釘を刺すことはできるが、良心が痛むような気もする。

そしてウィリィンが出した結論は


「ダメ、あれは冗談じゃ済まないよ。

自室戻ったら壊しとく」


「うーん、そっかー。

じゃ、しょうがないかー。

んじゃご馳走さま、学園に行ってくるねー」


「ん、行ってらっしゃい」


フェアは食事が終わり食堂から出ていった。

ウィリィンは食事を続けながらもどうやったら安全に処分できるか考え、食事を終えて自室へと戻った。

すると手紙が1枚置いてあり、


『もし壊す時に失敗して今日も悪夢を見ることになったら大変だと思ったので、私の方で処分しておくよー。

フェアより』


「あ、やられた」


思い返して見れば、若干フェアの方が食べ始めは早かったがほぼ同時であり、普段なら一緒に食べ終わって出ていくのだが、今日は食べる速度が速かった。

先に食べ終わり、ウィリィンの部屋へと入って鈴を取り、颯爽と学園へと向かったのだろう。


「うん、しーらない」


ウィリィンは鈴のことは一旦忘れることにした。

まあ、深い理由もなく使われたら...ちょっと接し方を変えなくてはならないが。

そして今日はルリィウィンに呼ばれてるので身支度を整えて、執務室へと向かう。


「ウィリィン、おはよう目覚めはどうだったか?」


「トラウマになってない?大丈夫?」


執務室へと入るとルリィウィンがニヤニヤしながら悪夢について聞いてくる。

アウィリィはウィリィンを心配して様子を尋ねてくるが、心配するぐらいならば事前に教えて欲しかったという言葉をグッと飲み込んで答える。


「最悪でした。

トラウマにはなってないですけど、明日もあれだったら、ちょっと耐えられる自信はないです」


「ほう、そうなると鈴はもう処分してしまったのか?」


「いえ、それが、フェア姉に相談して、壊そうとしていることを伝えると、持ってかれました」


「フェアちゃんらしいわね」


「してやられたな?

もしかすると、今日学園で盛大に使っておるかもしれんぞ?」


明日の朝方に街の至る所から絶叫が上がると思うと、やはり即刻にも破壊すべきであったと後悔する。


「まあ、自分が蒔いた種ぐらいは自分で清算するでしょう。

それでウィリィン、今日貴方を呼んだ理由なのだけれども」


「そろそろ学園の入園手続きをする時期なのでな、それについて説明しようと思う」


「はい」


学園は7人の領主によって管理されている闘鬼の住まう島に1つだけ存在しており、7領の境界に面するように島の真ん中に存在する。

そこに幼学部、小学部、中学部、高学部、大学部が存在しており、そこで教育を施されるのだとか。

ちなみに年齢等の制限はなく、カリキュラムさえこなせるのであればどんどん先へと進むことが可能な上、入園の時期も自己判断なのだそう。


「まあ、学園は最低限一般教養を身につかせるのと、本人の趣味や友を見つける場という側面が強い。

あとは未熟者の保護だな、詐欺やら拉致やら人生を棒に振るような事態に巻き込まれる事は外の世界では割とあるのでな。

好きなことだけ学んでいてはそういったものに対する自己防衛能力が鍛えられぬだろう?

あとは好きなこともやはり様々なことを知っておらねば深みが出ない。

まず、それが一番自身にとって好きなものとも限らんしな。

沢山のことを学び、経験することで真の意味で生涯で成りたいものというものが見つかるだろうという思想のもと運営されておる」


「なるほど」


確かに闘鬼は寿命以外では死ぬことはない。

最悪、どんな環境下でも生存が可能だ。

その上、魔法の発達により、何もしなくても衣食住全てにおいてこだわりがなければ困ることはない。

そうなると、ほぼ全ての人が自由に自身のやりたいことをすることができるのだろう。

まあ、本能的に闘争を求めるので、それありきではあるが、人には人に合った戦い方がある。

そして闘鬼であっても詐欺、拉致監禁は大きく人生を狂わせるので、それに対して対策できるようにすることは自己防衛の為に必要なのだろう。

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