第4話 雷帝 & 錬金術師 VS 自然王
「このカナリア王国が砦、王国騎士団団長にして、女神カナリア様に選ばれし先代勇者! 紛うことなき王国最強の男、レオン騎士団長だ!」
俺たちの正面にある闘技場の扉が開き、真紅のスカーフを身につけた、一人の凛々しい男性が現れた。その装いや佇まいは、まさしく『勇者』というに相応しい風格だった。
「お初にお目にかかる、救世主諸君。僕が、たった今陛下よりご紹介に預かったカナリア王国騎士団団長、レオンこと、レオナルド・アーウィルだ。レオナルドだと長いだろうから、レオンでいいぞ。よろしく頼む。」
おまけにイケボときた。これは女子からの人気が高そうだ。もう既に数人色めき立っているし。
「君たちが、今回僕と戦うという代表者か。名前を尋ねてもいいかい?」
「宮澤和樹だ。よろしく頼む。」
「荻原魁斗です。どうぞ、お手柔らかに。」
「なるほど。カズキくん、それから、カイトくんだね。……へぇ、『元素錬金』と『狩猟月の雷帝』か……。君たち、さっき仲が悪いとか言われてたけど、スキルの相性はこれ以上ないほどいいね。お互いを毛嫌いせずに連携を磨けば、いいタッグになれるはずだ。」
と、レオンさんは俺たちのスキルを見事に言い当て、相性がいいとまで言ってきた。
「え!? 何で俺たちのスキルを」
「レオン。お主、何のために呼ばれたのか忘れてはいないだろうな?」
と、俺の質問の途中で陛下がレオンさんに声をかける。そうだ、俺たちは今から、先代勇者でもあるこの人と戦うのだった。
「おっと、これは失礼。たった今、僕が授かったスキル『
レオンさんがそう言うと、俺の視界にゲームのテキストボックスのようなものが現れた。
「うわ!? な、何だ……?」
「あーごめんごめん。いきなりで驚いちゃったよね? 『精霊王の審眼』は、一時的に他者にも与えることもできるんだ。君たちはこの先、救世主の中でも特に優れた戦闘能力を活かし、主力として戦う機会が多いと思う。これは、そんな君たちへの僕からのプレゼントだ。この世界にいる限り、君たちは永続的に『精霊王の審眼』が使用可能になった。さてと。」
その瞬間、身震いをするほどレオンさんの雰囲気がガラリと変わった。声が嘘のように重く、低くなり、目付きも、まるで獲物を見据える肉食獣のようだ。
間違いない。本気で戦うためのスイッチを入れて来た。
「45秒だ。45秒間だけ、僕の能力を分析する時間をくれてやる。せいぜい死なないように立ち回れる程度の情報は得られるよう、努力することだ。」
その言葉は、とても脅しとは受け取れなかった。
やばい、一刻も早く対策を練らないと殺される……!
俺は急いで、レオンさんがくれた『精霊王の審眼』で情報を解析する。
-基本情報
・対象名:レオナルド・アーウィル
・種族:人間
・二つ名:自然の勇者、精霊王、英雄
-ステータス
レベル78
「え?」
何故か一部の情報が曖昧だったり、<解読不能>と表示され、そもそも見ることすらできない。
「は!? からって何だよ!? というか、解読不能!? てめえ、ニセモンの力渡して、俺らのことバカにしてんのか!?」
「ふ、そっちこそバカなことを。というか、口論している場合か? 残り30秒……。」
「くっ……!」
「宮澤、とりあえず今は解析を続けるぞ!」
「わかってらぁよ!」
-
・スキル名:
・スキルランク:Tier V 神格実体級
・スキル効果
⚪︎精霊王の審眼
対象の基本情報、ステータス、所有スキル、習得済み魔術、長所、弱点等を閲覧可能。ただし、対象に恐怖心や不信感を抱いている場合、一部の情報が解読不能、または不鮮明な情報となる。
⚪︎樹海の覇者
初期から土壌魔術XX、地盤魔術XX、水流魔術XX、水刃魔術XX、樹木魔術XXを所持。
なるほど。恐怖心や不信感を抱いているとこういう感じになるのか。つまり、レオンさんは、強敵を前にして、俺たちが平常心を保てるのか試しているのか?
