第2話 雷帝の想い人
俺たちは国王陛下の指示の通り、一列に並んで鑑定を受けていた。並び順は昇順、つまり出席番号順なので、既にわかりきっていて助かる。
「次の方、どうぞ。」
前の人の鑑定が済んだらしく、ルミノアさんが順番が来たことを告げた。
「はい。」
俺は前に進み、魔水晶の前に立った。
「あ、君は……。」
ルミノアさんは俺を見ると、はっとするような反応を示した。何か変なことでもしたのかな? それとも、恰好が整ってない?
「ん? どうかしたのか、ルミノア?」
「シルベルト陛下、この方がさっき伝えた、私が起こしに行く前に覚醒していた方です。」
「そうか、君がか。」
どうやら、地下で俺だけが自力で目を覚ましたことに関して言及しているらしい。
「ああ、そのことですか。確かに、俺だけはみんなより早く目が覚めましたけど……何か特別なことでも?」
「まあ、少しな。この際だから明かしてしまおう。召喚の儀については、これまで執り行われたことが一度もなかったために詳細は不明なのだが、召喚の儀によって呼び出された者は、世界線を飛び越えた反動で、意識が混濁とした状態になっていて、魔法で脳の状態を整えて補助してやらなくては目を覚ませないと、聖魔導士に伝来する魔導書に記されている。」
この書物ですよと、ルミノアさんがその魔導書をこちらに見せてくれている。わかりやすく提示してくれてありがたい。
それにしても、そんなことがあったのか。そう知ってからだと、確かに言及したわけがよくわかった気がする。
「今回召喚の儀を執り行ったところ、他の者にはその傾向が確認されたが、唯一、君だけは魔法の補助をするまでもなく、脳が正常に働いていたのだ。もしかすると、君は精神系の状態異常や精神攻撃に強いスキルを授かっているのかもしれんな。」
「そうですか。」
なるほど、その効果によって俺は昏倒せずに済んでいたのかもしれないってことか。確かにそれなら辻褄は合う。
「とりあえず、実際に見てみぬことには予想を並べても意味はあるまい。早速鑑定をするとしよう。」
「はい。」
「それでは、お名前を教えていただけますか?」
「俺は、
「なるほど、カイトさんですか。では、魔水晶に手を置き、何も考えないようにしてください。私が魔水晶を通してあなたの深層意識にコンタクトして、あなたの授かったスキルの情報を引き出します。」
「は、はい……。」
それってつまり、今からルミノアさんに、頭の中を覗かれるってことだよな? だ、大丈夫かな……?
「大丈夫ですよ。ちゃんと何も考えないようにしてくださっていれば、目的の情報以外は何も見ませんし、特に変なことは見えませんから。」
「そ、そうですよね。……って、今、俺の心、読んだんですか!?」
「あ、いえ。ただ、何となくそんなこと考えてそうだなぁってことを言っただけです。カイトさんの前のみなさんも、そんな感じでしたし。」
「は、はぁ……。」
とりあえず俺は、余計なことが頭にちらつかないうちに鑑定を済ませようと、魔水晶に手を置く。
「では、参ります。我ら、聖魔導士に伝来せし聖なる魔水晶よ。女神カナリア様の名の下にその面に触れしこの者、オギワラ・カイトの秘められし力を映し出しなさい。」
何も考えるな何も考えるな何も考えるな何も考えるな何も考えるな何も考えるな何も考えるな何も……
「はい、終わりました。」
「え!?」
「ん? どうかされましたか?」
「ああいや、思ったより早く終わったので。」
「ふふっ、それだけカイトさんが普段から正直で素直な人である証ですよ。そういう人の方が、早く深層意識の奥まで到達できるんですよ。」
ルミノアさんがこちらに、にこやかに笑いかけた。とても純粋で、可愛らしい笑顔だった。もちろん、初めて見たあの子の笑顔ほどではないけど。
「俺のスキルって、一体何なんだ?」
「こちらが、深層意識から引き出した、スキルの情報です。なかなか凄いものですよ、このスキル。何せ、この世界のスキルの最上位、Tier VIにまで到達するスキルですからね。」
