第154話変異種

このオーク、大きいだけでなく、全身ムキムキであり、脂肪は何処に行ったのかと問いただしたくなるほど整った体型をしている。

ただ顔は完全にキマっており、充血した目をガン開いてこちらを観ており、鼻息は荒く、口からはヨダレが垂れている。


「あいつ、見るからにヤバそうなんだけど」


「変異種の類だねー。

凄いパワーもありそうだし、動きも速そうだねー。

しかも私達を視認した時点で襲ってこないってことはあの顔で理性は残ってるみたいだねー」


「しかも、今までの中で一番敵の数も多い...

やめとこうよ」


「ダメ。

せっかく強そうな魔物が現れた上に連携までしてくるんだよ?」


あっそういえば根本的に戦闘に対する考え方が違ったなということをウィリィンは思い出す。

普段はウィリィンの考え方に合わせて気を使ってくれているが、フェアには美味しい相手に見えているのだろう。

一応、引率者としてお互いの戦力、この後のことを考えた上での行動ではあるが、少々フェア的にはこのダンジョン探索は盛り上がりに欠ける所があったのだろう。

トラップの類は宝箱探しに入ってからはかなり刺激的なものが多かったが、他は見て仕掛けが分かるものばかり。

出てくる魔物はゴブリン、シャドウキャット、オークには閃光が効き、残りのバットには超音波、スライムには凝固剤が効く。

戦い方が確立されすぎてしまった。

まあ、閃光は2人でタイミングを合わせないと使えないがそれでも他はほぼいつでも使えてしまう。

それで現れた変異種のオークである。

このまま無難に引き返し、他の宝箱を目指すなんてナンセンスであろう。


「ここが今日の大一番ってこと?」


「そうそうー。

やるよーウィリィン」


そう言うとフェアは閃光を放とうとするが、それを察知したのかオークが咆哮を放つ。

すると閃光の為に集めていた魔力が霧散してしまい、不発になってしまう。


「なっ!?」


「おー、やるねー」


ほぼ必勝法と成りつつあった閃光による錯乱を無効化され、2人は大声に耳を塞ぎながらウィリィンは動揺し、フェアは感心する。

ただ魔物サイドに全く影響が無いかといえばそんなことはなく、バットは風の刃を放ってこないし、スライムも少し伸びている。

そしてゴブリンは同様に耳を押さえ、キャットはモヤが消え去り、堪えるような姿勢をしている。


「ま、流石に選択的に発動できるわけではないよねー」


魔力を霧散させるのは周囲全てに影響を及ぼしているのと、単純にうるさい。


「影響力の大きい魔法は咆哮で消されちゃうか...」


「んま、対処法は無くはないけど、ここは一つ真っ向勝負してみよっか」


「ええっ!?ちょっ!?」


てっきり咆哮を掻い潜る形で削るのかと思ったが、相手の土俵へと上がり、戦いを行うらしい。

ウィリィン的にはかき消されないぐらいの魔法を使ったり、霧散しにくい物体として定着させて魔法を使うとか、そもそも咆哮は空気の振動であるため、真空状態を作り出すとか、吸音する素材を生みだすとか色々考えていたのだが、それを全て放棄し、フェアに合わせる形で慌てて前へと出る。


グオオオオオオオ


それに合わせるようにオークがとてつもない勢いで突っ込んきて、勢いそのままに斧を振りかざして来るが、その側面にフェアが飛び上がりながらも拳を合わせ、


「おりゃぁぁぁぁぁ」


少し拮抗した後フェアの身体をそれるように斧が地面へと突き刺さる。


フェアはそのまま地面に降りずシールドで足場を作り、顔面に回し蹴りを放つが、もう片方の腕を利用してガードされる。

フェアが空中で固まったタイミングでバットとスライム、ゴブリンによる攻撃が飛んでくるが、それを腕に当たった反動で反転し、後ろに下がることで攻撃を避ける。

キャット達がモヤを展開し、奇襲の機会を伺おうとするが、それは流石に許さないということでウィリィンが牽制する。

地面に水を撒くことで足が動く度に波紋や水しぶきが上がるようにしつつ、電気を通す道にする懸念点は咆哮によって仕込みもろとも破壊されることだが、水を出すぐらいならそんなに消費はないので咆哮に使うエネルギーの方が多いだろう。

それに魔物側にも影響が出るため、勝敗が決まるほど決定的なものでなければ司令塔のゴブリンが指示を出すことも、オークが自発的に使うこともないだろう。

ウィリィンはキャットの動きを把握してフェアの攻防に介入しないようにしつつ、フェアの負担を少しでも減らすべく遠距離攻撃を石の礫を放って相殺する。

今までは消費の少ないように立ち回っていたがこの相手ではそうも言ってられない。

一方フェアの方はというと


「そおぉぉぉぉぉい。

アハハハハハ」


オークに力負けしているものの、フェアもバカ正面から力をぶつけ合うわけではない。

うまく攻撃を反らして自身へと当たらないように意識して弾いているが、思った以上にオークの攻撃スパンが短い。

攻撃に転じる機会はあまりなく、あってもゴブリン達がここぞとばかりに集中砲火を指示している。

更に攻撃はジワジワとではあるがフェアの身体を掠めており、消耗はし始めている。

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