第161話鈴
辺り一面真っ暗なのだが、眼に魔力を集めてもほとんど先まで見ることができない。
勿論、どちらが出口であるかなど現在位置が一切分からない。
そしてその恐怖を膨れ上がらせるように遠くから何か足音が聞こえてくる。
洞窟の中であるためか音が反響してどちらから近づいてくるかも分からず、魔力で探知しようにもうまく広げることができない。
それならばと光を生み出そうとするが、これもうまくいかない。
「ええ!?どうして!?」
普段と違っていうことを聞かない身体に戸惑いつつも少しでも自身の身を守るために壁に貼り付き、息を潜める。
だが、足音は徐々に近づいて来て、ウィリィンが想像しうる最悪の事態はすぐそばまで近寄ってきている。
そして、遂にそのシルエットが認識できるまでにウィリィンの元へと近づいてきた何か。
それは更にウィリィンに顔を近づけると、今日倒したキメラオークを5倍ぐらい強くして凶悪な姿にしたものが目に映った。
それはウィリィンに向かってニチャぁっと醜悪な笑みを浮べると乾いた血で染まった斧をウィリィンへと見せつけるように前に出し、ゆっくりと振り上げる。
「あば、あばばばばば。
いや、どうして!?魔力がうまく、つ、つかえ!?」
ウィリィンは少しでも反撃を試みるが魔力は動かせず、身体の強化も行えない。
キメラオークはその様子をニタニタと見ながらオークを振り上げきると勢いよくウィリィン目掛けて振り下ろす。
「いやぁぁっぁぁぁぁぁ!?」
ウィリィンは恐怖で支配され、なんとか飛びのいて斧を回避し、這うようにオークから離れ、立ち上がって走って逃げる。
ウィリィンはもうそこまで考える余力がないのだが、オークはわざと時間をかけて斧を振り上げ、振り下ろす時もかわせるように真っすぐ振り下ろしている。
そして、必死に逃げ始めたウィリィンであるが、後ろから追いかけるオークはわざと足音を響かせ、そしてウィリィンにギリギリ当たらないぐらいの場所で斧を振り回す。
「出口っ出口はどこ!?
来るなぁぁぁぁぁぁ!?」
ウィリィンは絶叫しながら逃げるが、暗闇故に全く前が見えない、ゴールの見えない追いかけっこであるが、終わりは存在する、そう行き止まりだ。
「あ、うぁ、うぇ!?
い、行き止まり・・・!?」
さっきまで真後ろを追いかけていたはずのオークであるが、実は少し前から速度を落としているなぜか、それはウィリィンを行き止まりで逃げ場がないことを認識させ、絶望の淵へと叩き落すためである。
オークは狩りを楽しんでいるのだ。
ウィリィンは壁をガンガン叩くがびくともせず、背後からはオークが迫りくる足音が徐々に近づいていく。
ならばと、間をすり抜け、逃げ出そうとするが、そうはいかないと言わんばかりに触手のようなものが地面から飛び出て、ウィリィンの足を縛る。
ウィリィンは盛大に転び、そのタイミングで手足全てを職種に拘束され、身動きが取れなくなってしまう。
「やめ、やめろ、うぐ、はなせっぇぇぇ」
その間にも足跡は刻一刻と迫り、オークのシルエットが見えてくる。
そしてオークは先ほど同様顔を近づけ、斧を見せつけた後、ゆっくりと振り上げる。
その間もウィリィンは身を捩ってどうにか拘束を振りほどこうとするが、びくともしない。
そして頂点まで振り上げると、勢いよくウィリィンに向かって振り下ろされ、
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
と大絶叫しながらウィリィンは自室のベットから跳ね起きるのであった。
「はぁ、はぁ、はぁ、ゆ、夢・・・?」
もう、汗という汗が身体中から出て、息も荒く、心臓の音もバクバク聞こえるが、元の見慣れた自室である。
そして、昨日までなかったものとして何やら紙が布団の上に置いてある。
それを見るとルリウィンの筆跡とともに
『おはようウィリィン、恐らく過去最悪の目覚めだっただろうが、
鈴の効果は分かったかな?
あれはナイトベラー、鈴の音を聞いた者に悪夢を見させる効果がある。
使い道は己で考えるといい。
ちなみに、音色に対して魔力で防御することで、悪夢を見ることを防げるぞ。
以上だ』
使い道も何もこんな危険物、今すぐ壊してしまいたい衝動に駆られるが壊す際に万が一でも音色を聞いてしまい、二日連続であのレベルの悪夢を見た日には精神がおかしくなりそうだ。
ウィリィンはまだ起きる時間より早いことを確認すると、ベットと身体の汗を魔法で消し去り、ふて寝することにした。
なお、同じ時間、館内の他の場所で同様に悲鳴が響き渡ったそうだ。
ウィリィンは再度目覚めた時に今度は悪夢を見なかったことに安堵しつつも、鈴の処分についてフェアに相談しに行くのだった。
「ええー、勿体ないよー」
食堂で朝食を取りながらフェアと話すが、フェアは捨てたくないらしい。
「一刻も早く壊したいんだけど・・・
というか、フェア姉も悪夢見たんだよね?」
「いやー、もう凄かったねー。
もう大絶叫しながら飛び起きたし、もう汗でぐしょぐしょ。
見てる最中は全然気づけなかったし、起きた時はやられたーって思ったよねー」
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