・スキル名:狩猟月の雷帝
・スキルランク:Tier IV 神話級(レベル4よりTier V 神格実体級、レベルMAXにてTier VI 超越神級に相当)
・スキルレベル:1 / 8
・スキル効果
⚪︎雷帝の威厳
初期から電流魔術XX、電撃魔術XX、雷鳴魔術Xを所持。雷鳴魔術XX到達で雷撃魔術を習得。雷撃魔術XV以上で、魔法ツリーより
⚪︎狩猟月の狩人
初期から剣術X、鎌術X、刀術X、戦鎚術X、斧術X、槍術Xを所持。槍術XX到達で魔槍術を習得。魔槍術XX到達で、神器武装・グングニルを獲得、及び装備可能。
⚪︎自然を無駄にしない心意気
解体学Xを保有。動物及び大型魔獣の解体、素材取得が可能。また、特典としてあらゆる食材の下処理が可能。
⚪︎研ぎ澄まされた感覚
初期から精神系状態異常耐性XXを獲得。これにより、全ての精神系状態異常を無効化。
「なるほど、目を覚ませたのはレベルMAXの精神系の状態異常耐性を持っていたから……辻褄は合いましたね。さて、どうですか? カイトさん? どう思います?」
「何というか、もう十分凄い気が……」
専門用語が多くて、詳しいところは何が何だかさっぱりだったが、メチャクチャに強いということだけはよくわかった。でも、何で雷と狩猟なのだろう? 俺はあまり、そういうのと接点がないはずなのだが……? いや、深く考えても仕方ないか。
これでも、鍛えたらもっと強くなると思うと、そこまでしないと魔王には敵わないってことなのだろうか?
「でも、もっとがんばらないといけないのは承知の上です。精一杯やります!」
そう思うと、自然と覚悟は決まっていた。
「うむ、良い心がけだ。それでは、鑑定は以上である。オギワラ・カイト。最後に何か、質問や要望があれば伺おう。」
「では、一つだけ。俺は学級委員という、このクラスのみんなをまとめる立場にあるので、できればみんなのスキルについて把握しておきたいのですが、みんなのスキルのこと、まとめてもらうことってできますか?」
「ほほう、それくらいお安いご用だ。後でお主の部屋に届けておこう。」
「ああいや、学級委員は俺だけじゃなくて、男女で一人ずついるんです。女子の学級委員は、
「そうであるか。わかった、そちらにも届けておこう。」
「ありがとうございます。では、俺はこれで。失礼します。」
国王陛下に礼をし、俺は玉座から離れて、玉座の間の出口へと歩き出した。
「おい、魁斗。ちょっといいか?」
誰かが俺を呼び止める。振り返るとそこには、先ほどの問答の際に隣にいたガタイのいい男子生徒こと、
「宮澤君。どうかしたのか? もしかして、さっきの宣誓に何か不服でもあったか?」
「いや、そうじゃなくてだな。やっぱりお前、学級委員向いてんなって思った。だけど、実際に戦うことになったら、俺がみんなを引っ張るつもりだ。」
「あっちじゃ不良やってたくせに、よく言うな。」
とは言ったものの、考えてみれば確かにそうだ。この先、戦闘においては、自然と強い奴にみんなが引っ張られるだろう。
肉弾戦だけを見れば、この中で一番強いのは間違いなく宮澤君だろうな。元の世界ではどうしようもないほどの不良も、こっちでは大きな戦力だ。ある意味ではこの中で一番の優等生ということになる。理由は体つきだけじゃない。普段から他校の不良やチンピラに喧嘩をふっかけて得た、身のこなしや鈍器の知識は、間違いなくこっちでも活きる。
「こっちじゃ、実力がなけりゃみんなは引っ張れねえぜ、魁斗。あいつの前で、いつまでもいいツラできると思うなよ?」
「……へぇ。それ恋敵としての宣戦布告ってこと? でも俺、相当凄いヤツ持ってるよ?」
「上等だコラ、俺がもっとヤベェスキルで叩き潰してやんよ。」
そして俺と宮澤の間で、一触即発の睨み合いが始まる。
「え、ええ!? えええええええ!?」
が、それは、突如飛び込んできたルミノアさんの叫び声で中断させられた。何かあったのだろうか?
