闘鬼~転生先は寿命以外で死なない種族、戦闘からは逃れられません(泣)~

@komofy

第一章誕生~乳児

第1話生誕



暗く心地良い空間にそれはあった。飢えや苦しみとは無縁であり、お腹のあたりから心地良いものが流れ込んで、交流を続けているのが分かる。


(ここは...)


重く目を開けることは叶わないが、周囲の状況を理解すべく感覚を研ぎ澄ませる。


(確か死んで...)


重く鈍くしか動かない思考を働かせて、自身の過去について思い出そうとするが、

日本で生を受け、20代ぐらいまでの生活を行っていた。程度の概要しか思い出せず、

具体的にどんな日々を過ごしていたのか、友好関係は、といったことは

霧がかかったように思い出すことができない。

埒が明かない為、思い出すのを諦め、今置かれている現状について思考する。


(何かとても懐かしいような...とても安心する)


うまく動かない手足を動かしてみると柔らかいものに包まれており、

お腹のあたりに意識を集中してみると管のようなものが繋がれているのが感じ取れた。


(ここは胎内...?胎児に転生した?)


よく考えると自身は今水中におり、手足と胴体のバランスなど色々な要素からそう推測した。


(よく創作物にある異世界転生?

幼少期に魔法とか鍛えたら超強くなれたりするのかね?

どんな世界にせよ幼少期から未来見据えて物事に取り組めるのは有利過ぎる、

実は既に何か能力を鍛えたりできるんじゃないか?)


彼は心地よさに身を委ねながらまだ見ぬ世界に妄想を広げたり、未知の能力を感じ取ろうとしたりと平和で幸せな時間を過ごしていた。


ただ、そんな平穏も長くは続かなかった。

ある時、何か力を操れないか考えていたところ、胎児を守るはずの母体を変形させ、拳が彼を貫いたのである。


(ぐえらぁあ?)


まだ生まれてすらいない自分に突如として襲い掛かる

不条理な拳によって薄れゆく意識の中


(ああ、地獄に転生したのか)


とほとんど思い出せない前世の自分の行いを悔いるのだった。


彼は大きく吹き飛ばされ、胎内でバランスボールのように跳ね回った。

そして時同じくして、母親の方も反撃?を始めたらしく激しく移動し、

それに合わせて彼は胎内で不規則に回転させられていた。

彼は先ほどの拳の衝撃で頭の中で星が飛んでいるものの、

跳ね回る衝撃のせいで強制的に覚醒させられていた。


(おい、中に赤ん坊がいるだろうが、何暴れてやがる、ってうお!?)


また、体外から拳が飛んできて自分のいる場所の近くを掠める。


(母親を殴ってるやつも意味が分からん、あんなの何回も食らったら全身ぐちゃぐちゃに整形されてうぎゃぁ!?)


胎内でシェイクされながら、飛んできた拳にまた当たり、殴られた部位と跳ね回った時にぶつけた箇所が痛む。

頭が激しく揺さぶられ、凄く気持ち悪い。が、胎内にいる身ではどうすることもできず、

この激しさが終わるまでの間、早く終わることを長いながら跳ね飛ばされ続ける他なかった。


しばらして、終了したのか、胎内は平穏を取り戻した。


(うううう・・・酷い目にあった、殴りかかってきた奴も意味わからんが、母親も絶対応戦してただろ、生まれたら絶対にしばく)


母親と、戦っていた相手に対し怒りを吐き捨てながら、生命の危機に晒されながら得た感確について意識を向ける。


(無我夢中で拳をかわそうとしたり、壁と外からの攻撃のダメージを軽くしようとやってたけど、何か体の中で動かせる力がある・・・)


彼は極限の状態で体の中を満たす魔力を知覚し、それをまだぎこちなくはあるものの動かすことに成功していた。


(やっぱ異世界だな・・・これがとりあえず魔力ってことにしておこう。これを鍛えれば少しはましになるかもしれない、てか、生まれる前に死ぬ)


彼は魔力を操り、右手に集める。

それを反対の手で触ってみると手のひら表面すれすれのところから磁石のような反発感を得ることができた。


(魔力を集めることで体を守る防御膜を作ることができる。

これでダメージを減らすことができるが・・・これ、手のひらに集めるだけで精一杯だな・・・

それにまだ強度も薄いゴム膜みたいなものでしかないし、鍛錬あるのみか。

くそ、異世界がどんな感じかすごく気になる)


日本で生活していたころには存在しなかった感覚、それを使ってどんなことができるのか好奇心を感じつつも、

子を宿している母親が誰かと戦わなければならないシチュエーションに修羅や地獄といった恐ろしい世界に来てしまったのはと絶望を感じつつある。


(だがしかし、ここでの努力は決して無駄にはならないはず、そして、今、俺と母親は繋がっている)


そう、現在彼はへその緒を通じて栄養が常に供給されている状態であり、栄養の中には魔力も含まれていた。

そのため、彼を身に宿した状態で戦闘を行ったことに対する抗議の意味を込めつつ、送られてくる栄養を片っ端から使って自身に防御膜を覆う鍛錬を続けた。

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