第3話出産
(絶対に母親のお腹も大きく出てて、動き回っちゃ駄目だろうに、なんで闘う頻度が増えてるんだよ、この世界でやっていける気がしない....)
もはや回数を数えるのすら億劫になるほど外の闘いに振り回され、当初の怒りを忘れ、
彼は外の世界への恐怖で満たされていた。
(だけど、今の状態だと完全に受け身で振り回されるだけだしな...
さっさと生まれて、能動的に動ける方がいい、
まあ、出口をこじ開けようにもびくともしないんだけどさ、硬すぎる)
何度かその後も闘いに振り回されたものの、順調?に時は過ぎ、遂に出産の時を迎えた。
(おお?出口が開いた?遂に外に出れるのか、長かった...)
彼は今までの出来事を振り返りながら母胎の動きに身を任せ、産道へと導かれていく。
(胎内と違ってやれることが広がるなぁ、怖いけど、やっぱ楽しみだなぁ)
と感慨にふけられる時間はそう長くなかった。
(ひぎっゅ?すみません、狭いです、潰されてるんですけど!?)
産道は彼の全身を押し潰さんばかりに収縮し、彼はそれに魔力の膜で対抗した。
(ぐぬぬぬぬぬ、早く出口へ、
せっかくここまでやってきたってのに産道で圧死はいやだぁぁぁぁ)
魔力をうまく動かし、締めつけの軽減と潤滑油の役割を同時に行い、下へ下へと進んでいく。
そして...
「おぎゃぁぁぁぁぁ、おぎゃぁぁぁぁ」
彼は生誕を果たした。
が、その時に上げた産声が絶叫に変わるのはすぐ後のことだった。
「(当主様生まれましたよ)!」
(うん、何言ってるか分からない)
まだ目がうまく開かないが他の感覚、魔力を動員し、周りの様子を探る。
その間にも取り上げられた彼は身体を拭かれ、柔らかい布に包まれた。
「(ほう、随分と出てくるのが早いと思ったが、随分と小さいな)」
「(でも、凄い魔力量です、流石は当主様とあの方の子ですね)」
彼は最初の人からもう一人の話している人に手渡される。そのあたりで生後間もなくで開かなかった目が徐々に開いてきた。
彼が目を開くと絶世の美女が自身のことを抱えていた。
(すっごい美人、自分この人から産まれたのかな?格好もきれい)
彼が今世の母親らしき人に見惚れていると、メイドの格好をした人が彼女に何か手渡した。
彼女はそれを受け取ると、彼の胸へと当てた。
彼は胸から感じるひんやりとした感覚にハッと我に返ると、
刃渡り10センチほどの刃物が彼女の手に握られており、
彼の心臓へと突きつけられていた。
(ちょ、へっ?どういうこと、やめてもらえませんか?
え、なんでこの母親こんなに笑顔なんです?
生まれたばかりの赤子を殺そうとしている人の目じゃないっ
慈愛に満ちてるって、よく見たらメイドの格好した人もいる、
って同じような顔してるし)
魔力を練り上げ、刃物を押し返しつつ、首を激しく横に振り、
必死に止めてくれるよう懇願した。
すると刃を押し込む力が弱まり、彼女は近くのメイドと目を合わせ、微笑んだ。
期待したのも束の間。
再度彼に向き直ると先ほどとは比べ物にならない力で刃が押し込まれ、抵抗虚しく、
「お、おぎゃぁ....」
情けない断末魔とともに彼の心臓は刺し抜かれ、絶命した。
遠のく意識の中、彼の身体は崩壊し、力のかたまり、魂だけの存在になった。
全身が炎で包まれているような激しい熱に襲われながら、身体が再構築される。
元の身体へと再生される度にその部位を針で串刺しにされているかのような激痛が彼を襲う。
耐え難い痛みに意識は覚醒し、身をよじり、一生懸命痛みを誤魔化す。
再生された目から目線で痛みを周りに訴えてみるも、
キョトンとするだけで何かしてくれる様子はない。
すると汗でびっしょりな女性がいきなり近づいて来たかと思うと
彼に対して手をかざし、そこから生じた炎が優しく彼を包みこんだ。
すると全身を襲っていた痛みが取れ、安らかな心地に満たされた。
「(あんた、仮にも親なんだから我が子の状況ぐらい直ぐに把握して、あやしてあげなさいよね)」
「(すまん、すまん、
何か話している声が遠く、響くように聞こえてくるものの、心地よさと安心感で満たされた彼は意識を手放し、眠りに落ちていった。
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