誰の番なのかと列の先頭を見て、俺は全身の血の気が引く感覚を覚えた。
「お、おい? 何だよ今の?」
「……俺、ちょっと様子見てくる!」
「あ、おい! 逃げんな、魁斗!」
それでも俺は足を止めてやらない。宮澤は気づいていないだろうが、今順番が回って来ているのは、あの子だ……!
俺は玉座の目の前へと駆けつけ、その名前を叫んだ。
「佐倉さん!」
そこには、俺の意中の人、
「佐倉さん!?」
何がどうなっているんだ……!?
とりあえず、意識を失っているということは、その時深層意識を見ていたルミノアさんに聞けば何かわかるかもしれない。
「ルミノアさん、何があったんですか!?」
「……なさい……」
「え?」
ルミノアさんは青ざめた顔をして、地面にへたれこんでしまった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
これではまともに話はできなそうだ。とりあえず、まずは楓を医務室かどこかに運ばなければ!
「国王陛下!」
「言われなくともわかっておる。アリス! アリス、早く来い!」
すると玉座の奥の扉、王室へと続く方だろうか? そこから一人の若いメイドが飛んで来た。
「遅れて申し訳ありません、陛下!」
「今は詫びている場合ではない! サクラ・カエデを取り急ぎ医務室に運べ!」
「かしこまりました! フェザル!」
アリスという若いメイドが呪文を唱えると楓の身体がふわりと宙に浮いた。そう、まさに鳥の羽のように……。そしてそのまま、アリスは楓を医務室へと連れて行ったようだ。
ルミノアさんは、相変わらずへたってしまったままだ。
「オッホン。」
みんなが心配そうな表情を浮かべてアリスさんが出て行った扉の方を見つめていた時、国王陛下が一つ、咳払いをした。
「諸君、サクラ・カエデについては、深層意識の拒絶反応によって意識を失ったものだと思われる。よくある症例だ。王宮の医務室で対処は十分にできるので安心したまえ。それでは、このまま残りの者たちのスキル鑑定を進める。」
「え!? でも、ルミノアさんがこんな状態では……。」
「心配は無用だ。当代の聖魔導士は、もう一人いる。ステラ。」
国王陛下がその名前を口にすると、突如その傍に一人の女性が現れる。これが、元いた世界のファンタジー作品でよくある、テレポートというやつなのだろう。
そのステラさんという方の容姿は、どこかルミノアさんに似ているところがある。
「お呼びでしょうか、国王陛下?」
しかし、声を聞いて明らかに違うものを感じた。明るく活発な性格が出ているルミノアさんと違って、低く、神聖な魔導士の威厳を感じさせる、それでいてどこか落ち着いた印象のある声だ。
「ステラ、ルミノアの代わりに残りの救世主たちのスキル鑑定を頼む。」
「承知。次の者はそちらの方でしょうか?」
ステラさんが俺の方を見る。アルビノというものだろうか? すこし白っぽい目をしている。
「いえ、俺は既に、ルミノアさんに……。」
「そうですか。では、一つ頼み事を頼まれてはくれませんか?」
「はい、何でしょうか?」
「
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どうも、作者の一般通過ゲームファンです。第2話まででやるはずだった展開が、プロットから細部を補填した結果予定よりかなり膨らんでしまったので、近況ノートでお伝えしたものから予定を変更して、第3話までを本日、7月9日中に公開することに致しました。
第3話の公開は、おそらく18時以降になると思われます。
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