Day23 ストロー

 ドアを開けたら、カランとドアベルが鳴った。

 今日のカニはカウンターにいて、自分のハサミでストローを切っていた。切込みをいれてるけど苦戦してる。何に使うのか気になって見ていたら、見すぎたのか俺のほうへトコトコ体を回した。

「気になる?」

 得意げな声に頷いたら、クスクス笑ってストローを掲げる。

「これでねー、ザリガニ釣るんだ。ソーセージつけて。あいつら荒らしまわるからさー、間引きしないと」

 え? ザリガニを?

 驚いて反応できない俺にカニがハサミを振り上げる。

「じょーだんでしたー! ジョークだよ、カニジョーク。もー、すぐ本気にするんだから。ザリガニのほうがハサミ大きいでしょー。羨ましい」

 うーん、ぜんぜんわからん。カニジョークってなに。カニのあいだの鉄板ネタなの? それに体の大きさぜんぜん違うでしょ。ハサミ基準て。

「じゃあ何かって? これはハサミの修行。もっとこう、流れるような動きで繊細な動作ができるように」

 俺が喋んなくても一人で受け答えして、ハサミを振り回す。わかんないけど、なんかそういうカニの美学なんだろう。ハサミ至上主義的な。

 カニはまたストロー相手に格闘し始めた。……俺も、なんかしなきゃなと思う。頑張ってる他人をみるとちょっと落ち着かない。何もしたくなくて何もしてない罪悪感。隣に座る、何もしてなさそうな男を視界の端で盗み見た。一緒にいて気詰まりじゃないのは、だからかも。何もしてない仲間認定で。平日の昼間からスイカ食べにうちにきて、そのあと喫茶店てさ。悠々自適ってやつだろ。俺もだけど。

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