第5話母親との対話1

(あ、はい。私には前世の記憶があります。恐らく、他の世界で過ごした記憶が)


(ふむ、他の世界だとする根拠は?というか、硬いな。

もっと柔らかく話せ、お主の前世については興味こそあるが、気味悪がったりせぬよ。

前世を理由に不遇な扱いはせぬと約束しよう)


(わ、わかった。根拠としては魔力がないんだ。

感じ取れなかっただけかもしれないけれど。

俺が知っている限りモノは上から下に落ちるような自然法則で説明がされていた)


(ほう、我々の住む惑星の引力による物体の自然落下現象か。

確かに魔力による干渉がなければその法則を無視することはできまい。

まあ、逆方向の力、浮力を使って打ち消すことはできるだろうが)


(???そんな感じで合ってると思います)


(ふむ、自然現象について具体的な証明がされているとなると

文明レベルはこの世界と似通っているのかもしれぬな。魔力がないのにようやりよる)


(創作物の類で魔力があるとそれに依存して、文明レベルが進歩しなかったり、

研究が進んでいないイメージがあったけど、そんなことはないのか...

少しは同世代に対して有利が取れるかと思ったんだけど)


(ふふふ、研究好きな輩が沢山おるのよ、魔力のあり、なしで時代の進み方も違かろうて。

それに既に知性を持った行動ができるのだ。それは大きなアドバンテージだろう)


(そうかぁ、期待に沿えるように頑張る。そういえば大事なことを聞き忘れてた。

なんで俺、刺し殺されたんでしょう?

とっても苦しかったし、というかなぜ生きてるんだ?これも魔力によるもの?)


(ふむ、興味深いな、先に後半の質問から回答しよう。

我々は死んでも何度でも再生する、闘鬼と呼ばれる種族だ。

種族の特徴として寿命以外ではこの世を去ることはないのだよ。

どんなに死のうとも魂から再生する。まあ、再生はそれなりに消耗するがな。

魔力も消費するぞ。ちなみに魂再こんさいと呼ぶ。

そして前半部分について回答だ。死は成長に繋がるからだ。

お前は感じてないかもしれないが我々は闘争を本能として求める。

欲求としては睡眠、食事と同程度にな。

殺し殺されを繰り返し、個として成長することで種族としての一人前と認められるのだ。

それで赤子も闘争を求めるゆえ、それを発散させる必要があるのだ。

それが昨日、今日とお主の心臓を串刺しにしようとした理由だ。

一般的にこれをされると赤ん坊は喜ぶ。

まあ、魂再こんさいに体力を持ってかれてすぐ寝てしまうがな)


(ええええぇぇぇ...あれが気持ちいいんですか?

個人的には苦しいだけだし遠慮願いたいんですが)


彼はドン引きしながら答える。


(無理だろうな。この国には闘鬼以外の種族は数えられるほどしかおらん。

だから殺し合いを忌嫌する土壌が存在せぬのよ。

みな挨拶のような感覚でお主に刃を向けるだろうて)


(そりゃ、挨拶代わりに殺されるかもしれない種族と一緒に暮らすなんて。

気を張りすぎておかしくなっちゃうよ)


(その通り、ただ、決して他人事ではないぞ?

お主も殺されることを否とするならばそれだけの何かが必要となる)


(いや、人と関わらないようにするとか、他の種族の国へ行くとか...)


(無理だな。我々は弱肉強食ゆえ、弱い上に強くなることを怠るものは侮られる。

お主は私らの血を継いでおり、血統はこの上なく最上だ。

人体実験、愛玩動物、子作りと道具として使い潰されるだろうよ。

また、私の庇護は期待せぬことだ、私が睨みをきかせたところでそういった輩がお主を狙うだろう。

国外逃亡もやめておけ、寿命以外で死なぬ種族なんぞ国内同様権力者の涎垂の珍獣だろう。

指名手配されて地の果てまで追いかけ回されるだけだろうよ)


(強くなって殺されないように立ち回るしかないってことか...。その過程で何回死ぬ?)


(そもそもの話、苦しみが緩和できればよいのではないか?

ほれ、このように癒しの力を使いこなせれば、鎮静される。

耐え難い苦しみもこれで中和すればよい。

まあ、燃費は悪いので使わないように立ち回るのが理想的ではあるがな)


彼女は片手に優しい炎を生み出し、彼に近づけた。

触れてもいないのに漂ってくる心地よさだけで眠ってしまいそうになる。

その直後彼女はスッと炎を消し、心地よさは余韻を引きつつも遠のいて行った。


(それに、せっかく生を受けたばかりで成長期真っ盛りのお主が逃げるだの、隠れるだの

後ろ向きな思考ではいかんだろう。

それに人格が既に形成されておる。

この時期から明確な目的意識を持って教育を受けることができるのは大きなアドバテージだろうて。

既に独学で魔力の使い方を得ているのだろう?

せっかく第2の生を受けたのだ、謳歌せよ。障害は捻じ伏せろ、最大限のサポートはしてやろう)


(わ、わかった、強くなりゃいいんでしょ?そうだよな、せっかく転生したんだ、楽しまないと損だよな、やってやろうじゃねえかぁぁぁぁぁ)


(よく言った、それでこそ、我が娘よ)


(がんばるぞぉぉぁ、ん?む、むすめ?)

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