第7話教育方針

その後、運ばれてくる料理を全て食べ切り、ワイングラスを片手にルリウィンは話始める。


今回生まれた子は異世界での記憶を保持していること。


痛みや死による魂再こんさいに酷く苦痛を感じること。


ひとまず慣れるまでは我々二人で教育を行うということ。




「…最終的には克服まではいかなくとも、耐えうるようになってもらいたいと考えておる」




「具体的には?」




「癒しの炎を身の内に宿らせる。あれを使えば、恐怖心までは拭いきれぬが、苦痛は感じないようだ。


これを最初は我々が補助するが、最終的には自分一人でできるようになってもらう。


恐怖心についてはこの過程である程度克服して貰う。ついでに色々な技術を学ばせる」




「克服への道を示しつつ、その強い想いをうまく他にも有効活用しようってことね。


無為に虐めるつもりは無いみたいね。


他のことが嫌いだったら別にやらせなくてもよかったんでしょうけど。


闘いは避けては通れないわね...


せっかく産まれたのだから幸福に生きてほしいのだけれど」




「そのためには少しでも早く強くなるしかあるまい?


その代わりと言ってはなんだが、既にかなり魔力操作や発現をできるようだぞ?


学習能力も高い。何せ今日一日で癒しの炎を既に会得しとるでな。


燃費と効力はまだまだ良くないが」




「赤ん坊の成長力と既に完成されている人格によるものかしら?


あんた、期待してるのってこっちのほうでしょ?」




「バレたか。前世からの引き継ぎで既に基礎教育はある程度終わってると考えて良いからなぁ。


かなりの時間を戦闘訓練に割ける」




「だから私もこの時期に泊まり込みってわけね」




「ああ、基本的な育児だけであれば毎日少し顔を出す程度で良いかと思っていたがの。


そういえば前に言っていた英才教育も効果があったようだぞ?」




「って、前は教えてくれなかったけど結局何をやってたのかしら?」




「ああ、なるべくお腹の子に響くように攻撃を行った。あとはへその緒を切ってみた」




憤怒が先ほどよりぶち切れて全身を溢れんばかりの炎で燃やしながらドスの効いた声で言う。




「あ?あんたなにしてくれてるの?


まだ攻撃に関してはやけに絡んでくるなとしか思わなかったし、軽い運動程度だったから意識してなかった私にも非はあるけど。へその緒を切ったですって?」




「ああ、どうやって生き残ったのだろうな?母親からの供給が無ければ溺れ死ぬだろうに」




「お前、よく平然と言えるな?


溺れ死んでたらあの子は生まれるまでずっととんでもない苦痛に苛まされ続けたってことでしょ?」




「なるほど、それは悪いことをしたな、明日聞いてみよう」




「聞いてみようじゃねぇぇぇぇ!謝罪が先だろうがぁぁぁぁぁ、謝れぇぇぇあの子にあやまれぇぇぇぇ、あと私にボコボコにされろぉぉぉぉ」




憤怒は拳に圧縮した炎を宿しながらルリウィンに殴りかかる。




「我が子には勿論謝ろう、だがお主にボコボコにされるのは話が違うなぁ?食後の運動と行こうか」




周りにいたメイドや執事達はグラスや食器を収納し、各自職場に戻っていく。


時折二人の闘いに巻き込まれ、吹き飛ばされる者もいるが、誰も大して気にした様子もなく、作業を続けた。




ちなみに吹き飛ばされた本人は直後こそ猛獣のような笑みを浮かべていたが、


直ぐに顔を引き締め、作業へと戻った。






翌朝




(ううん、朝か。色々と凄い情報量で気持ち悪い....


性別変わってたり、母親に毒殺されたり、だけど癒しの炎については大きな収穫だったな。


これを使えば耐え難い苦痛から身を守ることができる....


でもこれって死んだ時にそれ分の余剰魔力を残しとかないといけないんじゃ...


敵はそんなのお構い無しに全力で攻撃してくるよな?キツくね?)




と考えているとメイドがやってきて先日同様水球に放り込まれる。


もう二回目(実際は眠っている間に1回やられているので3回)なのでそれほど動揺しない。




その後メイドに抱えられて屋外の庭へと連れて行かれた。そこで少し待っていると。母親ともう一人知らない女性が現れた。


メイドは母親に自分を手渡し、目立たないところに下がった


母親ともう一人の女性は魔力を彼女へと纏わせると昨日同様に声が聞こえ始めた。




(では、鍛錬を始めるかの)




(おい)




隣の女性が小突く。




(ああ、我が子よお主にはいくつか謝らければならないことがあったの。


まず尋ねるのだがお主、生まれる前の腹の中の記憶はあるのかの?)




(ああ、はいありますよ、いきなり拳が飛んできたり、暑かったり、寒かったり、


へその緒を切られるなんてこともありましたね)




隣の女性から炎が燃えさかり、母親を凄い目で睨みつけ始めた。




(おお、それは悪いことをしたの...


我々は死んでも魂再するゆえ、胎内にいるうちからそういった環境に晒すことでより強く生まれてくるんじゃないかという試みでの。


お主に苦痛を与えるつもりは一切なかったのだ。深く謝罪しよう)




(私からも謝罪するわ、こいつの悪巧みにはもう少し気を張っておくべきだったわ)




二人が自分に向かって頭を下げている。




(あ、はい、大丈夫...ではなかったですが、攻撃や生き返り...魂再こんさい?で苦しみを感じるなんて予測できなかったでしょうし、それよりそちらの方は...?)




謝罪を受け入れ、先ほどからいる隣の女性について伺う。




(ああ、私?そういえば自己紹介したこと無かったわね、私は7罪当主憤怒のアウィリィ・アヌグ。今日からコイツと共同であなたの鍛錬するから、よろしくね)




(そういえば、お主の名前を教えてなかったの、ウィリィン・ディザレア、ウィリィンだ。これからよろしく頼むぞ)

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