第155話連携を崩せ
「ヤバいな...打開しないと...」
サポートとして全体を俯瞰した上でウィリィンが感じたことである。
だが、ウィリィンも遠距離からの攻撃の大半とキャット2体を抑え込む必要があり、余力の類はあまりない。
一応凝固剤やら後衛向けに有効な手は講じているものの、指示と遠距離攻撃に徹しているゴブリンはかなり全体が見えているらしく、味方が倒されるような致命的な仕掛けには敏感に気づく。
フェアも何度かワイヤーを仕掛けようとしたり、超音波を出そうとしたがそのことごとくを見破られ、破壊、妨害、どうしようも無さそうであればオークに咆哮を指示している。
「視野が良すぎる...
だけどやりようはあるっ」
ウィリィンはゴブリンに対して白い物体を放り投げる。
当然ゴブリンは弓矢で弾き落とすが、それで問題ない。
濡れた地面へとその物体を落とすことが目的だ。
ドライアイスは水に触れることで急速に温められ、スモークを発生させる。
ギギギ!?
ゴブリンは慌ててバット達に風を起こしてスモークを流すように指示するが、ドライアイスが着弾したのは後衛のゴブリン、スライム、バットと前衛オーク、シャドウキャットの間である。
スモークを手前に流しても前衛を担っている者たちの視界が悪くなり、スライムは影響が無いが、バットも超音波に少々影響が出るし、目に頼っているゴブリンはほとんど見えなくなってしまう。
となると、視界を遮られることを嫌ったゴブリンはオークへと指示を出す。
「そうだよね。
見えないと困るから、咆哮させるよね」
これはウィリィンの狙い通りである。
咆哮を発してもスモークは消えない。
なぜならばこのドライアイスはウィリィンが空気中の二酸化炭素を集めて、冷やして作ったものであるためだ。
咆哮には物理現象には干渉できない。
「ふふふ、消えないよ。
それに、咆哮は味方側にも影響があるっ」
咆哮をすればバットは攻撃手段を失われ、スライムも動けなくなる。
魔力的性質が強いためだろうか。
他はうるさいのをこらえれば動くことができるが、視界の影響を受ける。
お互い視認できなければ連携は難しいため、今敵は孤立した状態である。
に対してコチラは魔力を見ることでお互いの様子を把握できる状態である。
このチャンスを十全に生かしていきたいが、流石にゴブリンはスモークが晴れないことに慌ててはいたものの、しっかりと後ろに引いているため、スモークから出る必要がある。
そうなればこちらを認識したゴブリンが声を上げてキャットや、オークをこちらへと戻すだろう。
「ゴブリンは取りたいけど、無理、2回目はきっと対策される。
となると、取るべきは」
ウィリィンはゴブリンを狙いたい気持ちを抑え、格好の獲物となっている2体に対して視線を向ける。
今は咆哮によりお互い魔力を外で出しても霧散してしまう状態にある。
そのため2体のキャットの姿は正確に捉えることができる。
ウィリィンは静かに近づくと、キャットの心臓をダガーで刺す。
ダガー自体に魔力を纏えないため、極限まで腕を強化し、貫く。
相手は4足歩行の生き物であり、人間とは身体の構造が異なるものの、何度か戦う中で何処が弱点であるかは認識できている。
急に刺されたキャットは暴れ、ウィリィンにデタラメに攻撃を仕掛けようとするが、体内に刃が入ってしまえば魔法を展開できる。
心臓を一瞬で破壊し、もう1体へと狙いを定める。
ただそのタイミングでゴブリンの掛け声によりキャットはゴブリンたちの元へと引いてしまう。
オークはスモークの中でも関係なしにフェアとやり合っている。
そろそろドライアイスが切れてくるタイミングで咆哮の影響も収まり、後衛のバット、スライムたちも攻撃の様子を見せ始めている。
「っち、もう一体ぐらいはやっておきたかった」
ウィリィンは1人愚痴るが、そんな中天井付近から何かが射出され、ゴブリンの頭を貫いた。
ギ?
ゴブリンは何が起きたのか分からない表情のまま倒れた。
「おおー、よっと。
命中したねー」
フェアの方からオークと攻防を繰り広げながらも命中を喜ぶ声が聞こえる。
どうやら、フェアの仕込みらしい。
「いや、でも咆哮を貫通できるような強い魔法は使ってる様子は・・・」
ゴブリンの頭に刺さっているナイフは天井から射出されている。
フェアはオークと戦っていたため、天井に貼り付いて罠を仕掛けたわけではないだろう。
そうなると、何かしら魔法による仕掛けが組み込まれているはずだ。
だが、その場合、オークの咆哮でかき消されているはずであり、仕込みは壊されてしまうような気がするが。
ウィリィンも隠れてドライアイスを作っていたが、咆哮中は冷気を出すことができず、少し気化させてしまったりと苦戦しながらやっていたのだ。
だが、天井にあるフェアが作った仕掛けの方へと眼を向けるとその答えが分かった。
「ああ、魔力で作った物質で繋ぎ止めておいたのか」
天井を見上げるとワイヤーをだらりと垂れ下がっており、ナイフがピンと張られた状態で設置されており、何かの拍子でワイヤーが切れることでその張力により勢いを得たナイフがゴブリンの方へと飛んで行ったのだろう。
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