第139話速さを鍛える

寿命を超越している人に言われてもあまり説得力がないような気もするが、周りが頷いているのを見るとそういうことなのだろう。


「では、次は...

今日ってお祭りというお話だったのですが、兄様、姉様達以外の方々って何か普段と違うことをされていたのですか?」


「本日は領民が利用できる公共の食料調達所の運営を行ってました。

ラド様から管理されているものより数倍大きく、多くの方が普段から利用されているので、強さもそこそこあり、かなりカオスな戦いになりがちですね」


「収穫祭って同日に起こる現象なのですね」


「確かに数日ズレることもありますが、同じ日に起こることの方が多いですね」


そんな感じでウィリィンは執事、メイドとの会話や食事を楽しみ、親交を深めることができたのであった。



次の日。

ウィリィンが普段通り鍛錬を行うために庭へと向かう。


「本日からは速さに重点を置いて鍛錬を行う」


ルリィウィンから開幕一番そう宣言される。


「被弾しない立ち回りにおいて速さは攻撃、防御共にとても大切だわ。

速ければ相手の防御や準備を間に合わせないで攻撃ができる可能性が高まるし、相手からの攻撃範囲外まで逃げることができたり、相手の死角に回り込むことができたりと、できることは多いわ」


アウィリィが速さを鍛えるメリットについて解説してくれる。


「だが、その分繊細な立ち回りが要求される。

何かにぶつかれば速さの分だけダメージが大きくなるし、急に止まったり、向きを変えるとなると大きく力を使うことになるだろう。

あと、当然ながら速いほど魔力を消費したり、身体に負担がかかる。

あと、空気抵抗とかも無視できなくなってくるな」


ルリィウィンがそれに続くようにデメリットというよりは気をつけなければならない部分について講義を続ける。

ウィリィンはそれをふむふむと頷きながら聞く。


「そして、肝心の鍛錬方法なのだけれども。

瞬発的な速さと、普段の速さの2つに分けて鍛錬を進めるわ。

瞬発的な速さは攻撃をする瞬間や、相手の大技をかわしたりと、チャンスを見て、一瞬だけ使う形ね。

これに関しては色々な魔法だったりを組み合わせて最適な方法を模索してもらうわ。

この線からこの線までを過ぎるまでのタイムと加速度を測るわ」


アウィリィは直線100mほどの距離を指差す。

この距離をなるべく早く移動できれば良いのだろう。


「そして、普段の速さに関しては続投でアスレチックだな。

普段通りにクリアを目指して貰うのと、前半の魔力禁止ゾーンのみを魔力アリでやって貰う予定だ。

ただし魔力アリの時は後ろから迫るアウト判定の速度を3倍にする」


「3倍...」


前半部分は身体能力を鍛えるのが目的のため、魔力の使用が禁止されており、難易度もそれに合わせたものにされていた。

それを魔力の解禁に合わせて速くこなせるようにすることで速さの向上を測るということだろう。


「さて、説明はこれでおしまい。

最初はアスレチックをやるわよ。

魔力は解禁で、速度を出す練習をしてみなさい」


「は、はい」


ウィリィンはアスレチックへと向かい、スタートの準備をする。


「では、準備はいいかしら?

ではスタート」


ウィリィンはスタートと同時に足に球体を生み出し、それを高速回転させつつ、走ることで快調なスタートダッシュを決めるが、


「はっっや!?」


少し後ろを見ると自分の速度と同じか、ちょっと速いぐらいの速度でアウト判定が迫ってきているのが見える。

今は真っすぐの道であるため、それほど問題は無いが、障害物が現れ始めればどんどん追いつかれてしまうだろう。

そこでウィリィンは火や、風を活用して自身の後ろに噴射することで身体を前へと押し出し、更に速度を上げた。

だが、これほどの速度を出すと少しのコントロールをミスるだけでも大きな距離を進んでしまう。

すると、何が起きるかと言うと、


「うぎゃ!?股が割ける...」


足を地面から離すのが遅れて、思った以上に上下に足が拡がってしまったり、


「うわおわぁー!?飛びすぎぃぃぃぃ」


少々噴射と蹴りが強すぎて飛びすぎてしまって、空中でバランスを崩しそうになったり、


「ふぎゅん!?」


逆に地面に向かって噴射し過ぎてしまって地面に向かって勢い良く前かがみに顔面からクラッシュしたりと思った以上に事故が起きる。


そうこうしているうちに障害物の類が姿を現すのだが、出力の調整がおぼつかない状態で壁を回避して進んだり、よじ登ったりするぐらいならまだしも、足場を連続で飛び移ったり、方向転換を行おうとすれば


「いやぁぁぁぁぁ!?

制御できないぃぃぃぃ」


調整を誤り、落ちたり、衝突したりしているうちに後ろから迫る判定に追いつかれて爆散した。


「ふむ、思った以上に速さに動きがついていけていなかったな」


「まあ、速度を手軽に出すために色々な魔法を同時展開し過ぎね。

攻撃の時は配分とかは意識しなくて良かったでしょうけど、移動は身体の動きを常に制御しないといけないから、繊細に調整しないといけないし、足や、全身の動きに合わせて適切な配分も変わってくるわ」

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