「10、9、8、7……」
-
・勇者の矜持
刀剣類の武器を装備している時、全ステータスが<解読不能>%上昇。即死耐性XXにより、全ての即死攻撃を無効化。
-
・騎士道精神 習得度XX
闇属性耐性V〜X、混乱耐性X、洗脳耐性X、恐怖耐性X、絶望耐性Xを所持。
・分割思考 習得度XIV
思考を分割し、複数の情報を並行的に処理することで、複数の魔法の同時発動、状況把握の補助などが可能。
「く、くそっ!」
ダメだ、全然読み取れない! 焦るな、落ち着け! 平常心……平常心だ!
そうだ! 習得済み魔術の項目を見れば、さっき読み取れなかった情報を補填することが……!
「時間切れだ。」
「え……」
先ほどまで遠めにいたはずのレオンさんの声が、何故かすぐ真横でする……。
しまった、間合いの中まで接近された!
そのことを認識した次の瞬間、俺の身体は闘技場の壁にこれでもかと言うほどの勢いで叩きつけられていた。
「魁斗!」
「カッ……ガハッ……!」
何だ、今の……? まるで、何百トンもある巨大な丸太で殴られたかのような、とても素手の打撃とは思えない、完全にデタラメな重さだ。
「『プラズマウォール』……熟練度XII以上で使える、雷系統だけでなく、全ての魔術系統で見ても極めて優秀な雷撃魔術の防御魔法だな。カイトくん、あの一瞬のうちに、しかも無詠唱で展開した技量と反応速度、判断力は認めてやろう。加えて、熟練度Xの雷鳴魔術までしか使えなかった状態から、しかも他の世界で暮らす人でありながら、たったの一週間で雷撃魔術XIIで習得できる魔法を、無詠唱で扱ってみせた君の雷系統の素質には、僕でさえ目を見張るものがある。だが……」
衝撃で巻き上げられた土煙が収まると、そこには樹木を全身に纏い、身体が一回り大きくなったレオンさんの姿があった。
「生憎この
「俺のことを忘れてくれんな! たかが木でこいつに勝てると思うなよ!」
宮澤が錬金で造り出した金属を纏いながらレオンさんに接近する。いくらレオンさんと俺たちの間に差があるとはいえ、木と鉄なら後者が有利だ。
「思った通りだ。やっぱり、攻撃力の高さを活かせるように樹海之纏と似た使い方をするんだね。じゃあ、お手並み拝見と行こうか、カズキくん。」
「錬金蒸着!」
鉄を纏うにつれ、和樹の身体がみるみる大きくなり、最終的にその身体は、全長5mほどに至る。
「
この姿こそが彼を肉弾戦最強たらしめているのは間違いないだろう。
「覚悟しやがれ、
彼の型だけの見様見真似の正拳突きがレオンさんに叩きつけられる。
しかし、レオンさんは3mほど跳び上がり、これを難なく躱す。
それを見るなり和樹は右足に装甲を集中させて重さを増やし、鋭い足払いを繰り出す。どうやら、跳ばせることが狙いだったらしい。
彼の戦闘スタイルにスキル以外に武器や小細工、決まった型や流派は一切ない。これまでの喧嘩で培ってきた経験に基づいた、率直でありながら不規則な、所謂
「なるほど。最初の突きで跳ばせて、身動きの取れない空中を狙う……賢いね。でも……」
言葉を切ったその瞬間、レオンさんは空を蹴って足払いを躱した。
「な!? 躱しやがった!?」
「その様子じゃ、君はまともに情報を得られなかったようだね。」
「……そうか! 宮澤、空中を狙っても無駄だ! 土壌魔術と地盤魔術で、レオンさんは空中に足場を作れる!」
「ご名答。さてと……」
