第156話縛り解禁

その何かの部分が魔力で出来た物質で支えられており、オークの咆哮によって破壊されることで予想していなかった場所、タイミングからの攻撃を可能にしたのだ。

ちなみに、ナイフやワイヤーもフェアが魔力によって作成したものであるが、これは作成されてから十分に時間が経っており、定着しているため、咆哮によって戻ることはない。

なお、狙いを調整する機能は備わっていないので、これに関しては完全にフェアの経験則や、ゴブリンを観察した結果に基づくものと状況が噛み合った結果と言えるだろう。

といっても仕込みを開始したのはウィリィンがスモークを生み出し始めたタイミングであり、経過時間的に、ある程度のゴブリンがいる場所は絞り込める状況ではあったが。


フェアの仕掛けも分かった所で、次の行動を考える必要がある。

っとこちらが行動を起こす前にオークが今までで一番大きい咆哮を響かせ、フェアを引き離しながら後方へと下がる。

あまりの声量に耳を塞いで堪えるが空気の振動が圧力となってこちらを襲ってくる。

フェアも追撃は諦め、耳を塞いで顔をしかめながらウィリィンの方へと近づいてくる。

キャットもオーク同様に後ろへと下がり、集まっている。

そして、咆哮も止み、お互いに攻撃を再開するかと思われたがオークが何やら黒い球体を取り出し、地面へと叩きつけた。


「おっ!」


「なんか、凄い嫌な予感」


黒い球体は地面へと接触すると紫色の煙を上げながら地面に魔法陣が出現する。

範囲は丁度集まった魔物達を包む大きさだ。

そして魔法陣が輝き始めるとオーク以外の魔物の形が崩れ始め、紫色の煙へと変わりオークの周りに纏わりつく。

魔法陣の輝きは徐々に増してオークの姿が見えなくなる。

そして輝きが収まるとそこには異形の形となったオーク、キメラオークが立っていた。


「おー、他の魔物を吸収したんだねー」


「ということは...。

パワーアップ?」


「そりゃ単体より弱かったら興醒めだよねー」


見た目は手足がキャットの手足のようになっており、背中からはバットの羽が生えている。

そしてスライムは身体の至る所から少し漏れ出ているのが確認できる。

あと手には相変わらず斧が握られている。

そしてオークは羽を震わせ、風の刃を放ちながらこちらへと迫ってくる。

飛んでくる刃を迎撃しながら、振り下ろしてくる斧をフェアが今まで同様に斧の側面に攻撃を入れて弾こうとするが


「うっ!?重いっね」


逸らすまで至らず、自ら下がることで攻撃を回避する。

すると追撃と言わんばかりに反対の鋭い爪のついた手で切り裂こうとしてくるがそれはウィリィンが金棒を振り、正面から受け止めようとして逆に吹き飛ばされるが、フェアはその一瞬の時間を利用してオークの追撃の範囲から逃れることに成功する。

範囲から逃れても風の刃の攻撃は継続的に行われるため、どちらにせよ攻撃には晒され続けるのだが。


「いやー、どうしようかー」


「弱点をつけば倒せるとは思うけど、そんな隙がないよ?」


先ほどからタイミングを見て、閃光や超音波、凝固剤で攻撃してみても影響を受けている様子はない。


「それぞれの魔物の特徴が混ざり合って弱点が他の部分で補われちゃってるんだよねー」


そして、オークもこちらに考える時間を与えまいと積極的に距離をつめて攻撃してくるが、逃げに徹していれば攻撃は喰らわない。

が、それはオーク自身が身体の変化についていけず、出力が高すぎて無駄に振りかぶってしまったりしている部分があることも要因の一つであり、少しずつ身体が馴染み始めているのか、無駄のない動きになりつつある。


「後先考えなくていいならやりようはあるけど・・・」


ウィリィンが全魔力を出し尽くす勢いで圧倒的な火力を出せば勝てなくはなさそうだが、この後ウィリィンは戦いに参加できるほどの余力はなくなる。


「いやー、それは今回の趣旨に反するかなー。

ということで、私の縛りを解禁します。

これでオークを翻弄していくよー」


フェアはニヤッと笑いながらウィリィンにそう宣言した。

ウィリィンは内心最初から使ってほしかったなあと思わなくもなかったが、取り敢えずは空気を読んで目の前のオークに集中する。

フェアは空気中に罠を放出し始める。


「よーし、どんどんいくよー」


「フェア姉、そんなにバラまいたら・・・」


そう、当然のようにオークが方向のモーションに入るが、その瞬間に近くを漂っている魔法が爆発し、中から刺激性の強そうな粉末が飛び出した。


ゴフっゴフっ!?


勢いよく息を吸い込んでいたオークはそれを鼻、喉に目一杯吸い込み盛大に咳き込む。


「勿論対策済みー。

しっかり息を吸わないと、大きい声はでないよねー。

チャンスだよ、ウィリィンっ」


2人はオークに対して攻撃を仕掛ける。

だが、オークはこちらの動きは把握しているらしく、攻撃に合わせて腕を使ってガードしてくる。

が、ここでもフェアがばらまいたトラップが火を噴く。

ガードを固めた腕を発動した爆風が崩し、ウィリィンがダガーで心臓の破壊、フェアがメイン武器なのか、ウィリィンの剣などと同じ素材でできていそうなワイヤーを用いて頭の切断に成功する。

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