第141話高速移動

ウィリィンは反省しながら次の挑戦へと挑む。

爆心部分を覆い、爆発の出口を絞り、ベクトルを調整、その衝撃に耐えられるように自身に対してシールドを付与する。

この時に気をつけなければならないのが、シールドは衝撃を受け止めるような仕組みにしなければならないということ。

逃がしてしまえば、せっかくの推進力が失われてしまう。

先程の失敗から学んだウィリィンは最初から本番同様に試すのではなく、魔法だけを作って、起動させてみて効果のほどを検証した。

それでじっくりと検証を行ったうえでの2回目を行う。


「よし、行けるな?」


「はい」


「では、スタート」


先程同様に、爆発を推進力に変えて進むが、安全性を確保し過ぎたせいか、思った以上にスピードが出ない。

まあ、確かにウィリィンが出した中では最高速ではあるものの、最初の鍛錬で出した時の最大から20%ぐらい速いぐらいだろうか。

何なら1回目に吹き飛んだ時の方が直線距離は速かっただろう。


「あれ?

思った以上に速度が出ない?」


「爆発の勢いが減少しすぎているな」


「爆心部分の覆いが空いてる一方向のベクトル以外は吸収しちゃってるのか。

それに受け止めるシールドも衝撃を分散しちゃってるか」


ウィリィンが爆心を覆うのに使ったシールドは威力を吸収、分散する性質があり、これでは穴が空いてる方向以外のベクトルが消えてしまう。

覆いの中で反射して、空いている方へとベクトルを変えられるように調整することで、同じ威力の爆発でもより推進力を生み出すことができるだろう。

そして、ウィリィン身体を守るシールドについてもなるべく進みたい方向以外へベクトルが散らされるのを防ぐ必要がある。


「というか、爆発も一つである必要はないな」


爆心に空けている穴は大きいほど、ウィリィンが進みたい方向とはズレたベクトルが紛れやすくなってしまう。

だが、穴が小さいと身体のごく一部に推進力が凝縮されるわけであり、体制が取りにくいだけでなく、負担もかかる。

ならば、爆発を複数箇所同時に起こす変わりに一つ一つの威力は下げることで、身体全体を欲しいベクトルだけを受けて進むことができるだろう。

といった感じで試行錯誤した3回目。


「よーい、スタート」


ウィリィン爆発を受け、前へと吹き飛んでいく。

速度に関しては申し分ない。

問題があるとすれば、思った以上に速く進むことによる空気抵抗が痛いということと、止まり方を全く考えていなかったことである。

ほぼ地面と水平になるように力が加えられたので、線を越えた直ぐには地面との接触が訪れる。

空気抵抗に耐えるのに精一杯なウィリィンはそのまま地面へと崩れるようにぶつかり、


「あだっ!?ぐべっ!?だば!?」


何度かバウンドして、止まった。

一応、一回バウンドした辺りで状況を理解し、全身をシールドで覆い、ダメージは軽減した。


「スピードを出す際の体制と進んだあとについては考えておきましょうね」


「あい」


ウィリィンは傷を癒しながら答える。

自身へと働きかける魔法は考慮することが多くて難しい。

魔法を放つだけなら遠くの場所で起動して、余波に対してはシールドで防げばどうにかなる。

が、今回の移動は爆発のベクトル調整、威力の均一化、衝撃を受け止めるシールドと既に手一杯の状態であった。

それに加え、2回目で何ともなく遅めではあるが、速度を出せてしまった為に更に速度を出すことに意識が向き、その後のことはすっぽり頭から抜けてしまっていた。


傷が癒えれば次は身体全体についた汚れを落としながら立ち上がる。


「ふむ、今日はこれで終わりとしよう。

そう急がずに少しずつ速くなっていけば良いのでな」


「速度を上げていけば自ずと新しい課題が見えてくるわ。

それを一つ一つしっかりとクリアしていきましょう」


「ありがとうございました」


その日はそのまま解散し、ウィリィンは今日の振り返りをして眠りについた。


日課にはアスレチック、組手にその日から最高速を出す鍛錬が加わった。

また、アスレチックは速度を意識始めたことで少々難易度が低くなってしまったのでフェアが嬉々としてウィリィン達の感想を元に難しいものへと改造を加えていた。


そんなこんなで鍛錬の日々を送っていると、フェアから提案をされる。


「ダンジョン?」


「そー、

お母さんが領主として管理してるやつなんだけどねー。

力試しには丁度いいから2人で挑んで来いだってー」


「へー、ダンジョンってどんな仕組みなの?」


ウィリィンが尋ねるとフェアはダンジョンの概要について話し始める。


ダンジョン内には魔物の類が現れる。

これはダンジョン内の魔力を元に生み出されているそうで、幾ら倒しても時間が経てば再度生み出されるとのこと。

また、倒されてもその身体のほとんどは消滅し、偶に身体の一部分が残るそうだ。


「それはなぜに?」


「魔力で生み出された水とか、土が消えないのと一緒らしいー。

ダンジョンもリサイクルを意識してるみたいで、倒されると魔力に変わるように設計しているみたいなんだけど、沢山攻撃やら魔法やらを使われる部位とか、長い間ダンジョン内で生存していた個体は徐々に定着してくるらしくて、その部位が落ちるんだってー」


「なるほど」

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