跳び上がった彼の周りに、五つの魔法陣が浮いている。
「おいおい魁斗……こいつぁ、人の形をしたバケモンか何かかよ……!?」
「分割思考・
五つの魔法陣から、豪炎、激流、暴風、隕石、そして閃光が、和樹に襲いかかる。
「くそ、避けらんねえ! 集中防御!」
和樹は身体に纏っている金属を正面に集め、自分に覆い被せるように展開して受け止めようとする。しかし、それは叶わず、凄まじい爆発と共に金属を纏った巨体が、俺の時よりも勢いよく壁に叩きつけられる。
「宮澤、大丈夫か!?」
「な、何とかな……あの木人椿、デタラメが過ぎるぜ。」
俺たちの前に佇むその人は、まるで大木のようだった。まさに手も足も出ないような、そんな無力感を感じる。
「くっ、打つ手なしか……!?」
「いいや、そうでもねえ。」
和樹は小さく笑みを浮かべながらそう答えると、手を開いた。そこには、一欠けの木片がある。
「まさか……!」
「ああ。あの木人椿に足払いが掠ったんだろうな、そん時少し削れたんだ。」
「てことは、お前の方が硬いのか!?」
「多分な。だからよ、もっと速くて重いヤツお見舞いしてやりゃぁ、ちったぁダメージ入れられるかもしんねえぞ。」
「もっと速くて、重い一撃……」
「まだ立っていたのか。」
レオンさんが俺たちの方を見据えている。その傍には魔法陣。どうやら、まだやる気のようだ。
「何か掴んだようだけど、無駄だよ。僕と君たちの間の差ははっきりとしている。張り合いのない相手を痛ぶる趣味はないし、そろそろ終わりにしようか。
魔法陣の輝きが増し、その先から何か眼のようなものが覗く。
「宮澤、地面を殴れ! 思いっきりだ!」
「はぁ!? 何でそんなこと」
「あれをまともに喰らうわけにはいかない、早く!」
「
朱色の魔法陣から放たれた竜を模った炎が、俺たちへと襲いかかる。
「わぁったよ! もしこれで防げなかったらただじゃおかねえぞ!?」
和樹は拳を地面に叩きつける。巻き上げられた砂の量は十分!
「気流魔術・雷雲!」
俺はすかさず舞い上がった土煙の上から雷雲を被せ、その中に含まれる砂鉄を誘導して即席の防壁を形成する。しかし……
「ダメだ、砂鉄が……! この厚さじゃ足りない!」
肝心の砂鉄の量が足りず、目の前の壁は既に内側まで赤熱している。あの炎を防ぐには、あと20cmは壁を厚くしなくてはならない。
「そういうことか、任せな! この渦ん中の砂利全部、俺様が錬金してやらぁ!」
和樹が地面に手を付いた。途端に、足下の感覚が一変する。さっきよりもしっかりした感じだ……。
「準備できたぜ、魁斗! 存分に使え!」
「ああ!」
俺は足下から、和樹が追加で錬金した金属土砂を巻き上げる。流石に一粒一粒を丁寧に硬質化させることは叶わなかったか、大粒のものも多少混じっていたが、むしろちょうどいいくらいだ。これなら大丈夫そうだ。
「おい、魁斗。お前、何か考えがあるみてぇだな?」
「え? あ、ああ……。」
「あいつを倒せる手立てか?」
「!」
どうやら和樹は、先ほどの俺の言葉から勘づいていたようだ。確かに今、俺の頭の中には、かなり危険なものではあるが、レオンさんを倒せるかもしれない秘策が一つだけあった。
「聞かせろ。どうやったらあのトンデモ木人椿を倒せる?」
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