第140話速さを生かす
「まあ、この調子で馴らしていけば、コツを掴むだろう」
「そうね、
ウィリィンー。大丈夫―?」
アウィリィはルリウィンと感想を語り合いながら復活したウィリィンに声をかける。
「コントロールが難しいでーす」
「この練習の時は毎回スタート地点から始めるといい。
取り敢えずはスピードを出すことに慣れろ」
というと、ルリウィンはウィリィンの足元に魔法陣を出現させ、先ほどのスタート地点まで転送する。
「好きなタイミングでスタートして良いぞー。
あと、最初から効率や、出力を求め過ぎると制御が難しいから、一端は徐々に速度を上げることをお勧めするぞー」
「分かりましたー」
そんな感じでルリウィン達のアドバイスも受けながら移動速度向上の調整を進めていった。
アドバイスは受けたものの、実戦となると話はまた別であり、チキって出力を下げ過ぎれば当然後ろの判定に追いつかれるし、自身では少しずつ上げているつもりでも調整が大雑把すぎるがために体制を崩すといったことは多くあった。
この鍛錬自体はある程度の回数をこなしたら序盤魔法なし、速度遅めに切り替えられ、持久的な鍛錬に切り替えられる。
その時にまだ数回しか行っていないはずではあるが、
「魔力禁止ゾーンが普段よりスムーズに突破できてる?
それに、後半も魔法使い方がうまくなってる?」
鍛錬の成果は確実にその身に感じられる変化として表れており、
身体全体としての反射神経、体幹が強くなったのと、自身が思い描く動きに対しての魔法の使い方がより極まっているのを感じ取れた。
そもそもとして先ほどより遅い速さの中で動いているので、対応するまでにかけられる時間が伸びているということでもあり、体感時間が引き延ばされたのだろう。
「後半は仕掛けが難しいから、魔法もそれに対する対処のイメージで使っていたから、移動に積極的には使ってなかったけど、まだまだ速くなれるな・・・」
アスレチックの後半は魔法が使用可能の代わりに仕掛けが凶悪である。
矢が様々な方法から飛んできたり、鉄球が転がってきたり、落とし穴、火炎放射、雷撃とフェア特性のトラップが至る所に仕掛けられている。
そのため、今までのアスレチック攻略は基本的に速度を出さずに対処重視で魔法を使用しており、速度を出すまで頭が回っていなかった。
それが今回の鍛錬のおかげで速度に対して意識するハードルが下がり、より安定的に攻略をすることができるようになった。
「ほう、思った以上に安定した動きになっているな」
「基本的なスタイルはちゃんと、今までのトラップの対処重視の立ち回りだけれど、合間合間でしっかりと速度を出して動けるようにしているのが良さそうね」
「短い時間であれば、出力のミスも起こりにくいのと、冒険的な出力はしない徹底ぶりだからな。
また、速度が上がってくれば変わってくるかもしれぬが、良い感じで先ほどの鍛錬の内容を組み込めておる」
ウィリィンは普段より少ない回数でアスレチックを攻略することができた。
「お疲れ様、ウィリィン。
攻略してみてどうだった?」
アウィリィが今日の感想もとい、振り返りを促す。
「なんか、普段と同じか、それ以上の速さで進んでいるはずなんだけど、時間が引き延ばされたような感じだった」
「速度に対して身体が適応し始めたのだろう。
この調子で鍛錬を続けていけばより速い状態でも余裕をもって対応できるようになるだろう」
「その分調整に失敗した時の反動は大きくなるから、気を付けてね」
アスレチックはこれで終わり、一端休憩を挟んで精神と身体を少しリフレッシュさせてから今日、最後の鍛錬に進む。
「さて、最後に今ウィリィンが出せる最大速度でこの距離を進んでもらおうか」
「はい」
ウィリィンは足に高速回転させた球体を準備、火と水を用いて水蒸気爆発を推進力に変換できるように臨界点すれすれで維持する。
「準備は良いかな?では、スタート」
ドゴーン
「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」
ウィリィンは爆発とともに斜め前の上空に背中に火傷を負いながら吹き飛ばされていった。
合図と同時に水蒸気爆発を発生させるまではよかったが爆発の推進力は爆心地から全方向に広がるようにベクトルが形成される。
つまりは、広がる推進力を背後から受けたウィリィンは持斜め上方向のベクトルに持ち上げられて、吹き飛んだのだ。
更に、その爆発的な推進力に対する防御についても不足していたため、背中が焼ける羽目になったのだ。
「おーい、ウィリィン大丈夫かー?」
ウィリィンはそのまま地面に墜落しており、ドロドロになっていた。
「だ、大丈夫・・・」
「まだまだ、いけそうね。
それで反省点は分かってるかしら?」
「衝撃に対する耐性と、ベクトルの調整かな」
「ふむ、大丈夫そうだな。
自傷に繋がるような行為は基本起こらないように注意しているのに、結構盛大にやらかしたのでな少々心配したぞ」
「うう、攻撃の時は気にしてるんだけど、推進力を得るだけだと思って、油断しました・・・」
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