第2話胎内戦

(くそ、なんとか全身を覆うことはできて、胎内を跳ね回る分には気持ち悪いだけで済むようになったが、


外から飛んでくる拳はまだまだ痛いな・・・てか、これ母親の方も敵に追われているとかじゃなくて望んで戦いに行ってるだろこれ)




その後も修練を続けていると時々戦闘に巻き込まれた。


どんなに魔力で身を固めようとも飛んでくる拳の破壊力は殺しきれず、


母体の動きも不規則かつ、ランダムな為、振り回され、対策とはいいきれなかった。




そこで、彼は試行錯誤の末、手を前に突き出し、苦戦しつつも魔力を手の先へと伸ばす。


するとその先に壁があることが薄っすらと感じ取れる。




(これで実際に当たる前に壁やら、拳やらを探知することができる。


ただ、分かったところで、かわせないんだよなぁ、


だけど、攻撃、跳ね返りに合わせて防御の比重を移動させれば、よりダメージを軽減できる・・・)




その後、鍛錬と、争いに巻き込まれる形で実践訓練を積み、


魔力で周りを探知しつつ、当たる部位により多くの魔力を集められるようになった。


その効果は大きく、ダメージをカットするとともに、魔力で胎内の様子を把握できるようになったことで、胎内の不規則な動きに振り回されにくくなった。


その後も鍛錬と戦闘に耐える日々は続いた。




ある事件が起こるまでは・・・




ある日、温かい手のようなものが入ってきた。


それは彼のことを包み込み、彼を優しく撫でた。


最初の方は新たな攻撃か?と警戒していた彼も次第に撫でられる心地よさに気持ちが緩んでいき、最終的にはされるがままの状態になっていた。


彼が完全に警戒を解き、意識もうつらうつらしてきたところを見計らってか、


その手はへその緒の方に伸びていき、それをグッと握りしめたかと思うとへその緒を切り裂き、そして消え去った。




(ふぇ....!?)




唯一の栄養の供給源を絶たれ、彼は窮地に陥った。




(くっそ、油断した...ヤバイヤバイヤバイヤバイ)




彼は先ほどまでのほんわかした気持ちを無理やり振り払い、既に感じ始めている息苦しさに抗いながら半狂乱になりながら思考する。


胎内は羊水で満たされており酸素の取り込みは全てへその緒を通じて行われる。


その供給が絶たれた今、彼は酸素ボンベなしに水中に閉じ込められているのと同義である。




(くっそ、外だ。無理やりこじ開けて出るっ)




彼は魔力を広げ、胎内の壁の隙間を探し、


そこに不器用ながら手足を動かし、魔力を放出し、身体全体を使って体当たりする。


しかし、どれだけ力を込めても跳ね返されるばかりで出ることは叶わない。




(くっそ、なら栄養を...胎盤から直接得る)




彼は魔力を広げた際に今まで得ていた栄養が水中に流れ出ていることに気づいていた。


その発生源を辿り、自身のへその部分と繫げることで再度栄養を供給して貰おうと考えた。




彼はまず胎盤まで近づき、栄養の発生源と発生源とへそをできうる限り近づけた。




これではまだほとんど漏れ出てしまい、息苦しさは改善しない。


そこで彼は魔力を練り、自身のへそと胎盤を覆うことで密閉に成功した。




(ふうぅ...なんとかギリギリなんとかなったな)




先ほどまで自身を襲っていた息苦しさから解放され、胸をなでおろす。


だが、へその緒と胎盤は魔力ホースで繋がっているだけであり、


ホース内でヘソから出ようとする老廃物と胎盤から送られてくる栄養が混ざってしまい、


栄養の供給効率は今までの半分以下に落ちてしまった。




(ホースに仕切りを入れて、なるべく出す方と、いれる方で分けるのと、供給量自体を増やして貰うか)




彼は魔力を使って栄養と老廃物の流れを制御し、2つの流れがぶつかり合わないよう調整しつつ、老廃物を出す速度を上げることで栄養を吸い上げる速度も向上した。




(おおう、今までよりも力が漲ってくる、てかガチで殺されかけたんだが、


まじでどうしてくれようか...覚悟しておけ)




彼は窮地を脱し、落ち着いて来たことで謎の温かい手に対して怒りが込み上げてきた。




(もう絶対に油断せんぞ、次来たら噛みついてやる...って歯がないか)




多少鍛えたところでまだまだ生まれてすらいない身であり、外部から見れば貧弱でしかないであろう事実に我に返りつつも




だがしかし地道に少しでも強くなる他理不尽に抗う手段が無いのもまた事実。彼はまた魔力の活用に精を出すのであった。




外では何度か戦闘があったらしく激しく揺れたり、拳が飛んできたりはしたものの、


魔力を使った探知力、防御をうまく活用することで拳をかわし、衝撃を吸収することで


幾らか楽に過ごすことが可能になった、遂には飛んでくる拳に合わせ、魔力を込めた手で殴り返すことも可能になった、ただ、拳の硬さに悶えることになったが




また、殴り返してからは状況が悪化した、衝撃波が飛んできたり、




(ぐべらぁ、つ、潰される....)




電流が流れてきて痺れたり、




(あばばばばばばば....)




胎内の温度が急激に上昇したり




(あつ、茹だる、茹だるうぅぅぅぅ)




衝撃波は衝撃を吸収するような弾力性のある魔力を生み出し、


電流は魔力で電流の通り道を作り、外に誘導、温度上昇には魔力を冷気に変換することで中和した。




そんなこんなしているうちに彼は大きくなり、胎内で動けるスペースもあまり無くなってきた。


遂に出産間近である。

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